よりよい未来の話をしよう

文:中井圭 の検索結果:

映画『52ヘルツのクジラたち』杉咲花インタビュー(後編) 「想像もできない日々を送っている人たちを他人ごとにしない」

杉咲花主演の新作『52ヘルツのクジラたち』が、いよいよ2024年3月1日に劇場公開を迎える。2021年本屋大賞を受賞した町田そのこのベストセラー小説を映画化した本作は、ヤングケアラー、児童虐待、セクシュアル・マイノリティへの差別など、現代社会の課題を重ねて描いている。本作の切実な「聞こえない声」が、多くの観客を揺さぶることになるだろう。 前回「あしたメディア」で掲載した『52ヘルツのクジラたち』杉咲花インタビュー前編では、本作制作の舞台裏において、俳優という枠組みを超えて活動…

映画『52ヘルツのクジラたち』杉咲花インタビュー(前編)「画面には映らない、映画の裏側に確かにある葛藤と意志」

前作『市子』での壮絶な演技が国内外で非常に高く評価され、毎日映画コンクールの女優主演賞を受賞した俳優・杉咲花。同作は、居場所と選択肢を持たない女性を描く中で、制度の狭間に陥ってしまった人々の存在を明らかにする社会性の高さも話題となった。そんな彼女は、続く新作でも、再び理不尽な事情によって困難にさらされた女性を演じ、現代社会に対して声なき声を届けようとしている。杉咲花を主演に迎えた新作『52ヘルツのクジラたち』(2024年3月1日公開)は、2021年本屋大賞を受賞した町田そのこ…

『夜明けのすべて』三宅唱監督インタビュー 「見えるものは変化しても、目には見えない変わらないものがある」

いま、国内で最も新作を期待されている映画監督のひとりが三宅唱であることは、近年、日本映画を少なからず観てきた人々の間では、共通見解となっているだろう。耳が聞こえない元プロボクサー・小笠原恵子の自伝「負けないで!」を原案に映画化した前作『ケイコ 目を澄ませて』(2022年)が、国内の主要映画賞で大きな成果を上げたことも記憶に新しい。その三宅が待望の新作を劇場公開した。それが『夜明けのすべて』だ。本作は、瀬尾まいこの同名小説を映画化したもので、PMSを抱えた女性とパニック障害を抱…

映画『市子』 杉咲花インタビュー  「わからなさ」と過ごし、他者を想像し続ける

…答えを曖昧にして逃げることなく、熟考して誠実に言葉を返す杉咲花さん。そして自身の演じた市子を勝手に断定することなく、他者として想像する姿勢を保った真摯な姿勢から感じるのは、本作の撮影にあたって、市子というキャラクターとどれだけ向き合ってきたかという覚悟の質と量だ。この映画を観たらわかるが、彼女の簡単な演技はひとつもない。そうやって極限まで苦悩しながらも市子という難役を演じきった成果は、映画館で確認して欲しい。きっと新しい杉咲花に出会えるはずだ。 取材・文:中井圭写真:熊谷直子

映画館という場所のロマンにベットする 映画『スイート・マイホーム』齊藤工監督インタビュー(後編)

… 沖縄の隙間時間に自作のチラシの手配りをするという極めて地道な宣伝活動を、誰に言われるまでもなくひとりで行う齊藤工監督。その根底には、この瞬間にも失われゆく映画館で自分の映画を観てほしいという、映画館育ちとしての矜持と憧憬が同居する。映画を作るまでが監督の仕事ではなく、観客に届くまで、そして映画館に溢れる人を見つめるまで。そこに、作り手としての自分の責任とロマンを求め、一見すると地味で型破りな行動を続ける彼の愚直な想いを、心から応援していたい。 取材・文:中井圭写真:服部芽生

肩書きを真に受けない姿勢が生む、新たな連帯と創造 映画『スイート・マイホーム』齊藤工監督インタビュー(前編)

…ピソードを滔々と語る、齊藤工監督。そこから垣間見えるのは、彼がいかに他者へのリスペクトを携えて現場に立っているのかという、心持ちそのものだろう。それは、監督という権力装置から距離を置いて、スタッフ・キャストそれぞれが力を発揮できる環境を作るという、彼ならではの監督論そのものかもしれない。そして、ロングインタビュー後編では、いよいよ『スイート・マイホーム』の演出論、さらに独自の興行支援や宣伝論に話が及ぶ。 ashita.biglobe.co.jp 取材・文:中井圭写真:服部芽生

新しい自分が生まれるものを提示したい 俳優/プロデューサー・佐藤玲インタビュー

…す」 長い年月で固定化した芸能の仕組みから逸脱し、売れるか売れないかで左右される生き方から、自分が本当にやりたいことを自らの力で切り開こうとする佐藤玲。彼女が目指す、演劇を通じての異文化理解のきっかけ作り、それを経由して新しい自分に出会う行為は、自分たちのことにしか関心がない人が増えている今の社会において、分断を阻止するための重要な示唆となるだろう。リスクを恐れず勇気を持って、一歩を踏み出した彼女の今後を応援したい。 取材・文:中井圭(映画解説者)編集:田村美侑撮影:服部芽生

責任を直視すること、そこに生まれる赦しを描く 映画『CLOSE/クロース』ルーカス・ドン監督インタビュー

…と向き合っていく映画『CLOSE/クロース』に映っている。そして、脚本を書く際にポリティカル・コレクトネスを意識していないと述べた彼から取材中に出てくる言葉は、マイノリティに対する共鳴と柔らかな眼差しに満ちていた。期待される次作では、芸術の担い手として更なる高みに到達しているのは間違いないだろう。そんな彼が描こうする「個人の肖像」が、社会がマイノリティに課す苦しみと決別できる状況に少しでも変化していることを、願ってやまない。 取材・編集・文:中井圭(映画解説者)撮影:服部芽生

「ヨーロッパ企画」の頭脳、上田誠の仕事術 映画『リバー、流れないでよ』ロングインタビュー

…田誠さん。彼がインタビュー中に述べていた、京都と東京のどちらかではなく両方を選べば良いというスタンスを証明する、濃密で軽快な取材となった。コロナ禍を経て、通信と交通手段の発達により、東京一極集中だった時代は緩やかに終わりを告げ、活動したい場所が選択可能な時代が到来した。京都から地の利を活かしたユニークなクリエイティブを日本中に発信し続ける上田さんの活動は、これからの時代の生き方における、ひとつのモデルケースだと言えるだろう。 取材・編集・文:中井圭(映画解説者)撮影:服部芽生

『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』細田佳央太&金子由里奈監督インタビュー 「優しい人が生きやすい世の中のきっかけを作る」

…に、なぜこの映画が生まれたのかの真意を突き詰めたほうが、作品の芯に肉薄することができると感じていた。そして、細田さんと金子監督の言葉はあまりに痛切かつ真摯で、取材後の感覚は本作を観終わった時の実感と重なっていた。もし、彼らの言葉が読者自身の内側でこだましたのであれば、ぜひ本作を映画館で見つめて欲しい。 取材・文:中井圭(映画解説者)編集:森ゆり写真:服部芽生(細田佳央太、金子由里奈監督を撮影)ヘアメイク:菅野綾香(細田佳央太を担当)スタイリスト:岡本健太郎(細田佳央太を担当)

初めて触れる理不尽と渡り合う 『少女は卒業しない』中川駿監督インタビュー

…たちの気持ちを理解できてはいない」と素直に認めることは難しいが、その事実を真正面から受け止めて制作の現場に反映し、この取材の抽象度の高い質問に対しても、何度も考え丁寧に言葉を紡ぎ出した中川監督の姿勢は、きっと現場でも若い出演者たちの心に寄り添い、掴んでいたであろうことを伺わせた。そんな彼の新作『少女は卒業しない』が、若いキャストたちとのコラボレーションの結果、どのような作品に仕上がっているのか。是非、映画館で確認してほしい。 取材・編集・文:中井圭(映画解説者)撮影:服部芽生

『ケイコ 目を澄ませて』三宅唱監督インタビュー 「他者の立場であることを自覚して想像すること」

…要な場面では丁寧に言葉を選びながら、心の中にある思いをできるだけ正確に他者に伝えようとする姿勢だった。三宅唱監督が持つ誠実さ、そして考えることをやめない知性により、『ケイコ 目を澄ませて』は、わかりやすく即時性の高いカタルシスから意識的に距離を取って、深い奥行きを持つことを達成した。本作の魅力を理解することは、現代を生きる上で必要なソーシャルグッドの本質的理解と接続している。その視点でも本作は、今の時代の傑作と言えるだろう。 取材・編集・文:中井圭(映画解説者)撮影:服部芽生

もう無理だと思えるところで、自分の限界を感じたい 俳優・林田岬優さんインタビュー

…モデルの世界から、激しい生存競争が待つ俳優業という茨の道へと歩を進める彼女の原動力は、自分自身への可能性の探求と底なしの好奇心なのかもしれない。今後も目が離せない存在になるだろう。 林田 岬優(はやしだ みゆ)1993年11月23日生まれ、愛知県出身。 ファッションモデルとして、数々の女性誌や広告で活躍。近年は俳優としてドラマなどにも出演。ドラマ「真犯人フラグ」では、重要な人物を演じて話題に。 取材・文:中井圭(映画解説者)編集:Mizuki Takeuchi写真:服部 芽生

「普通」という言葉で、世界を「簡単」にしたくない 『彼女が好きなものは』草野翔吾監督インタビュー

…そんな筆者の飛躍しがちな質問に対し、ひとつひとつ真摯に回答する草野監督の姿勢を見て、本作における「決して主語を大きくしない語り口」と通ずるものを感じた。それは、筆者がインタビュー前に本作から感じていた、似たモチーフを扱う従前の作品とは違う、良い意味での違和感を紐解くものだ。本作は、現代を生きる人々が無自覚に誰かを傷つけないための、重要な気づきを与えるものになるに違いない。分かったつもりになっている人こそ必見の一本だ。 取材・文:中井圭(映画解説者)編集:おのれい撮影:服部芽生

『シュシュシュの娘(こ)』でミニシアターを可視化する 入江悠監督インタビュー(後編)

…にはハッキリとあるのだろう。ミニシアターを守ることと同様に、未来を作る若者たちが心地よく適正に働くことができる現場をどう作っていくか。映画の未来にとって重要なことだ。 今回のインタビューでは「連帯」という言葉が出たが、入江悠監督の世代が中心となって本気で繋がることを通じて、コロナ禍に直面して混沌の中にある映画界を前進させることができるのではないだろうか。映画界にとって2021年をどういう年にするかは、これから決まるだろう。 取材・編集・文:中井圭(映画解説者)写真:服部 芽生

日本映画の労働環境の貧しさを変えるために 入江悠監督インタビュー(前編)

…連動する。映画監督のキャリアとしてインディーズからメジャーまで幅広く経験し、海外チームとの撮影も行った入江悠監督だからこそ、現状の日本映画界が抱えた課題は、より鮮明に見えているだろう。コロナ禍で苦しむ日本映画界が、勢いを取り戻すために必要なこととは何か。後編は、苦境の最前線に存在する全国のミニシアターを救うために制作された新作『シュシュシュの娘(こ)』について伺う。 <入江悠監督インタビュー(後編)に続く(8/19掲載)> 取材・編集・文:中井圭(映画解説者)写真:服部 芽生

『孤狼の血 LEVEL2』で挑んだ改革 白石和彌監督インタビュー(後編)

…つひとつの作品のこと以上に、この先どうすれば日本映画界は健全なものに変化、発展していくのか、という根源的な問題に対する視座の高さを感じた。そこには、これからの日本映画界を牽引するフロントランナーとしての責任感が垣間見える。自身の過去の経験を踏まえて、若い未来の映画人たちの道を作るために動き出した日本映画界の「孤狼」。きっと波風も立つだろう。しかし、だからこそ、白石和彌を映画界は決して「孤狼」にしてはいけないと強く思うのだ。 取材・編集・文:中井圭(映画解説者)写真:服部 芽生

日本映画界の「孤狼」が示した未来 白石和彌監督インタビュー(前編)

…れば本気で生き残り、さらに前進することができるのか」という、映画を愛する人間としての深い思考と強い覚悟が伝わってきた。 インタビュー後編では、いよいよ本題である新作『孤狼の血 LEVEL2』について迫る。そこでは、鈴木亮平演じる最狂の男上林と、前作から大きな変貌を遂げた日岡の関係性など作品の核心に触れながら、『孤狼の血 LEVEL2』で取り組んだハラスメント防止策についても切り込む。 <白石和彌監督インタビュー後編に続く> 取材・編集・文:中井圭(映画解説者)写真:服部 芽生