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もう無理だと思えるところで、自分の限界を感じたい 俳優・林田岬優さんインタビュー

モデルとして多くのファッション誌を彩り、最近はテレビドラマなどで演技にも果敢にチャレンジしている注目の俳優、林田岬優(はやしだみゆ)。幼少期、モデルだった母親の写真を見て漠然と憧れを持った芸能の世界に足を踏み入れた。その存在感は多くの人を魅了し、瞬く間にファッションモデルとして大きく飛躍する。近年はジャンルも軽やかに飛び越え、坂元裕二氏の脚本で注目を集めた「大豆田とわ子と三人の元夫」(2021)や視聴者考察型ドラマとしてSNSで大きな話題を生んだ「真犯人フラグ」(2022)など話題作にも出演し、注目を集めている。現在進行形で急速に活躍の場を広げている彼女に、夢を叶えようとする20代の葛藤と希望を伺った。

モデル業と俳優業、キャリアの現在地

「あしたメディア」はソーシャルグッドな注目の人物や事例を紹介していますが、まず、林田さんがいま関心を持っているソーシャルグッドなことについて教えてください

私は服が好きなので、今日も着てきたのですが、ヴィーガンレザーに関心があります。フェイクレザーにも石油からできたものと植物由来のものがありますが、植物由来のほうがより地球に優しいですよね。地球に優しいことをしているのは気持ちが良いです。

環境全体に対する明確な意思も大切ですが、好きだから選ぶという感覚も大事ですね

そうですね。義務感だけから始めたものは、なかなか続かないと思っています。ヴィーガンレザーのものは、ファッション的にもデザインが良いものも多いので「だったらこっちを選ぼう」という感覚があります。

今の林田さんがどのように形成されたのかを聞かせてください。そもそも林田さんがモデルになるきっかけは何だったのでしょうか

小さい頃は、サーカスが好きで、ピエロになりたかったんです(笑)。ピエロの、お化粧をして人前に立ってパフォーマンスする感じが憧れでした。でも、幼稚園の周りの子たちの夢はお花屋さんとかだったので、母はちょっと恥ずかしかったみたいです。その後、昔モデルをしていた母の写真を見て、モデルの仕事に興味を持ちました。

スカウトで芸能の世界に入られたということですよね

はい。地元の駅でスカウトされて、名古屋でモデル事務所に所属しました。その後、「東京ガールズコレクション in 名古屋」というファッションイベントのオーディションに受かった後に、「東京に来ないか」と誘いを受けて、19歳の頃に上京しました。

林田さんはモデル活動がとても有名ですが、モデルの楽しさはどんな時に感じますか

(撮影で)良い写真ができた時が、とても嬉しいです。撮影のためのヘアメイクやスタイリングも、写真にするとこんな風にうつるんだ、という発見があります。私も撮影環境にインスピレーションを受けて表現していくことが面白いと感じています。これからもモデルの仕事も続けていきたいと思っています。

現在は俳優業にも挑まれています。俳優をやる上で、これまでのモデル業を振り返ってみていかがですか

無駄なことは本当にない、と思います。モデルを長くやった上で俳優をやることになったのと、背が高いので、服を着こなしている人の役(のオファー)がくることもあります。そういう場合も、モデルをやっていた経験が活きています。先日演じた「真犯人フラグ」の茉莉奈は社長令嬢で、自分の見え方をわかっているキャラクターでした。そういう時にも、モデルとしてのポージングなどが役に立つと感じました。

俳優に取り組むきっかけは何だったのでしょうか

出演のお話を頂いたテレビドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(2016)がきっかけでした。でも、その時はお芝居が全然できなくて。自分では準備をしたつもりだったのですが、いざ本番になると頭が真っ白になってしまいました。「川上さんのお風呂、お願いします」という短いセリフがうまく言えなくて。監督にもドラマの打ち上げで「これからどうするの、林田さん」と突っ込まれました(苦笑)。
でも、同世代でモデルもやられている俳優さんが頑張っているのを見て、今回できなかったから諦める、というのは違うなと思いました。元々表現することが好きでしたし、オーディションもたくさん受けてどんどん挑戦していました。そして、2021年の3月に今の事務所に移籍したのですが、そこで俳優のお仕事をもらうことができ、「真犯人フラグ」に出会いました。

ドラマ「真犯人フラグ」はSNSでも注目を集めていましたが、作品の印象はいかがでしたか

物語をいろいろと考察できるのが新しいですよね。だから放送がない時にも没頭できます。YouTubeなどでも考察されていました。コロナもあって家にいることが増えていた時期ですが、その分、そういったYouTubeを観ている人も多かったと思います。放送と動画、SNSが連動している感じがありました。
私が演じた茉莉奈という役は勝ち気な性格で、自分が正しいと思ったことには全力投球します。ただ、恋人に尽くすけど迷いはあるし、表面的に見えているところの内側、本当のところはどうだろうかという部分を表現するのが、演じていて難しかったです。あと、監督に「この役は目の強さが大事だ」と言われました。モデルの仕事はどちらかというと「目の力は抜いて欲しい」と言われることが多いです。この切り替えは、上手くできたのではないかと思います。

林田さんは「いつかこの恋を思い出して泣いてしまう」や「大豆田とわ子と三人の元夫」など、坂元裕二さんの脚本作品に縁があるように感じます。坂元作品には、どのような印象を持っていますか

坂元裕二さんの脚本には独特の世界観があります。セリフを一言聞いただけで、一気にその世界にのめり込んでしまいます。普通は、物語を観ていくにつれて徐々に引き込まれていくけど、坂元さんの脚本はボソッと言った一言で惹きつけられます。

坂元裕二さんの脚本の特徴のひとつが、みんなが心の中で何となく思っているけれど、まだ言語化されていないことを言葉にするのが上手いですよね。「大豆田とわ子と三人の元夫」の時には感じましたか

それはとても感じました。自分の心を読まれているようなセリフがどんどん流れてくると感じました。今後、機会があれば坂元裕二さんの作品をもっと演じてみたいです。あのボソッとした独特のセリフを言いたいですね。

俳優として、先人に負けない熱量を持っていたい 

お話を伺っていて俳優業に対する強い気持ちを感じていますが、昔から映画がお好きだったのでしょうか。その中で印象に残ったものがあれば教えてください

映画は好きでしたね。映画を好きになった最初の頃の作品って、なかなか超えられないと思うのですが、特に10代の頃に観た『魚影の群れ』(1983)と『鬼龍院花子の生涯』(1982)は大好きです。(両作に出演している)夏目雅子さんになぜこれほど惹かれるのか未だにわからないですが、ずっと忘れられません。『鬼龍院花子の生涯』は、岩下志麻さんも夏木マリさんも素晴らしくて。昭和の大女優に惹かれます。海外だと、俳優ではジェニファー・ローレンスやシャーリーズ・セロンなどの背が高くて個性のある俳優さんに憧れます。

当時の日本映画の労働環境は今考えるとコンプライアンス的な問題はあるのではないかとは思いますが、ものづくりにかける熱量がちょっと異様でした

そうですよね。さすがに今の社会ではもう難しいですが、俳優として当時くらいのものづくりに対する熱量を心の中で持っていたい、という気持ちがあります。

今も映画の世界では労働環境の問題が起きていますね

お昼はちゃんと食べたいです(笑)。映画は、みんなが健康だからできる仕事だと思います。キャストもスタッフもみんな長い時間かけて魂込めてやっているので。少しずつ良い形になっていって欲しいと思います。

迷いもあった20代。もう無理だと思えるところで、自分の限界を感じたい

今後はどういう仕事をしてみたいですか

舞台にも興味があります。先程の話に繋がりますが、舞台も熱量を感じられるから好きです。2016年に野田秀樹さんの「足跡姫」を5回観ました。5回も観ると、当たり前ですが全部違うことに改めて気づいて、舞台の魅力をさらに感じました。もし可能なら、舞台のお仕事にも挑戦していきたいです。もちろん映画もやりたいですし、今後お芝居の仕事はどんどんやっていきたいと思っています。

20代後半になった今、20代を振り返って感じていることは何かありますか

いま、選択肢が溢れています。どこでもどんな風にでも、自分を表現できます。芸能の世界では、ミュージシャンが俳優をやったり、俳優がバラエティに出たり、モデルがグラビアをやったり。それは良いことだと思います。一方で、自分の軸を持っていないとブレてしまうこともあると感じています。結局、自分は何をやりたかったのかがわからなくなる時があります。
20代は迷った時期でした。自分が情熱を注げることはお芝居だ、という結論にたどり着くまで、なかなか焦点を当てられませんでした。私の周りには、様々なことをしている魅力的な方々がたくさんいらっしゃったので、自分のお芝居に対する情熱は間違っているのかもしれないと感じたこともありました。(キャリア的に)モデルで長くやってきたので、事務所や周囲に「芝居をやりたい」と言うと、「何でわざわざ茨の道を進もうとするの?」と言われることも多かったです。モデルもお芝居もどちらもやりたいのだけど、あまり理解はされませんでした。でも、30歳を手前にしてようやく自分の気持ちが固まりつつあります。

既にモデルとして成功を収めている中、どうして難易度が高い俳優業にそこまで挑みたいという気持ちがあるのでしょうか

まだ「本当にもうダメだ」と自分が感じるところまで来れていない、と自分で感じているからだと思います。自分の限界を感じたいところはあります。もちろん、できれば挫折はしたくないですけど(笑)。

 


取材中、終始笑顔でどんな質問にも軽やかに応じる林田岬優さん。しかし、その穏やかな佇まいに時折垣間見えるのは、天井が見えないほど強烈な夢に対する熱量。既に成功を収めたモデルの世界から、激しい生存競争が待つ俳優業という茨の道へと歩を進める彼女の原動力は、自分自身への可能性の探求と底なしの好奇心なのかもしれない。今後も目が離せない存在になるだろう。

 

林田 岬優(はやしだ みゆ)
1993年11月23日生まれ、愛知県出身。 
ファッションモデルとして、数々の女性誌や広告で活躍。近年は俳優としてドラマなどにも出演。ドラマ「真犯人フラグ」では、重要な人物を演じて話題に。

 

取材・文:中井圭(映画解説者)
編集:Mizuki Takeuchi
写真:服部 芽生