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新宅広二|7時間目:動物の美学 “動物はお花見をするか?”【大人のための“シン・動物学”】

【大人のための“シン・動物学”】と題して、実は知られていない動物たちの生態を深掘りしていく。動物たちの世界を覗くことは、人間社会の問題を考える1つの側面として、私たちに新しい発見や面白い気づきを与えてくれるかもしれない。

美しさとは何か?桜が咲き乱れるお花見シーズン到来に、ふとそんなことを美的感覚がない私が考えてみる。

美の原理を研究するものに『美学』という学問領域があるが、18世紀の哲学から派生したとのことで、意外と若い学問のようだ。無縁の私からするとゴリゴリの文系かと思いきや、美学専攻の大学入試科目や入学後の授業科目には、数学があるのがオモシロい。確かに数学の世界は、“美しいもの”のひとつだ。

ところで動物の美的感覚はどうなっているんだ?あるのかい?ないのかい?どっちなんだい!

色や形の認識、聴覚、味覚、触覚等の感覚センサーの有無や、それを司る脳の処理能力があるかどうかは、前提として重要な要素になるが、人間だって美しさにまったく無頓着な人はいるし、明らかに“美しさ”の好みは千差万別だ。だから、美意識というのは生理学的な機能の性能差というケミカルな反応だけでは説明できないだろう。たぶん人間を設計した神様は、美しさを感じる装置は標準装備してくれたが、何に“美しい”と反応するかまでは、手抜きをしたか、入力し忘れたのだろう。どんまい神様。

カメレオン:舌を伸ばして虫を捕食するトカゲの仲間。日本にはいない。エボシカメレオンは、おつまみに果実や葉を食べることがある。左右の眼をバラバラに動かすことができ、風景に合わせて体色を変化させるコーデの天才。

進化のなかで美しさを手に入れた動物たち

さて、動物には機能美と装飾美の2種類ある。

機能美とは、進化の長い歴史の中で、狩りや逃避行動の運動性能をつきつめていくと、洗練されたフォルムや模様などに行き着く。とくにスピードを追求したアスリート型の動物は、その美しさの進化は顕著だ。

たとえば、イルカは哺乳類のくせに、毛を捨てて水の抵抗を減らし、魚のような美しい流線型のボディを手に入れた。ムダな突起が無く、ツルッとした質感まで美しい。余談だがオリンピックの水泳選手は哺乳類のくせに、あらゆる産毛・ムダ毛を処理して、1/100秒でも速く泳ごうとする。スイマーの美学…。

イルカは、赤ちゃんの時だけ吻先にヒゲがはえている。鯨類は体毛が無いので、体色による派手で多様なオシャレ進化競争の方向にはいかなかった。

陸上生物で最速の時速120キロを叩き出すチーターは、哺乳類では最も美しい体型をしている。ただ高速を出すだけでなく、高速で狩りをするわけで、その体幹の強さがハンパ無い。体幹の強さとは、走行中のバランスが取りやすい体型であることが重要で、頭が重くてアンダーステアにならないように、チーターは“顔ちい”の小顔。さらにウエストの驚異のくびれは、顔デカ鈍重のライオンも嫉妬するトップモデルの体型だ。この“トップモデル”は、食べるのも小食で速い。スプリンターの美学…。

チーターの高速走行のヒミツは背骨にあり、逆弓なりに反り大きなストライドを作り出すことができる(最高速時の1歩は7m)。動物界の美しきF1マシン。

おそらく地球史上最速の生物はハヤブサだ。英国の鷹匠を使った実験では、時速400キロ近くを記録している。ここまで高速で飛翔するには、翼を羽ばたいていては、逆に空気抵抗が大きくなるので、高速時は羽ばたかない。まず高高度まで上昇すると、加速後に翼を閉じて流線型の美しい弾丸のようなスタイルになり、直角に急降下して最高速を叩き出す。この美しい攻撃型飛翔をストゥープという。狙われた獲物の小鳥は上空からスナイパーに狙撃されたように瞬殺されるので、自分でも何が起きたかわからないまま天国に逝く。ハヤブサの殺しの美学…。

ただ重力まかせの落下だけでは、時速400キロの速度はでない。様々な航空力学の粋が搭載されている機能美の塊のハヤブサ。

不思議な外見的特徴をもつ動物たち

次に動物の装飾美のお話をしよう。動物の進化は何でも生き残るための機能を追求した結果のように解釈されがちだが、実際はそうでもない。初期の機能性は薄れて、進化はオーバースペックや過剰なデザインになりがちなのがオモシロい。

たとえば、シマウマ。世にも奇妙なしましま模様の珍獣。シマウマの縞模様の理由は100くらい諸説があり、たとえばライオンの目をチカチカさせて撹乱するとか、蚊に刺されないとか、体温調節とか、全部機能面ありきで無理に説明しようとしていて、そんな訳あるかぃ!と言いたくなる珍説ばかり。それらがホントでそんなに縞模様が高機能なら、他の動物だって、みんな縞模様に進化してるわ!地平線まで見渡せるアフリカの大草原で、あんなド派手に目立つデザインを、機能面だけで説明するには無理がありすぎるつーの!

シマウマは、白地に黒でも、黒地に白でもなく、地肌の色は濃いめの灰色。

要は、あれはファッションの進化なのだ。人間との美的感覚は違うが、シマウマにとっては、あれが美しいとか、カッコいいという価値観の結果なのだ。それ以上でも、それ以下でもない。アフリカには地域ごとにシマウマの亜種がいるが、島国の日本のように地理的隔離されていない陸続きなので、同じ仲間の動物か否かを見わける必要がある。一見同じように見えるシマウマの縞模様は、亜種ごとに縞模様のパターンが大きく異なる。だからシマウマの縞模様は、スポーツチームのユニフォームのようなものなのだ。

ちなみにシマウマの最も美しい部分はお尻である。縞模様が“的”のように密集していているから尻は特にキレイなのだ。これは群れの草食動物は、仲間のお尻を見ながら隊列を作って後に着いていくので、逃げる時や暗闇でも仲間を見失わないようなデザインになっているものと思われる。シマウマにやさしいグッドデザイン賞だ。

クジャクはやりすぎ君だ。おまえ、どんだけモテたいんだ?ただ、あのド派手センスを好んで選ぶのはメスなので、動物というのはメスの好みが、常にオスの心を突き動かして、ああさせているのだ…。長い尾羽は、天敵に見つかりやすく、逃げるのにも重くて邪魔…どころか、命がけ!!男心も知らずに『そういう不利なハンデ要素を持ち合わせているにも関わらず、元気に生き残っているタフガイさが、ス・テ・キ♥』というのがメスの言い分だ。男(オス)は目立ちまくる危険な色と形をしているが、女(メス)は天敵には見つかりにくい、地味なアースカラーを身にまとっている。もし動物にSDGsがあるなら、5つ目の目標『ジェンダー平等を実現しよう!』に反していて、動物のオスたちは少々気の毒だ…。

己のカッコ良さを自ら演出する。尾羽をゆっくり震わせながら音を立てて広げ、メスのまわりをモデル歩きする。メスの美に対する評価は厳しく、ガン無視されることが多い。

ライオンだってそうだ。オスは赤道直下の灼熱の酷暑地帯でも、モッフモフのマフラーのような大きなタテガミをまとっている。ところが上半身はゴージャスな毛皮に覆われているのに、下半身は貧相なステテコ姿のおじさんファッションだ。それをメスは『灼熱でも寒冷地仕様のマフラーをしていて、オシャレでステキ♥ 彼氏にしたいわ…』てなわけで長年選んできたわけだ。『あいつダサっ』とはならすに…。メスライオン自身は、短毛でクールビズ仕様なので、いつも涼しい顔をしているのに、対するオスは暑くていつもハァハァしている。“キング”とかなんとか、みんなにヨイショされちゃって…。

保温性の高い毛で首周りを覆うということは、日陰の無い灼熱のサバンナでは、熱中症との死を賭けた命がけの無謀なファッション。

ヒトの動物としてのファッションセンスはどうだ?

私が子どもの頃、『大切な部分を守るために毛が生えている。』と教わった。人類が無毛化する理由は、以前このコラムで説明したが、大事な部分を守る機能がそんなに必要なら、無毛化に進化するべきではなかった。たとえば、頭部を守りたいなら、薄っぺらい頭髪ではなく、足のかかとのように表皮を分厚く角質化する道もあっただろう。真相はつまり、頭部にだけ毛がもっさり生えているフォルムを、ご先祖女子たちが『ス・テ・キ♥』と思ったからではないか?!

熱をこもりにくくし、上がった体温を下げる装置として、無毛化(空冷)と全身に汗腺が発達(水冷)で、動物の中では最も熱中症に強い動物へと形態が進化した。

では、腋毛や陰毛はどうだ?“大事な部分”と言うが、ほかの哺乳類では、脇に相当する手足の付け根の裏側や、お腹の鼠径部周辺は、全身で最も毛が薄い部分になっている。なぜ動物に腋毛や陰毛っぽい特別な獣毛が無いのか?まさかそれが、ご先祖様たちが『ス・テ・キ♥』と感じるファッションセンス、美的感覚だったのか?!我らのご先祖ながら、そのセンスには、謎が深まるばかりだ。

ちなみにアフリカのサバンナモンキーのオスは、陰嚢がまるで南洋の美しい海のような色で、亀頭が鮮やかな深い紅色になっている。それはブルーハワイのカクテルにサクランボがちょこんとオシャレに添えられているような形態だ。『きみの瞳に乾杯』。アソコが美しいブルーであるものをメスがうっとり好んで選ぶ。アピールするオシャレ度進化で言えば、我々人類はサバンナモンキー先輩に完敗だ(※ただし陰部に限る)。

ジャイアントパンダは、シマウマ同様に白黒動物だが、天敵がいない高山動物なので、凍傷になりやすい部分が黒く赤外線を吸収している。パンダは体色の差でモテ度が決まることはない。オシャレにも無頓着な動物。

まとめ

さて、私が好きな動物は、鳥類と霊長類だ。この二つに共通する要素は、視覚ーつまり色を数多く識別できたり、形の認識能力が高いため、進化の過程で、サバイバル能力とは別に、美的感覚の進化に特化したグループと言える。だから、色や形に凝った形態進化、さらにはそれを演出誇張するダンスや音声まで駆使できる行動も多様に進化しているのが、私は鳥やサルに興味をひかれる点なのだ。“美的センス”は、優先順位として生き死にに直結しないのに、余計な部分を特化させたもんだ。鳥は紫外線も見えるし、さらに美の世界観やモノの見え方も違うんだろうなぁ。

テングザルの大きな鼻も、ニホンザルの赤いお尻も、機能的に何か意味があるわけではない。それがカッコいいという彼らの美意識。

ところで、植物の花の多くは、動物にアピールするために進化したものだ。花を見て、どう感じるかは動物それぞれだろうが、色や形は長い進化の時間をかけて、動物の好みに合わせて出来上がったものなので、花を見て、怖いとか、気持ち悪いとか、イライラするという生理的に不快になる要素は、普通は無いハズだ。

特に寒さや食糧難の厳しい冬があけて、春の野に花が咲き乱れる風景を見れば、動物たちは何らかの多幸感を感じていることだろう。そのなかに、“美しい”という感覚はあるのだろうか?

私の観察したところでは、動物が美しい風景に見とれて没入しているようなことは無いが、それは憶測に過ぎず、感情表現の違いで観察からは知るよしもない。しかし、人間とも共感できる美に関する感性は、微かでもありそうな気がする。いや、あって欲しいなぁ…。

おしまい。

PS.
学術定義としてではなく、私の稚拙で勝手な思いでいうと、初期人類の中でも、死者を埋葬し、そこに花を供えた頃から、精神面と美的センスにおいて、ヒトと呼べる進化の段階になったと思っている…。動物は、死者の埋葬と、それに自分が一番“美しい”と考えるものを捧げる=献花的な行動をしない(できない)。

 

新宅 広二
生態科学研究機構理事長。専門は動物行動学と教育工学。大学院修了後、上野動物園勤務。その後、世界各地のフィールドワークを含め400種類以上の野生動物の生態や捕獲・飼育方法を修得。大学・専門学校などの教員・研究歴も20余年。監修業では国内外のネイチャー・ドキュメンタリー映画や科学番組など300作品以上手掛ける他、国内外の動物園・水族館・博物館のプロデュースを行う。著書は教科書から図鑑、児童書、洋書翻訳まで多数。
X: @Koji_Shintaku 

 

寄稿・写真:新宅広二
編集:篠ゆりえ

 

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