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石井里幸|神話から掘り下げる!神道はなぜ“ミステリアス”なのか?【連載 若者が知っておきたい神社のコト】

※本コラムの内容は個人の意見であり、神職および神社関係者の総意ではない点にご留意願います。
 また、本コラム内に掲載した画像は、全てAIで作成したイメージ画像です。参考としてご覧ください。

ITコンサルと神職、2つの顔を持つ石井里幸さんより、「神職だからこそ知る神社の世界」を紹介する連載。多角的に現代社会における神社の存在を掘り下げていく。

みなさんは、「神道」について説明できますか?

私の知人ですが、ワーキングホリデー先の海外で、現地の外国人たちと宗教について話す機会があったそうです。そのとき、「日本人はどんな宗教を信仰しているの?」と聞かれ、神道(神社)を紹介したいと思ったものの、どう説明すればいいか分からず、返答に詰まってしまったとのこと。「自分は日本人なのに、自国の宗教を何も知らないことに気付き悔しい思いをした」とその知人は語っていました。

神道とはどんな宗教なのか、いつ誰が始めたのか、どんな神様を祀っているのか…。知人だけでなく、これらの問いに満足のいく回答ができる日本人は意外と少ないでしょう。

世界にたくさんある宗教の中でも、神道は「なんだかよく分からない」「理解しにくい」と言われがちです。今回はそんな神道について、皆さんに改めてご紹介いたします。

神道には「教え」がない?

そもそも神道とは何か。

私たちは古くから、自然と共存しながら生きてきました。恵みを与える一方、時には猛威を振るい人間の生活を脅かす存在にもなる自然現象。そんな自然現象に対し、人々は徐々に神々の働きを感知するようになり、6世紀頃仏教が日本に入ってきた頃には、仏教に対して「神道」という言葉で語られるようになりました。

神道の神々は自然現象だけに限りません。衣食住や生業を司る神々、国土開拓の神々などさまざまで、その数の多さから八百万の神々と言われています。

そんな神道は、なぜ「よく分からない」と言われがちなのか。その理由には、神道には「この人が始めた」という開祖(教祖)がおらず、教えをまとめた教義や聖典がない、という他の宗教と大きく違う点があります。

たとえばキリスト教はイエス・キリストが開祖であり、聖書という教典があります。教義や教典があれば「教え」を学ぶことができますが、神道にはそれがないため理解が難しいのでしょう。

▼こちらも説明できますか?「神社」と「お寺」の違いについて説明した記事はこちら!

神道は“神ながらの道”

ちなみに、神職の中には「神道とは、神ながらの道(かんながらのみち)」であると説明する方がいます。「神ながら」は神の御心のままに、つまり「神様の意志に従います」という意味です。これは、神々の行いや意志を尊重し、それに沿って生きようという神道の根本精神ともいえる言葉なのです。

“神道には教義がないため教えがない”と言いました。しかし「神ながら」、すなわち神々の行いや意志を神話や伝承などから読み解く形で、神道における“教えのようなもの”(以下、“教え“と表記)が数多く成立してきました。

とくに成立の根拠(元ネタ)として重要なものが、古事記や日本書紀の「記紀(きき)」と呼ばれる神話です。記紀には多くの神様が登場し、「神ながら」がうかがえるエピソードが多数収録されているからです。

一例を挙げましょう。神道には「清め」という教えがあります。皆さんも神社にお参りに行くと、手水(水で手と口を清める行為)を行うと思います。この「清め」という教えが成立した背景は記紀神話にあります。

死者の国である黄泉の国に行ったイザナギノミコト(以下、イザナギ)は、現世に戻ったときに次のように言います。

「黄泉の国に行って穢(けが)れを受けてしまった。こういう場合は禊をして身を清めたほうがいい」

そこで阿波岐原(あわきはら)という場所で水に入り、穢れを祓ったという話が記されています。ここから「水によって穢れを祓う」という神様の行為(意思)がうかがえ、その結果として手水という“教え”の成立につながったというわけです。

「イザナギの禊」イメージ

また、神社では「茅の輪くぐり」という、茅(かや)で編まれた大きな輪をくぐることで罪や穢れを祓い清める神事があります。これは神話ではなく、風土記という資料に掲載された伝承が元ネタといわれています。

このように神道では、神話や伝承などに出てくる神々の行いや意志をもとにして教えが生まれる事例があるのです。

海外の方から見るとミステリアスな宗教

近年、インバウンドの増加やグローバル化の進展により、外国人と交流する機会が増えています。外国の方と接していると自己紹介や日常会話の中で、宗教的な話題になることが少なくありません。実際、インバウンドの観光地として最も人気のある日本のスポットには、伏見稲荷大社をはじめとする神社が上位にランクインしており、日本文化への関心の高さがうかがえます。

外国人にとって、日本固有の宗教である神道は非常にミステリアスに映るようです。そして、彼らがとくに強い関心を持ちやすい問いには、たとえば次のようなものがあります。

「神道と天皇には、どんな関係があるの?」

「日本で一番偉い神様は誰?」

「伊勢神宮が一番格式の高い神社だと聞いたけど、それはなぜ?」

実際、私も上記のような問いをよく投げかけられますが、日本人であってもこれらの問いに的確に回答できる方は少数でしょう。

しかし、これから紹介するポイントを知れば、この3つの問いに全て回答できるようになります。ここからは、そのポイントについて解説します。

神道を知るうえで重要な「神様が命じた3つの命令」

神話には天孫降臨(てんそんこうりん)と呼ばれる章があります。この章は、先に示した3つの問いを理解するうえで、とても重要なシーンです。

天孫降臨とは、高天原(※1)を統治する天照大御神(あまてらすおおみかみ。以下、アマテラス)の孫であるニニギノミコト(以下、ニニギ)が、アマテラスの命により葦原中国(※2)を統治するために降り立った出来事を指します。

『日本書紀』によると、葦原中国に降りるニニギに対し、アマテラスは3つの命令を授けました。これを「三大神勅(さんだいしんちょく)」と言います(神勅とは神様が下す命令のこと)。

どんな命令を下したのか、具体的に見ていきましょう。

1.「地上は私の子孫が治めなさい」

アマテラスは、地上を自分の子孫が治めるよう命じ、そうすれば国は永遠に繁栄すると伝えました。これを「天壌無窮の神勅(てんじょうむきゅうのしんちょく)」と言います。

2.「この鏡を私だと思って大切に祀りなさい」

アマテラスは、三種の神器の1つである八咫鏡(やたのかがみ)をニニギに授け、これを自身の分身として祀るよう命じました。これを「宝鏡奉斎の神勅(ほうきょうほうさいのしんちょく)」と言います。

3.「私が育てたこの稲穂を持っていきなさい」

アマテラスは、自分が育てた稲穂をニニギに授け、稲作を通じて国民の食を支え、国を豊かにするよう命じました。これを「斎庭稲穂の神勅(ゆにわのいなほのしんちょく)」と言います。

以上がアマテラスによってニニギに下された3つの命令です。

「斎庭稲穂の神勅」イメージ

3つ目の命令に関して、私たちが毎日のように食べているお米が、神話では神様からもたらされたと考えると興味深いですよね。実際、神道において米は最も大切な食べ物とされ、神前にお供えする際も神様に近い中央に置くことが基本です。

また、天皇陛下は毎年、皇居内の水田で田植えと稲刈りを行い、収穫された米は宮中祭祀や伊勢神宮の神事に用いられます。神社に御神酒(おみき)が奉納されるのも、お酒は米で作られるものだからです。日本人にとって米が特別な理由が、お分かりいただけたでしょうか。

これらは、神道を理解するうえで重要な場面だと言えます。ただ、神職のなかには「神勅は神様同士が交わした約束事であって、人が軽々しくその内容を解釈したり、口にしたりするのは畏れ多いことだ」と考える方がいます。これは、とくに敬虔な神職らしい重みのある見解であり、神道の持つ厳格さと奥深さが伝わる意見と言えます。

とはいえ、天孫降臨の章と三大神勅は神様の意志がうかがえる貴重なシーンです。ここを抑えておくことで、神道の重要ポイントが理解できるようになります。

※1 高天原(たかまがはら):天上にある、神々が住む世界を指す
※2 葦原中国(あしはらのなかつくに):日本の国土を指す

皇居にも神社がある?天皇と神道の関係

さて、では3つのポイントに対する具体的な回答に入っていきましょう。

「神道と天皇ってどんな関係があるの?」

この回答のヒントは、三大神勅のお話で示した「天壌無窮の神勅」にあります。この神勅は、神道の最高神であるアマテラスが、孫のニニギに「地上は私の子孫が治めなさい」と命じ、地上に降らせたというものでした。

神話では、このニニギは初代天皇である神武天皇の“ひいおじいさん”にあたる、とされています。よって天皇は天照大御神の直系の子孫という関係性が示され、アマテラスは天皇の祖先という意味の「皇祖神(こうそしん)」とも言われるのです。

また、皇居には「宮中三殿」と呼ばれる次の3つの神社があります。

  • 賢所(かしこどころ): アマテラスを祀る
  • 皇霊殿(こうれいでん): 歴代の天皇や皇族の御霊を祀る
  • 神殿(しんでん):全国の神々(八百万の神)を祀る

この宮中三殿では日々祭祀が行われ、天皇は国民と国家の安寧を祈っておられます。このことから、神道にとって天皇は「最高祭司」であり、私たち神職のトップともいえる存在です。

アマテラスが最高神である理由

「日本で一番偉い神様は?」

この問いに対して、「日本(神道)で一番偉い神様はアマテラスである」と答えられる日本人は多いと思います。しかしなぜ一番偉い神様とされているのか、その理由まで答えられる方は少数です。これには諸説ありますが、とくに重要な指摘を紹介します。

1.太陽神であるため

アマテラスは、記紀神話において高天原を治める太陽の神として登場します。天岩戸(あまのいわと)神話では、アマテラスが岩戸に隠れると世界が闇に包まれ、悪霊や災いがはびこりました。岩戸から現れることで世界に再び秩序と平和が戻ったとされ、この構図が「世界の秩序と平和をもたらす存在=最高神」という地位を確立した、という説です。

2.天皇家の祖先(皇祖神)であるため

神話では、アマテラスの孫であるニニギが地上に降り立ち、その子孫が初代天皇である神武天皇になったとされています。このため皇室の権威と結びつき、日本全体の支配者としての正統性が強調され、最高神として位置付けられたという説です。

以上のような理由から、アマテラスは神道における最高神とされています。また、アマテラスは日本国民全体を守護する「総氏神」とも言われ、最高神としての性質を裏付けています。

▼併せて知りたい。「神社のご利益」はどう決まる?

伊勢神宮はなぜ“別格”なのか?

「伊勢神宮が一番格式の高い神社だと聞いたけど、それはなぜ?」

神社界では、伊勢神宮を「格が高い」という言葉では表現しません。全国に約8万社ある神社の頂点に立つ特別な存在、「別格」の神社と捉えています。なぜ伊勢神宮が「別格」なのか。その理由を1つに絞るなら、それは伊勢神宮(内宮)に祀られているご神体にあります。

伊勢神宮の内宮には、日本の最高神であるアマテラスが祀られていることは有名ですが、アマテラスを祀る神社は全国に数千社あります。にもかかわらず伊勢神宮だけが別格とされるのは、単にアマテラスを祀っているからという理由だけではありません。

決定的な違いは、アマテラスから直接ニニギに託され、「この鏡を私自身だと思って大切に祀りなさい」と命じられた(宝鏡奉斎の神勅)とされる八咫鏡が、ご神体として祀られている点にあります。この八咫鏡は、アマテラスの「分身」とされています。

実は八咫鏡はもう1つ存在し、それは皇居・宮中三殿にも祀られています。しかし、アマテラス自身が手渡したという由緒を持つのは、伊勢神宮に祀られているものとされています。

つまり、伊勢神宮は「最高神であるアマテラスが『自分の分身とせよ』として手渡した、その特別な鏡が祀られている神社」なのです。これが、伊勢神宮が神社界の頂点に立つ至高の神社といわれる所以です。

さらに、『日本書紀』には、アマテラス自身が伊勢の地に永遠に鎮座することを望まれたという記述があります。これも伊勢神宮が特別とされる理由の1つです。神話は単なる過去の物語ではなく、現代の日本文化の根幹にまで深く影響を与え続けているものと言えるでしょう。

「八咫鏡とアマテラス」イメージ

さいごに

今回のコラムでは、神道について改めて紹介しました。

1つの特徴として、神道の教えは、神様の行いや意志をくみ取る形で成立することがある、という点があり、例として記紀神話の中でもとくに重要な天孫降臨と三大神勅のエピソードをご紹介しました。『古事記』や『日本書紀』を全文読むのは大変ですが、このエピソードだけでも分かれば、日本という国の成り立ちが見えてくると思います。

インバウンドが盛況な昨今、多くの外国人が日本を訪れます。少しでも日本神話のことを知っていれば、彼らの質問に答えたり、神社の歴史や参拝方法を説明したりすることができるかもしれません。また神話をきっかけとして、日本の文化や考え方について深く語り合うことで、より充実した国際交流も生まれ得るでしょう。

異文化理解の入り口として神道の教えを知ることは、日本人としてのアイデンティティの再認識にも繋がります。今回紹介した「三大神勅」をきっかけとして、自国の文化への理解を深めてみてほしいと思います。

ちなみに冒頭でお話しした知人ですが、「外国人に神道のことをうまく伝えられなかった悔しさ」を原動力とし、帰国後に神職の資格を取得しました。現在は地方の神社にて神職として奉仕され、日本文化の発信と継承に尽力されています。

このコラムの読者の中からも、一人でも多く日本文化を正しく伝えられる人が増えることを願っています。

 

石井 里幸(いしい さとゆき)
中小企業診断士。ITコンサルタントとして、ウェブマーケティングおよびIT活用支援を専門としている。
また、社家の出身ではないが神職資格を持ち、神職としても活動。中小企業の支援を通じて得たノウハウと神職での実務経験を活かし、神社に対しても支援活動を行っている。

 

寄稿:石井里幸(神職・中小企業診断士)
編集:大沼芙実子

 

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