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デジタルデバイドの問題は高齢者だけじゃない?情報格差がもたらす課題と今後

情報通信技術が発達する一方で、その使い方には個人差がある。最新技術を使いこなす人がいる一方で、スマートフォンを触ったことがないという人もいる。こういった格差をデジタルデバイドと呼ぶ。この記事では、年齢による差だけではなく、さまざまな原因から生じるデジタルデバイドについて詳しく紹介する。

デジタルデバイドとは

今日、デジタルデバイドに対する認識が広がりつつあるが、一部の年齢層だけの問題と見なされるケースが多い。一方で、社会全体においてICTを活用する力の格差が深刻化している。

このような状況は、年齢によるものだけではなく、経済的要因や教育的要因とも複雑に絡み合っており、社会の持続可能性や公平性を脅かす懸念が強まっている。

基本定義と歴史的背景

デジタルデバイドとは、情報格差を指す概念であり、1996年に米国副大統領アル・ゴアによって初めて使用された。

日本においては、2000年の九州・沖縄サミットにおけるIT憲章でも明確に取り上げられており、当時のインターネット普及率の伸びや携帯電話の台頭とともに、その重要性が徐々に認識されてきたと考えられる。しかし、当初は先進国と途上国の経済格差が主要な論点であったため、国内での格差にはあまり注目が集まらなかった。

一方、国内でも徐々にブロードバンドインフラが普及し始めたものの、年齢や地域、収入や学歴の違いが顕在化した。関連する調査が増加していくにつれ、問題の根が深いことが浮き彫りになった。

近年はスマートフォンの普及が一気に進んだため、情報アクセスの機会が増大している。しかし、機器そのものを所有しているかどうかだけではなく、利用方法を理解し活用する能力の差や、サービスを受けるためのスキルの違いが、社会全体の課題として浮上している。

デジタルデバイドの現状

日本における高齢化率は、2023年時点で65歳以上人口が29.1%を占める構造となっており、先進国のなかでも顕著な水準に達している。(※1)一方、高齢者のICT利活用は、他の世代よりも進んでいない。例えば、年齢階層別にインターネット利用率を見ると、13歳から59歳までが97%以上を記録しているのに対し、60〜69歳では90.2%、70〜79歳では67.0%、80歳以上では36.4%であった。(※2)

ただし、若年層でも家計の事情ゆえにスマートフォンを持たない例や、学歴・職業の差によってICTへのアクセスレベルが異なるケースがあり、高齢者だけが取り残されているわけではない。

都市部と地方の格差も見逃せない。通信インフラ自体は全国化が進んでいるが、利用料金の負担や、周辺サポート体制の不備が重なり、地方ではICTを効率的に活用しにくい事例が散見される。一人暮らしの高齢者が多い地域ほど、こうした課題が顕著であり、自治体による支援策の有無が住民のデジタルリテラシー向上に大きく影響していると言えるだろう。(※3)

※1 出典:内閣府「高齢化の状況」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf
※2 出典:総務省「令和6年版 情報通信白書 第11節 デジタル活用の動向」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/pdf/n21b0000.pdf
※3 参考:総務省「令和5年通信利用動向調査 ポイント」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/240607_1.pdf

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デジタルデバイドの種類や要因

デジタルデバイドにはさまざまな種類がある。ここでは、それら一つひとつについて、生じる要因と合わせて解説する。

デジタルデバイドの種類と特徴

デジタルデバイドは、国際間、国内、個人・集団といった複数のレベルで発生しており、それぞれで背景や要因が異なる。国際間では、先進国と途上国の間の格差が課題となっているが、これは通信インフラ整備や教育機会の不足が大きく影響しているため、インターネットに接続する基本設備さえ乏しい地域もある。

国内においては、前述したように東京や大阪などの大都市圏と地方都市・農村地域の間におけるインターネット利用環境の差が指摘されている。しかし、近年ではインフラ整備そのものは全国的に進行しているため、インフラがあるにもかかわらず利用者側のスキルや意識の問題によって活用できていないという点が大きい。

個人や集団レベルのデバイドに話を移すと、年齢だけでなく、学歴や収入による差、あるいは身体的な障害の有無によっても大きな差が生まれている。特に、企業や自治体のデジタルサービスが多岐にわたる現代では、そこへのアクセスが可能かどうかが生活の質に直結しつつある。

また、利用できる機器や環境が存在する場合でも、それらを使いこなす助けが得られる人脈やサポート体制があるかどうかによって差が開く現象がある。こうした複数のレイヤーにまたがる格差によって、情報を手にする機会が減少し、デジタル社会の恩恵を十分に受けられない層が固定化されている。

主要な要因

デジタルデバイドを生み出す要因として、経済的・教育的要因が挙げられる。

経済的要因に関して、年収400万円以上の世帯ではインターネット利用率がおよそ90%程度に達している一方で、年収200万円未満の世帯では約60%にとどまっている現状がある。低所得層がデジタル端末を購入しにくいのみならず、通信費の継続的な負担が難しいケースが考えられる。(※3)

教育的要因では、地域や学校間の差が顕著になっている。児童生徒への教員のICT指導能力について、愛媛県では96.9%に上る数字が示されるものの、三重県や島根県では73.1%にとどまっているため、地域の指導者不足や研修環境の整備不足が推測される。(※4)さらに、オンライン授業やデジタル教材の導入が遅れている地域では、生徒の習熟度に格差が生じるだけでなく、将来的な就職や社会参加にも影響を与えかねない。

※4 出典:文部科学省「令和4年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)」
https://www.mext.go.jp/content/20231031-mxt_jogai01-000030617_1.pdf

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解決に向けた取り組み

さまざまな要因によるデジタルデバイドが生じているなかで、どんな対策ができるのだろうか。現在、行われている解決に向けた取り組みを紹介する。

政府・自治体の取り組み

国レベルの取り組みとしては、デジタル活用環境構築推進事業が展開され、予算11.4億円が投じられている。これは、デジタル格差の解消のため、デジタル活用に関する理解やスキルが十分でない高齢者等に対し、オンラインによる行政手続・サービスの利用方法等に関する助言・相談等の支援や、スマートフォンのサービスを容易に選択できる環境整備を推進する事業のことを指す。しかし、十分な成果を上げるためには、オンラインサービスを利用するための説明会を全国各地で実施するなど、地方自治体やNPOとの連携が不可欠とされている。

また、JICAによるデジタル人材育成も、国際協力の文脈はもちろん、技術者の育成と相互交流によって国内のデジタルリテラシー向上にも貢献していると考えられる。(※5)

自治体レベルでは、東京都は2021年度にデジタルデバイド是正に向けた予算を3億円規模で組み、都内の高齢者を中心としたサポート施策の拡充に取り組んだ。(※6)渋谷区では、高齢者向けにスマートフォンを無料で貸し出し、さらに活用法の講座を開設することで、操作体験から学ぶ機会を提供している。(※7)

その他、石川県加賀市においては、スマートフォンの購入費用を助成し、端末を入手しやすい環境を整える制度が導入されている。(※8)

ハードとソフトの両面の重要性

機器を貸し出したり金銭的な助成を行うだけでは不十分であり、講座や学習サポートを組み合わせて初めて効果を発揮する。学び続けられる環境がある場合、はじめは抵抗を示していた人でも、日常生活の向上や行政手続きの利便性に気づき、積極的に活用するようになるケースも出てきており、こうした成功事例を横展開する努力が欠かせない。

また、教育現場ではGIGAスクール構想(※9)が進められており、全国の児童・生徒が1人1台の端末を利用できる環境整備が促進されているが、教員の指導技術や家庭のICT環境が整わなければ、格差解消にはつながりにくい。そのため、ハードウェアの導入とともにソフト面の整備や保護者向けの研修が重要となる。地域格差や家庭ごとの収入差が依然として残る現状を踏まえるならば、経済的支援と教育支援の一体的な推進が求められる。

若年層から高齢者まで、幅広い世代に対するICT利用促進が図られる中、特に社会参加が難しい層(身体的障害を抱える人、遠隔地に住む人など)への配慮が不可欠である。こうした弱者支援とデジタル技術の融合が、社会全体の効率化を高めるだけでなく、人と人とのつながりを再考するきっかけにもなり得る。

総合的に見れば、国や自治体、教育機関、民間企業、さらには地域コミュニティが協働し、利用者の立場に立った丁寧な支援策を積み重ねることが、デジタルデバイド問題の解消には欠かせない。

※5 参考:JICA「デジタル化の促進」
https://www.jica.go.jp/activities/issues/digital/index.html
※6 参考:東京都「令和3年度 (2021年度)東京都予算案の概要」
https://www.zaimu.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/zaimu/3yosanangaiyou
※7 参考:渋谷区「高齢者デジタルデバイド解消事業」
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kenko/koreisha-seikatsu/koreisha-digital-divide/dejitarudebaidokaisyou.html
※8 参考:加賀市「加賀市の概要とデジタル活用に関する取組みについて」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000735751.pdf
※9 用語:全国の児童・生徒1人1台のコンピュータと高速ネットワークを整備する取り組み。2019年に文部科学省によって開始された。

情報格差の今後の展望

デジタル技術が進歩する一方で、ネット上のサービスは複雑化し、便利であるがゆえに、その利用方法を理解しない人々との格差がより拡大する懸念が強まってきた。

例えば、行政手続きがオンライン化した場合、スマートフォンの基本操作や電子申請の手順に戸惑う層は、サービスを受けるためのハードルが上昇しかねない。高齢者だけではなく、若年層や働き盛りの世代にとっても、デジタル機器は日常的に使うものである反面、正確な知識やセキュリティリテラシーが不足すれば、有害情報への接触や詐欺被害のリスクも高くなる。

今後はIoT機器やスマートシティの進展により、電力メーターや健康管理、交通手段など、生活全般がデジタルと密接に結びつくことが想定される。こうした社会基盤が整うほどに、デジタル技術へのアクセスや理解が乏しい層は、生活上大きな不便や不利益を被るおそれが高い。

一方で、テクノロジーが進むほど用途が多岐にわたるため、学ぶ機会があれば、誰もが新しいスキルを身につけやすくなる可能性がある。無料や低コストで利用できるオンライン学習プラットフォームや、地域コミュニティによる勉強会などを積極的に展開すれば、経済的な負担を避けつつ多くの人が参加できる状況を作り出せる。

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国内外の事例から考える教訓

国外で見れば、ICT教育に早期から力を入れた国々では、若年層のリテラシーが高まったことに伴い、高齢世代への支援やマニュアル作成への知見も蓄積され、教育機関や地域NPOが中心となって取り組むケースが多い。国全体の政策としてデジタルインフラを拡充し、教育、医療、行政手続きなどを効率化しようという動きが先行している国も存在する。

国内でも、地方議会が積極的にデジタルサービスを採用し、オンライン議会や電子書類管理を導入している事例が増えているが、職員や議員自身がICTリテラシーを獲得できるかが大きな課題になっている。議会システムを整備しても使いこなせないケースが散見されるため、組織内の研修やサポート体制が追いついていない可能性が指摘されている。

一方、積極的に市民向けのワークショップを開催し、スマートフォンの基本操作からオンライン行政手続き、SNSの安全な使い方などを体系的に教えるプログラムを実施している地方自治体も存在している。こうした動きは部分的かつ試験的なものが多いが、今後全国的に広がれば、高齢世代のみならず他のデジタル弱者も巻き込みながら格差を是正できる可能性が高まる。

まとめ

デジタルデバイドは、その言葉が示すように情報格差を広く含む問題であり、当初は先進国と途上国の間の違いが焦点であったが、国内においても高齢者だけでなく多様な要因によって利用機会が制限される層が存在している。国や自治体をはじめとする多くの組織が、機器の貸与や無料講座、購入助成といった対策を打ち出しているにもかかわらず、進むデジタル化に対応しきれない層が依然として残る。

今後さらにテクノロジーが進展するなかで、インターネットだけでなくIoTやAIなどにアクセスし活用できる層とそうでない層の格差が拡大する恐れがある。こうした事態を回避するには、単に機器を普及させるだけではなく、学ぶ場を継続的に提供し、利用者同士が助け合うコミュニティを強化することが重要である。

 

文・編集:あしたメディア編集部

 

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