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Z世代の今後にも期待 BIGLOBE温泉ワーケーション×デザインシンキング研修

ビッグローブ株式会社(以下、BIGLOBE)では温泉地でワーケーション(※1)を行う「温泉ワーケーション」を推進しており、日本のワーケーションを牽引するべく、様々な新しい取り組みに挑戦し続けている。今年4月には、新入社員を対象に毎年実施している「デザインシンキング研修」を、小田原市の協力を得て新たにワーケーションのスタイルで実施した。この取り組みは、今後のBIGLOBEの温泉ワーケーションの可能性を広げる、画期的な第一歩だと言う。
今回は、新入社員向け「デザインシンキング研修」の取り組みとそこから見えてきたZ世代の可能性、さらに今後の温泉ワーケーションの展望について、BIGLOBEの有泉健社長にお話を伺った。

※1 「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を掛け合わせた造語で、普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、自分の時間も過ごす新しい働き方。

BIGLOBE 有泉健社長

「小田原市の観光」をテーマに、ワーケーションスタイルで研修を実施

新入社員の「デザインシンキング研修」を、2022年度はワーケーションスタイルで実施したと伺いました。どのような経緯で実施されたのでしょうか?

BIGLOBEでは、いま温泉ワーケーションに力を入れています。これまでこの研修は都内にある本社で実施していましたが、講師の方から「この研修もワーケーションでやったらどうか」という提案があり、やってみようということになりました。そこで、研修で扱うデザインシンキングのテーマも宿泊する地域にちなんだものにしたいなと思い、実施場所を検討する中で「箱根のゲートウェイになっている小田原はどうだろう?」というアイデアが出てきました。これまでBIGLOBEは小田原市とお付き合いがなかったのですが、担当者が直接伺って趣旨を伝えたところ快諾いただき、開催が決まりました。 

小田原市と連携したことで、どんなテーマでの研修が実現したのですか?

地域の課題解決という観点から、「若者をターゲットにした小田原市の観光活性化」をテーマにしました。小田原市の観光課でも様々な取り組みがなされていますが、そこへBIGLOBEの新入社員の若い目線から新しい提案をする、という内容です。2泊3日という限られた時間でしたが、ワーケーションで小田原に宿泊し、街の状況を自分たちの目でしっかりと観察し、最後は市長や観光課の方々に新入社員の考えたプランを提案させてもらいました。

小田原の街並み

面白い研修ですね。実際に新入社員の方々はどんな提案をしたのでしょうか?

3チームに分かれて提案をしたのですが、ストーリーがあり発表方法もユニークで、本当に目から鱗でした。あるチームは、交通結節点である小田原駅前と、観光地として有名な小田原城の2地点の賑わいに対して、それらを結ぶ通りの印象が薄いのではないか、ということを課題にしていました。そこで、駅から小田原城にかけての移動の風景を、令和の日常から室町時代へとタイムスリップするような位置付けに変えていくために、「キッチンカーを使って彩りを添える」という提案をしました。プレゼンでもただ説明をするのではなく、まず若者の間でよく言われている「エモい」という言葉の定義から始まり、「エモさ」をビジュアル的に発信しどう若者に認知を広めていくか、という話をしてくれました。イメージの湧くビジュアルも作り、そこに男女の新入社員が出てきて、提案通りにアレンジされたまちを実際に若者2人が歩いたらどんな会話をするか、という実践もありました。ここまでくると、もう我々の感覚では発想しえないですよね(笑)。驚きました。
その他にも、小田原で古くから作られる「小田原提灯」(※2)を活用して、小田原のさまざまなデザインを映し出すランタンを作ることを提案したチームもありました。小田原市の観光課の方々に関心を持っていただけたテーマもあったようで、有意義な発表になったと思っています。

※2 小田原で古くから作られる提灯。携帯に便利なように小さく折りたためる点や、中骨が平たいため胴紙が剥がれにくく丈夫で、雨や霧にも強いといった点が特徴とされる。

研修中、新入社員は小田原の街中でフィールドワークを実施し、自ら魅力や課題を見つけていった

未来志向のZ世代の感性に期待

研修としても、ワーケーションで実施したからこそ何か新しい効果が見られたのでしょうか?

そうですね。新入社員の感想で多く聞かれたのは、「百聞は一見にしかず」「ユーザー目線がわかった」ということでした。私も長きにわたりソリューション事業をやってきましたが、周りの人たちを見ていると「お客様の課題を解決できるのはパソコン上ではなく、お客様のいる現場である」ということを、長い年月かけて学んでいきます。なのに彼らは、この3日間で気づいたんですよね。Z世代と呼ばれる彼らには、リアルに社会課題に向き合うということのベースが既にできあがっていることを、身をもって感じました。そしてこれは、ワーケーションスタイルで、現場を見て、そこから解決策を提案するという一連の流れを経験できたからこそでもあると思います。今回は新入社員が対象でしたが、全社員、様々な階層・年代の社員にも経験してほしいと思っています。

Z世代ならではの特徴を感じる場面もあったのですね。

我々の時代は高度成長時代真っ只中だったので、先輩の背中を見て、それが正しいんだと思ってやってきた部分があります。ところが新入社員たちZ世代の周りには、インターネットという外部脳が常にあり、そこでさまざまな課題やペインが渦巻いているのを見ています。SDGsも学校教育で学んできていますし、「これから自分たちが生きていく社会の課題をどう解決していこう?」と考える姿勢がベースにあるんですよね。BIGLOBEではいま、「通信事業」と「社会・環境事業」という2軸での経営を掲げていますが、後者の意義を社員に伝えていくのが難しいと感じることもあります。その点、Z世代は社会に目を向ける姿勢を既に持っており、大きな可能性を感じています。若い社員の芽を潰すことが無いよう、彼らの良さを引き出すことが、組織運営でも重要になってくるのではないかと思っています。

「デザインシンキング研修」開催中の様子

「ワーケーションを通じた地域交流」という新たな可能性

温泉ワーケーションのスタイルとしても、何か新たな可能性が見えたのでしょうか?

BIGLOBEでは、これまでも自社社員の他に33社の企業の方にご協力いただき、実際に温泉ワーケーションを体験してもらってきました。その結果、メンタリティや自律神経のバランスなどに関しては、ある一定の効果があることが分かってきました。ただ、その体験に協力いただいた企業の方に話を聞いていくと、私たちも想定していなかった「温泉ワーケーションの新しいあり方」が見えてきたんです。それは、「訪ねた温泉地と交流し、課題解決につなげる」ということです。チームで温泉地に行って、リラックスできたり、テレワークによるコミュニケーション不足が解消できたりといったことだけでなく、地元の方々と交流し、その地域の課題を抽出して、それに対する解決策を考えるような場にしてみたらどうかという提案を、複数の体験者からいただきました。これからの時代における研修・合宿のあり方に、いま私たちはたどり着いています。
今回の新入社員の研修は、まさにその第1弾を自分たちでやってみたという経緯もあります。BIGOBEの新入社員の提案を、小田原市に少しでも取り入れ活性化に繋げてもらえたら、企業にとっても地域にとっても嬉しいですよね。我々が目指しているのは、こういう「関係者全員がハッピーになる姿」なのかなと思っています。

ワーケーションを通じて、企業や社員だけでなく訪問先にも新しい価値が提供できるのですね。

温泉ワーケーションの推進により見えてきたものは、他にもあります。私たちはワーケーションを通じて、平日にも温泉宿に送客しています。これは温泉宿側に良い点だと思っていたのですが、温泉宿に話を聞いてみると「お客さんが来るのはありがたいけれども、困ることもあります」と言うんです。調理職人さんがおらず、ランチの用意ができないというのもその理由の1つです。温泉街によっては、宿の周りに飲食店が少ない地域もあります。それが課題だったのですが、いまはコロナ禍でも調理人の腕を維持したいという結婚式場の企業様が、地元の食材を使ったランチボックスの提案をしてくれています。そんな風に、ワーケーションを実施するにあたって温泉宿側に出てきたいくつかのハードルが、これまで想定し得なかった方法で解決され、受け入れ側の土壌も整いつつあります。将来的に、温泉地に社員を送り込んで交流をして、地域の課題を解決する、ひいては新しいビジネスを生み出すようなこともできるようになると、ワーケーションにご賛同いただける企業の投資対効果も高まり、よりワーケーションが広がるのではないかと思います。

今後も広がりを見せる「社会・環境事業」

温泉ワーケーション以外でも、BIGLOBEはさまざまな「社会・環境事業」に注力をされている印象です。

BIGLOBEは2年前から2軸の経営を掲げ、「通信事業」に加えて「社会・環境事業」にも力を入れ始めました。しかし、正直まだ「社会・環境事業」にピンとこないという社員もいます。「社会・環境事業ってなんだろう?」「何をしていけば良いのだろう?」ということを徐々に社内に浸透させて、少しずつ取り組みを進めている状況です。
「社会・環境事業」として、これまで温泉ワーケーションの他に、ドネーションプログラムが組み込まれた新モバイルサービスブランド「donedone 」の立ち上げや、オフィスビルで使用するエネルギーを抑える取り組みなど、いくつか具体的に行なってきましたが、最近注目しているのは、コンポストを活用した自然環境発電です。発電量は決して多くはないのですが、有事のときに簡単に電気を作ることができるので、ただ再生可能エネルギーの1つとしてだけではなく、非常時に活用できる仕組みとしても注目しています。たとえばもし災害があり、電力が途絶えてしまったようなときにも、水分と土さえあれば発電ができます。いまは情報の時代なので、こういった自然環境発電を用いることで、有事のときにも情報から隔絶されない状況を作ることにつながるのではないかと思っています。
(ドネーション型モバイル通信サービス「donedone」に関するレポートはこちら
(BIGLOBEが取り組むスマートビルに関するレポートはこちら

こういった社会や未来に貢献していく事業について言うと、とくに若い社員はミッションを与えるとすぐに何をするべきかを考えて、具体的に行動してくれます。その点でも、Z世代といった若い世代の社員には大変期待しています。社会・環境事業への人材投入も進めながら、今後もより多くのテーマを進めていきたいと思っています。

今回の「デザインシンキング研修」は、BIGLOBEが推進する温泉ワーケーションの新しい可能性を切り拓く機会になったとともに、企業として社会貢献を推進する中でのZ世代の可能性を感じる機会にもなったと言う。新しい感性を尊重し、社会に適したサービスを柔軟に生み出しているBIGLOBE。様々な広がりを見せ始めた同社の温泉ワーケーションの取り組みが、今後どのようにアップデートされ社会に価値をもたらしていくのかという点についても、大いに期待していきたい。


取材・文:大沼芙実子
編集:髙山佳乃子