よりよい未来の話をしよう

自分の心地よさから環境問題まで。7NaNaturalが提案するメイクの在り方

「自分らしくいていいんだ、そのままの自分でいていいんだ、って思える瞬間って、1日のなかでなかなかないじゃないですか。コスメは纏う(まとう)ものなので、使うたびに自分のことを大切にするきっかけになったらいいなと思っています。」

そう語るのは、ひと、社会、地球環境が抱える7つの課題解決を目指した、日本発のクリーンビューティーブランド・7NaNatural のディレクターを務めるshizukuさんだ。

7NaNaturalのプロダクトは天然由来成分100%で、唇や目元、頬などに自由に使える7色を展開している。コスメロスの問題に着目し、楽しく使い切ってほしいという願いを込めたミニサイズ設計で、再生プラスチックを使った容器は使用後の回収も行っているほか、カラースティックの充填(口紅を溶かして容器に流し込む工程)には化石燃料を使用しないクリーンなエネルギーを使うなど、サスティナブルなコスメでもある。

多様な美の在り方やセルフラブ、エシカルな消費について、議論が少しずつ増えてきた現代。shizukuさんに、7NaNaturalを通して伝えたいことを伺った。

不自由な価値観を上塗りしない方法で

7NaNaturalの始まりとshizukuさんがディレクターとして関わることになった経緯を教えてください。

化粧品の企画・開発・製造などを行っている株式会社トキワが2020年に実施した「ビューティーアクセラレータープログラム TOKIWA Lab.」にエントリーしたのが7NaNaturalでコスメを作り始めたきっかけです。もともと7NaNaturalではInstagramでZ世代との対話の場を設けていて、私はそのコミュニティのメンバー募集があったときに応募し、7NaNaturalに関わるようになりました。

7NaNaturalのコスメはコミュニティのなかでのヒアリングをもとにつくられているとのことですが、shizukuさんはコスメに対してどんな思いがありましたか?

正直、自分らしさを楽しめそうなコスメがあまり身近にないな、と感じていました。だからこそ7NaNaturalでは、使う人を選ばないパッケージデザインを意識したり、人を年齢や性別で一括りにしないメッセージを発信できればいいなと。

7NaNaturalのプロダクトや発信からは、「こうあるべき」という価値観を再生産しないフラットさが感じられます。その点に関して、意識して行っていることなどはありますか?

現在、7NaNaturalでは定期的にメイクアップ体験企画を実施しています。体験者の方を一般公募して、メイクアップアーティストの方によるタッチアップを体験できるというもので、その様子をInstagramで配信しています。表面的な美しさだけを追求するのではなく、美しさの定義を押しつけるのでもなく、プロの視点でその人のチャームポイントを引き出すメイクを提案したり、すべての人が美しいんだというメッセージを発信したりすることで、カラーメイクの可能性を伝えたい。体験者の方がリアルに感じた嬉しさや喜びの感情も、配信で伝わったらいいなと思っています。

軸は「Free your mind」

公式サイトでは「7つのクリーンなものづくり」について説明されていますが、shizukuさんが感じていることを教えてください。

7NaNaturalのブランドメッセージの1つである「Free your mindー年齢や性別、固定概念にとらわれない自由な生き方を」という考え方にはとても共感しています。環境に配慮した商品でも、使い心地が良くなかったり、色味が気に入らなかったりしたら、それは結局自分が我慢して使うことになります。誰かがどこかのタイミングで我慢している限り、持続可能な社会は実現できないと思うんです。どうすれば自分がもっと自由で、心地よく感じられるか、もっとありのままの自分を楽しめるかを考えるなかで、「Free your mind」は軸になる考え方だと思っています。

出典:7NaNatural公式ホームページ

確かに、社会や環境のことに気を配るあまり、どこか自己犠牲的になってしまう場合はありますよね。

社会や環境に対してアクションを起こすことで自分が蔑(ないがし)ろになってしまったら、本末転倒ですよね。自分を愛することができて初めて周りの人を愛することができ、さらに社会であったり、環境だったりに目を向けることができるのではないかと思います。

届く感覚を超えて、一緒につくっている感覚

今年3月にカラースティックとカラーパレットが一般発売されてから、7NaNaturalのコスメを使った方からはどんな声が届いていますか?

「化粧=女性らしくあるための表現」と感じてメイクをしたことがなかった方から、「7NaNaturalのコンセプトに賛同し、実際に商品を使ってみたら、自分のままでいられる感覚や、ありのままの自分を彩れる感覚があり嬉しくなった」という感想をいただきました。

あと、もともとファッションが好きだった男性が7NaNaturalに出合って初めてメイクに挑戦し、自分のスタイルをブラッシュアップして、さらに自分を輝かせるツールとして取り入れるきっかけになった、という感想ももらいました。

7NaNaturalを手に取った人それぞれがコスメやお化粧を再定義して使っているのだと感じられるエピソードですね。

1人ひとりの手に渡ってからブランドとしてのストーリーが始まる感覚はあります。ブランドやプロダクトは“あらすじ”でしかなくて、それぞれのなかでいろんな物語を紡いでいけるのが7NaNaturalらしさだなと感じています。

マインドに留まらず、原料についても明確に説明されているイメージがあります。オープンさというところで意識していることはありますか?

7NaNaturalは、私たちとみなさんで、時間をかけて、丁寧に創造し続けるブランドです。色、質感、よりよい成分や製造工程づくりなど、対話を続けて一緒に磨いていきたいと思っています。目標に対して「今はまだ70%くらいなんです」だとか、取り組めていない課題についても正直にオープンにお話すること。そしてオーセンティックでい続けることが、ブランドとしても私としても大事にしたいことの1つです。

無理に合わせなくていい、自分を守ることから始める自己表現

7NaNaturalでのコスメ体験以外に、shizukuさんご自身が自分と向き合うきっかけになった出来事はありますか?

もともとは、私自身も既存の美意識や価値観に振り回されてきた過去があります。とくに10代の頃は、好まれるルックスやジェンダーロールには型があると感じ、そのなかで自分の価値がコンテンツとして搾取されていく感覚が常にありました。そんなストレスから摂食障害を患い、我慢して痩せたり太ったりしたこともあります。皮肉にも、自分が身をすり減らすほど周りから憧れられたり褒められたりする機会が増えて、心身ともにボロボロでも誰にも助けを求めず、全て自分が臆病で卑怯だからだと責めていました。でも、いよいよ立ち止まらざるを得なくなり、1つひとつ紐解いていったとき、私が感じていた生きづらさは日本社会の構造的な問題に直結していて、この問題に無関係な人は誰1人としていないことに気づいたんです。そして、私が味わった苦しみはもうこの世代で終わらせないといけないと感じ、行動せずにはいられなかった。たとえ最初はそれが完全な形でなくとも、日々の生活で感じる違和感をなかったことにせずにシェアし合うところから、より多くの人が生きやすさを感じられる社会にアップデートしていきたいと思いました。私にとって自分と向き合うきっかけは病気でしたが、そうなる前に、7NaNaturalが、誰かにとって自分を大切にするきっかけになることを願っています。

これからshizukuさんが7NaNaturalを通して取り組みたいことはありますか?

今後は、さらに環境にやさしいプロダクトの在り方を模索していきたいです。例えば、児童労働の問題やフェアトレードなど、根本にある問題の解決につながるような活動ができたらと思っています。最近はサスティナビリティやSDGs、ソーシャルグッドといった言葉が多用される反面、トレンドワードとしてしか関心が持てていない方も多いと思います。日本では環境や社会に良いことがどこか特別なことのように扱われている感じがするので、7NaNaturalを通して何かを考えたりアクションを起こしたりするきっかけになれば嬉しいです。そして、今は「コスメブランド」の7NaNaturalですが、コスメに限らず、もっと広義の自己表現のツールとして、お守りみたいな存在になれたらいいなと思っています。

多様性の時代だと言われ、1人ひとりの個性が尊重されるようになってきた側面もあれば、どこまでいっても「こうあるべき」という圧力から逃れられないと感じる人も少なくないであろう現代社会。ポーラ文化研究所の調査(※1)によると、もっとも多くの人が挙げた「メイクを行う理由」は、「身だしなみ・マナーとして」だが、7NaNaturalは、ありのままの自分でいたいすべての人に寄り添うメイクの在り方を提案している。

自身の実感を大切に7NaNaturalに関わるshizukuさんのまなざしから、対誰か、ではなく、「対自分」を起点に、周りの人々や社会、地球環境にまで思いを馳せられる7NaNaturalの可能性が感じられた。

※1 ポーラ文化研究所 化粧文化調査2020 
https://www.cosmetic-culture.po-holdings.co.jp/report/pdf/211020omoi.pdf


shizuku
ココロの話をもっと気軽に。自身のセクシュアリティとの対話、鬱や摂食障害といった経験を経て、ひとりひとりの心地良さや幸せを起点にしたコミュニティ「7ナナ」にて活動中。多様な美しさやサステナビリティを推進するクリーンビューティブランド「7NaNatural(ナナチュラル)」にて、ディレクターを勤める。


取材・文:日比楽那
編集:柴崎真直