よりよい未来の話をしよう

SDGsを実現する「スマートビル」とは?BIGLOBEが新サービスを開始:ウェビナーレポート

f:id:tomocha1969:20211220150823j:plain

2021年11月16日、ビッグローブ株式会社(以下BIGLOBE)は、X1Studio株式会社(以下X1Studio)とともに、クラウドとAIを活用したビルのCO2排出量削減ソリューションに参入した。同社が提供を開始する「クラウド型空調自動制御ソリューション」は、ビルの空調に関わる電気量の削減が可能で、CO2排出量削減への貢献が期待される。

11月24日に開催された、X1Studioとルートロンアスカ株式会社(以下、ルートロンアスカ)主催のウェビナー「~スマートビルのスペシャリストに聞く~ これからの時代に必要となる、『スマートビル』の実現方法」では、「いま求められているスマートビルとは」をテーマに、ビルオートメーション業界のトップランナー企業数社を迎えクロストークが行われた。BIGLOBEからは有泉代表取締役社長が参加し、自社事業についても言及した。
この記事では、ウェビナーの内容をレポート形式でお届けする。

スマートビルとは?

今回のテーマである「スマートビルディング」とは、建物に関するデータを最新のインターネット技術を用いて管理・統合する次世代のビル管理システムだ。 このシステムを導入すれば、ビルの管理者のみならず、ビルの利用者や企業にもメリットをもたらすことができる。 

オフィスビルを維持するためには、照明や空調システムなどを適切にコントロールする必要がある。これまで人の手で行われていたそれらの管理を自動化することで、各オフィスの照明や空調を効率的・効果的に管理できるようになる。とくに、コロナ禍以降オフィスへの出社率が下がり、ビルそのものの利用率が低下する中で、コストをかけず効率的に管理運用することができるスマートビルディングシステムの需要が高まっている。

f:id:tomocha1969:20211220150959j:plain

ウェビナーの冒頭では、参加企業各社による事業紹介と、スマートビル増加の背景に関するプレゼンテーションが行われた。主催者である、次世代IoT技術を用いたスマートビル向けAI開発など行うソリューションサービスカンパニーのX1Studioと、最先端の調光システムサービスを提供するルートロンアスカに加え、ビルオートメーションシステム業界で最先端の技術を誇る企業が参加した。

(参加企業および登壇者)

  • X1Studio株式会社 代表取締役社長 ウィリアム アチュリ 氏
  • ルートロンアスカ株式会社 カントリーマネージャー 谷崎 宗孝 氏
  • ジョンソンコントロールズ株式会社 日本法人代表取締役社長 兼 北東アジア担当バイスプレジデント 吉田 浩 氏
  • ジョーンズラングラサール株式会社 執行役員 エグゼクティブディレクター 不動産アドバイザリー 佐藤 俊朗 氏
  • ロンマークジャパン 理事長 富田 俊郎 氏
  • ビッグローブ株式会社 代表取締役社長 有泉 健 氏

インターネット技術が日々進歩する中、新たな時代に対応できる建物が求められている。環境に負荷をかけない事業のあり方を企業が模索する中で、より効率よくエネルギーを利活用できるシステムとして、スマートビルが求められているといえる。

BIGLOBEによる新事業「クラウド型空調自動制御ソリューション」

続いて、BIGLOBEの有泉代表取締役社長から、「クラウド型空調自動制御ソリューション」の紹介が行われた。
BIGLOBEはモバイルサービスなどの通信事業に加え、社会や環境に貢献する事業も行っている。その背景には、国連が定めた17の開発目標達成に向け、2030年までの10年間を「行動の10年」にする狙いがある。「人と社会の地球の未来づくりに貢献する」をスローガンに、環境・社会・経済という3つのレイヤーで価値を提供することを目標に企業活動を行っている。

f:id:tomocha1969:20211220151205j:plain

ビッグローブ株式会社 有泉 健 氏

なかでも11月16日に発表した「クラウド型空調自動制御ソリューション」は、通信技術とAIを活用し、ビルの消費電力とCO2の排出量を削減するアクションプランとなっている。本ソリューションは、ビルの既存管理システムに接続しAIで最適な空調を管理する「BRAINBOX AI」を活用する。「BRAINBOX AI」は、米国をはじめ世界150都市・250カ所以上の建物で導入実績があり、空調の平均25%の消費電力削減を実現しているという。「BRAINBOX AI」の設置後は、AIによる自動学習のもと、ビル内の温度や湿度、吸気や換気の速度をデータにもとづき最適化するシステムが作動する。これにより、人的コストをかけることなくエネルギーのロスを最小限に抑えることができる。

企業にとってはオフィスの消費電力やコスト削減、社員にとっては自社建物内における満足度の向上、また環境にとっては温室効果ガスの削減と、三方よしの実現が期待される。

f:id:tomocha1969:20211220151336j:plain

各社代表によるクロストーク

続いて、ビルオートメーション業界を牽引する企業の登壇者によるクロストークが行われた。

〈高まるテクノロジー需要。快適性と生産性を支えるスマートビル〉

ビル内設備の自動化について、近年クライアントからの関心や希望はどのようなものが多いのか。ジョーンズラングラサール株式会社の佐藤俊朗氏(以下佐藤氏)は、以下のように語る。

「現在の不動産マーケットを見てみると、空室が増加しています。スマートビルに取り組む際には投資が必要となるので、投資家としてのビルオーナーの関心は、いかに空室対策をするか。コロナ禍を経て、オフィスは利用したいが面積を縮小したい、という経営者の方は増えており、どのようにオフィスのあり方を変化させていくかがポイントだと思います。また、2023年度以降はより多くの供給があるため、いかに自社ビルにテナントを誘致するかが大きな課題となっています」

f:id:tomocha1969:20211220151601j:plain

ジョーンズラングラサール株式会社 佐藤 俊朗氏

オフィスワーカーにとって、働き方がガラっと変化したのがここ数年。月に数回の出社日がいかに充実した、心地よいものになるかが重要となる。ストレスフリーな環境を提供するためにも、テクノロジーで解決できるものは効率的に管理し、ストレス軽減へとつなげることが欠かせないと言う。

また、経営者側の視点に関しては、「オフィスワーカーがどのように働くかで生産性が変わるので、いかに優秀な人材を確保し、生産性高く働いてもらうか、それをテクノロジーで解決できるかが課題です。固定費の削減も大事なポイントかと思います。加えて、サステナビリティやDX、SDGsを経営戦略に組み込む必要が出てきたなかで、その領域をある程度サポートできるスマートビルへの関心が高まっています」と語った。

〈海外よりも遅れている?国内スマートビル業界の現在地〉

では、日本におけるスマートビルの現状はどうなっているのか。海外に比べ、スマート化が遅れている要因はどこにあるのか。この点について、ロンマークジャパンの富田俊郎氏(以下富田氏)は、

「スマートビルのシステムを実現するためには、システム同士の相互接続性が欠かせません。海外だと、異なるメーカーが作るシステムであっても相互接続が容易な一方で、日本では1つの代表的な高性能システムが標準になってしまう傾向にあるため、数ある会社の複数システムを公平につなぐという波に乗り遅れてしまったという課題があります。その“相互乗り入れ”について、ビル業界ではまだまだ遅れが生じており、ビル内システムの相互コミュニケーションを容易にする必要があります」と述べた。

f:id:tomocha1969:20211220151653p:plain

ロン・マークジャパン 富田 俊郎氏

旧体制のビジネスモデルに依存しがちな日本。スマート化の波に乗り遅れないためにも、システムの間のやりとりをスムーズにする、オープン化の推進が欠かせないと語った。また、それらのインフラを支える若手エンジニアの需要も高まっていると言う。

「優秀なエンジニアも年を重ねると、自分たちに馴染みのない最新システムの導入に保守的になってしまいます。そこで、若いエンジニアが最新のシステムを理解し受け入れ、主流として活躍していくことが重要です」と語った。

〈いま求められるニーズと最新技術とは?〉

続いて、現在スマートビルに導入可能な最新のテクノロジーやソリューションに関して、ジョンソンコントロールズ株式会社の吉田浩氏(以下吉田氏)が言及した。

f:id:tomocha1969:20211220151807j:plain

ジョンソンコントロールズ株式会社 吉田 浩氏

「今後の新しいニーズに対応するためには、複数のシステムからデータを統合していく必要があります。その中でも、メーカーを問わず多彩な設備システムをシームレスに接続できるオープンプロトコル(※1)を使うのは1つの最低条件だと思います。情報を集約し統合できるようオープンプロトコルを導入することで、様々なアプリ間でデータのやりとりや加工がしやすくなります。ビル自体のオペレーティングシステム、そしてクラウド上にあるアプリをきちんと統合し、使いやすい環境を整える技術が重要になると思います」と語った。

複雑なシステムを構築するために、複数の会社がパートナーシップを形成し、それぞれが自社の強みとなるソリューションを提供することで、利用者に総合的なシステムを提供すべきだと言う。

続けて、ルートロンアスカの谷崎宗孝氏(以下谷崎氏)から同社のソリューションについて紹介がなされた。

f:id:tomocha1969:20211220151906j:plain

ルートロンアスカ株式会社 谷崎 宗孝氏

「新しい製品として、来年発売予定のAthena(アスィーナ)、そして現状ではQuantum(クアンタム)という製品があります。これらを用いることで、照明制御やカーテン制御に必要なデータ収集や上位システムとの総合通信を実現します。20年以上前から複数システム間の情報をインテグレートできる製品の開発をしており、オープン化に向け先駆的に対応してきました」と語った。

スマートビル業界が描く未来

今後、スマートビル業界はどのようなロードマップを描いていくのだろうか。プロダクトとソリューションの観点から、吉田氏は以下のように語る。

「ソリューションについては、お客様のニーズとしてコストやエネルギー使用量の削減を考えるのはもちろん、CO2の削減などサステナビリティに関する目標値の達成やオフィス訪問者の満足度向上など、複数の目的が要求されます。また、複数のビル、あるいはエリア全体で最適化していきたいというニーズが増えているのも特徴です。複合的な機能を持つ建物が増加する中で、1つの用途や目的に限定されないソリューションの提供が求められています」

大規模なビルや商業施設に限らず、住宅等でもスマートビルシステムは応用できると言う。スマートビルディングという括りでは、オフィスをスマート化するだけでなく、住宅もスマート化しなくてはならない。住宅向け、オフィス向けなど、それぞれが他社の機器と接続できるような製品作りに、各社が取り組んでいる。

f:id:tomocha1969:20211220152000j:plain

最後に、先日英国グラスゴーにて行われたCOP26(※2)を受け、CO2削減策についても言及がなされた。他業界に比べ、CO2削減の戦略が出遅れているというビル業界。世界の都市を通信情報技術の発展に応じてランキングした2020年のスマートシティインデックス(※3)では、東京都は79位(2021年の同統計では84位)という結果であった。今後、日本のスマートシティ実現に向けてどのような取り組みが行われていくか、各社代表が語った。

(佐藤氏)
「スマートシティ構想は、オフィスだけでなく、店舗や住宅も一緒に開発する必要があります。従来の働き方から変化し、在宅勤務が一般的になる中で、働く人達の活動やワークライフバランスを企業や住宅の供給業者が一緒になって考えることが大事です。エネルギーの使い方が変わればCO2の排出量も変化してくるので、バランスを取りながらやっていくのが重要かと思います」

(吉田氏)
「スマート化やサステナビリティというキーワードで言うと、遅れていた日本も最近良い方向に動向が変化してきています。とはいえ、海外に比べて政府からの推進に向けたメッセージ発信などはまだ弱いと思います。この分野で使われる技術は非常に発展が早く、新しいものがどんどん出てくるので、いま使われているシステムでも来年は古くなっているかもしれない。だから、いまある技術で少しずつ取り組みを積み重ね、状況や必要に応じてアップグレードしていけば全体のスマート化が可能なのではないかと考えています」

(谷崎氏)
「スマートシティ構想の中では、技術のオープン化は避けては通れません。日本は、独自の仕組みを作りそれを守っていく文化があると思います。良い面もありますが、やはり海外の良いものが入ってきにくいという長年の弊害にもなっています。それがいま、オープンな方向に変わりつつあるのかなと感じています」

(富田氏)
「エンジニアの教育が非常に重要になると思います。ベテランは若い方に技術を継承しなくてはならないし、若手はクラウドサービスや最新のIoTデバイスをどのように使いこなすか、勉強していかなくてはなりません」


ディスカッションの後には、参加者からの質疑応答の時間が設けられ、業界のエキスパートたちに数多くの質問がよせられた。本ウェビナーを通じ、スマートビルにまつわる様々な議論が交わされた。日進月歩、様々な技術やサービスが開発されるビルオートメーション業界。今後どのような展開がみられるか、楽しみだ。

※1 コンピューター同士の通信をする際の手順や規格のこと
※2 「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議」の英語の頭文字を取った略語
※3 通信情報技術の導入が進んでいる都市をランキングしたもの。国際経営開発研究所(IMD)とシンガポール工科大学(SUTD)が共同で発表している。


取材・文:柴崎真直
編集:大沼芙実子