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スマートシティとは?その意味や利点、具体的な事例を解説!

スマートシティとは

スマートシティ(smart city)とは、都市のコンセプトの1つであり、デジタル技術を駆使することで持続可能性や効率性、利便性を重視して設計された都市を指す。

スマートシティの定義

内閣府は、スマートシティの定義について「グローバルな諸課題や都市や地域の抱えるローカルな諸課題の解決、また新たな価値の創出を目指して、ICT 等の新技術や官民各種のデータを有効に活用した各種分野におけるマネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、社会、経済、環境の側面から、現在および将来にわたって、人々(住民、企業、訪問者)により良いサービスや生活の質を提供する都市または地域」(※1)としている。

また、野村総合研究所は、スマートシティを「都市内に張り巡らせたセンサー・カメラ、スマートフォン等を通じて環境データ、設備稼働データ・消費者属性・行動データ等の様々なデータを収集・統合してAIで分析し、更に必要に応じて設備・機器などを遠隔制御することで、都市インフラ・施設・運営業務の最適化、企業や生活者の利便性・快適性向上を目指すもの」(※2)と定義している。

ここからわかるように、スマートシティは情報技術(IT)や通信技術(ICT)を活用して都市インフラやサービスを統合・最適化する点に特徴を持っている。センサーやカメラ、スマートフォンを利用した管理やビックデータの活用により、交通、エネルギー、施設といった私たちの生活のあらゆる側面の利便性を向上させることを目的としている。

※1 出典:内閣府ホームページ「スマートシティ」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/index.html
※2 出典:野村総合研究所(NRI)用語解説一覧「スマートシティ」
https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/sa/smart_city

スマートシティへの関心が高まっている理由

近年、スマートシティへの関心が高まっている背景には、Society5.0やSDGsの観点との関連性が挙げられる。

文部科学省によるとソサエティ5.0(Society 5.0)とは「我が国が目指すべき未来社会の姿で、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く新たな社会」のことであり、「持続可能性と強靭性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」(※3)のことを指す。

内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省が合同で運用しているスマートシティガイドブックにおいて、スマートシティはSociety 5.0の先行的な実現の場とされている。(※4)

ある場所に暮らす人や訪れる人にとって、子育てや労働をその土地で安心して暮らすことができる場所になる地域づくりが必要となっている。しかし、その背後には超高齢化社会や、都市への人口集中と地方の衰退、自然災害の発生といった様々なリスクが存在している。加えて、新型コロナウィルス感染の事例に代表される新たな感染症といった社会問題も山積しているのが現状である。これらの社会問題を克服しつつ、理想の地域づくりを行うために導入される概念がSociety 5.0であり、Society 5.0を達成する具体的な場としてスマートシティへの期待と関心が高まっている。(※4)

また、SDGsの観点で考えれば、SDGsが目指す「誰1人取り残さない」社会とスマートシティの親和性は高い。スマートシティにおいては、ハードウェア中心の暮らしからIT技術を駆使した暮らしのあり方への転換を目指しており、交通や買い物といった面で身体的問題から外に出にくい人々の暮らしがより利便性の高いものになることも想定できる。

あるいは、スマートシティは「都市への人口集中」問題への対応策にもなるだろう。人口集中が起こると、環境汚染や交通問題、地方の衰退、医療や教育へのアクセスの問題など地球およびそこで暮らす人びとにとって致命的な影響が起こりかねない。SDGsの目標の1つである「3.住み続けられるまちづくり」を実現するためには、IOTやビッグデータ、AIを活用したスマートシティの概念が現状の問題を乗り越える突破口となり得る。

※3 出典:文部科学省「Society 5.0」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/ 下線部は筆者加筆
※4 参考:内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省スマートシティ官民連携プラットフォーム事務局「スマートシティガイドブック」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/sc-guid-book-0-125-2.html

スマートシティがもたらす生活への変化

スマートシティはさまざまな分野で展開される。例えば、総務省が行った「地域課題の解決に向けたスマートシティの推進に関する調査」に基づいて作成された資料では以下の分類にスマートシティが展開されていることがわかっている。

・交通・モビリティ

・防災

・行政

・観光・地域活性化

・健康・医療

・農林水産業

・環境・エネルギー

・セキュリティ・見守り

・都市計画

・物流

・教育・文化

(※5)

上記の分類をみても、スマートシティが設計されるに当たって私たちの日常生活にあらゆる変化が生じることがわかるだろう。例えば、スマートシティの取り組みの1つであるオンデマンドバス・ タクシーの事例で考えてみよう。過疎化により公共交通機関の維持が困難という課題に対して提案されるオンデマンドバス・ タクシーの事例においては、人々の移動の形態が変化することになる。

オンデマンド交通とは、「利用者の予約状況に応じて運行の有無、ダイヤ、経路を柔軟に設定できるため、路線バスのように一度に多くの利用者を運ぶ効率性とタクシーのように利用者の移動ニーズにきめ細かく対応できる利便性」を備えた公共交通サービスのことである。(※6)

この制度がうまく機能すれば、数時間に1本のバスを待ったり、タクシー費用を頻繁に捻出したりといった生活が変化していくだろう。

他には、災害情報をリアルタイムに提供する仕組みの構築といった事例で考えてみたときには、河川の氾濫の危険性といった情報を現場に出向いて確認する必要がなくなり、かつそこに居住する人々の間での情報共有が可能になる。この仕組みもうまく実装することができれば、地域の高齢者が事故に巻き込まれる可能性も格段に低くなる。

スマートシティはあらゆる分野で取り組みが進められており、それらによって今まで感じていた不便が解消したり、危険と隣り合わせだったリスクが軽減されたりといった変化が生じる。スマートシティの設計により、私たちの生活はつまずきの少ない、より滑らかなものになっていくとも言えるだろう。

※5 出典:内閣府「地域課題を解決するためのスマートシティサービス事例集」
https://www 8.cao.go.jp/cstp/stmain/pdf/r4_sc_besshi5_4.pdf
※6 出典:日経BP「オンデマンド交通サービス」
https://project.nikkeibp.co.jp/jpgciof/atcl/19/00003/00014/

▼KDDIと日産によるデマンド交通の取り組みは以下をチェック

スマートシティの主要な構成要素

スマートシティは、いくつかの要素によって構成されている。ここでは、それらのなかから主要なものを紹介する。

・スマートインフラストラクチャー

スマートインフラストラクチャー(スマートインフラ)とは「通信機能やセンサー機能により、従来のインフラと比べ、情報収集能力・情報処理能力が高く、より効率的に公共サービスを提供できるインフラ又はインフラの一部機能のこと」(※7)である。ICTの技術とインフラの技術を組み合わせたものであり、従来のインフラよりも社会のニーズや現状に合わせた効率的な運用ができるものである。

・スマートエネルギーマネジメントシステム

スマートエネルギーマネジメントシステムはEMSとも言われ、脱炭素社会とも関連が深い用語である。内閣府の資料によれば、「『エネルギー消費の効率的利用・低減』、『電力需給の安定化』を図るのがエネルギーマネジメントシステム(EMS)。地域におけるエネルギーの変換・貯蔵(水素、合成燃料を含む)及び利用に係る技術の更なる効率化・高度化、データ活用に加え、電力利用だけでなく熱利用を含む需給調整を可能とするスマートエネルギーマネジメントシステムを構築」(※8)することが目標とされている。脱炭素社会に向けて、エネルギーをICT技術を駆使しながら管理し、運用していくといった概念である。

・スマートトランスポーテーション

別名「スマート交通」とも言われるこの概念は、「世界の多くの都市が抱える大気汚染、騒音や振動、交通弱者の保護などのさまざまな課題に対して、都市を構成する不可欠なインフラである交通システムのスマート化を目指すもの」(※9)である。テクノロジーを利用して都市の利便性を高め、効率化するスマートシティにとって重要な概念だ。

・スマートデータ

スマートデータとは「政府、産業界、市民が効率的かつ効果的にインテリジェンス、計画、制御、意思決定に利用できる“価値あるデータ”を生成するために処理された IoT データのこと」(※10)である。スマートデータを利用することで、人々のニーズや社会の状況を判断することができ、スマートシティを設計する際に必要になってくるデータと言えるだろう。

※7 引用:大和総研「注目されるスマートインフラ ~もう一つの『スマート』市場~」https://www.dir.co.jp/report/column/101129.html
※8 引用:戦略的イノベーション創造プログラム「次期SIP課題候補『スマートエネルギーマネジメントシステムの構築』」
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/220915/siryo2.pdf
※9 引用:新電力ネット「スマート交通(スマートモビリティ) (Smart transportation (smart mobility))」
https://pps-net.org/glossary/106853
※10 引用:是津 耕司「4 スマートデータ利活用基盤技術 4-1 スマートデータ利活用基盤技術の概要」
https://www.nict.go.jp/publication/shuppan/kihou-journal/houkoku68-2_HTML/2022U-04-01.pdf

スマートシティの技術的基盤

スマートシティの設計には、技術的基盤の下支えが必須である。では、それらの技術はどのようにスマートシティと連携しているのだろうか。

IoT(モノのインターネット)

IoTとは、「​​さまざまなモノをインターネットに接続し、相互に情報をやり取りすることで自動的に制御や処理を行う仕組み」(※11)である。スマートフォンやカメラ、レコーダーをインターネットに接続することで、遠隔からそれらを操作・監視・制御したり、あるいは位置情報を得たりといったようにIoTを利用することにより距離に関係なくさまざまな情報を得て、管理することができる。IoTを利用すれば現代社会が抱える課題である「担い手不足」に対応できるとともに、効率性を高めることもできスマートシティ設計に重要な役割を果たすと言える。

※11 出典:NTT東日本「【完全版】スマートシティ構想とは?定義やICT・IoTについても分かりやすく解説」
https://business.ntt-east.co.jp/bizdrive/column/bizdrive_smartcity_plan.html

ビッグデータとAI(人工知能)

ビッグデータとは文字通り膨大な量のデータをさす。AI(人工知能)の登場により、収集データの正確さと活用方法の多様さは進化し続けている。

交通では、事故が発生しやすいポイントを発見したり、医療のビッグデータから健康状態の傾向を読み取ったりすることも可能であろう。これらを活用することにより、スマートシティでは人々の行動予測やニーズに合わせた制度の提供が可能になる。

スマートシティの成功事例

次に国内外のスマートシティの成功事例について見ていく。スマートシティの実現のためには、各地域の特色にあった取り組みが必要であり、各地域ごとに特有の課題やニーズに対応しながらスマートシティが実践されている。

国内のスマートシティの先進事例

まず、国内の先進事例として挙げられるのが千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」である。(※12)

 

1.環境共生:人と地球にやさしく災害にも強い街

2.健康長寿:すべての世代が健やかに安心して暮らせる街

3.新産業創造:日本の新しい活力となる成長を育む

(※13)

これらの3つを目標に掲げ、「共創」をキーワードにしたスマートシティが推進されている。(※13)また、柏の葉駅を中心にスマート・コンパクトシティの推進も行われていて、駅周辺に集まるデータを収集し、それをまちづくりに活かすという形だ。駅から2km圏内に大学、病院、公園などの拠点となる施設が集結しておりあらゆる世代の人々が暮らしやすいまちの設計が進められている。(※14)

※12 出典:柏の葉イノベーションフェア「柏の葉スマートシティ(short)」
https://www.youtube.com/watch?v=nLLPBRPcF4w
※13 引用・参考:UDCKTM「KASHIWA-NO-HA SMART CITY」
https://www.kashiwanoha-smartcity.com/
※14 参考:柏市「柏の葉スマートシティ実行計画」
https://www.city.kashiwa.lg.jp/documents/28444/actionplan2019.pdf

▼「コンパクトシティ」については以下の記事をチェック

海外のスマートシティ先行事例

海外では、アメリカ、カナダ、イギリスなど各国において先進的なスマートシティの取り組みがなされている。ここでは、コペンハーゲン(デンマーク)の事例について紹介する。

コペンハーゲンは、2025年までにカーボン・ニュートラルを達成するというビジョンを掲げている。このビジョンを達成するために重点的に取り組んでいるのが、エネルギー、エネルギー消費、モビリティー、行政の効率化の4つだ。これらの目標達成のためにビッグデータ、スマートシティ、インテリジェント照明・光工学、そしてIoTの分野における取り組みがコペンハーゲンの首都圏全体で行われている。(※15)

コペンハーゲンでは、公共部門の2,000以上のサービスにアクセスできるポータルサイトの立ち上げや、ビッグデータを活用した豊富な医療や遺伝情報へのアクセスといったように(※16)、医療、移動、交通、環境といったあらゆる面においてICT技術が活用され、先進的なスマートシティ事例として存在感を放っている。

※15 参考:Copenhagen Capacity「コペンハーゲン首都圏のICT」
https://jp.copcap.com/set-up-a-business/key-sectors/information-and-communication-technology

※16 参考:大阪市副首都推進局「海外の成長都市の政策展開とその体制(コペンハーゲン)」https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/41196/00423055/05_06_siryo6.pdf

スマートシティの実現のためのステップ

それでは、スマートシティを実現するためには、どのようなステップを踏む必要があるのだろうか。

国土交通省の資料においては以下の記述がなされている。

イノベーションの進展による経済社会構造の大きな変革が世界的潮流として進行する中、都市行政において新技術をどのように取り込み、都市の課題解決に向けて、より高度で持続可能な都市を実現するために、何が必要かを検討し、社会実装に向けた動きを進める必要

(※17)

スマートシティにおいては、交通、環境、エネルギー、福祉といったあらゆる観点からのアプローチが考えられる。各省庁や民間企業が進めているプロジェクトや各自の技術を横断的に利用していくことが重要になってくるだろう。分野ごとの垣根を超えて知見を共有していくことも必要だ。

スマートシティが実現すれば、生活者および管理者の視点どちらにおいてもメリットが存在する。

生活者

スマートシティが実現した社会では、生活者は、物理的な距離や時間的な制約から解き放たれ、削減・短縮された余剰の時間を本当に時間を使いたい活動や、付加価値の高い活動(様々なヒト・モノ・コトに出会うための経験的な活動等)に対し、より多くの時間を注入できるようになる

(※17)

管理者

スマートシティが実現した社会では、行政をはじめとする都市の管理者・運営者は、計画、整備、管理・運営等の面で従来の都市管理、経営手法とは大きく異なるプロセスが実現できる可能性がある

(※17)

多くのステークホルダーの生活を効率化・利便化させるスマートシティ実現のために、国内外のスマートシティの先進事例を参考にしながらも地域の課題に焦点を当てた対策を行うことも要求されていくだろう。

※17 引用:国土交通省「スマートシティの実現に向けて 【中間とりまとめ】」https://www.mlit.go.jp/common/001249775.pdf

まとめ

スマートシティの実現は、私たちの生活をより豊かに、便利にしてくれるだろう。一方で、人びとの管理社会への不安感や生活が技術によって効率化・利便化されることによる副作用が存在することも事実だ。作り手はそれらの解決策や不安を解消できる情報を提示していくことで、市民と一体となって理想の社会を作り上げていく必要があるだろう。

 

文:小野里 涼
編集:吉岡 葵