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ギグワーカーとは?その意味や特徴、具体的な事例を徹底解説!

ギグワーカーとは

ギグワーカーの定義

ギグワーカーとは、単発かつ短時間の仕事を請け負う労働者のことを指す。その多くは、特定の企業に属さない個人事業主だが、会社に雇用されながら副業として取り組む労働者も存在する。

「ギグ」という言葉は、ミュージシャン同士が行うその場限りの演奏を意味する音楽業界の俗語として生まれ、その後「単発の」とも訳されるギグに、労働者を意味するワーカーが付き「ギグワーカー」という言葉へと発展した。

ギグエコノミーの台頭

単発もしくは短期の仕事を請け負う働き方や、ギグワークによって成り立つ経済圏を「ギグエコノミー」と呼び、2010年代のアメリカにおいてインターネットを中心に誕生した。ギグエコノミー拡大の背景には、インターネットで簡単に仕事を請け負えるプラットフォームの増加やアプリプラットフォーム提供企業の台頭が大きく影響している。国際労働機関(ILO)の分析によると、 2021年時点で、世界に少なくとも800近い仲介プラットフォームがあり、年換算でおよそ5兆円規模の仕事がやりとりされている。(※1)

ギグエコノミーが注目されている背景には、自由な働き方の定着に加えて、人材不足の課題がある。深刻化する人材不足への対策の1つとして、人件費の削減や業務の効率化に取り組む企業が増える中、コア業務に人的リソースを集中させるため、専門性を必要としない仕事を外部へ委託する流れが生まれており、こうしたニーズの高まりを背景にギグ・エコノミーが発展を遂げている。

※1 参照:国際労働機関(ILO)「The role of digital labour platforms in transforming the world of work」
https://www.ilo.org/global/research/global-reports/weso/2021/WCMS_771749/lang--en/index.htm

ギグワーカーの特徴

ギグエコノミーの発達とともに、新しい働き方として注目されているギグワーク。本章では、ギグワーカーの特徴を解説する。

柔軟性と自由度

ギグワーカーは単発依頼が多いことから、仕事量や勤務時間、勤務場所を自分の意思で決め、自由な働き方ができる。ゆえに、特定の企業との継続的な取引が多いフリーランスよりもギグワーカーの方が働き方の自由度が高いと言える。

また、フリーランスの仕事には、プログラミングやデザイナーのように高いスキルや専門的な知識が求められる傾向にあるが、ギグワークは専門的なスキルを必要としないことが多いため、仕事の選択肢も幅広い。短期間で完了する簡単な仕事が多い傾向にあるのが、ギグワークの特徴だ。

独立契約者としての働き方

ギグワーカーは特定の企業との間に雇用契約を結ばないため、労働者自身の裁量で自由に時間とスキルを切り売りすることができる。この点でギグワーカーは、おもに学業を本業とする学生や生活の目的を別に持つ労働者が、正社員のサポート的役割として直接企業と雇用契約を結んで働くアルバイトとも異なる。

出来高制

数分から1日以内で完了する単発での契約が多いギグワークの多くは、1件ごとに報酬が支払われる完全出来高制だ。日雇い労働者は1日単位の契約で雇われるのに対して、ギグワーカーは数分から数時間など、さらに短い期間で単発の仕事を請け負うことができる点が特徴と言える。

ギグワークの種類

ギグワーカーの仕事は、業務の契約から納品までデジタル(オンライン)で完結するものが主な一方で、フードデリバリーや家事代行など対面で人と会う仕事も存在する。仕事内容は「単発」「短時間」の条件を持った業務が中心で、配達代行、ポスティング、運転代行、家事代行などが含まれる。

ギグワークのメリットとデメリット

コロナ禍以降、リモートワークが浸透し自由なワークスタイルが普及しつつあるなか、ギグワークはより柔軟な働き方を実現する手段となるのだろうか。以下の章では、ギグワークのメリットとデメリットについて解説する。

メリット

自分の都合に合わせて仕事を選べる

ギグワーカーは、正規労働者と違い、働く時間や場所、仕事量、仕事内容などを自由に選ぶことができる。「今週は1週間フルで働いて次の1週間は休む」「今週は週末の午前中だけ働く」など、会社員では選択しにくい勤務スタイルも可能だ。

総務省が行なった「労働力調査 2023年(令和5年)」によると、「自分の都合のいい時間に働きたいから」という理由で非正規雇用の職に就いた人数が712万人となっており、前年と比べて32万人増加したことがわかった。(※2)

また、企業に雇用されているときのように、与えられた業務だけではなく、興味関心や経験、スキルに合わせてさまざまな仕事に自分の意思で自由に挑戦できることもメリットとして挙げられる。

※2 参照: 総務省「労働力調査(詳細集計)2023 年(令和5年)平均結果」https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/youyaku.pdf

人間関係のストレスがない

仕事を単発で請け負うギグワーカーは人間関係によるストレスを最小限に抑えて働くことができる。会社員のように、特定の組織に属して自分以外の人と働く場合、人間関係のストレスは避けられず、毎日ストレスフルな環境が続けば、心身を壊す恐れもある。その点ギグワーカーは、仕事を始めるのも辞めるのも自分のタイミングで行えるため、ゆったりとした気持ちで働くことができる。

仕事量に比例して収入も増える

ギグワークの仕事は出来高制のため、自分がこなした仕事の分だけ収入を増やすことができる。企業に属していると、毎月の給料は固定の場合が多いが、ギグワークなら特定の期間にお金が一気に必要になった時はその都合に合わせて収入増を図ることもできるため、融通が利きやすいとも言える。

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デメリット

仕事獲得の不安定さ

ギグワーカーの仕事は、毎回の受注が確約されているわけではなく、初めから長期的な受注が見込めるわけではないため、収入が不安定になりやすい。もし特定の企業に雇用されていれば、一定期間は収入が担保されており将来への見通しも立てやすいが、ギグワーカーの場合は毎回良いタイミングで希望の仕事が見つかるとは限らないため、仕事ができない、あるいはしていない期間は必然的に収入が途絶えてしまう。

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トラブル時における責任負担

ギグワーカーは、基本的に仕事に関わる保障をすべて自分で請け負う必要がある。企業と雇用契約を結んでいる働き方と異なり、労災のように事故によるケガや病気に対する補償がされない場合が多く、何かあった場合の責任を自ら取らなければならない。たとえば、病気やけがで働けなくなっても休業補償を受けられず、業務中のけがでも治療に係る費用は基本的に全額自己負担になってしまう。加えて、通勤手当や有給休暇などの福利厚生も受けられない上に、最低賃金の保障や解雇規制もなく万が一職を失ったとしても、失業保険は受け取ることができない。

一方、近年は「雇用型ギグワーク」と呼ばれ、単発の仕事にマッチングする度にその都度雇用契約を結び、通常の長期雇用アルバイトと同じように労災や最低賃金などの保障がある形態もある。(※3)

※3 参考:PR TIMES「【中央大学とギグワーク・副業についての実態調査を実施】副業開始のハードルを「プライベート時間の確保」とした人が約4割」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000113.000036375.html

社会とのつながりが希薄になりやすい

ギグワークは、受発注から打ち合わせ、作業、納品といった工程を全て1人で完結できてしまう場合が多いため、ギグワーカーは仕事を通じた社会とのつながりが希薄になりやすい側面がある。

また、ギグワーカーはさまざまな働き方ができる一方で、複数の肩書を持つことにより自分の本職がわからなくなりアイデンティティを見失いやすくなったり、どの組織にも所属していないことで社会への帰属意識が低下してしまったりするリスクを抱えていると言える。

ギグエコノミーの社会経済的影響

近年急速に成長しているギグエコノミー。次章では、その誕生と発展に伴う社会の変化や影響について解説する。

人材の有効活用

規模の小さい企業では、人材育成に時間を割いたり、短期間で働くスタッフを大量雇用したりする余裕がないことから、ギグワーカーはスポットで活用できる人材として浸透している。企業にとっては、単発業務に対してスポットで人材を確保することで、将来的な労働力不足を解消し、雇用の手間を削減できるメリットがある。

ツナグ働き方研究所が発表した2023年12月の「スポットワークマーケットデータレポート」によると、ギグワーク市場における23年12月の新規ワーク数は112,492件を記録し、同年6月から7か月連続で前年同月比プラスを維持しており、ギグワーク需要の高さが伺える。(※4)

ギグワークのプラットフォームは、労働の需要と供給のマッチングを効率的に行うことで、地方と都市の人材格差を埋める一定の役割も果たしつつあり、地方の労働力不足を都市部の労働人口で賄うことに貢献していると言える。(※5)

※4 参照:ツナグ働き方研究所「スポットワークマーケットデータレポート(2023年12月度版)」
https://tsuna-ken.com/research_report/202312_spotwork-12/
※5 参考:公益社団法人日本経済研究センター「コロナ禍でも拡大続くギグワーク市場」https://www.jcer.or.jp/jcer_download_log.php?f=eyJwb3N0X2lkIjo4MTU1MywiZmlsZV9wb3N0X2lkIjo4MTU2NX0=&post_id=81553&file_post_id=81565

長時間労働への対応

ギグワークを行う人の中には、収入維持のために長時間労働を余儀なくされている人が増えている。ギグワーカーという働き方については、国としての明確な定義はまだ無く、実態の把握や保護が追いついていないため、労働者を守るための対応策の検討が急がれる。

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ギグワークプラットフォームの成功事例

ギグワークは、主にインターネットプラットフォームを仲介して仕事の受注や納品が行われる。本章では、ギグエコノミーを牽引する代表的なプラットフォームを紹介する。

UberEATS

ギグワーカーのプラットフォームとして特に有名なのが、自社では宅配を行っていない飲食店でも配達パートナーを介して注文者に届けられるサービスを提供しているUberEATS(以下、ウーバーイーツ)だ。国内を含め、今や世界中でサービスを展開している。

ウーバーイーツは、注文完了後に発注者と配達者が互いを評価する制度を導入していたり、ドライバーがケガをした場合などには見舞金を出す傷害補償制度を設けていたりと、安心安全なサービスの提供を目指している。

Timee

株式会社タイミーは、労働者が働きたい時間と、企業が働いてほしい時間をマッチングさせるプラットフォームを提供している。

タイミー側が、企業が望む条件に合った労働者を自動でマッチングさせるため、企業側の担当者は細かい人材選定や面接設定などを行う必要がなく効率よくギグワーカーを採用することができる。過去に働いた実績が見える評価制度や、突然のキャンセルを防止するためのペナルティ制度もあり、企業側が安心して利用できるサービスと言える。

働き方の多様化

ネットの発達により、テレワークやノマドワークといった多彩な働き方が生まれ、世界中のどこからでも仕事ができるようになった。ギグワークが普及することで、今後より一層「いつでも・どこでも」働けるライフスタイルが定着・一般的になると考えられる。

まとめ

国内では2019年4月に働き方改革関連法が施行されてから、副業・兼業解禁の流れが活発化している。ランサーズ株式会社が2021年に発表した、フリーランス・副業・複業ワーカーの実態を調査した『フリーランス実態調査 2021』によると、広義のフリーランス人口は全ての労働人口の24%を占める1,670万人であることがわかった。(※7)

ギグワーカーは、その働き方の新しさゆえに、制度設計などに未だ課題を残している。リスク管理の問題などを含め、労働者の権利や立場を守るための制度は、今後も引き続き検討される必要があるだろう。

※7 参照:ランサーズ株式会社「『フリーランス実態調査 2021』を発表」
https://www.lancers.co.jp/news/pr/20569/

 

取材・文:柴崎真直
編集:吉岡葵