近年、コーチングやマインドフルネス、瞑想など、自分の内面に向き合うことへの関心が高まっていると感じる。コロナ禍を経て働き方やキャリアについて考える機会が増えたからか、周りにも実践している人も多い。一方で、コーチングや瞑想の実態が分からず「うさんくさい」「本当に効果があるの?」と感じている人も多いのではないだろうか。筆者も、興味はあるが懐疑的に感じていた1人であった。
そこで、筆者と同じように感じていたあしたメディア編集部員が実際にコーチングと瞑想を体験し、どういった変化や効果があったかを検証した。さらに、コーチングと瞑想を担当いただいたプロコーチの時田真奈さんにもお話を伺った。
今回の後編では、瞑想に関する内容をご紹介する。
▼前編のコーチング編はこちら
ビジネスパーソンの注目を集める瞑想・マインドフルネス
マインドフルネスや瞑想はビジネスパーソンにとって必要なものとして、グーグルやヤフーといったIT大手企業が社内研修に導入し、注目され始めている。関心の高さはマインドフルネス瞑想アプリ市場が拡大し続けていることからも読み取れる。Technavioが2024年7月に公開した調査によると、市場の成長率は2028年まで年平均47.4%という驚異的な水準が見込まれているという。
科学的な効果も認められており、アメリカ国立補完統合衛生センターはマインドフルネスに基づいた瞑想の実践がメンタルヘルスの改善や睡眠の質の向上に有用な可能性があると示唆している(※1)。
※1 参照:厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』日本語訳「瞑想とマインドフルネスについて知っておくべき8つのこと」
https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/communication/c03/34.html
マインドフルネスと瞑想、いったい何が違うのか?
マインドフルネスとは、自分がいまやっていることや、いまここで起こっていることに完全に集中している状態を指す。
(※2)
言い換えるのであれば、マインドフルネスは過去や未来のことを考えるのではなく、現在に対し、完全に意識が向いている状態のことを指す。
一方の瞑想とは、自分の内側に意識を向けている状態だ。マインドフルネスが五感を駆使し、現在に意識を向けることであることに対し、瞑想は、外界の情報が自分の体内に流れこまないように身体機能を一時的にシャットダウンさせて、自分の感情や思考を観察することを指す。
※2 引用:二―マル・ラージ・ギャワリ著 『心が整うマインドフルネス入門:エグゼクティブが実践する二―マルメソッド』(2023年、小学館)
瞑想を体験してみた
今回体験した瞑想セッションは、ヒマラヤ地域から約5000年続く教えをブラッシュアップさせたメソッドに基づくものである。最大の特徴は、瞑想の前の準備にじっくり時間を使って、心と体を整えてから、瞑想に入る点である。
瞑想体験の当日の流れは下記の①~④の通りである。動きやすい服装に着替え、都内のレンタルスペースで実施した。
①ソーハム呼吸法の実践(10分)
②ストレッチ(10分)
③片鼻呼吸法の実践(10分)
④瞑想(20分)
①のソーハム呼吸法については、胡坐の姿勢を維持し、目を瞑りながら「ソー」と唱える声に合わせて肺いっぱいに息を吸い込み、「ハム」と唱える声に合わせてゆっくりと息を吐く。このときに、呼吸に意識を集中させる。
このパートでは、筆者はゆっくり呼吸を行うことが、案外体にとって負荷であることを認識した。思ったより腹筋への刺激があり、お腹にぐっと力を込めないと、最後まで息を吐きだしきれない。講師のカウントに呼吸を合わせるのに苦労した。
②のストレッチについては、体全体を伸ばしながら、緊張を解いていく。このときに自分の体がどんな状態なのか観察する気持ちで呼吸も意識する。体を少しずつねじったり、動きを止めたり、全身運動を行う。
体を常時動かすことのできる、このパートが個人的に最もリラックスできた瞬間だった。
③の片鼻呼吸については、胡坐の姿勢を維持し、目を瞑りながら左右の鼻腔を交互に使って呼吸を行う。新鮮な空気を多く取り込むことで、左脳と右脳のバランスが整い、頭がリフレッシュするという。
このパートで筆者は体への拘束感と負荷が思ったよりも強く、瞑想への抵抗感が生まれた。片鼻呼吸をしても頭のスッキリ感はなく、股関節の痛みにより、姿勢を崩したかった。
④の瞑想については、何も考えずに、自分の内側にだけ意識を向けて、脳を休ませる。雑念がわいたら、雑念に向いてしまった意識を、再び自分の内側へ戻し、心に静けさを取り戻す......という流れで行う。
このパートでは、筆者は雑念が多くわいてしまい、意識が脳内にある、「悩み」や「不安」を行ったり来たりして、20分間の瞑想が長く感じた。
瞑想体験者の座談会
瞑想セッション後に、瞑想を体験した4名のあしたメディア編集部員で、実際に体験してみてどうだったかを話した。
以下は、瞑想を体験した4名のプロフィールである。(編集部体験記 No.3 コーチング体験と同様のメンバー)
瞑想を受ける前の印象
A:期待していることはなく、話題になっているからとりあえず試してみたいと思ってやってみました。
B:集中力を高めるなどの観点で、流行っているイメージがあったので、何をやっているのか知りたいという興味がありました。
C:何をするのかわからないから胡散臭いと思っていました。座禅を体験したことがあり、座禅との差はどこにあるのか知れたらいいなという興味もありました。
D:高尚なイメージがあった。学生時代に「禅僧が長年、瞑想を続けて悟りを得る」と学んだことがあったので、一般人が瞑想することに対して懐疑的でした。
瞑想を受けた感想
A:「自分はなぜこんなことをやっているんだろう」と我に返ってしまう瞬間があり、うまく没入できないことが苦しかったです。コーチングでは話すことで心が安らかになったが、瞑想中は話せないから雑念が渦巻いてしまった。
B:受けて良かったです。深い呼吸を継続したことで、終わってから頭の中がスッキリした感覚がありました。睡眠不足による頭のだるさが解消されたのかもしれないです。受けてみて、そもそもどういった効果やメリットがあるのかが気になりました。
C:苦しい時間だった。胡坐を組んだ状態を維持するのが心身ともに苦痛だった。もともとじっとしているのが苦手で、さらに体も硬いので股関節が痛かった。いまの自分にとって必要性は感じなかった。
D:スッキリした気持ちになったけど、半分寝ていたかもしれない(笑)。雑念もなく、ふわふわとした感覚だった。コーチングと同じ方が講師だったので、どういう相乗効果があるのか気になった。
瞑想を受けてみて気づいたこと
A:もともとマッサージや整体を受けるのが好きで、瞑想でうまく没入できているときの感覚と似ていると思いました。体が楽になることに加えて、自分の体に意識を向けてマインドフルネスを感じられる点も気に入っているのかも。
B:瞑想の解像度が上がりました。たとえば、動きやすい服装であれば指定がなく、カジュアルに参加できることなど、瞑想についていろいろと知ることができました。また講師の方が「雑念が湧いてしまっても、雑念で瞑想から意識が逸れていることに気づいて、瞑想に集中することが大事」とおっしゃったことで、「雑念が湧いちゃいけない」という意識がなくなり、肩の力を抜いた状態で瞑想に取り組むことができました。
C:自分が思っている以上に集中力がないこと。小さい頃から落ち着きがないと言われていたことを思い出しました。
D:何も考えないことに戸惑ったけど、何も考えない時間が改めて大切だということに気づきました。深呼吸を大切にすることをブランドコンセプトとした入浴剤の企業と仕事で関わったことをきっかけに、深く呼吸をすることの大切さも改めて実感しました。
雑念について
A:集中力が切れてきたら、昔行ったことのある景色が綺麗な水辺を思い浮かべていました。
B:「体が硬いな」や「片鼻呼吸が難しい」「いま何分くらいだろう」ということは考えていました。
C:目を開けたい。体を動かしたい。自分のリズムで呼吸したい。そういえば映画を見るときも体を頻繁に動かしているな。我慢している感じがサウナと似ているな。
D:ひたすら無心になろうとしていました。
また瞑想を受けたいかどうか
A:日々の習慣にしてみたいと思いました。スマホから離れて頭を休める時間を意識的に作ってみたい。さきほどコメントしたように、もしかすると自分はマッサージ中に瞑想するのが向いているかも(笑)。
B:金額によっては受けてみたいです。多忙でなかなか落ち着く暇がない時期で、体験費用が3,000円ほどであれば、受けることを検討します。ただ、知らない人と一緒に受けることには抵抗感がありますね。
C:わたしはもう受けたくないです(笑)。とにかく体が痛いのと、目を閉じて長時間じっとしているのが自分の性格的にも耐えられない。自分にとってはストレスを感じる体験でした。
D:忙しくて余裕がなければありかもしれません。呼吸法は少し異国感もあったので、旅行気分も味わえるかもしれない。
プロにきいた、「マインドフルネス」ってどういう状態?
今回、コーチングと同様にセッションを担当いただいた、時田真奈さんにお話を聞いた。インタビューを実施した筆者(座談会のC)は、正直なところ瞑想にプラスの効果を感じることができなかった。取材では、そんな率直な感想も込めて質問をぶつけさせてもらった。
▼セッションを担当した時田真奈さんについて
「マインドフルネス」とは具体的にどういう状態を指しているのかを教えてください。
いまその瞬間に五感を研ぎ澄ませることです。例えば、顔を洗うときに、冷たい水を手ですくって、その水の冷たさや、肌に触った質感を手の触覚から感じ取れている状態がマインドフルネスな状態です。顔を洗うという行為にすべての意識を集中することですね。
それによって得られるメリットや体への変化があれば伺いたいです。
わたしの場合だと、脳の疲労が圧倒的に減りましたね。同時にいろんなことを考えてしまうことで、脳のキャパシティがいっぱいになって、無意識に疲労を感じていたのが、なくなりました。
その結果として、睡眠の質が向上して、朝まで熟睡できるようになりました。寝ている間も脳は起きていて、寝ても疲れが取れなかったのですが、瞑想を始めて解消されました。
今回はコーチングと瞑想をセットで受講しましたが、この2つに相乗効果はあるのでしょうか。
相関性の有無については回答が難しいですが、わたしは両方大事だと思って取り組んでいます。
コーチングで気づきを得て、環境や自分を変えるアクションをする際に、どうしても不安や焦りに苛まれる瞬間があると思います。瞑想を行うことで、そのような感情や雑念を手放し、穏やかな精神状態が維持できると思います。
雑念は本当になくさないといけないの?
なぜ瞑想では雑念が不要とされているのでしょうか。
人間は雑念を感じるものなので、雑念を完全に排除しないといけないとは思っていません。雑念に囚われていることに気づくことが大事です。
いま自分が何かに執着していることに気づくことで、その執着が自分の理想の状態に必要か不要かを判断してほしい。気づかないとその執着から脱することが難しいです。
何が必要かは人によってそれぞれですが、瞑想をすることで、いまその瞬間に意識を向けて、その状態や感覚を味わうことができるので、未来のことや、昨日の失敗について思考することは、いまじゃなくていいなとわたしは思っています。
ありがとうございます。瞑想中に雑念も湧きましたが、わたしは体を動かさずにじっとしていることもストレスでした。体を動かしながら瞑想をすることは可能でしょうか。
自然の中で歩きながら瞑想をすることはありますね。緑を見ながら自分の感覚に集中する行為はやりやすいと思います。それから筋肉の動かし方に意識を向けるピラティスも動く瞑想と言われています。
瞑想に対して苦手意識がある方も多いと思うので、何か選択肢があることは良いニュースだと思いました。
瞑想は「脳みそフル回転」の人におすすめ
時田さんはどんな人に瞑想を勧めたいですか?
四六時中脳みそをフル回転させてる方は瞑想をすることで、心の静けさを感じられるんじゃないかなと。忙しいビジネスマンほど効果を感じやすいと思います。
私は「忙しいビジネスマン」に該当していますが、1回では瞑想のメリットや、必要性があまり理解できませんでした。
わたしは瞑想を続けている人間なので、続けてない方にメリットを説明するのが難しいなとは思っていますが、やっぱり瞑想をすることで、1日穏やかでいられるのは大きいです。
時田さんがいま振り返ってみて、初めて瞑想を体験したときに、効果を体感できた部分があれば教えてください。
終わったときの心の穏やかさと脳のすっきりした感覚が心地良かったです。考えすぎて常に脳がパンパンに詰まってる感覚からスッキリした感覚で、仮眠を取った後の感覚に似ていますね。
SNSの登場と瞑想
歩きスマホや「ながら聞き」「ながら食べ」のように、現代人はマインドフルネスから遠ざかっていると感じます。その理由はなぜだと思いますか。
世の中が効率よく、最速で結果を出すことを求めていることが大きいのかなと思っています。世間の要求に応えるために、現代人は限られた時間で、自分のキャパシティを最大化させようとしています。
それは順応しようとしていて素晴らしい姿勢ではありますが、本来人間の生態はそうはなっていないと思います。ストレス過多で心を病む方もいますし、現代人にも限界が近づいているのかもしれません。
メンタルヘルスが心配なのは社会人だけではなさそうですね。
そうですね。学生もこういった世間の要求に応えようとインターンに参加したり、奨学金返済のために深夜までバイトをしたりと忙しくなっていますよね。なので年代を問わず、いかにメンタルバランスを取るかが大事ですね。
いまの時代だからこそ瞑想やマインドフルネスが必要な理由はどこにあると思いますか。
いろいろな情報にのまれた状態を解消して、本来の自分を取り戻すためですね。
現代人は触れる情報量が多すぎると感じています。能動的に情報を取りに行かなくても、次々に情報が流れこんでくるような感覚があって、街を歩けば広告があり、スマホを開けばいろんな情報が入ってきますよね。情報の波にのまれている状態をリセットする必要があると思っています。
1回の体験では、瞑想はしっくりこなかったのですが、あふれる情報をシャットダウンすることはすごく大事だと感じました。どうもありがとうございました。
おわりに
Podcastを聴きながら家事をする、YouTubeを見ながらご飯を食べる、LINEの返信を入力しながら歩くなど、インターネットにアクセスしながら、他の作業を同時に行うことは誰しも経験があることだろう。しかし、インターネットに接続している状態が日常的になると、脳と心が疲弊してしまう可能性がある。
AIの進化により、いままで以上に効率を重視する時代に突入し、世の中は「最速で結果を出す」ことをより強く求めるだろう。そうしたストレスから心を守るためにも、自身の内側と向き合う時間を作る必要がある。情報過多の時代では、情報を遮らなければ、自身の本当の悩みや理想の姿は見えてこないだろう。コーチングや瞑想はあくまでも一例として、自分の価値観や環境に適した手段を見つけてほしい。
※本記事に記載された見解は各ライター・体験者の見解であり、BIGLOBEまたはその関連会社、「あしたメディア」の見解ではありません。
取材・文:安井一輝
編集:中山明子
最新記事のお知らせは公式SNS(Instagram)でも配信しています。
こちらもぜひチェックしてください!