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いま、国分寺で選挙が熱い。仕掛け人「国分寺の投票率を1位にプロジェクト」とは?

あなたにとって、選挙の日はどんな日だろうか。

ただ投票に出かけるだけの日?それとも、考え抜いた1票を投じる重要な日?選挙に興味がないから、いつもと変わらない日と言う人もいるかもしれない。

東京・国分寺市には「選挙って本当に楽しいんですよ!」と熱く語るひとりの若者がいる。「国分寺の投票率を1位にプロジェクト」発起人の鈴木弘樹さんだ。2021年6月から、東京都国分寺市の投票率を全国1位にすることを掲げ、「選挙はお祭り、楽しもう!」を合言葉に活動している。市民発の本プロジェクトでは、候補者の情報発信や、選挙の仕組みを模擬体験できる「まちなか野菜選挙」、投票日当日に立ち寄れるイベント「選挙マルシェ」を開催するなど、まさに選挙を盛り上げ「お祭り」にする活動を続けている。

そんな鈴木さんたちの活動を通じて、じわじわと国分寺市の選挙が盛り上がってきているらしい。一体どんな取組みなのだろうか?
2023年4月に実施された市議会議員選挙を終えて感じていることを含めて、発起人の鈴木弘樹さんにお話を伺った。

国分寺の投票率を1位にプロジェクト 発起人 鈴木 弘樹さん/photo by 地域と映像

国分寺の投票率を1位にプロジェクト

 

投票率が高いまちに住むことで、自然と政治に関心を持つのではないか

photo by 地域と映像

「国分寺の投票率を1位にプロジェクト」を始めたきっかけを教えてください。

僕が20歳だった2019年に参院選があり、インターンをしていた国分寺市内のカフェ「クルミドコーヒー」のスタッフが、政治について気軽に話す場を開催してくれました。

当時僕はそこまで政治に関心がなかったのですが、ふらっと参加してみたらすごく面白かったんです。みんなで選挙公報を見ながら話したり、誰に投票するかを紙に書いて見せ合ったりすることが新鮮で楽しくて、そこから先輩と一緒に市議会の傍聴を見に行きました。市議会では「あ、こんなに真面目にやっているんだ」と感動し、その後「投票率80%のまちを作るには?」を考える学びの場をクルミドコーヒーの取組みとして始めたんです。その結果生まれたのが、「国分寺の投票率1位にプロジェクト」でした。

「国分寺市の投票率を1位にする」というアプローチに至ったのは、どんな経緯だったのでしょうか?

「多くの人が政治に関心を持つこと」が最終的な狙いですが、そのためのアプローチって大抵は主権者教育することで投票に行く人が増える、という流れだと思います。僕らはそうではなく、「国分寺の投票率が上がることで、結果的に政治に関心が向くのではないか?」と考えています。投票率が上がると「あれ、国分寺盛り上がってるぞ?」と感じる市民が増え、そこから自分たちのまちのことを考えるようになり、結果的に政治に関心を持つ順番もあるのではないかなって。それがこのプロジェクトの仮説なんです。

そこに行き着くまでに対話の場を開催するなど色々な取組みもしましたが、そもそも「選挙が自分たちの身近にある」という雰囲気ができていることが大事だと感じています。選挙ってとても面白くて、「自分たちが暮らすまちを自分たちで作る」ことを考える良い入口だなと思うんです。

メンバーは、カフェの取組みに参加された方で構成しているのでしょうか?

そのメンバーも数名いますが、選挙を重ねるたびに色んな仲間が加わってくれました。今回(2023年4月の市議会議員選挙)は20〜30名の方が手伝ってくれました。年代も本当にバラバラで、20歳もいれば50代の方もいます。

こういうプロジェクトって、党派性や思想が似ているイメージがあると思うのですが、うちのプロジェクトは面白いことに本当にバラバラなんですよ。自民党員の人もいれば立憲民主党の議員インターンしている人もいますし、選択的夫婦別姓に賛成の人も反対の人もいます。考えに違いはあれど、みんなで一緒に活動しています。

それが成り立っているのは、目標を「投票率」に絞っていることが大きいと思います。政治・候補者と有権者の「間を繋ぐ」活動なので、問題を提示し議論をする場をつくることはあっても、特定の候補や政策を推すことはしていません。ただ、メンバーが個人として政策や候補者を応援することはあります。メンバーも選挙を重ねる度に学んでいき、選挙や政治への関わり方が変わっていくのも、自然な流れだと思っています。

近くて遠い「市政」の解像度を上げた、候補者データベース

photo by 地域と映像

国政と市政など、選挙の性質によってプロジェクトの内容も変わるのですか?

はい、変わります。毎回選挙の前には公開作戦会議を開催して、メンバーやまちに暮らす人と活動内容の方針を練っています。

国政選挙のときは距離が遠いことが課題だと感じる人が多かったので、「候補者を近くに感じてもらおう」と考え、候補者の人柄に特化したインタビューをしました。「人生で1番嬉しかったことは何ですか?」「自分のことをどういう性格だと思いますか?」みたいな(笑)。そうなるとちょっと、候補者を身近に感じられませんか?

一方で市政は、近い実感はあるけれど“実際やっていること”がわからないとの意見が多く上がりました。確かに国防といったテーマの方が、日々のニュースで目にする分、イメージがしやすいかもしれません。そのため、「その人が何をやっていきたいのか」という点に焦点を置いてインタビューをしました。

今回(2023年4月)の市議会議員選挙に際して作成されていた立候補者データベースのボリュームが、とても多くて驚きました。

ありがとうございます。候補者へのインタビューと、これまでの選挙公報や市議会の会議録をまとめたデータベースを作成しました。

インタビューについては「選挙公報やポスターと違い、情報が立体的になる」と言ってくださる市民の方がいました。またデータベースを作ったメンバーからは「市議会ってこんなに面白いんだ」という声があがっていました。市議会の一般質問って面白くて、「うちの市ってこんなにペットボトルのことを話し合っているんだ」とか「あそこに今度道路ができるんだ」とか、これまで知らなかったまちの課題が分かります。また、議員さんの話し方も反映されているので、「この人冗談よく入れるな」などの人柄も伝わるんですよ(笑)。端的に情報発信することも重要ですが、少し探せば情報がたくさんあって意外と面白いということを伝えたかったので、これも実行できてよかったですね。

今回の選挙では、1ヶ月でnoteの総PVが3万を超えました。多くの方に見ていただけた実感があり、嬉しく思っています。

2023年4月の国分寺市議会議員選挙立候補者データベース

今回の選挙で、鈴木さんが力を入れた取組みはありましたか?

初めて「20代が市議選に行く意義って何ですか?」というテーマで候補者にインタビューを行いました。僕もいま20代ですが、20代って市政が近いようで遠いなと思ったんです。子育ても介護もまだ先で、働いているオフィスは違う自治体にあって…。暮らすまちではあるけれど、「市政」と考えると身近にならない。そうなったときに市議会議員選挙って、何を基準に選べばいいんだろう?と感じてしまって。ずっと考えていたのですが、もう直接候補者に聞いちゃえ!と思ったんですよね。

 立候補者側が若者世代について考える機会にもなったのではないかなと思いました。

そうなんですよ。多くの方が「すごく難しい」と言いながら回答してくれました。意図したわけではなかったのですが、結果的に立候補者が20代のことを考えるきっかけになったのかなと感じています。

活動を通じて、選挙が「お祭り」のようになってきた

photo by 地域と映像

リアルで開催したイベントには、どんな方がいらっしゃいましたか?

いろんな方が来ましたよ。今回「選挙マルシェ」というイベントを投票日当日に開催しましたが、幅広い世代の方がごちゃまぜになって選挙について話す場になりました。
若い世代についていうと、アイスクリームを食べながらパネル展示を見ている大学生や高校生が結構いたのが印象的でした。「国分寺って投票率全国3位らしいよ(※1)」みたいな会話をしていて、そういったところから自分が暮らす社会に関心を持ってもらえることもあるかもしれないなと思いました。

「選挙マルシェ」が行われた、国分寺駅前の様子/photo by 地域と映像

「選挙マルシェ」のパネル展示を見る若者世代/photo by 地域と映像

活動の中では、「選挙はお祭り」という言葉も掲げていますね。

これはプロジェクトのメンバーが言い始めた言葉で、初期からずっと掲げています。投票という行為自体はすごく大事なものだけれども、その周りで何か楽しいことがあるというのも選挙参加を促す重要な要素かもしれないと思うんです。だからこそ、選挙マルシェといった住民が楽しめるイベントを続けています。

約2年活動を続けてきて、「お祭り感が出てきたな」と感じることはありますか?

はい、とても出てきたと感じています。正直、活動を始めた頃は、投票を呼びかける可動式の屋台を引いても、人が避けていったんですよね。それが、徐々に回を重ねてメンバーが増えていき、今回の選挙マルシェでは本当に多くの方に来ていただいたので、感慨深かったです。ようやくお祭りのようになってきたな、やればここまでこれるんだな、と実感できて感動しました。

まちに活動が浸透してきているのですね。

メディアに取り上げられたことも活動を知ってもらえた理由だと思いますが、僕らの強みは、SNSでバズること以上に対面でのコミュニケーションを大事にしているところです。選挙マルシェなどの対面イベントを毎回開催していますし、今回もチラシを1000枚作って、半分以上はポスティングしています。フィルターバブル(※2)の問題もありますが、結局SNSで盛り上がっても現場はそうじゃないことが往々にしてあります。まちにはいろんな人が住んでるので、むしろSNSに興味がない層も含めてみんなの目に触れる場所を大切にしたい。SNSで1万いいね!がつくよりも、100枚のポスティングの方が効果があると思っています。

※1 参考:2022年に実施された第26回参議院議員選挙にて、国分寺の投票率は全国3位だった。なお、2023年4月に実施した統一地方選挙では、国分寺市の投票率は東京都第7位という結果であったものの、投票率自体は上昇する結果となった。https://twitter.com/bunjisenkyo_no1/status/1650450947934654465?s=20
※2 用語:過去の検索履歴などから各個人に最適化されたインターネットコンテンツが表示されることで、似た情報や視点に囲まれてしまう状態を指す。

候補者にとって「立候補したいまち」にもなってきている?

そのほかにも、プロジェクトの存在感が高まってきたと感じることはありますか?

この間議員さんから、「この活動が、ある意味権力になってきている」と言われました。今回作成した候補者データベースは、過去の選挙公報や議会での発言を可視化しているので、もし選挙公報をずっと変えていない方がいた場合には分かってしまう。国分寺の有権者は10万人で、今回当選した人と落選した人の差はわずか14票でした。僕たちの提供している情報が3万PVを持っているということは、まちにとっての存在が小さくないものになっていると感じています。

また、今回の選挙では候補者インタビューをほぼ全員にすることができたのも大きな変化でした。前回の参院選のときは受けてくれない政党がありましたし、プロジェクト初期に市長選で企画した討論会は実施すらできませんでした。今回ほとんどの候補者が出てくれたのは、「まちのことを良くしたい」という思いもありますが、このプロジェクトの存在感が高まったことの現れでもあると感じています。

直接候補者からかけられた言葉で、印象的だったものはありますか?

このプロジェクトをきっかけに市政を面白いと思ってくださった方が、今回の市議選に立候補していたんです。また、20代など若手の候補から「このプロジェクトがあるのが本当に嬉しいし、同じ仲間だと思っています」という声を頂くこともありました。少し大げさかもしれないけれど、このプロジェクトがあることで国分寺が「立候補したいまち」になりつつあるのかなって。「自分が立候補したら、この人たちは取り上げてくれるぞ。ちゃんと思いを聞いてくれるぞ」という安心感を持ってもらえたら嬉しいなと思っています。

今後取り組んでいきたいことや、新たに感じている課題はありますか?

1つは「まだまだ政治が遠い」ということです。今回の選挙の投票率は上がりましたが、まだ半分以上の方は投票に行ってないのが現状です。

もう1つは、投票に行った人ももっと「みんなでまちを作っていく」と思えるといいと思います。政治家を批判することはあっても、政治家と一緒に何かを作ろうとする人ってまだ少ないと思うんですよ。政治家も市民も仲間として一緒にまちを作っていけたら良いと思うので、そういう場を作ったり、学び合う機会を設けたりといったことに、これから新しく取り組んでいきたいと思っています。

photo by 地域と映像

選挙って楽しい!

鈴木さんのお話からは、終始楽しみながら活動を続けるポジティブなパワーを感じた。堅苦しく考えず、「自分が住むまちがどうなったら、もっと楽しく生活できるだろう?」と考え、主体的に関わっていく。その1つの入り口が選挙だと思うと、もっと身近に感じることができ、周りの人とも話したくなってくるのではないだろうか。

どんどん存在感を高める「国分寺の投票率を1位にプロジェクト」。彼らの取組みで、今後どんな風に国分寺市が変容していくのか。ひいては他のまちにも影響を与えていくこともあるかもしれない。その進化を楽しみにしていきたい。

 

取材・文:大沼芙実子
編集:篠ゆりえ
写真:「国分寺の投票率を1位にプロジェクト」提供