フェムテックとは何か?
フェムテックとは、英語で女性(female)と技術(technology)が組み合わされたもので、女性に生じる健康課題を解決するテクノロジーや、サービス、製品のことをさす。
もともとは、妊活や月経管理が中心カテゴリだったフェムテックだが、現在は女性特有の疾患や生理関連用品、セクシャルウェルネスといった分野にも拡大している。
経済産業省経済産業政策局経済社会政策室長である川村美穂氏のインタビューによると、生理痛や生理に伴うPMS(月経前症候群)などによる体調不良を原因とする欠勤や生産性の低下で、1年間で約4,900億円の労働損失が出ていることがわかったという。また、同インタビューでは生理だけではなく、不妊治療や更年期などの分野で女性の健康問題が軽減され、離職者が減った場合、2025年時点で年間2兆円の経済インパクトが生じるとも話している。(※1)
このように、フェムテックの開発・使用を推進することは、女性の健康課題を解決するだけではなく、労働市場にもポジティブな影響を与えることがわかっている。
※1出典:ツムラ「女性の健康課題、労働損失は約4900億円?経産省がフェムテックを推進する理由」
https://www.tsumura.co.jp/onemorechoice/interview/011/part01.html
フェムテック市場の現状と将来の見通し
矢野経済研究所によると2022年のフェムテック市場規模は前年比約107.8%の695億100万円であり(※2)、市場成長は今後も勢いを増していくと見られている。
経済産業省が発表する経済試算では、2025年のフェムテック産業の見込みとして月経分野で約2,400億円/年、妊娠・不妊分野で約3,000~5,000億円/年、更年期分野で約1.3兆円/年、計約2兆円になると発表されている。(※3)
※2 出典:矢野経済研究所「フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場に関する調査を実施(2023年)」
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3375
※3 出典:経済産業省「令和2年度産業経済研究委託事業 働き方、暮らし方のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査(フェムテック産業実態調査)報告書(概要版)(PDF形式:1,420KB)」p14
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/R2fy_femtech.pdf
フェムテック市場が注目されている背景
フェムテックに注目が集まってきている背景としては、まず社会の様々な場面で女性の活躍が当たり前になっていることがあるだろう。先に述べた通り、女性特有の健康問題などによる労働損失・経済損失は大きく、社会に大きなインパクトを与える。フェムテックを活用し、女性の活躍を妨げることのない環境整備が強く求められている。
内閣府男女共同参画局より出された「女性活躍・男女共同参画の重点方針 2023 (女性版骨太の方針 2023)」においては、フェムテックを利活用した支援を行うと記述されている。(※4)また経済産業省は、2021年よりフェムテック等サポートサービス実証事業費補助金制度を開始し、企業へ導入支援を行なっており、政府の後押しも注目の理由だといえる。(※5)
具体的な取り組み例としては、企業が福利厚生の一環としてフェムテックサービスを社員に提供したり、自治体が住民サービスの一環としてフェムテックを取り入れたりといったものがある。株式会社サイバーエージェントやパナソニックグループなどは、卵子凍結サービスへの費用補助を福利厚生として導入しているそうだ。また2023年10月には東京都が都内の企業を対象に、卵子凍結にかかる休暇制度を導入した企業に対し、支援を行うことを発表している。
このようなニーズと相まって、テクノロジーの進歩から様々なフェムテックサービスを生み出すこともできるようになった。ジェンダー平等が共通概念となってきている今日の社会で、フェムテックビジネスはさらに加速が見込まれるのが現在の状況といえるだろう。
※4 出典:内閣府男女共同参画局「[PDF]女性活躍・男女共同参画の現状と課題」p24
https://www.gender.go.jp/policy/sokushin/pdf/sokushin/jyuten2023_honbun.pdf
※5 出典:経済産業省「フェムテックを活用した働く女性の就業継続支援」(2023.12.2閲覧)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/femtech/femtech.html
フェムテックの主要カテゴリ
前述のように、月経管理や妊活が中心だったフェムテックの分野は近年さらなる広がりを見せている。現在のフェムテックがどのような分野に及んでいるのか見ていきたい。
健康管理アプリ
まずは、フェムテックの始まりとも言える健康管理アプリを取り上げる。
生理周期管理アプリ
フェムテックという名前が登場する前から、女性の健康に寄り添ってきたと言えるのが、生理周期管理アプリである。月経管理をはじめとする女性の健康を管理するサービスを展開する「ルナルナ」は20年以上の歴史を持つ。ただ、ルナルナ社員のインタビューを見てみると、サービス開発当初は「『生理』というテーマにタブー感があることによって、なかなか表立ってサービスのことを紹介できない」状況が続いたという。(※6)
もちろん多くの分野において新しい取り組みをするのは難しいことだが、フェムテックが特に多くの壁、そして大きな壁を乗り越えながら成長を続けてきたことは見逃せないポイントだ。ファーストペンギンとして行動することがどれほど大変なことだったか、想像に難くない。
妊娠・出産アプリ
妊娠から出産にかけて、女性の身体や心には大きな変化がもたらされる。そこで、助けになるのが妊娠・出産アプリである。妊娠・出産アプリの中には、パートナーと共有しながら使うことができるものや、妊活から出産後まで、妊娠・出産フェーズ以外に使えるものまで多様に存在している。
具体的には、妊娠週数などの基本情報のほか、つわり・胎動などを管理することができる。なかには、胎教音楽を収録しているアプリもある。パートナー共有モードには、上記の情報を夫婦で共有するだけではなく、「パパモード」のようなパートナーだけにメッセージが届く機能を搭載しているアプリもある。
医師の監修の元に作られているアプリや完全無料で使用できるアプリも多い。不安定になりがちな出産期、そして「妊娠」というセンシティブになりがちな出来事を、安心して乗り越えるためのアプリが充実してきていることがわかる。
更年期管理アプリ
突然頭に血が上ったり、暑くなったり、気持ちが不安定になったり…。エストロゲンの低下により生じるとされる更年期障害だが、症状にも嫌気がさすのはもちろん、自分でコントロールできないことにもうんざりするとの声を聞くことが多い。更年期が訪れるのは、「閉経する年齢の前後5年を指し、一般的には45〜55歳頃」と言われている。(※7)
そんな更年期を管理するアプリもフェムテック分野で登場している。生理日や基礎体温などの管理ができるほか、身体の変化や服用中の薬の記録もすることができるものもある。悩みをオンライン上でチャット相談したり、更年期度をチェックするサービスを搭載したアプリもある。「更年期が始まった」と明確に分かることはなかなかないが、これらのアプリを使うことで自分の身体と心の状態を知りながら更年期と共生していくことが可能になるのではないか。
※6 参考:日本財団ジャーナル「フェムテックの先駆け、ルナルナが20年以上向き合ってきた「生理」と「社会」の壁」
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2022/83467/gender
※7 参考:東洋経済オンライン「PMS?更年期?40代女性が悩む「不調」の見極め方 自分の身体を知るフェムテックサービスとは」
https://toyokeizai.net/articles/-/465139?page=2
医療機器
フェムテックは、アプリに留まらずテクノロジーの分野にまでその範囲を広げている。
家庭用検査キット
家庭用検査キットと聞いて、パッとイメージができない方も多いかもしれない。フェムテック業界では、女性の悩みを和らげたり、体質を理解したりするために家庭でさまざまな検査を行えるサービスが登場している。
例えば、女性ホルモン検査やおりもの検査などのサービスがある。病院にわざわざ行って検査するのは面倒くさく、あるいはためらわれるために今まで積極的に実施してこなかった検査を、自宅で手軽に実施できるようになりつつある。
避妊具のイノベーション
避妊具と言えば、真っ先にコンドームを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。コンドーム以外に日本で認可されている避妊法には主に、「女性が主体になって選ぶOC(低用量ピル)、 避妊リング(IUD、子宮内避妊システム・IUS)」がある。(※8)
日本では2014年に「月経困難症や過多月経の治療としてIUD(Intrauterine device::子宮内避妊器具)の保険が適用」されている。(※9)低用量ピルは、毎日決まった時間に飲む必要があり、複数日飲み忘れると効果がなくなってしまうというデメリットも持つ。IUDは「一度子宮内に装着すれば、3年から5年、または10年入れたままにしておくことができ(装着期間は製品による)、妊娠を希望するタイミングでいつでも取り出すことができる」(※7)装置であり、日本のみならず海外でもIUD器具の開発が進んでいる。
ただ、基本的なことだがどの方法にも副作用があるため、自分に合った避妊方法を選ぶことが重要である。
婦人科系疾患の診断機器
子宮頸がん、乳がんなど婦人科系の疾患は多数存在しているが、そんな疾患の診断に特化した機器の開発もフェムテック領域では進んでいる。
例えば、「卵巣がんや子宮頸(けい)がんなどの婦人科系がんでも、より早い段階でのスクリーニング検査や治療を可能にする革新的な診断サービスが登場」(※10)したり、乳がん検診を痛みを抑えて受けられるサービスなどが開発されている。
※8 参考:FRAU「女性が選択できる避妊法が少ない日本。海外で進む「避妊のフェムテック」とは!?」
https://gendai.media/articles/-/95880
※9 参考:VOGUE JAPAN「避妊や月経困難症治療などの、新たな選択肢が登場。小さなデバイスが広げる、大きな可能性とは」
https://www.vogue.co.jp/beauty/article/ocon-iub
※10 参考:日本経済新聞「女性向け医療変えるか 急成長フェムテックの可能性」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC07CWF0X00C21A4000000/
セクシャルウェルネス
フェムテックはテクノロジーというだけあって、アプリや電子機器などをイメージしやすいが、最近では、セクシャルウェルネス分野でも注目されている。セクシャルウェルネスとは「性の健康」を意味する言葉だ。
セルフプレジャー、セックストイ、膣トレ、セルフラブなどのキーワードがセクシャルウェルネスに紐づけられることが多い。
セクシャルヘルス教育
セクシャルヘルス教育は性教育と近い教育方法である。ただ、「性教育」と聞くと、男女の性差や正しい性行為の方法などを教育するものを思い浮かべるが、セクシャルヘルス教育はどちらかというとセクシュアリティに関わる「喜び」や「充実」「健康」などが連想される教育である。
セクシャルウェルネス製品
セクシュアリティの「喜び」や「心地よさ」「快適さ」を追求するセクシュアルウェルネス製品が多数開発されている。女性用のバイブレーターなどがその例である。
女性のセルフプレジャーなど、社会全体でタブー視されてきたものは多くある。「卑わい」で「わいせつ的」なものとレッテルを貼られてしまうことも少なくない。しかし、近年ではデザインが洗練されたものや、部屋の中に置いてあっても浮かずになじむものなど、手軽に手に取ることができるセクシャルウェルネス製品も増えてきている。
Ohnuが開発したセルフプレジャーグッズ
生理(月経)関連アイテム
「性の健康」の観点では、女性が長年付き合う生理(月経)に関するアイテムも多様化してきている。生理期間は、多くの女性にとって憂鬱な時期だろう。しかし利用できる選択肢が増えることで自分に合ったアイテムを選ぶことができ、より快適に過ごす方法が広がっている
月経カップ
生理用品というと「生理用ナプキン」や「タンポン」が頭に浮かぶと思うが、最近メジャーになってきているのがこの「月経カップ」だ。2000年代に欧米で広がり、日本でも販売が増えてきている。膣内に挿入するシリコン製の生理用品で、繰り返し使うことができコストやナプキンゴミの削減面でメリットがある。個人の経血量や製品によっても異なるが、一度挿入すると最大12時間使用できる月経カップもあり、頻繁にお手洗いに行く必要がなくなったり、経血の漏れを気にせずスポーツや温泉を楽しむことができる。これまで制限されてきた生理期間中の活動やイベントにも前向きになれそうだ。
吸水ショーツ
月経カップと並んで日本でもメジャーになってきているのが「吸水ショーツ」だ。ショーツ自体に吸水機能が設けられているため、ナプキン不要でショーツを着用できる。また抗菌や防臭、漏れ防止などの機能も兼ね備えており、洗濯機で洗えるなど手入れが簡単なのも特徴だ。製品によって経血の吸収量は異なり、一定の時間で交換(履き替え)が必要にはなるものの、一度の生理期間でナプキンを使用する量は減るためコストやゴミの削減に繋がる。
最近はユニクロや無印良品など、様々なブランドが安価な吸水ショーツを扱っており、消費者も手に取りやすい環境が整ってきた。まだ挑戦したことがない人にも、徐々に広がっていくことが想定される。
Thinxが開発したナプキンの必要ない生理用ショーツ
オンラインピル処方
生理痛やPMS(月経前症候群)の緩和に効果のあるピルも、より手に取りやすい環境が整ってきている。オンラインから処方を受けられるサービスが増えてきているのだ。あるサービスでは、LINEで診療予約をし医師とオンライン面談を行った後、郵送でピルを受け取ることができる。病院に行く手間やハードルがなくなることに加え、医師に相談しながらピルを選ぶこともでき、安心して利用できるサービスになっている。
欧米諸国と比べ、日本ではピルの普及率が圧倒的に低いと言われているが、女性が生理期間中も快適に生活を送る1つの選択肢だといえる。こういったサービスが広がることで、より女性の活動を制限しない環境が整っていくのではないだろうか。
フェムテックのメリット
ここまでフェムテックの主要なカテゴリを紹介してきたが、フェムテックにはどのようなメリットが求められているのだろうか。
女性の健康意識向上
フェムテックが発達し、浸透していくことの最も大きなメリットとしては、リプロダクティブヘルス/ライツの確保が挙げられるだろう。リプロダクティブヘルス/ライツとは、「性や身体のことを自分で決め、守ることができる権利」(※11)のことをいう。
早稲田大学准教授である兵藤氏は1994年のカイロ計画を引用しながら、リプロダクティブライツの3つの権利を記載している。
①子供を産むか、産まないか、産むとしたらいつ、どういう間隔で産むかを決定する。
②受胎をコントロールする情報と手段を持つ。
③最大限の性や生殖に関する健康を享受する。
(※12)
フェムテックを推進することは、リプロダクティブヘルス/ライツの向上につながるだろう。身体に関する選択権を取り戻し、今まで我慢の上に成り立っていた女性の身体の不快さや、追求されていなかったセルフプレジャーを向上させていくことで、女性の健康に対する意識の底上げにつながると考えられる。
※11 参考:SDGs ACTION「リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは?取り組み事例や課題と解決策」https://www.asahi.com/sdgs/article/14730505
※12 引用:兵藤智佳「人口政策におけるReproductive Rights概念について―フィリピンにおける婚姻を事例として―」p.10
https://www.jica.go.jp/jica-ri/IFIC_and_JBICI-Studies/jica-ri/publication/archives/jica/kenkyu/02_35/pdf/35_02.pdf
医療へのアクセスの向上
フェムテックが進むということは、女性にとって心地の良い環境が整えられていくということである。例えば、ある調査によると、日本医師会のホームページによると、日本の乳がん検査受診率は諸外国と比較して低いことがわかっている。(※13)
未受診の理由として上位に挙がるのが「検査に伴う苦痛に不安がある」(※14)というものだ。近年のフェムテックの発達により、比較的痛みがなく受けられる乳がん検診が開発されたり、女性が負担なく医療を受けられるために婦人科などが落ち着く空間に整備されたりするなどの取り組みがなされてる。フェムテックが発達すれば、女性たちの心理的、身体的負担を取り除ける可能性が高まり、医療へのアクセス向上にもつながることが期待される。
※13 参考:公益財団法人 がん研究振興財団「がんの統計2023」https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/statistics/pdf/cancer_statistics_2023_app_J.pdf
※14 参考:大阪国際がんセンター「がん検診の受診率向上に向けて!」https://oici.jp/ocr/examination/improvement.html
ジェンダー平等の促進
月経や更年期障害などの女性特有の症状は、仕事や学業のパフォーマンスを下げたり、それらのケアのために出費をしなければならないことは少なくない。もちろん男性が発症しやすい疾患もあるが、女性特有の体の不調は見過ごされてきた、あるいは女性たちの我慢の上になんとか成り立ってきた面も大きい。
フェムテックの推進は、女性が今までよりも楽に自身の体の調子を整え、仕事や学業などの活動に集中したり、自分の選択で自分の体をコントロールするのをサポートすることにつながる。もちろんフェムテックの導入にも費用がかかるので経済的な非対称性は視野に入れる必要があるが、長期的に考えるとジェンダー平等の推進にもつながることになろう。男女ともに偏りなく、健康で心地の良い状態を追い求められることが重要だ。
データ収集と研究の推進
フェムテックの世界が発達するにつれて、女性の健康や生活に関わるデータが次々と集まってきている。例えば、2020年にはNHKが「女性の体の新常識 フェムテックで社会が変わる」(※13)という番組を放送したが、放送ではビッグデータを使って女性の体について新たな知見が得られたことが明らかになった。具体的には、フェムテック関連のアプリを通して31万人の女性のビッグデータが集められ、そこから生理周期に関する新たな知見が得られたというものだ。
フェムテックの推進によって、データが集まるとともに、そのデータに基づいてさまざまな研究も進められている。今まで明らかになっていなかった女性の疾患や、生活像、身体的な特徴についてここから先もどんどん明らかになっていくだろう。
※15 参考:NHKクローズアップ現代「女性の体の新常識 フェムテックで社会が変わる」
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4486/
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フェムテック業界の課題と今後の展望
発展の勢いを増しているフェムテック業界だが、フェムテックが持つ課題とこれからの展望はどうなっていくのだろうか。
プライバシーとデータセキュリティの問題
フェムテックによるビッグデータ収集に関する内容を前述したが、データを扱うにはリスクが伴う。特にフェムテックは、女性の身体状態や生活などに密接している内容も深く関わっているために、当事者のプライバシーとデータの保護は第一の優先事項と言えるだろう。
もし、当事者たちのプライバシーが侵されることがあった場合、フェムテックの発展に大きな障壁となることは言うまでもない。
デジタルデバイドの克服
デジタルデバイドとは、総務省の平成16年版「情報通信白書」において 「インターネットやパソコン等の情報技術を利用できる者と利用できない者との間に生じる格差」と定義されている。(※14)
フェムテックの情報は一般的にインターネットで得られるものが圧倒的に多い。もちろん、生理用ショーツなど実際に店頭に行けば購入できるものも多いだろう。しかし、その情報や人気が事前にインターネット上で共有されていた場合、インターネットへアクセスできる環境を所持しない人は不利な状況に立たざるを得ない。
生理、妊活、妊娠、更年期など全ての世代の女性の助けになるフェムテックだからこそ、インターネットの有無によってそのメリットを享受できる人とそうでない人が分かれてしまう状態は避けたい。
※16 参考:総務省「第2節 デジタル・ディバイドの解消」https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h23/pdf/n2020000.pdf
製品とサービスの質の向上
「それは本当にフェムテック商品なのだろうか?」という商品が出回ることも問題となっている。フェムテックという言葉の人気にあやかって、フェムテックと題して商品を発売する企業が残念ながら存在する。
消費者も「フェムテック」という言葉だけを見るのではなく、実際にどのような効果を得ることができ、何が便利になり、値段に質は合っているのか、などのチェックが必要だ。そして何より、本当に女性の課題に寄り添おうとしている企業が健全に生き残り、評価を得ることが重要だ。
社会的認知と普及の促進
矢野経済研究所の調査によると全国の20代から60代の女性10,147人に対して「『フェムテックという言葉の意味を知っているか』と尋ねたところ、フェムテックの認知度は5.8%」(※15)であった。
全世界で必要性も開発も進められているフェムテックだが、日本での認知度が非常に低いことがわかる。知らないと、調べられず、情報に行き着くことができない。身体や生活の悩みは1つではない。「フェムテック」という単語を調べるだけで、求めていた情報にたどり着ける可能性も高い。企業は、フェムテック製品やサービスの開発もさることながら、フェムテックの認知と普及の促進に力を注ぐことも必要不可欠となってくるだろう。
※17 参考:矢野経済研究所「フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場に関する消費者アンケート調査を実施(2022年)」
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3126
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おすすめのフェムテック企業と製品
それでは、具体的にはどのようなフェムテック企業が存在しているのだろうか。最後の章では日本と海外のフェムテック企業と製品をいくつか紹介する。
国内のフェムテック企業と製品
本記事で取り上げる国内のフェムテック企業は、東大発のスタートアップ企業である株式会社Lily MedTechだ。Lily MedTechは、痛みのない乳がん検診方法を開発している企業である。本文内で何度か言及しているが、乳がん検診は女性にとって精神的にも、身体的にも負担が大きい検診だ。そこで、Lily MedTechは、ベッドにうつ伏せになるだけで乳がん検診が受けられる技術「COCOLY」を開発した。(※18)
既存技術のマンモグラフィーでも、乳がんの検診は受けられる。しかし、「痛い」「めんどくさい」「近くで胸を見られたくない」などの理由から女性たちが検診を避けるケースが多かった。全く新しい何かを作り上げるのではなく、女性があえて言葉にはしなかった悩みをくみ取って新しい技術を開発し女性の健康に寄与しようという取り組みは「幸せ」を追求するリプロダクティブヘルスやセクシャルウェルネスにもつながるものだろう。
※18 参考:Lily MedTech「製品紹介 COCOLY」
https://www.lilymedtech.com/product/cocoly-2/
海外のフェムテック企業と製品
海外の事例として取り上げるのは、アメリカのFuture Familyである。Future Familyは不妊治療に必要な体外受精や卵子凍結などのサービスをサブスクリプション方式で提供している。日本では、不妊治療が保険適用になったばかりだが、不妊治療をサブスクリプション方式で支援する取り組みは画期的である。
フェムテックは女性のためだけのものではなく、不妊治療といった場合は特にパートナーの協力も不可欠である。不妊治療の金銭的な負担や心理的負担を軽減させている点では、女性だけではなくパートナーや家族全員の負担を軽減することにつながるだろう。
まとめ
フェムテックという名前だけ聞くと、大層なものに感じられ自分とは違う世界のもののような印象も受ける。しかし、毎月くる生理も、気分の浮き沈みも、やりたくない婦人科系の検査も、解決してくれるのがフェムテックだ。
フェムテックがどんどん発達し、認知度を上げていくことで、さらに多くの女性にとってアクセスしやすいものになっていくだろう。自分の生活も自分の周りの女性たちも、生理痛や身体の不調に苦しむ女性たちも、生理がタブーとされている国に住む女性たちも、女性という身体をもっともっと心地よく楽しみたい女性たちも、みんながもっと穏やかに心地よく生活できることを願ってやまない。