「性的同意」という言葉を聞いたことがあるだろうか。性的同意とは文字通り性に関するコミュニケーションの際に同意をとることで、NPO法人ピルコンのサイトでは次のように説明がある。
性的同意は、性的な行為に対して、その行為を積極的にしたいと望むお互いの意思を確認することです。性的な行為への参加には、お互いの「したい」という “明確”で“積極的な意思表示”があることが大切です。
(※1)
性的同意の概念や、こうしたコンセントが必要なことは少しずつ社会に浸透し始めており、実際に一部のアニメやドラマなどでも性的同意を取るシーンが見受けられるようにもなってきている。英国・テムズバレー警察署が出した動画では紅茶を性的同意に例えて説明されており、SNSでも話題になった。
その一方で、「聞くのは逆に違和感」「ムードが壊れる」「言わなくても同意は取れる」といった声も少なくない。性暴力などの問題とも結びつけられて語られる性的同意について、何が大切なのか、また具体的な性的同意の取り方、そして性的同意に関わる問題などを考える。
※1 引用:NPO法人ピルコン ウェブサイト「性的同意」
https://pilcon.org/help-line/consent
同意のない性交=性暴力
性的同意そのものに触れる前に、世界や日本の性的同意にまつわる課題である「性暴力」「性的同意年齢」の2つを見ていきたい。
内閣府男女共同参画局が2021年に実施した「男女間における暴力に関する調査」によると、無理やりに性交等をされた被害経験は約24人に1人、そのうち女性の約14人に1人は無理やりに性交等をされた経験があると回答している。(※2)また、同調査では加害者との関係については「まったく知らない人」が約1割、女性では「交際相手・元交際相手」が約3割、男性では「通っていた(いる)学校・大学の関係者」が約2割となっている。
よく駅構内にある痴漢に関するポスターなどを見ていると、こうした性被害は見ず知らずの人から受けるイメージもあるかもしれない。しかし、データから見て分かるとおり交際相手や配偶者、学校関係者など身近な人からの性暴力が比較的多い。もちろんこうした状況において性的同意が取られていることはほとんどない。
また、新型コロナが流行し始めた2020年には性犯罪・性暴力に関する相談件数は増加している。性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの相談件数は51,141件で、前年度比で約1.2倍に増加しているという結果示されている。(※3)
コロナ禍の性暴力は日本だけでなく世界的な問題として認識されており、国連組織「UN Women」は特に被害を受けやすい女性や女児に関して言及し、各国政府に警鐘を鳴らしている。
※2 参照: 内閣府 男女共同参画局『男女間における暴力に関する調査 (令和3年3 月) 』 11p.
https://www.moj.go.jp/content/001347785.pdf
※3 参照:内閣府 男女共同参画局 『男女共同参画白書 令和3年版 第2節 コロナ下で顕在化した男女共同参画の課題~生活面~』
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/honpen/b1_s00_02.html
性的同意年齢については2021年、立憲民主党・衆議院議員であった本多平直氏による「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになるのはおかしい」という発言によって一時話題になった。
日本では性的同意能力があるとみなされる年齢が13歳と定められている。簡単に言えば、「13歳以上の年齢で性被害に遭った場合、暴行・脅迫の内容について、あるいは抵抗できなかった理由についてを具体的に説明しなければいけなくなる」ということである。日本の刑法が制定された1907年からこの同意年齢が変わっていないことも合わせて現在、国会では性的同意年齢の引き上げについて議論されている。
次に、各国の性的同意年齢や性犯罪に関する法律についてを紹介したい。(※4)カナダ・イギリス・フィンランドの性的同意年齢は16歳。また、イギリスの法第9条では信用ある地位を濫用して18歳未満の者と性行為をした場合も犯罪と規定されている。その他、フランス・スウェーデンの性的同意年齢は15歳、ドイツ・台湾は14歳に設定されている。
性的同意年齢や各国の刑法を見ると、多くの国で子どもの権利を尊重し、子どもに対するレイプは大人に対するレイプよりも重い罰則規定が与えられていることが分かる。日本でも2017年の刑法179条改正によって「18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性行為をした場合は性犯罪となる」ことが明確化されたものの、「監護者」の範囲が狭いことによって性犯罪として認定されない問題などがあることが指摘されている。
加えて、日本の包括的性教育の進度を各国と比べても、やはり現行の同意年齢では問題があると言えるだろう。
※4 参照:国際人権NGO ヒューマンライツ・ナウ「10か国調査研究 性犯罪に対する処罰世界ではどうなっているの?」
http://hrn.or.jp/2019_sex_crime_comparison/download/2019_sex_crime_comparison_brochure.pdf
4つの同意基準と3つの条件
性的同意にまつわる問題に触れてきたが、次に性的同意自体についてまとめる。性的同意には大きく分けて4つの同意があると言われている。
1 その相手との性行為を望んでいるか
2 性行為をしたい時であるか
3 性行為をしたい場所であるか
4 避妊や性感染症予防についてお互い納得ができている方法がとれているか
また、性的同意については3つの条件というものも存在する。これはたとえ上記の4つ全てにYesと答えたとしても積極的でない場合、対等な関係でなく性的な行為を拒否をした場合に何らかの被害が及んでしまう、などの可能性もあるからである。3つの条件を順に説明する。
1つ目は「非強制性」。拒むと身の危険がある場合の「Yes」は同意とは言えない。これは家庭内での暴力などを例に挙げることができる。Noと言える環境が整えられていることが必要だ。
2つ目は「対等性」。社会的地位や力関係に左右されない対等な関係性の中での同意かどうかが大切になってくる。これはパワーハラスメントでの被害や就活の際に起こる性暴力被害の事件などが該当する。
3つ目は「非継続性」。ボディータッチやキスなどと性行為は別の行為ではあるが、そうしたコミュニケーションや仕草でOKと勘違いすることは間違いである。その都度同意を取ることが望ましい。
日本では「レイプしないよう教えられる」のではなく、「レイプ“されない”よう教えられる」文化が依然として根強い。このような、加害者よりも被害者の責任を問うことで、性暴力が起こり続けてしまうような文化を「レイプカルチャー」という。そして、こうした後ろ向きな意識の下で、「性暴力に遭うような服装をしていたから」「誘ったのではないか」などと第三者が被害者への責任を問うことを「セカンドレイプ」という。
こうした行為をタブーとしている国は少なくない。イギリス・カナダ・ドイツなどでは、「No Means No Policy」と呼ばれる、意に反する性行為が広く処罰される法律がすでに存在する。法律だけでなく、No Means Noの文化自体も日本よりスタンダードになりつつある。日本でも法律などの制度に加えて、こうした風土をどれだけ浸透させるかがこれからの課題である。
「性的同意」を広めるアクション
様々な課題を抱える日本ではあるが、近年、性教育・ジェンダーに関する発信や取り組みを行うコミュニティや団体を中心に、性的同意に関する啓発活動が行われているので紹介する。
公益財団法人京都市男女共同推進協会が運営・管理する京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)はジェンダーハンドブックを発行しており、京都大学発で性のリブランディングを行う団体Genesisや一般社団法人ホワイトリボンキャンペーン・ジャパンと共同で作成した冊子を作成・配布している。第一弾では性的同意を扱っている(第二弾では男らしさにまつわるイシューがテーマ)。
NPO法人 mimosasは、性的同意ハンドブックである「MIMOSAS BOOK -あなたが傷つかないための性の本」を2022年から展開予定だ。ポケットサイズの本書では同意の重要性やフランクに同意を学べるコンテンツの紹介、性暴力に遭ってしまった際のワンストップコールセンターのまとめなどが記載される。その他、一般社団法人Voice Up Japanの学生支部でも学生による性的同意に関する署名や啓発活動なども活発に行われている。
「同意なしに、あらゆる種類の性的行為は性的暴力である」という常識や、「人それぞれにバウンダリー(境界線)が存在し、セックスや、キス、性的行為などの他の種類の性的行為を望まない権利がある」という認識はまだまだ広がり始めたばかりである。
しかし、性的同意の概念を知っていることでミスコミュニケーションを防ぐことができ、性暴力の被害・加害も未然に防ぐことができる。パートナーや身近にいる人との日常の延長線上にあることだからこそ、より多くの人が心得てほしい。
文:宮木 快
編集:白鳥菜都