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あしたメディア in Podcast #3−#4 選挙に行かない若者は損をする?若者の社会参加とSDGs

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「あしたメディア in Podcast」では、メインMCの、2人組ラップデュオchelmicoのRachelさんと映画解説者の中井圭さんが、各回ゲストスピーカーを迎え、「社会を前進させる取り組み」をテーマに様々な切り口から“いま”知りたい情報を全16回配信で発信する。この記事では、第3回(1月6日配信)と第4回配信(1月13日配信)の内容をダイジェストでお届けする。

今回のゲストは時事YouTuberのたかまつななさん。「若者の社会参加とSDGs」をテーマに、依然として若者の投票率が低い日本における、社会参加の必要性やSDGsとの向き合い方、買い物を通じた未来への投票などについてトークを展開した。

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選挙に行かないことで、若者は損をする

たかまつさんは、2016年に18歳・19歳にも選挙権が与えられたことをきっかけに、若者の政治への関心を高めるための活動を始めた。まずは、たかまつさんの活動と若者の投票率から話が始まった。

たかまつ:主に全国の中学校・高校で、若者の投票率を上げるために出張授業をしています。私自身、このままだと若い人が損をしてしまうという問題意識があるので、本当は子育て世代までアプローチをしたいと思っています。ちなみに、近年の国政選挙での20代の投票率は約3割で、3人に1人しか選挙に行っていません。このことで、若者の声が国政に届きにくくなっています。

中井:どうして20代は投票に行かないのでしょうか。

たかまつ:まず、地元の成人式に参加したいなどの理由で、住民票を移していない大学生がすごく多いと思います。(※1)あとは単純に忙しいとか面倒くさいとか、そういう理由じゃないでしょうか。期日前投票という制度を知らない人もいますね。世界的に見て、日本の若者は政治に無関心なわけではないんです。けれど選挙に行っていない人が多い。自分が1票を投じることで社会が変わるという意識が薄い、あるいはそれを政治に期待していないんじゃないかと思います。ただ、本当は影響力はとても大きいんです。仮に自分が投票した候補者が落ちたとしても、当選者は「それが何票差だったのか」をとても気にします。それによって当選者は次の選挙に向けた危機感が変わるので、どこに票を投じるかがすごく大事だと思います。

中井:たかまつさんの活動に対して、若者からの反応はいかがですか?

たかまつ:「自分の未来のために選挙に行こう」と伝えてもなかなか届かないので、私は「選挙に行かないと損するよ」という伝え方をしています。世代間でどれだけ差があるかを伝えると「友達を誘って選挙に行こうと思います」と言う子もいて、有難いですね。

Rachel:私も先ほど話に出た住民票問題がまさに直撃で、お恥ずかしながら22、23歳から選挙に行き始めたんですよ。住民票を移していない分、選挙に行くにも手続きに時間がかかるので、「それだったらバイトしたい」とも思っていましたね。だから選挙権を得る前後の若い時期に、たかまつさんのような方から「行かないと損するよ!」と言われていたらなあ、って思います。

中井:具体的に、若者はどんな損をするのでしょうか?

たかまつ:東北大学の調査によると、若者の投票率が1%下がると1人当たり約7万円損をするそうです。大きいですよね。物理的にお金を持っていかれるわけではないから、実感としては分からない。でも「体育館がこんなにボロボロなのはなぜ?」とか「遊び場がないけどどうして?」とか、知らず知らずのうちに若い人のところにしわ寄せがいっていると思います。あと、教育政策を頑張っている候補者が選挙で当選しにくいのも問題だと思います。これこそ若い人が選挙に行かないし、投じないことが理由です。

※1 地域によっては住民票がなくても、過去に在住していた地域であれば成人式に参加できる場合もある。

炎上を恐れ、若者が政治から距離をとってしまう日本社会

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中井:最近では、アーティストが「選挙に行こう」と伝えるキャンペーンもありましたが、そういった活動をどのように捉えていますか?

たかまつ:選挙の日すら知らない人も多いので、あのような活動はあった方が良いと思います。メディアでも流しやすく、テレビで選挙に関する情報が増えるという点でも良いことです。ただ、メディアの報道内容にもいささか疑問はあります。報道量の多くは選挙の啓発活動をしている団体の紹介や、芸能人が「選挙に行こう」と伝える映像などですが、「それだけでいいのだろうか?」と。もっと具体的に各政党の考えや政策方針を紹介するなど、ど真ん中の情報を報じても良いのではないかなと思います。その点はメディアが逃げていると思いますね。政治家からのクレームに怯えたり、政治的中立性の担保が難しかったりといったことがその理由です。選挙期間以外でも、普段から政治報道をやっていればそういうことはないと思うんですけどね。

私は、芸能人のキャンペーンでも「どんな党を支持しているのか」まで言ってしまって良いと思っています。でもそのことで、スポンサーが怒ってしまうことがある。私はお笑い芸人としてデビューしましたが、政治的なことを言い始めてからバラエティ番組との距離が出てきた気がします。政治的発言をすることが炎上リスクになるのがいまの日本の状況ですが、意見を言えば言うほど炎上する傾向は、精神的にも持たないと思います。

Rachel:若者にとってネット空間は1つの居住空間なので、炎上しているところを見ると、「あ、政治って怖いことなんだ」というイメージがついてしまい、政治的発言を避け、友達との意見交換も阻まれるのかもしれませんね。

たかまつ:おかしいと思って声を上げた人がいるのに、結局その人が損をする姿を周りで見ていると、もう誰もつぶやかなくなるんじゃないかと危惧しますね。そのような状況下でも若者が政治参加するためには、成功体験を得ることが大切だと思います。社会を変えるという体験がないと、いくら「投票に行こう」と言っても限界があります。いま学校で始まっている、校則を変える取り組みなどはすごく良いと思います。自分の意見を言ったり自分の考えを誰かに託したりすること、民主主義が感じられる場面が日本には本当に少ないと思っています。

あと、活動を始めてから、私は同業者から「不勉強だ」と何度も言われました。若い人、とくに女性が声を上げることにものすごく嫌悪感のある社会なのだと思います。みんな不勉強なんですよ。だったら一緒に勉強をしていけばいい。「不勉強だから意見を言うな」という感覚は、おかしいと思います。

もし、あなたのそのシャツが児童労働で作られていたら?

続いて、SDGsについても話が広がった。

中井:SDGsに対する若者の関心は高いのでしょうか?

たかまつ:小学校の教科書にも載っているので、若者の方がむしろ関心も認知度も高いですね。教科としては社会科が主ですが、理科や家庭科など様々な教科で触れられています。ただ、学校のSDGs教育で足りているのかは疑問です。日本の学校教育で扱うSDGsは、エコやリサイクルなど境の文脈で語られることが多いですが、本当は「経済と人権と環境のバランスをどう取っていくか」が大切です。それがあまり伝えられていない。また、SDGsは社会変革が大切なので、「社会を変えるためにシステムをどうするか」を議論することも大切ですが、それもできていないと感じますね。

Rachel:確かに、環境に特化したイメージはあります。どうしてなのでしょう?

たかまつ:話しやすい、分かりやすい、という理由だと思います。その例で言うと、明治のチョコレートですごくお洒落なパッケージの商品があるのですが、値段が通常の板チョコの2倍ほどあるんですね。カカオ農家を支援しているのがその理由なのですが、“SDGs”や“カカオ農家支援”という文脈では売られていないんですよ。高級感があるように見せて、価格を上げているんです。ダイレクトに「SDGs」を伝えても消費者にはまだ響かないと思っている。この話から、消費者のリテラシーが追いついていないことを感じました。

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中井:消費者のリテラシーが上がらないと、企業が良いことをしても売れないのですね。ただ企業が取り組みをしない限り消費者のリテラシーも上がらないし、企業活動と消費者教育を両輪で回さないといけないと思います。そうすると、企業はある程度損をしながら取り組むしかないのでしょうか?

たかまつ:SDGsは、本業で儲けても良いと認められた点が大きいと思っています。以前のCSRであれば、良い活動をしていてもそれで儲けた場合はクレームが入りましたが、SDGsは逆に赤字であることで、「持続性がない」とツッコミが入るはずです。偽善と捉えられることなく、企業が儲けることが認められるのは、ものすごく大切だと感じます。

私は「買い物は投票だ」という言葉が好きです。これまで私たちが“1円でも安いもの”を求めてしまったから、児童労働が発生したり、途上国の人が低賃金で働いていたりするわけです。でも、もし「いま着ているTシャツが児童労働で作られたなら、着たくないです!」とみんなが言えば、値段が上がっても、それ以外の商品を買う人が増えると思うんです。そうなっていくために、私たちがリテラシーを高めて、買い物を通じて「どういう社会を作るのか」を選択、投票していくことが大切だと思いますね。

Rachel:でも1つ1つ調べて買い物をするのは大変かもしれません。たかまつさんはどうされてますか?

たかまつ:そうですよね。私もまず洋服から買い物の仕方を変えようと思ったんですが、難しかったです。フェアトレード認証がある洋服やエシカル消費のブランドがすごく少なかったり、百貨店で「この服はサステナビリティな素材でできていますか?」と聞いても誰も分からなかったり。サステナビリティを訴えていても“SDGsウォッシュ”といって、本当は違うのにSDGsのように見せているブランドもあります。フェアトレード認証は国際的なNGOが細かいチェック項目を作って実施しているので、まずはそういうものを買うとよいかもしれません。あとは、消費者が「フェアトレード認証の商品ありますか?」とお店に聞いていくことで、ニーズが認知され店頭に並ぶようになると思います。

ジェンダーバランスだけでなく、ジェネレーションバランスも変化が必要

中井:少し話題は変わりますが、日本政治におけるジェンダーバランスについてもお聞きしたいです。どのように感じていますか?

たかまつ:なかなか改善の兆しがないですよね。クオータ制(※2)など、世界的にも政治のジェンダーバランスを変えるときにはルールを決めることが多いので、日本もまずはルールを決めるべきだと思います。私は政治のジェンダーバランスに加え、ジェネレーションバランスもおかしいと思うので、「選挙に行こう」と呼びかけるだけでなく、バランスを変えていく仕組み作りも必要だなと感じています。

そのためにも私たちが関心を持って関わっていくことが大切です。でないと状況をよくするために動いている人が孤独になってしまったり、頑張っている政治家が当選しなかったりといった状況が生まれてしまいます。7月には参議院議員選挙がありますし、YouTube「たかまつななチャンネル」でもたくさん動画をあげていますので、ぜひご覧ください。

※2 人種や性別、宗教などを基準に、一定の比率で人数を割り当てる制度。政治における男女共同参画を実現するための代表的な仕組みの1つで、議員の一定割合を女性に優先的に割り当てる制度として、ヨーロッパをはじめ、アジアやアフリカなどの開発途上国でも積極的に導入されている。

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若者と政治との距離がまだまだ遠い日本社会。否定を恐れずに発言し皆で学び合える機運を作ることや、小さなことからでも「社会を変える経験」を積み重ねていくことが、その鍵になると感じる。

また、未来への意思表示ができるのは選挙での投票だけでない。買い物を通じても、私たちは未来を選択することができる。身近なカテゴリを決めて、買い物の仕方を見つめ直すことから、始まる未来もあるかもしれない。

もっと気軽に、もっと身近に社会のことを考える「あしたメディア in Podcast」。#5-#6では、クリエイティブ・ディレクターの辻愛沙子さんをゲストに迎える。

〈あしたメディア in Podcast概要〉
MC:Rachel(chelmico)、中井圭(あしたメディア編集部、映画解説者)
配信媒体: Spotify(Apple Podcastも順次配信予定)
更新頻度:週2回配信、全16回

〈たかまつななチャンネル〉
https://www.youtube.com/channel/UCmV-bbmjWF4XzublsXRjxiQ

〈笑下村塾オンラインストア(たかまつさん書籍販売中)〉
https://shouka.thebase.in/


文:大沼芙実子
編集:白鳥菜都