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モーダルシフトとは?その意味やメリット、推進のための取り組みを解説!

モーダルシフトとは

近年、注目が集まる「モーダルシフト」。まずは、モーダルシフトの定義とその重要性について紹介する。

モーダルシフトの定義

モーダルシフトとは、トラック等の自動車中心で行われている貨物輸送を、よりCO2排出量が少なく環境負荷の小さい鉄道や船舶による輸送へと転換することを指す。「モード(輸送手段)」と「シフト(転換)」を組み合わせた言葉で、輸送手段の変更を通じて環境負荷の低減と物流効率化を図る取り組みである。

なぜモーダルシフトが重要なのか

モーダルシフトの概念が登場したのは1970年代後半〜80年代前半、第二次石油危機の頃だと言われている。不足する石油の消費を抑えるためにモーダルシフトが叫ばれた。その後、深刻化する地球温暖化問題への対策としてもモーダルシフトが重要視されるようになった。

さらには、昨今はトラックのドライバー不足も問題視されている。トラックと比較して、一度に大量に貨物輸送することができる鉄道や船舶による輸送はこの問題の解消にもつながる可能性がある。

このように、様々な問題の解決に寄与する概念として、モーダルシフトは重視されているのである。

モーダルシフトの背景

前述の通り、モーダルシフトは様々な問題の解決に影響を与えうる。ここではさらに詳しく、モーダルシフトへの注目が高まった背景にある問題について紹介する。

環境への影響

モーダルシフトへの注目が集まる背景にある問題のうち、最も大きいのが環境問題だろう。2020年以降の気候変動問題への国際的な枠組みを定めている「パリ協定」では以下のような目標が定められている。

  1. 気温上昇を2℃より十分下方に抑える(2℃目標)とともに1.5℃に抑える努力を継続すること
  2. そのために今世紀後半に人為的な温室効果ガス排出量を実質ゼロ(排出量と吸収量を均衡させること)とすること

この目標を受け、日本では2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すことが表明されている。

では、温室効果ガスはどこから排出されているのか。2021年度の統計によると、①産業部門(工場など)、②運輸部門(自動車)、③業務その他部門、④家庭部門の順になっている。2番手の運輸部門は日本の温室効果ガス排出量の2割近くを占めている。そのためモーダルシフトはCO2排出量の削減および気候変動対策に与える影響が大きいと考えられている。

環境省「2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要」より筆者作成

経済的要因

経済的な合理性を重視して、モーダルシフトを検討する企業もある。トラック輸送の場合、繁忙期か否かによって運賃が大きく変わる。一方で、鉄道や船舶による定期便は運賃の上がり下がりが少ない。そのため、安定したコストで輸送ができるため、予算の年間計画が立てやすいのである。

さらに、鉄道輸送や海運は輸送距離が長くなればなるほど割安になる傾向があるため、長距離の輸送では、低コストに抑えられる可能性が高い。こういった経済的な理由もモーダルシフトが選ばれる背景として考えられる。

社会的・都市計画上の動機

トラック輸送の増加は、交通渋滞や事故の増加、道路インフラの劣化などの問題にもつながる可能性がある。モーダルシフトにより、これらの問題を緩和し、持続可能な都市づくりに貢献することができる。都市部の混雑緩和や土地の有効活用などの観点からもモーダルシフトに注目が集まっていると考えられる。

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モーダルシフトのメリット

モーダルシフトを実行することによってどのようなメリットがあるのだろうか。

環境負荷の低減

鉄道や船舶は、トラックに比べてCO2排出量が少なく、環境に優しい輸送手段である。

国土交通省によると、1トンの貨物を1km運ぶときに排出されるCO2の量をみると、トラックが216gであるのに対し、鉄道は20g、船舶は43gだとされている。つまり、モーダルシフトにより、CO2排出量を 80~90%削減できることになる。環境負荷低減のために、モーダルシフトは有効な手段であることがわかる。

輸送効率の向上

鉄道や船舶は大量輸送に適しており、輸送効率が高い。大型トラックの積載量は通常で20トン、最大で25トンなのに対し、鉄道は数百トン、船舶は数万トンもの貨物を運ぶことができる。前述の通り、輸送コストの削減のためにもモーダルシフトは重要だ。
また、少ない人員で稼働できる鉄道や船舶は、人材効率の向上にも役立つ。特に拘束時間が長く労働負荷の高い長距離輸送ではトラックドライバーが不足しているため、長距離ルートの輸送をモーダルシフトすることは効率的なのである。

交通渋滞の緩和

トラック輸送から鉄道や船舶にシフトすることで道路の交通量を減らし、交通渋滞を緩和できる。渋滞時は事故の発生率が7倍も高くなると言われており、こういったリスクの回避にもつながる。国内では渋滞を改善するために次々に新たな道路建設が進められているが、モーダルシフトが進むことによって、このような問題も改善される可能性がある。

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モーダルシフトが進まない理由とデメリット

モーダルシフトには複数のメリットがあるものの、十分には進んでおらず、デメリットも存在する。

なぜモーダルシフトは進まないのか

モーダルシフトが進まない主な理由は、鉄道や船舶の輸送インフラの整備が不十分なこと、荷主企業の意識改革が進んでいないこと、輸送コストや時間の面でトラック輸送に優位性があることなどが挙げられる。

特に、鉄道や船舶の輸送網は、トラック輸送に比べて限定的だ。輸送インフラの整備には多額の投資が必要であり、短期的な対応が難しいのが現状である。また、荷主企業の中には、環境対策よりも、小回りの効くトラックならではのスピードや効率性の高さを重視する傾向があり、モーダルシフトへの関心が低い場合もある。

モーダルシフトのデメリット

先に述べたとおり、長距離の運送において鉄道や船舶は環境にも優しく、コストカットしやすい運送方法だ。しかし、短距離の運送においてはまだまだトラックの方が安価な場合が多い。
また、鉄道や船舶のデメリットに輸送スケジュールが固定的であることや、輸送スピードがトラックよりも遅いことが挙げられる。ダイヤ・スケジュールに従って運行される鉄道や船舶では、トラックのように任意のタイミングで運送することができず、柔軟性に欠けるのである。
さらには、鉄道や船舶は天候による影響を受けやすいという問題もある。雨や雪、台風といった天候による影響を受け、遅延や運休のリスクが高い鉄道や船舶では、安定的な輸送が難しいのである。

モーダルシフト推進のための政策と戦略

モーダルシフトの推進に向けては、さまざまな取り組みが進んでいる。

国の支援策・補助金・税制優遇

まず国が実施する政策を見てみたい。

国土交通省では、2005年に施行された「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律(物流総合効率化法)」に基づき、モーダルシフトを含む物流効率化の取り組みを支援している。また、「モーダルシフト等推進事業」として、鉄道や船舶へのモーダルシフトを行う事業に対する補助制度を設けている。この事業においてはモーダルシフトだけではなく、幹線輸送の集約化や共同配送など、トラック輸送の効率化につながる様々な取り組みが対象とされている。

また、同様に国土交通省は、「グリーン物流パートナーシップ会議」を通じて、荷主企業と物流事業者の連携を促進している。この会議では、モーダルシフトの優良事例の共有や、課題解決に向けた議論が行われている。

政府は2010年に、「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言し、「グリーン成長戦略」を進めている。その取り組みの中でも、モーダルシフトは重要な要素となっており、物流・人流・土木インフラ産業の成長戦略のラインナップの中に盛り込まれている。

荷主・物流事業者の連携モデル

荷主や物流事業者の間でも、モーダルシフトを実現する新しい取り組みは続々と生まれている。

企業の輸送経路をデータベース化し、AIを活用して荷主企業を“マッチング”するサービスを提供する企業や、運送会社・鉄道貨物・コンテナといった物流異業種が連携した「異業種ラウンドマッチング輸送」をスタートする例も生まれている。

その他、小売業と運輸業が連携し、RORO船と呼ばれる貨物を積んだトラックや荷台ごと輸送できる船舶を、トラックの代替として活用することでCO2削減を目指す取り組みなども進行中だ。

DX活用:TMS/可視化システムで業務を最適化

モーダルシフトの推進にあたっては、デジタル技術の活用も欠かせない。

TMS(Transport Management System)と呼ばれる輸配送管理システムは、注目されるデジタル技術の1つだ。配車や配送計画、運行進捗管理、貨物追跡、運賃計算などの機能を備えるシステムで、効率的な輸配送業務実現をサポートする。

また、AIもモーダルシフト推進のカギと言える。鉄道や海上輸送等複数の運送手段を組み合わせ、納期や配送品の性質に応じて最適な輸送手段の組み合わせを提案するシステムなども開発され始めている。

このようにテクノロジーを活用して多様な輸送手段の組み合わせのハードルが下がることは、モーダルシフトの推進に大きく貢献すると言えるだろう。

国内のモーダルシフト事例

企業でも、モーダルシフトに取り組む例が少なくない。ここでは国内外の事例をいくつか紹介する。

日本通運の事例

日本通運では、総合物流企業であることを活かし、顧客に対して海上輸送や鉄道輸送を組み合わせた複合一貫輸送を提案している。また、全国の主要都市において、鉄道コンテナ基地、内航海運ターミナルなどの施設見学会・モーダルシフト説明会を開催し、顧客のモーダルシフトへの理解向上にも取り組んでいる。

佐川急便の事例

佐川急便では、トラックによる貨物輸送に加え、長距離フェリーも積極的に活用している。関東から九州間のトラック長距離幹線輸送の一部をフェリーに代替し、2022年4月〜2023年3月の1年間でCO2排出量は48%削減、ドライバーの運転時間は86%削減といった成果もあげている。

キューピーの事例

キューピーでは、長距離トラック輸送から鉄道・船舶輸送へのモーダルシフトや異業種メーカーとの共同輸送を積極的に推進している。2022年度にはモーダルシフト率31%に到達している。様々な取り組みの結果、2021年度と2022年度を比較すると、キユーピー商品の輸配送によるCO2排出量が6.0%減少した。

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モーダルシフト導入プロセスとチェックリスト

それでは、実際にモーダルシフトを推進する上では、どのようなプロセスを辿るとよいのだろうか。そのプロセスとチェックリストを紹介したい。

現状分析(輸送距離・貨物特性・CO2排出量)

まず、現在トラック輸送を行っている実績について、その輸送距離や日数、コスト等を把握する。加えて、実際に扱っている輸送品について、どのような特性があるか(重量や温度管理・振動への耐性があるかと言った取扱い時の注意点等)も認識する。

その上で、実際にどれほどのCO2を排出しているか、環境負荷の実態も把握しておく必要がある。

スキーム設計とKPI設定

続いて、前段で認識した実績や製品特性を踏まえ、具体的なモーダルシフトのスキーム設計を行っていく。その際、どの程度の環境負荷低減に繋げたいのか、移行比率目標(例:年間CO2排出量○%削減、輸送コスト○%削減等)をあらかじめ決めておくと、設計がスムーズになるだろう。

現在行っている輸送について、鉄道貨物、RORO船など、どのような代替輸送手段がありうるかを検討する。それぞれ、トラック運送をした際と比べてどの程度CO2削減につながるかを算出し、環境負荷の低減にどの程度つながるか確認することも重要だ。

方針が決まったら、具体的なスケジュールや予算を検討していく。

試行運用と継続改善

策定した計画に基づき、試行フェーズに進む。たとえば、まず特定のパイロット区間を設定し、その区間内で計画通りに運用可能かを試行するなどが有効だ。試行後は、計画通りに進んだ点や予定と乖離があった点、設定したKPIの達成に繋がりそうかといったトレースを行い、PDCAサイクルを回していく。

移行可能なモーダルシフトのスキームが見えてきたら、その成功スキームを軸に、対象区間を拡げていくなど水平展開を行なっていく。CO2排出量の計測も随時行い、計画通り環境負荷低減につながっているかどうか、モニタリングしていくことも重要だ。そのデータを踏まえて、その後もより効率的な環境負荷低減スキームを検討することができるだろう。

まとめ

モーダルシフトは、環境負荷の低減、輸送効率の向上、交通問題の解消などの社会課題の解決に影響を与える重要な取り組みだ。一方で、インフラ整備やコストの課題もある。企業の意識改革や取り組みだけではなく、国や自治体による補助制度の拡充や規制緩和などを通じて、モーダルシフトを後押しすることが求められるだろう。

モーダルシフトの推進は、持続可能な物流システム・社会の実現につながる取り組みである。今後、よりモーダルシフトが加速されることを期待したい。

 

文:武田大貴
編集:吉岡葵

 

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