よりよい未来の話をしよう

食べられる〇〇 食品の包装はゴミ箱からお腹の中へ

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2021年の年の瀬、あの桔梗信玄餅が話題になった。きなこがたっぷりとまぶされた餅に黒みつをかけて食べる長年親しまれた銘菓は、アイスやチョコレートなどのアレンジ商品が発売されるたびに世間を盛り上げていたが、今回はやや毛色が異なっていた。桔梗信玄餅は、食べられる容器での発売を開始したのだ。これまでのプラスチック製のフタと容器を“食べられるもなか”に変えた「桔梗信玄餅 極」は、その美味しさも相まって連日売り切れとなっている。

今後、他の食品の包装も食べられるようになるのだろうか?50年以上の歴史を持つ銘菓の大革命を皮切りに、この流れが国内に波及することを願い、食品包装の現在地と進化を観測してみたい。

プラスチック排出量は世界5位。包装大国、日本。

日本は過剰包装の国として有名だ。例えばインスタントカップ麺を思い出して欲しい。
〈カップラーメンを構成する包装〉
1.商品を包むフィルム
2.カップ本体
3.かやくの袋
4.粉スープの袋
5.後いれ油やスープの袋
6.フタ

書き出してみると、1つの商品を構成するのに使われている包装は、4〜6種類にもなる。
もちろん、簡素化されている商品もあるが、上記のような構成の商品が多く存在するのも事実だ。そして、その包装の多くは使い捨てプラスチックが使用されており、食べた後はゴミになる。

この過剰包装の問題は見た目の印象だけではなく、実際に統計としても表れている。オーストラリアに拠点を置くMinderoo Foundationの発表によると、2019年時における使い捨てプラスチックゴミの人口あたりの排出量で日本は世界5位となった。(※1)

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人口あたりの使い捨てプラスチックゴミの排出量のランキング、世界トップ20

考えてみれば、スーパーでは衝撃に弱い果物には緩衝材が付いているし、肉・魚も丁寧に包装されている。お菓子やパンも1つずつ包装されているだろう。これらの小さなプラスチックゴミの積み重ねが、環境に与えている影響が問題視されているのだ。
一方で、近年の持続可能な社会の実現の流れを受け、冒頭に紹介した食べられる包装など、環境を配慮した取り組みも盛んになってきている。

※1 Minderoo Foundation「THE PLASTIC WASTE  MAKERS INDEX Revealing the source of the single-use plastic crisis 」
https://cdn.minderoo.org/content/uploads/2021/05/27094234/20211105-Plastic-Waste-Makers-Index.pdf

便利さと美味しさ、そして優しさを兼ね備えた包装。

では実際に、使い捨てプラスチックは、どのような形で食べられる包装へと変化しているのだろうか。

〈食べれるうつわシリーズ:木村アルミ箔株式会社〉

最初に紹介するのは、木村アルミ箔が展開する「食べれるうつわシリーズ」だ。(※2)材料はのり、鰹節、昆布、野菜、大豆と多岐にわたる。もちろんどれも食べられる。おにぎりには海苔のうつわ、たこ焼きには鰹節のうつわ、というように、乗せる食材によって、うつわの種類を変えながら美味しさも楽しむことができる。毎日のお弁当で使用されているプラカップの置き換え商品として活躍しそうだ。

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〈パスタストロー:阿部幸製菓株式会社〉

幼い頃に、マカロニをつかってスープを飲もうと試みたことがある人も多いのではないだろうか。そのいたずら心を商品化したのが阿部幸製菓株式会社だ。その名も「パスタストロー」。(※3)

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パスタストロー

100%食品素材で作られたこのパスタストローは、ストローとして活用するための長さ・飲み物を飲み終えるまでの耐久性など、研究を重ね開発された。2021年11月11日より、PHO’MINH(フォーミン)下北沢店他にて限定本数にて試験運用を開始している。ストローとして使用した後に、茹でてパスタとして食べる、という2段階の楽しみ方も期待できるかもしれない。

〈エコフィルム「クレール」「トンボのはね」:伊那食品工業株式会社〉

海藻を原材料とする「かんてんクック」などで有名な伊那食品工業が作ったのが、食べられるフィルム「クレール」と「トンボのはね」だ。(※4)

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可食性フィルム「トンボのはね」の活用例

同社の主力製品である寒天の可能性を追求し、さまざまな形へ加工するなかでプラスチックフィルムの代用になる可食性フィルムにたどり着いた。冷水では溶けず、加熱すると溶ける寒天の性質を活用し、幅広い用途で使用されている。開発は約20年前まで遡るが、その需要は環境問題が広く知られるようになった近年、伸び続けているという。2019年には、環境省と日本財団の共同事業「海ごみゼロアワード」において、審査員特別賞を受賞している。(※5)海洋ごみの対策・削減に寄与している企業・製品としての表彰だ。受賞後も研究を続けており、耐久度を高めた製品の開発にも成功した。現在では、粉末だけでなく、油も包む研究が進められているという。

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油製品を包む研究も行っている

※2 木村アルミ箔株式会社
http://www.kimura-alumi.co.jp/wp/

※3 PRTIMES「子供の頃にやってみたかった!食品会社が作ったパスタのストロー、フォー専門店PHO’MINH下北沢店他にて11月11日より試験運用開始」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000042208.html

※4 伊那食品工業株式会社
https://www.kantenpp.co.jp/corpinfo/business/businessuse/ediblefilm

※5 海ごみゼロアワード 2019受賞活動
https://uminohi.jp/umigomizero_award2021/announcement2019.html

包装はゴミ箱からお腹の中へ

日本国内の事例以外にも、ロンドンのスタートアップ企業「NOTPLA」は食べられる包装材「Ooho」を開発した。海藻を原材料とするカプセル型の小型容器は、耐久性に優れ、スポーツジムの自動販売機やマラソンでの給水所でも活躍している。ポーション型の吸水が可能になれば、ペットボトルを持ち歩く必要もなく、ゴミも出ない。液体が入ったキューブをぽいっと口に入れる光景には驚くが、未来の飲料の形とも言えるのかもしれない。

日本では2022年4月1日から、「プラスチック資源循環促進法」が施行されることが確定した。ストロー、スプーン、マドラーやハンガーなど、使い捨てプラスチック12品目が対象となっている本法律では、事業者にこれら製品の有料化や再利用の対応が義務付けられ、違反すると罰金が課せられる。食品の包装は対象には含まれていないが、これまでゴミ箱に捨てていた包装がお腹の中に入る時代は、すぐそこまで来ているのかもしれない。


文:おのれい
編集:白鳥菜都