よりよい未来の話をしよう

すべての人に、深呼吸する時間を。 株式会社HAA 池田佳乃子さんインタビュー

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「日常に、深呼吸を届ける」
2021年11月から12月にかけて、クラウドファンディングサービスのMakuakeで別府の天然温泉成分を使った入浴剤(HAA for bath)が販売された。結果、開始1日足らずで目標金額の50万円を達成。さらにクラウドファンディング終了時には目標の7倍近くの支援を集めた。

このプロジェクトを率いるのは、株式会社HAA(以下、HAA)の池田佳乃子さん。別府にルーツを持ち、東京と別府の二拠点生活をする彼女が起業を志したきっかけ、HAAを通じて実現したい未来について話を伺った。

全ての人に深呼吸を。HAA誕生のきっかけ

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HAAが生まれたきっかけを教えていただけますか。

2018年から東京と別府の二拠点生活を始めて、湯治(※1)文化に魅了されたのがきっかけでした。別府市は私の地元でしたが、湯治文化が盛んな鉄輪(かんなわ)温泉エリアには足を踏み入れたことがありませんでした。大人になってから鉄輪を訪れ、そこで地元に湯治文化を残そうと懸命に取り組む人たちがいることに感銘を受けました。同時に、自分もそのお手伝いをしたいと思ったのです。

別府全体で見ると、6割以上は福岡から来るお客さんです。一方、鉄輪エリアには都心から1人で来る女性のお客さんも多いです。彼女たちに話を聞くと「会社を2週間休職して湯治しに来ました」と。でも、東京に帰ったらせっかく整った身体のリズムが元に戻ってしまったそうなんです。この問題を解決したいと思って。
そこで私に何ができるかと考えた時に、都会でもライフスタイルに湯治を取り入れられたら良いなと考え始めて、湯治をコンセプトにしたブランドを立ち上げました。

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池田さんご自身にも、湯治の良さを実感した経験はあったのですか。

私、前職が広告代理店と映画会社で、それぞれ激務と言われるところで働いていたんです。そのときは周囲に指摘されるくらい呼吸が浅くて。でも別府に拠点を新しく作って二拠点生活をすると、同じ1人の人間でも東京と別府での呼吸のリズムが全然違うということに気がつきました。別府だと温泉やきれいな風景に触れて自然と呼吸が深まるのですが、都会だとふとした瞬間に深呼吸する時間がなかなか取りづらいですよね。

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「HAA」というブランド名も、深呼吸をする「は〜」という音から取られたんですよね。

そうです。別府の温泉は100円で入れる共同浴場がほとんどで、おじいちゃんやおばあちゃんが温泉に浸かった瞬間に「は〜」と気持ちよさそうに呼吸をするんです。それがとても幸せだなと思って、ほっとするあの瞬間を届けたいなと思っています。HAAとして、湯治は入浴、休息、食事と睡眠という4つの要素に分解されると思っています。この4つをシンプルに過ごすことがHAAの考える湯治だなと思っていたので、第1弾はHAA for bathという形で入浴に関わる商品を考案しました。

(※1)日本に古くから伝わる治療法であり、温泉を休養・保養・療養の場として長期滞在し、入浴すること。

ミッションへの共感で集まった、HAAを支えるチーム

コロナ禍での起業ではメンバー集めに苦労するという話をよく聞きます。今一緒にお仕事をされている方はどのように集まったのですか。

会社に所属しているのは私1人だけですが、学生メンバーを入れると20人ほどのチームで動いています。学生メンバーは私が通っていた大学の後輩で、他のメンバーは信頼できる友人に紹介してもらった人がほとんどですね。全員「日常に、深呼吸を届ける」というミッションに共感してくれた人たちです。
学生・ダブルワーカーなど、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーがそれぞれの拠点からオンラインで繋がって、今のHAAの世界観や商品を作っています。第1弾のことばに包まれた入浴剤「HAA for bath 日々」もそうですけど、異なるキャラクターが集まることにより、良い化学変化が発生して自分が想像していなかった面白いものを産んでいる気がします。

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第1弾プロダクトである、温泉ミネラルの結晶「別府湯の花」を使用した入浴剤「HAA for bath 日々」。包み紙の裏にはさまざまな人々の日々が日記のような短い文章で掲載されている。

多様なメンバーが集まっているんですね。プロジェクトを進める中で何か気づきはありましたか。

当時私は都心で働いている人たちに心と体に余白を作るプロダクトを届けたいと思っていました。そうではなくて、学生も社会人と同じように疲れてストレスを抱えてるんだなと気がついたんです。それが意外でした。でもよくよく考えたらそうですよね、コロナ禍で、学生もずっとオンライン授業で家からほとんど出られない時期だったので。

興味深いですね。今はどちらかというと女性に向けてプロダクトを展開しているのかと思っていましたが、ターゲットのポテンシャルが広いように感じます。

ブランドとしてはあえてターゲットを絞ろうとは思っていないです。実際に今回クラウドファンディングで商品を購入してくださった方たちも年齢や性別には偏りはありませんでした。何歳でも、どんな人でも、みんな疲れるときは疲れる。そんなすべての人たちに深呼吸を届けたいです。

覚悟を持った人たちは面白い。地方移住コミュニティとのつながり

今、日本各地で若者が地方に移住してビジネスを始めているという話を聞きます。池田さんご自身もその1人かと思いますが、他の地域で活動されている方との交流はありますか。

全国各地で地方を盛り上げようと活動する人はたくさんいて、その人たちとはゆるく繋がっています。熱海だったらあの人がいるなとか、奈良ならあの人がいるなとか。

すごいですね。どのようなきっかけで繋がりができることが多いのですか。

皆さん活動的なので、いろんな地域に足を運んでいますね。私も、ある地域を訪れてみたら、私が別の地域で知り合った人とその土地の人が実は繋がっている、ということがよくあります。あとは、都会から地方に移住する人は価値観が近いから、SNSなどを通じても緩く繋がっているイメージです。

地方に移住して、工芸品や伝統文化を守っていこうという動きが各地で起こっているということでしょうか?

そうですね。あとは、あまり知られていないその地域独自の面白い取り組みを全国に広めようと思って自分たちで事業を始めている人たちもいます。私も世界中に湯治文化を広めたいなと思っていますし、地域にはそういった価値観の人たちが多く、とても共感します。各地域で関わる人たちは本当に面白くて前向きで、楽しい人が多いですね。

なぜ、皆さん生き生きしてるんでしょうね。

なんででしょうね…やっぱり覚悟があるからかな。こう、自分でやるぞという。みんな覚悟があります。誰かからの受け売りではなくて、自分の言葉で喋っている感じですね。だから、面白いなと思います。

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皆さんが何をモチベーションにされているのかが気になります。東京の暮らしを捨てて後がないから、というよりは自分たちが主体となってその地域を良くしていきたいという自負があるということですか。

おそらくどちらもですね。例えば会社員で働いてきたけど、もっと自分を表現したいとか自分のスキルを生かしたいという形で次のステップに進んでる人たちが多いです。今までの経験をゼロにするのは結構勇気がいりますよね。だから覚悟がないとできないなと思っています。だからといって、表立って不安感を見せたりはしないんですけど、話す言葉から覚悟が伝わってくるんです。その土地で、地域の面白さを作ろうと覚悟を持ってもがいている感じが良いなと思います。

他の地域の方々と交流して、何か気づきを得られたことはありましたか。

地域の伝統的な素材とか伝統技術を使うことには正直反発もあります。既得権益のようになりがちというか。応援してくれる人がいる一方でそのままにしておきたい人もいます。でも、覚悟を持ってやるって決めていたらできるんだなという気づきはありましたね。昔の私だったら「もう無理」と諦めてしまう場面でも、いまは違います。それをやるかやめるかは自分次第ですから。
そして1番の理由として、いまは地元にも応援してくれる人がいるから頑張れるのだと思います。別府で誰も周りに知り合いがいない状態だったらくじけてしまうようなことも、地元にも応援してくれてる人がたくさんいることで踏ん張れる。この3年以上地域で活動してきてゆるく繋がった人たちと関わりながら、これからもHAAとして事業を作っていきたいと考えています。

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湯治を「禅」のように海外に広めたい。HAAの見据える未来

HAAの今後について教えてください。第1弾のHAA for bathはコロナの時期だったからこそ「家での時間を大切にしたい」というニーズにフィットした側面があると思います。コロナ禍が明けた後、今後はどのように事業を展開していきたいと考えていますか?

おそらく、人々が仮想空間で活動し始めたり、概念的なものがどんどんバーチャルになっていくなかで、五感を使う体験がより大切になるのではと思います。個人的には、自分の五感にダイレクトに繋がる時間を日常に持つことが湯治だと思います。今後は、HAAの商品を使っていたらいつの間にか湯治をライフスタイルに取り入れていた、という状態を実現したいです。HAAで扱う商品は日本の素材や伝統技術を使ったものを採用し、日本と世界を湯治を通して繋ぐようなことができたらいいなと思います。

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世界、ということは海外展開も見据えているのでしょうか。

はい。最終的には10年後ぐらいの話かもしれませんが、海外における禅文化や茶道と同じ立ち位置に湯治を普及させたいと思っています。そこまでにHAAとしての湯治の体験やプロダクトができている状態にしておきたいですね。そのような展開の中で湯治が日本の文化として残っていったらいいなと思っています。

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インタビュー中、池田さんが「覚悟を持って取り組む人々は面白い」と述べた箇所が印象に残った。なぜなら、池田さんからもある種の「覚悟」を感じたからだ。その覚悟が湯治の魅力を広め、周囲を巻き込む原動力になっているのだろう。

そして、池田さん自身が二拠点生活を経験し、都会と地域の暮らし方のギャップに疑問を抱いたことから生まれたHAA。第1弾プロダクト商品化の過程で得た「何歳でも、どんな人でも、疲れるときは疲れる」という気づきはブランドのミッションをより強固なものに変化させた。すべての人に深呼吸する時間を届けるための池田さんの挑戦は、これからも続く。

池田佳乃子(いけだ・かのこ)
1988年、⼤分県別府市生まれ。⻘⼭学院⼤学卒業後、映画会社、広告代理店を経て、2018年より別府にある湯治場「鉄輪温泉」でプランナーとして活動を始め、2021年に株式会社HAAを設⽴。「⽇常に、深呼吸を届ける」をミッションに湯治をコンセプトにしたライフスタイルブランド「HAA」を立ち上げる。別府と東京の2拠点⽣活4年⽬。温泉が⼤好き。

HAA公式サイト https://haajapan.com/


取材・文:Mizuki Takeuchi
編集:おのれい
写真:服部芽生