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「ダンスの裾野を広げたい」 CyberAgent Legit TAKUMIさん・地獄さんインタビュー

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2020年8月、ダンス界に新たな風が吹いた。日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE(以下、Dリーグ)」が発足したのだ。国内外で活躍するダンサーが集結し、2年目を迎えた21-22シーズンは、全11チームが12回にわたるROUND(ステージ)で凌ぎを削りCHAMPIONを目指す。Dリーグが設ける「新作であり、かつオリジナル楽曲を使用すること」というユニークなルールのもと、挑戦を続けるDリーガーたち。その中でも、独創的な作品で観るものを魅了する「CyberAgent Legit(以下、Legit)」のリーダー TAKUMIさんとメンバーの地獄さんに、表現者としての思いやDリーグにかける熱意をうかがった。

「やってみる」で広がった世界。
自分が踊ることで、勇気を届けたい

2021年11月。21-22シーズンが始まった。熱気に包まれる会場で初戦を観戦した筆者は、Legitのパフォーマンスの熱量に圧倒された。ROUND.1に込めたメッセージについて、制作の中心となったTAKUMIさんにうかがった。

ROUND.1のパフォーマンスはどんなテーマを元に制作されたのですか?

TAKUMI:ROUND.1のコンセプトは「勇気」や「勇敢」でした。新しい挑戦をする時、周りの意見や常識、固定概念が原因で諦めてしまう人もいると思います。自分もDリーグという新しいことに挑戦する時、不安や怖さはありましたし、周りの意見が気になってしまう瞬間がありました。それでも思い切って挑戦したら、今は「やってよかった」と思うことばかりなんです。自分たちが踊ることによって、新たな挑戦をする人に少しでも勇気を与えられたらという思いを込めて作りました。

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ⓒD.LEAGUE 21-22

後半、TAKUMIさんの衣装の紐をチームメンバーが取る場面が印象的でした。

TAKUMI:今回の衣装では、さまざまな感情を紐の色で表現しました。ステージで引き抜かれた青い紐はネガティブな感情を象徴していました。挫折を経験しながら、ネガティブな感情から解放され(紐をメンバーが取る場面)、挑戦に立ち向かっていくというストーリーを表現しました。今シーズン、Legitの取り組みとして文化服装学院の生徒のみなさんにご協力してもらい衣装を作っていただいています(※1)。曲は、宮田‘レフティ’リョウさんと僕たちで、じっくり話をしながら1つずつ制作していただいています。衣装や音楽、それに加えてダンスと総合的なクリエイティブ力が求められるのがDリーグです。徐々に慣れてきましたが、Dリーグが始まる前には思いもしなかった新たなことに挑戦しているな、と実感します。

※1 文化服装学院HP「服装科2年生がプロダンスチームCyberAgent Legitのステージ衣装を制作!」
https://www.bunka-fc.ac.jp/ct-collabo/22230/

悔しさを乗り越え、昇華し進んでいく。
必要なもの以外は全て削ぎ落とす、その覚悟とは

11月25日に開催されたROUND.2では、ビートが一切無い、アカペラのラップに合わせたステージを披露した。Legitのチームとしての思いを伝えるために挑戦した表現だったそうだ。

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ⓒD.LEAGUE21-22

ROUND.2では、ROUND.1の雰囲気からガラリと変わって「もがきながらも戦っていく」という思いが伝わってきました。

地獄:ROUND.2は、Beat Buddy BoiのToyotakaさんに制作をお願いしました。20−21シーズンでは自分たちがメインとなって制作しましたが、自分たちの良さを残しつつも進化していくために、振付師さんをお招きして一緒に作っていくという形を取りました。テーマは「独白」でした。僕たちは、昨シーズンあまりいい結果ではなかったという事実を受け止めるために、チームでたくさん話し合いました。そのなかで、反省を昇華させたいという思いが強くなり、「関わってくれる人全員に感謝しながら、前を向いて進んでいく」という覚悟が詰まった作品になっていきました。

ビートがなく言葉だけに合わせたパフォーマンスはチャレンジングですよね。この形で勝負しようと思い至った経緯を教えてください。

地獄:昨シーズンのLegitを振り返った上で、これから目指す姿を示すために、1番伝わりやすい方法として言葉、その中でもラップでやっていこうとToyotakaさんに提案してもらいました。正直、僕らも驚きました。リスキーだし、どうしたら魅せきれるだろう?という不安もありましたが、伝えたいことを伝えるために、敢えてシンプルに、必要なもの以外は削ぎ落とそうと決めました。

多角的な評価だからこそ自分たちらしさで挑むことを選んだ。

ROUND.3では大きなハットが印象的でした。高さや角度が揃っていないと目立つ衣装で、リスクではないかと思うのですが、敢えてDリーグで挑戦されていましたよね。怖さはなかったのですか。

地獄:この作品はebonyのMEDUSAさんに振付していただきました。その中でこの衣装を提案していただきました。確かにズレると目立ちますが、反対に揃えられたらそれは強みにもなるし、インパクトを残したいなという思いでした。揃えることでメンバーそれぞれの個性やかっこよさも引き立てることができると思いました。

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ⓒD.LEAGUE21-22

「Legitらしさを表現すること」と、「審査員の方々に評価されること」のバランスについては、どのように捉えていらっしゃいますか。

地獄:そのバランスは難しくて、いまだに試行錯誤しています。

TAKUMI:ダンスには「アート」と「スポーツ」の要素があると思っています。順位ばかりを追ってしまうと、よりスポーツ化されてしまう。スポーツではないダンスだからこそ、思いや感性を活かした、自分たちならではの表現を提示したいです。塩梅は難しいのですが、アートとスポーツのちょうど間をいきたい。今シーズンは、審査員に評価されるものよりも、自分たちが表現したいこと・伝えたい思いを重要視して制作しています。

Dリーグの審査では、プロのダンサーとエンターテイナーに加えて、オーディエンスによる投票も点数となります。共通の評価基準がない中で何を意識して作っていますか。

地獄:審査員の方々はそれぞれのフィールドのプロの皆さんで、好みも見え方もそれぞれに異なり、全員に合わせるのは難しい。だからプロの審査員・観客審査にとらわれすぎずに、僕たちが表現したい思いを伝えることが大事だと思っています。そのうえで、ダンスが好きで観てくれている方にも好まれるように、振り付けで玄人的な要素を取り入れつつ、分かりやすいストーリー性も含んだパフォーマンスにすることを意識しています。メッセージの核や僕たちの色・強みは変えずに、いいバランスで創ったものを評価していただきたいです。

もっとダンスを身近に。
ダンスの地位向上を目指す彼らのビジョンとは

Dリーグへの参戦を決意された理由を教えてください。

TAKUMI:ダンスが主役になる舞台の中で、これまでにない大規模な取り組みであること、複数の企業が参画することに興味を持ちました。僕は中高生の頃にダンサーを仕事にするか迷ったんです。エンターテイメントに関わる職業は、他の職業よりも安定する可能性が低い。ダンスは好きだけど、趣味としてやっていくしかないのかなという思いを抱いていました。そんな時、ダンスの地位向上を目標の1つとした、日本発のダンスのプロリーグ「D.LEAGUE」が立ち上がったんです。Dリーグが盛り上がって、子どもたちに「ダンスを仕事にしたい」と思ってもらえたら、好きなことを諦めずに続けられるきっかけになるんじゃないかな、と思ったんです。その為にも、ダンスの地位向上に貢献したいという思いを抱き、参戦を決意しました。

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次の世代がダンスで輝くための舞台をつくるという意味でも、日本でダンスをメジャーにしていくというDリーグのビジョンに共感されたんですね。

TAKUMI:最近は「Dリーガーになりたい」と言ってくれている子どもがいるんですよ。そういう子がもっと増えたら、自分がダンスを続けている意味があるなと感じます。日本社会において、ダンスの存在感をより大きくしていくこの機会に携われていることに充実感がありますし、本当に感謝しかないです。

地獄:ちょっと昔まではダンスをやっている人のイメージがあまり良くない時代もありました。それが、EXILEさんをはじめ様々なアーティスト、ダンサーの皆さんの活躍やダンスの必修化(※2)やオリンピック種目に採用されるなど、いい印象が上書きされるようになってきました。Dリーグは2週間に1度にいろんな媒体で観られて、気軽さがあります。その流れの中で、また違ったダンスの魅力を知ってもらえたら嬉しいです。決して僕たちみたいに踊ってほしいわけではなく、僕たちをきっかけにダンスに出会ったり、生きる活力になれたら嬉しいです。その先でダンスを習う人や、もっと突き詰めたいという人が増えたら、ダンス業界全体のレベルも上がっていくのではないかと思います。

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LegitはROUND以外でもファンの方々との交流を盛んにされていると伺いました。

地獄:オンラインとオフラインで週に1回、無料でレッスンを開催しています。僕たちのことを知ってもらうだけでなく、ダンスの面白さを伝えたり、言葉以外のコミュニケーションをとれる場でもあります。ダンスは、それだけで人とつながるきっかけになります。海外でも、言葉は通じなくてもダンスを通して仲良くなることがよくあります。レッスンでは技術的な相談はもちろん、プロと身近に会ってコミュニケーションできるという点でもすごくいいなと思います。

TAKUMI:あとは、スタジオに来てもらい、Dリーガーがダンスをしている環境を肌で感じてもらえることが1番の魅力だと思っています。ダンサーにとって専用スタジオが用意されている環境はなかなかありません。Dリーガーになったらダンスに没頭できる環境を整えてもらえるんだ、と感じてもらえたら、もっとDリーグに対する興味が高まるんじゃないかと思っています。

Legitは2021年11月より、渋谷区が推進する、区立中学校の部活動を地域企業・団体と合同で行う新たな取り組み「シブヤ『部活動改革』プロジェクト」に参画している。昨今教育現場における部活動指導は、長時間勤務や指導経験のない教師の負担になっているケースが見受けられることから、部活動を教育現場だけで行うことは困難になってきている。また、学校によっては生徒が希望する部活動が存在しなかったり、部員が少なく思うように活動できない現状がある。そこで同区では、部活動の地域への移行を進めるプロジェクトが始まり、Legitは指導教員として参画しダンス指導を提供する予定でいる(※3)。プロダンサーによる部活動指導の機会は、関わる学校・教員・生徒、そして指導をする彼ら自身にとっても新たな冒険とも言える。ソーシャルイシュー解決の緒(いとぐち)としてのダンス。そこで起こる化学反応にも期待が高まる。

※2 2008年に改定された新学習指導要領により、2012年より中学校体育の授業でダンスが必修化された。
※3 CyberAgent HP「プロダンスチーム CyberAgent Legit、渋谷区の「部活動改革」プロジェクトに参画 EXILE TETSUYA氏と渋谷区立中学校の「ダンス部」を支援」https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=26832

「違い」は「学び」になり「強み」にもなる。
“Impossible is Nothing”を掲げた理由

それぞれ異なるジャンルで世界トップレベルで活躍されてきたメンバーが集結しているLegitですが、ジャンルが共通でないなかでどのように高め合っているのですか。

地獄:お互い強みが異なるので、個人の上達がチームの向上にもつながります。なので、チーム内で教え合うことは日頃から意識しています。お互いの苦手な部分や得意な部分を理解し、助け合うことで自分たちのチームの色も同時に生まれてきているし、そういった繰り返しの中で向上していく姿は、僕たちの見せ方にも合っていると思います。また、様々なジャンルの人がいることで、見せ方の幅が広がります。これはLegitならではの強みだと思います。

TAKUMI:1つのムーブだけでも、他のジャンルからの見え方だと大事にしているポイントが違ったりします。そういった多角的な視点を取り入れることによって、お互いに気付きを得る毎日です。このチームにいてよかったなと、思う瞬間でもあります。

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Legit自身が認識しているキャラクターと、プロデューサー陣が見出すキャラクターにはギャップがある場合もありますよね。いろんな人に関わってもらう良さはどんなところにあると思いますか。

TAKUMI:自分たちの奥深くに眠っている魅力を、どんどん引き出してもらっている感覚があります。昨シーズンでは、色々模索しながらも自分たちの強みに気づきました。そこからもう1段階ステップアップするために、振り付け師や音楽プロデューサーの方をお招きして、自分たちでは辿り着けない表現をプロの視点から引き出してもらっています。

地獄:ROUND.2は音があったほうがいいのではないかという意見もあったのですが、敢えて音を使わないという提案がされて良い作品ができました。僕たちだけでは辿り着けない答えだったので、感謝していますし、とても学びになっています。
僕たちは、21-22シーズンでは“Impossible Is Nothing”(=不可能はない)というスローガンを掲げています。昨シーズンはうまくいかなかったけど、そこで諦めるのではなく、壁や困難に立ち向かうという姿勢で、新しいものを取り入れて、様々なことに挑戦をしていきたいです。

Dリーグでの活躍を通してその先にどのようなダンサーになっていきたいですか。

TAKUMI:次世代の子どもたちに「ダンサーになりたい」という夢を持ってもらいたいです。そのためにも、いちダンサーとして経験を積んで極めるだけではなく、いろんなところで自分の活動を発信したいです。僕自身、小さい頃には、イチローさんに憧れてずっと野球をやっていました。そういう影響力がある人間になれたらいいなと思っています。

地獄:僕は自分の可能性をもっと広げて、表現者として豊かな人になっていきたいです。ダンスを通していろんな人に出会えたし、いろんな経験もできたことにすごく感謝しています。自分の活動を通して、ダンスがいいものだということを広く知ってもらいたいです。そのことで、ダンス業界にも恩返ししたいなと思っています。また、ダンス経験の有無に関わらず、LegitやDリーグから刺激を受けて、「頑張ろう!」と思ってくれる人が増えたらいいなと思います。

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胸に秘めた思いを、唯一無二の表現で伝えることを信念とする姿勢。Legit(=質の高い本物)を求めて挑戦を重ね、ひたむきに努力し続ける姿。ほとばしるような情熱の奥にある、ダンスへの感謝の念や、ダンス界を盛り上げ次世代へ繋いでいきたいという使命感。ダンスに対する彼らの思いは、彼ら自身のまだ見ぬ未来への希望で溢れていた。特に印象的だったのは、他者をリスペクトし様々な意見をどんどん取り入れて成長していく姿勢だ。自分と異なる価値観を受け入れ、柔軟に自らを変化させていく謙虚さは、正解のない時代を生きる私たちへの示唆に富む。

そんな彼らのステージでさらけ出される感情は、私たちの心を震わせ、困難の立ちはだかる現代を生きるための、優しく力強い勇気を与えてくれる。これからのLegitのパフォーマンスからも目が離せない。

■CyberAgent Legit 公式SNS
Instagram https://www.instagram.com/cyberagentlegit/
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取材・文:髙山佳乃子
編集:おのれい
写真:服部芽生