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この絵文字の意味知っていますか?絵文字から読みとく多様性

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いつの間にかテキストコミュニケーションにおける重要な一部を占めるようになった絵文字。友人や家族などとのLINEやメールではもちろん、仕事上の会話でも絵文字を使っているという人も少なくないだろう。筆者含め、デジタルネイティブの世代にとっては、物心ついた頃から身近な文字のひとつとして扱われてきた。

絵文字が日本発祥であることは有名であろう。現在、世界中で使用されている絵文字のルーツはポケベルで使用されていたハートの絵文字にある。画面はモノクロで、現在のコミュニケーションアプリよりも文字数が限られていたポケベル。ハートマークはテキストコミュニケーションにおける感情表現を豊かにするための文字だったようだ。その後、ポケベルのハートマークにインスピレーションを受け、1999年にNTTドコモより発売された「iモード」では176文字の絵文字が登場したのである。

意外にも、世界的に絵文字が広がったのは2000年代半ばのことである。2006年頃にGoogle主導で絵文字は「Emoji」として広がり、グローバルに使用される文字になった。そんな絵文字は現在、どのように作られているのだろうか。

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絵文字が文字として認められるには?

上述の通り、絵文字は2006年頃から始まったGoogleのプロジェクトによって世界へと普及されていった。その際に行われたのが絵文字の「Unicode化」である。Unicodeとは日本語で「符号化文字集合」と呼ばれ、文字とその文字をコンピュータで処理するために与えられた番号の集合やその定め方を含む文字の世界的な規格のことを指す。このUnicode化がなされたことによって絵文字が世界的に「文字」として利用できるようになったのだ。

日本で使用されているスマートフォンのうち約6割のシェアを誇る(※1)iPhoneに絵文字が登場したのは2009年のことだ。初めは日本のユーザーだけに向けた機能で、日本語に設定した時のみ使用できるようになっていた。現在ではご存知の通り、日本だけでなく世界中のiPhoneに搭載される機能となった。

新しい絵文字を作るとき、世界的な絵文字として認定されるにはUnicodeを扱う協会「ユニコードコンソーシアム」で承認される必要がある。Unicodeの公式サイトに公開されている絵文字の採用プロセス(※2)に沿って、提案書を提出することで誰でも新たな絵文字を提案できる。提案は毎年4月15日から8月31日までの間に受け付けられている。提案された絵文字は数多くの基準を元に判断され、実際の使用まで至る。例えば、その絵文字は世界中で使用されるのかどうか、1つの絵文字が隠喩的な意味合いや象徴性を持った複数の使い道があるものかどうか、などだ。毎年気がついたら新しい絵文字が増えていた、という人もいるだろうが、実は密かにこのような手順が踏まれて絵文字が追加されているのである。2021年末〜2022年頭には新たに37の絵文字が追加されることが公表されている。

※1参照:株式会社ウェブレッジHP「スマートフォン・シェアランキングTOP10」
https://webrage.jp/techblog/sp_share/

※2 参照:UNICODE「Guidelines for Submitting Unicode® Emoji Proposals」
https://unicode.org/emoji/proposals.html

この絵文字の意味、知っていますか?

そんな絵文字だが、毎年追加される新たなものはトレンドや社会の動きを汲んでニーズに合わせた制作が行われている。そのため、よく見ると年々ダイバーシティをイメージした絵文字が増えている。しかし、いざひとつひとつの絵文字の意味を説明してみようと思うと、一体何を表した絵文字なのか分からないものもある。本来の意味を知られずに使用されている絵文字も多いのではないだろうか。筆者が気になった絵文字をあげていくつか紹介したい。

〈1〉Deaf Person

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この絵文字、見たことはあるだろうか。2019年に登場したこの絵文字、英語では「Deaf Person」とされ、難聴や聴覚障がい者の方を表す。人差し指で耳と口の間を行き来するジェスチャーを表しているのだが、これはアメリカの手話で用いられている聴覚障がい者のサインだ。Apple社がユニコードコンソーシアムに提案した絵文字であり、同社はこのほかにも車椅子に乗った人や補聴器をつけた耳など、障がいを持つ個人にフォーカスした絵文字を展開している。

2016年時点で、日本だけでも聴覚障がいのある方は29万7千人いるとされている。(※3)耳が不自由な方にとってこそ、絵文字を含む文字でのコミュニケーションは大きな役割を果たす。

※3 参照:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「聴覚障がいのある雇用者の活躍に向けて ~データからみた雇用の現状と課題の分析~」
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/05/seiken_190510_1.pdf

〈2〉Guide Dog / Service Dog

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同じくApple社の提案によって導入されたのが、この2匹の犬の絵文字である。それぞれリードをつけられており、一見、散歩中の犬のように見えるが、よく調べると別の意味を持っていた。

明るい茶色のラブラドールレトリバーは盲導犬だ。盲導犬は視覚障がいのある人が移動や生活をしやすくするために導くために訓練された犬のことで、実際にラブラドールレトリバーが選ばれることが多い。また、黒い犬は介助犬で、よく見るとベストを着ている。介助犬は手や足に障がいのある方の手助けをしてくれる訓練を積んだ犬のことを指す。レストランなどの店や公共施設にも人と一緒に入ることの多い介助犬は、毛が飛び散るのを防ぐために「マナーコート」と呼ばれる服を着せられていることが多い。

日本国内だけで言えば、2021年10月時点でこれらの盲導犬や介助犬を含む補助犬の実働頭数は1000にも満たない。(※4)それに対して盲導犬の希望者は約3000人(※5)、介助犬の希望者は15,000人(※6)とも言われている。ニーズに対して補助犬の数が足りていないのに併せ、まだまだその認知も足りていない。国内では、飲食店への同伴が断られてしまうこともある。このような状況の中で2019年に登場した2頭のこの絵文字は、補助犬の認知向上にもつながる可能性を秘めているのかもしれない。

※4 参照:厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部「身体障害者補助犬実働頭数(都道府県別)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000851029.pdf

※5 参照:nippon.com「日本の盲導犬:928頭が稼働中も数は漸減、欧米と大きな差」
https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00644/

※6 参照:日本補助犬情報センター「介助犬について」
https://www.jsdrc.jp/hojoken/kaijoken/

〈3〉 Transgender Flag

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パステルカラーのピンクと水色のフラッグ。2020年に登場したこの絵文字はInstagramなどのSNSでも可愛らしいモチーフとして扱われているのをよく見かけるのだが、本来の意味をご存知だろうか。

このフラッグはトランスジェンダーのコミュニティを意味する旗である。ブルーが男性、ピンクが女性、中心のホワイトが移行期のジェンダーがない状態を表すとされている。11月20日は国際的な記念日である「トランスジェンダー追悼の日」で、SNS上でもこの絵文字を多く目にすることとなった。この記念日が象徴するように、世界ではいまだにトランスジェンダーの方を標的とした痛ましい事件や誹謗中傷が絶えない。このフラッグの絵文字を使用する前にはそういった背景も視野に入れておきたいところだ。

トランスジェンダーの旗以外にも、セクシャルマイノリティのコミュニティを表すフラッグは数多くある。1番最初に登場したのは6つのカラーからなるレインボーフラッグで、1978年のことだ。政治家でゲイのハーヴェイ・ミルクが美術家のギルバート・ベイカーに依頼し、コミュニティーの象徴として製作されたのが始まりだとされている。多様な性を表現するために、レインボー以外のカラーも増え、絵文字にもさまざまなフラッグが採用されている。

〈4〉Diya Lamp

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茶色い器の中で燃えるろうそく、この絵文字が何なのか日本ですぐに答えられる人は少ないかもしれない。この絵文字が表現しているのは「ディアランプ」または「オイルランプ」と呼ばれるものだ。インドなどで主にヒンドゥー教のお祭りに使用されている礼拝用品で、器の中にオイルを入れて使用する。

ヒンドゥー教徒の数は、2050年には14億人近くまで増加すると予測されている。(※9)これは人口増加の影響ももちろん受けているのだが、ヒンドゥー教以外にも世界的にいずれかの宗教を信仰する人の割合が増えるとされている。ピュー・リサーチ・センターのデータ(※10)では、無信仰の人口割合は2015年時点では全世界の人口のうち約16%を占めていたのに対し、2060年には13%ほどに減少すると予想されている。無信仰の人が多い日本にいるとなかなか実感がないかもしれない。

ディアランプの他にも、宗教に関する絵文字が近年増えている。キリスト教の教会、ユダヤ教のシナゴーク、イスラム教のモスクなど、宗教に関する建造物の絵文字が存在する。また、日本の着物やインドのサリーなど、各地域に根ざしたファッションアイテムなども絵文字として登場している。多様化する世界において、宗教や各地域の文化を残していくことも絵文字の重要な役割なのかもしれない。

※9 参照 :Pew Research Center 「THE FUTURE OF WORLD RELIGIONS: POPULATION GROWTH PROJECTIONS, 2010-2050 Hindus」
https://www.pewforum.org/2015/04/02/hindus/

※10 参照:Pew Research Center 「Why people with no religion are projected to decline as a share of the world’s population」
https://www.pewresearch.org/fact-tank/2017/04/07/why-people-with-no-religion-are-projected-to-decline-as-a-share-of-the-worlds-population/

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これ以外にも、近年の変化として大きいのはひとつの絵文字のパターンが増えたことである。例えば手を繋ぐ2人組が男女だけではなく同性同士、あるいは肌の色の異なる2人組、などというように組み合わせの幅が広がってきている。これは家族の絵文字も同様で、同性カップルの間に子どもがいるパターンなどが追加された。

また、職業やコスチュームに関する絵文字もパターンが増えている。2020年にはベールを被った男性が登場したり、タキシードの女性が追加されたりしている。さらに、男女のみならず、Xジェンダーやノンバイナリーの人にも対応して性別を感じさせないような絵文字も現れている。

来年登場予定の絵文字は?

こうしてみると、かつての絵文字がいかにステレオタイプ的だったかということにもハッとさせられる。初めてカラーの絵文字が登場してから20年以上が経過したいま、時代の流れとともに絵文字はどんどんと進化している。

2021年の年末には、さらに新しく37個の絵文字が登場することが公表されている。中には王冠を被った女性や妊娠中の男性、さらにはK-POPブームとともに大流行したフィンガーハートなどの絵文字などが含まれている。社会の流れを汲み取り、ポップでキャッチーなアイコンを作り出す絵文字。もう一度よく見直してみると、気づいていなかった多様な世界が見えてくるかも?

 

文:白鳥菜都
編集:柴崎真直