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有名税は仕方ない?人の権利を守るということ

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「あの俳優とあの俳優は、共演NGなほど仲が悪いらしい」
コロナも落ち着きやっと普段の生活が戻ってきた最中、そんな記事が世間を騒がせた。テレビのワイドショーからネットニュース、そしてSNSまで、有名人の私生活を暴くような報道は日々絶えない。時には真偽すら定かではないニュースでも、世間は騒ぎ、不確かな情報はあたかも事実であるかのように広まっていく。人々の無責任な言葉や視線は時に、本来であれば人に知られるようなことではない事象にまで向けられ、当事者の意見や事実とは遠くかけ離れた場所で渦を巻く。「有名税でしょ」という言葉を免罪符のように振りかざし、報道で、週刊誌で、そしてSNSで、有名人を必要以上に中傷する風潮は、この日本に確かに存在してしまっている。

有名税は払わなければいけないものなのか?

「有名税」という言葉はどういう意味を持つのか。広辞苑には下記のように記されている。

有名税(ゆうめいぜい)とは、有名であるが故に、知名度と引き換えに生じる問題や代償を税金に例えた単語(※1)

主に芸能人やスポーツ選手、公人など、人目に触れやすい立場にある人々が何らかの行動を起こした時に使われる言葉だ。一般の人がその行動をしても大事にはならないのに、有名人がそれをしたから、というだけで多くの人から非難されたり後ろ指を指されたりする状況のことを言う。メディアから向けられる執拗な視線がその代表例だ。パートナーの有無や試験の合否、交友関係、健康状態に至るまで、他者に知られる必要のないプライベートなことまで世間の目に晒される。その結果、見知らぬ人から殺人・傷害予告を受けたり、根も葉もない噂を立てられたりと、日常生活まで侵されてしまう。中には、好奇の目にさらされることで精神的負担を抱え、心を病んでしまったり、最悪の場合自ら命をたつことを選択する人もいる。同じ人間であることには変わりがないにも関わらず、「有名だから」という理由で、生命まで脅かされてしまうことも珍しくない。

2020年5月23日には、恋愛リアリティー番組「TERRACE HOUSE TOKYO2019-2020」(Netflixおよびフジテレビ系)に出演中だったプロレスラーの木村花さん(22)が亡くなった。木村さんの番組内での言動に対して批判が殺到し、SNSを中心に人格否定や事実無根の内容が書き連ねられるなどの苛烈な誹謗中傷を苦に、自ら命を絶ったといわれている。

有名人の性質上、注目を集めてしまうことがある中で、有名税にどう立ち向かうべきなのだろうか?

※1 引用 『広辞苑 第六版』(岩波書店、2008年)

有名人が「人として」生きるために

先の俳優の不仲報道には、続きがある。当該俳優同士がそれぞれのSNSで、報道を否定するようなコメントを出したのだ。他にも俳優仲間やミュージシャンなどが自らのSNSで意見を発信し、事実無根の内容を報じるメディアの報道姿勢に対して批判した。また、それらのコメントは多くの人々からの反響を得て、あらためてスキャンダル報道について考える機会になった。SNSの台頭により、有名人を取り巻く環境に少しずつ変化が出てきている。不特定多数からダイレクトに中傷を受ける危険性が高まった一方で、自身の言葉をより広い範囲の人に直接発信ができるようにもなった。

重要なのはこのSNSでの活動の中で、さらなる誹謗中傷が生まれないように社会全体が理性を持つことだ。匿名性が高い空間だからこそ、簡単に人を傷つけることができる。言葉の暴力性を理解し、注意して使用することが大切だ。

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2021年10月21日、侮辱罪の厳罰化を盛り込んだ刑法改正案の要綱が法務大臣に答申された。(※2)SNSでの誹謗中傷が社会問題化していることを受けての動きだという。侮辱罪とは、刑法231条で定められている罪で、不特定または多数人が認識できる状態で他人を誹謗中傷する行為を指す。現行の侮辱罪は「拘留(30日未満)か科料(1万円未満)」という法定刑が定められているが、改正後は「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」という法定刑になることに加え、公訴時効も現行の1年から3年に延びる予定だ。

侮辱罪と同じ親告罪の中には、刑法230条に定められている名誉毀損罪がある。不特定または多数人が認識できる状態で、事実を適示して、他人の名誉を傷つけ社会的評価を低下させる不法行為や犯罪を指す。2つはとてもよく似た犯罪だが、名誉毀損罪は、事実の適示が必要なうえに、「社会的評価の低下」が起こる行為であることが示されないと成立しないことになっているため、侮辱罪よりも認められづらい。SNS上の誹謗中傷は主観に基づく発言であるとされてしまうケースも多く、確実な立件のため、侮辱罪を適用することも多い。冒頭に扱った木村花さんの事件の際も同様で、ネットに誹謗中傷を書いていた男性は略式起訴されたものの、9000円の科料を支払うに留まった。だが、今回の答申を受け、来年の通常国会で改正案が提案・通過すれば、個人の主観による誹謗中傷についても、厳罰に処することができるようになる可能性が高い。法制度の面からも、誹謗中傷を問題視し、取り締まっていこうという社会の流れが見て取れる。

この流れを受けて、有名人を守るべき立場の人(所属事務所や所属団体など)は、今までよりもさらに強くアンテナを張る必要がある。芸能事務所の中には、SNS上で行われた誹謗中傷に対して、法務部が訴訟等の対応をとり、またその旨をSNSを通じて法務部専用のアカウントで周知するなどして誹謗中傷の抑止力となっているところもある。

ここ数年エンタメ業界が目覚ましい勢いで成長する韓国では、誹謗中傷対策が国をあげて講じられている。名誉棄損などの罪が認められた場合、日本よりも遥かに高額な罰金が科される。近年もアイドルグループへの誹謗中傷が法律違反で訴えられた際には、3000万円の罰金刑が課されることもあった。韓国におけるリテラシー向上を受け、日本でも、いわれのない批判からアーティストの権利を擁護するため、ファンらがSNS上で自主的に団体を立ち上げ運動する動きがある。韓国のエンタメが日本に流入されるにつれ、「アーティストを保護する考え方」も一緒に広がりを見せている。少しずつではあるものの、社会全体としての仕組みづくり、そして市民によるボトムアップの働きかけが実を結びつつある。

※2 参考 ITmedia NEWS 「侮辱罪厳罰化でネット中傷抑止期待 名誉棄損との適用の違いは」(2021年10月22日)  https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2110/22/news060.html

仕方ない、はもう古い。

他人を中傷することも、プライベートを暴いてお金儲けをすることも、絶対にあってはならないことだ。しかし、そういう機会に遭遇してしまったら…このSNS時代では、有名人に限らずとも、少しツイートがバズっただけで白羽の矢が立ってしまうことがあるかもしれない。そんなときのためにもまずは、話のネタとなる相手も自分と同じ人間であるということを思い出すべきだ。そして、万一自分が被害にあったときには、権利を主張して、法的に対抗しなければならない。何よりも、そういう被害にあっている人が声を上げられるように、社会全体が風通し良くあるべきであろう。


文:森ゆり
編集:柴崎真直