
いまや誰もが当たり前に利用しているインターネット。だが、そんなインターネットの存在がもしかしたらその人の歴史や社会に、大きく関わっている可能性があるかもしれない…。この連載では、さまざまな方面で活躍する方のこれまでの歴史についてインタビューしながら「インターネット」との関わりについて紐解く。いま活躍するあの人は、いったいどんな軌跡を、インターネットとともに歩んできたのだろう?
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ジュージューと調理される音が食欲を誘う動画や、旬の食材が色鮮やかに並ぶ投稿、忙しい日々でも時短でできる簡単レシピ。SNSを開けば、そこにはさまざまなレシピが溢れている。インターネットで献立を探す人も多いのではないだろうか。
今回お話を伺うのは、レシピサイトやSNSを通じて食の楽しみを伝えている料理家のあやかさんだ。Instagramでは19.5万人のフォロワーを持ち、2024年にはレシピ本も出版した彼女。そんなあやかさんが料理家になるまでのキャリアには、彼女の惜しみない努力とインターネットがあった。

ときめく器と料理、カフェに魅了された
初めてインターネットに触れたのはいつでしたか?
中学生のときですね。ガラケーを買ってもらったことがきっかけでした。当時、個人ホムペ(ホームページ)が流行っていて、いろんな友達のホームページのBBS(電子掲示板)や日記、プリクラの載ったアルバムなどを見ていました。会わなくても友達の日常や写真が見られることに感動して、中学校のときはずっとホムペに没頭していました(笑)。
私以外にも、みんな友達づくりにホムペを活用していましたね。バレーボール部に入っていたのですが、友達の繋がりで他校のバレー部の子のホムペに飛んで、仲良くなりたいな〜という人がいれば、コメントを残すこともありました。そこから実際の試合で会って話すことも。
積極的に交流していたんですね。学生時代の趣味はなんでしたか?
中高は進学校で勉強と部活に没頭していたのですが、大学生の頃に自由な時間が増えてからは、カフェ巡りにハマりました。それまでご飯は食べるだけ、お腹を満たすものというイメージだったのですが、カフェの器に盛りつけられた料理の美しさやトキメキに出会い、お料理は心まで満たしてくれるものなんだと気づいたんです。
1日5軒くらいカフェをはしごすることもあって、プリンを食べ過ぎてコレステロール値が上がってしまったくらい(笑)。当時は、さまざまな場所に出かけて、カフェの料理を見たり写真を撮ったりすることが生き甲斐でした。
その頃はちょうど「インスタ映え」という言葉も流行っていましたよね。
そうそう。カフェにハマってからは、Instagramで視覚的な情報を得るようになりました。Instagramで素敵な投稿をされている方や、自分の趣味が合いそうだと思った方にいいねして、友達になって一緒にカフェに行くこともありましたね。
そうやって好きを共有できる友達が増え、話をするなかで趣味が深まっていくのはとても楽しかったです。自分の考えや人の輪を広げられたことで、こんなに人生がふくふくするんだなぁと感じました。

夢のために努力した公務員時代
当時抱いていた夢はありましたか?
学生の頃から、将来はカフェを開くんだ、と決めていました。カフェが大好きで、カフェから幸せをいただいていたから、私もそれを提供できる人になりたいと思ったんです。
でも、夢があるだけではやっていけないと分かっていました。そこで、まずは視野を広げ、経済的な自立をするために就職することに決めました。自分の好きなカフェが沢山ある地域に住める職業に就こうと考え、転勤のない役所の公務員になりました。
夢の実現のために経済的な自立を目指したこと、公務員になる決断、そして就職したその遂行力、すごいです…!目標があるからこそすべて意味がある決断ですよね。
ただ、公務員として働くうちに、将来に対する考え方が少し変わっていきました。経験を積んでカフェを開くぞ、と意気込んでいましたが時代がコロナ禍に突入して。カフェに行けなくなり、それでも食を楽しみたいと自炊を極めるようになりました。もともと料理は好きでしたが、コロナ禍の自粛期間で、自分の作った料理を器に盛り付けて食べたり、みんなに食べてもらえる時間が幸せだと改めて感じたんです。
そこからは少し夢の方向性が変わってきました。カフェで感じる一時的な幸せも良いのですが、自分にとって、日々の料理を通じて、より細く長く幸せを感じる方がしっくりくるんじゃないかなと思ったんです。そんな幸せを周りにも届けたい、と考えたときに私のやりたいことはカフェの店主ではなく、料理家なのだと気づきました。

コロナ禍は大変でしたが、自分を見つめ直すきっかけにもなったんですね。
そうですね。夢が変わったので、料理家になるための努力を始めました。センスを磨くだけではなく、きちんと知識をつけてお仕事をいただけるような背景を作らないといけないと、お料理教室に足を運んだり、フードコーディネーターの資格が取れる学校に通ったり、本業が終わった後に試作を重ねたりして。寝る時間も削ってがむしゃらに頑張っていましたね。
夢が変わってからも、積極的に行動して、努力されていたのが伝わってきます。
やると決めたら絶対に実現したかったので、臆病になってはいけないと思ったんです。活躍しているさまざまな料理家さんに実際に会いに行って、どういう風に今のお仕事に就いたか聞くこともしました。そのときのご縁で、今一緒にお仕事をすることもあります。
Instagramでも、趣味ではなく仕事を視野に料理の発信をし始めました。料理家として自分の想いを伝えていくうえで、SNSの力は強く、大きい存在でした。インターネットとリアル、どちらかに偏るのではなく、バランスよく使い分けることが大事だと思っています。
そんな経験を重ね、レシピ開発のお仕事などもいただくようになり、ついに料理家としてのキャリアをスタートさせることができました。

念願のレシピ本に込めた想い
2024年には初めてのレシピ本『からだがよろこぶ、でも簡単!麹でミニマルレシピ』(KADOKAWA)を出版されましたよね。レシピ本を出すにあたって、大変だったことはありますか?
私は、過去に自分の身体に不調があったときに助けられたことから麹調味料を使った料理を大事にしています。でも、麹調味料は一般にはまだまだ馴染みがないもの。いかに麹というものをわかりやすく伝えて、料理のハードルを下げるかには、試行錯誤しましたね。
またこの本では、自分の想いを注ぎ込みたかったので、過去に学んだり編み出したりした知識をフル活用し、レシピ作成から試作、撮影まですべて自分で行っています。内容もできるだけ手に入りやすい食材を使って、4工程以内で作れるようにしたり、すべての工程に写真をつけたりして、わかりやすさを目指しました。
これまでのあやかさんの努力の集大成となった一冊ですね。出版後は、どのような反響がありましたか?
「料理が楽しくなりました!」と付箋を沢山貼った本を見せてくれる方がいたり「毎日の献立に活用しています」という声をいただいたりして、本を出して良かったなと実感しました。また、Instagramのフォロワーではなかった方でも本をきっかけに知ってくださる方がいて嬉しかったです。

出版前には、Instagramのフォロワー数を増やすために苦心したとか。
そうなんです。出版社の方に、本の発売までにフォロワーを増やしていきましょうと言われて。フォロワーを増やすってどういうことなんだろう?と考えました。そこで自分が惹かれる人をイメージしたときに、「料理にストーリー性がある人」「顔などを出していて信頼性がある人」というイメージが浮かびました。
それからはお料理だけでなく、自分がこれまでにどんなことに悩んでいて、麹を使ってどんな変化があったのかを積極的に発信するようにしました。弱いところを伝えたり顔を出したりすることにはためらいがありましたが、自分だったらそういう人の方が人間性が見えて共感するな、とオープンにすることに決めたんです。
そうしたことで、同じ悩みを持った人がフォローしてくれるようになり、いろんな人と出会えました。自分を見られたい訳ではないのですが、さらけ出したことによって、届けたい人に届けたい内容がちょっとずつ届いているのかもという感覚になりました。

SNSは想いを伝える大切なコミュニケーションツール
その結果、あやかさんのInstagramは現在19.5万人のフォロワーがいらっしゃいますよね。今、Instagramはどのように活用されていますか。
Instagramは、ただ発信するものではなく、コミュニケーションツールだと思っています。フォロワーの方から「本当に美味しい」「体が変わった」「子どもの調子が良くなった」という報告をいただくと、とても嬉しく感じます。そういった声を聞くのが一番の活力になっていると思います。
私は幸せを多くの人に届けたいという想いが軸にあるので、そこが自分よがりの発信になってぶれてしまうと、Instagramをやる意義がなくなると思うんです。だからこそ、小さな悩みなどにも応えられるように意識していて。「冬で冷えるんです」という声があれば体を温めるレシピを考えてみたり、「麹調味料でこういう悩みがあるんです」という声をいただいたら、それに応えるような投稿をしたりしていますね。
料理家という仕事は、発信に重きを置いていると思われがちですが、ただ発信して終わり、ではありません。発信して、届けて、生活を幸せにして、その幸せの輪が巡っていくことが一番大切だと思っています。
素敵なお仕事だと思います。今後、やってみたいことはありますか?
はい!今の夢のひとつはオンライン料理教室をすることです。動画や本だけでは伝えきれない、もっと美味しくなる技術や、工程が大変な“十八番レシピ”なども実は沢山あって。オンラインを通じてそれを伝えることができたら、皆さんもより幸せになるんだろうなと思うんです。
本当に悩んでいる人に、より寄り添えるようなオンラインの料理教室やコミュニティを作りたいと思っています。この数年で、それを準備していく予定です。
あやかさんはいつも夢に対して、着実なビジョンを持っていると感じました。その実行力はどこから来ているんでしょうか?
やりたいことがあってその気持ちが強ければ、自分の軸は自然とできてくると思います。好きなことを続けて、届けていくためだと思ったら、夢が明確になっていくんです。
私は手帳の最後に「1年後にはこうなってたい」ということを書き出したり、日々のやることリストをこまめに書いたりしています。行動すれば、大体のことはなんとかなるなって思いながら過ごしています。

<今回のインターネット・ポイント>
写真・動画を投稿できるSNSサービス・Instagramが登場したのは2010年。日本では2014年からサービスが開始されました。
スマートフォンの普及に伴い、誰もが写真を手軽に撮影できることに加え、アプリで簡単に加工ができるようになったことから、Instagramは瞬く間に広がりました。
Instagram等の写真投稿サービスにおいて、海外では「Instagrammable」という単語が流行し、日本でも「インスタ映え」という言葉が2017年のユーキャン新語・流行語大賞で年間大賞を受賞しました。
また料理工程を動画で視覚的に見られることから、InstagramやYouTubeを活用したレシピ動画が急速に拡大しました。2014年ごろからは、「DELISH KITCHEN」や「クラシル」など、レシピ動画を集めた動画配信をする企業が増え、料理動画が親しまれるようになっています。
あやか
料理家・フードコーディネーター・発酵食エキスパート。麹調味料と出会い、現在は麹と旬の野菜を使ったシンプルだが美味しくて満たされるレシピを開発中。自身のInstagramやレシピサイト「Nadia」でのレシピ配信のほかメーカーのレシピ開発や、Web雑誌のレシピ連載なども担当している。
Instagram @ayaka.i_03
取材、文:conomi matsuura
編集:おのれい
写真:ten chisato
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