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石井里幸|神社関係者騒然!?『氏神さまのコンサルタント』で学ぶ神社の経営戦略【連載 若者が知っておきたい神社のコト】

※本コラムはネタバレを含みます。閲覧の際はご注意ください。

前回前々回のコラムでは神社界隈の窮状をお伝えし、現場で奮闘する神職の姿をお伝えしました。嬉しいことに、現在までに多くの反響が寄せられています。

「神社がそんな危険な状況だったなんて、知りませんでした」
「まずは近くにある氏神神社に行こうと思いました」
「これからは、神社で多めにお金を使うようにします!」

まさに、多くの方に神社の窮状を知ってもらいたいという思いから連載を始めた経緯があるので、とても励みになるコメントです!ありがとうございます。

皆さんが住んでいる地域にも、おそらく多くの神社が存在していることでしょう。しかし、それら神社の多くが経済的な理由で困窮している…。なぜでしょう?

神社は法律上、それぞれが独立した宗教法人という形式をとっています。そのため独立採算が原則であり、「各神社は自由に経営できるけど、お金の管理はそれぞれがしっかりやってね。潰れたら自己責任だからね」という考えが当たり前なのです。

企業が経営不振に陥ると“倒産”するように、神社もお金がなくなって活動できなくなれば宗教法人として“解散”してしまいます。企業であれば共済制度、補助金、助成金、無料の経営相談など公的な支援制度が充実しており、経営コンサルタントなど、外部の専門家も活用しやすいでしょう。一方、神社は営利目的とする団体ではないという理由から、受けられる公的な支援制度は非常に少ないのが実態です。

そしてなにより、神職は祭祀儀礼のプロであって、お金を稼ぐプロではないのです。これも神社が経済的に困窮しやすい理由の1つといえるでしょう。

さて、そんな神社の表に出ない経営事情にスポットライトをあてるコミックが登場し、神社界隈が騒然としています…!その名は『氏神さまのコンサルタント』!

実は、表紙に登場するこの怪しいグラサン男の正体は経営コンサルタント。まさに「外部の専門家に神社の支援を依頼する」というストーリーになっているのです。今回は『氏神さまのコンサルタント』の原作者、西山倫子さんにお話を伺ってきました。

『氏神さまのコンサルタント 1、2巻』(講談社)

『氏神さまのコンサルタント』

街に愛され人に愛されてきた清田神社。そこに生まれ育った女子高生・真澄は、大の神社マニア。でも、神職である父が亡くなって3年、清田神社はすっかりさびれてしまった。何か手を打たないと街から追いやられてしまう…そんな時に現れた怪しいグラサン男。彼はこの神社の救世主か、それともとどめを刺す疫病神か?神社やビジネスにまつわる豆知識満載、読むと神社にお参りしたくなるビジネスコメディ。

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漫画:胡原おみ
原作:西山倫子+モノガタリラボ

【連載第1話はコミックDAYSにて無料公開中】
https://comic-days.com/series/4856001361136268718/first_episode
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あふれる「神社愛」で連載が決定

『氏神さまのコンサルタント』冒頭シーン
(漫画:胡原おみ、原作:西山倫子+モノガタリラボ 講談社)

冒頭からさっそく神社が抱える大きな問題に触れています。神社をテーマにしたコミックはこれまでもたくさんありましたが、本作はこれまでになかった切り口であると感じます。このような構想を思いついた背景を教えてください。

私の生まれ育った地域に、小さいころから慣れ親しんだ神社があります。つらいことがあったときや、頑張りたいことがあったときなど、いつもその神社にお参りに行っていました。作品の舞台として出てくる清田神社は、この神社がモデルの1つなんです。まさに私にとって心のよりどころであり、神社が近くにあることのありがたさを教えてくれました。

しかし数年前に、全国的に神社の数が減っているという状況を知り、その現状を多くの人に伝えたいと思うようになりました。減っている理由として多いのは経済的な理由、つまりお金がなくて廃止に至るケースが多々あることを知ったんです。

実は、私は水天宮で参拝者のご案内、接遇等のご奉仕をしていました。その際に、宮司様(お宮を司る方)をはじめ職員方の参拝者へのお心遣い、笑顔での対応を心がける姿勢に大変感銘を受けました。また水天宮は、東日本大震災をはじめ各地で起こっている自然災害にて被災した地域、神社等、様々な困難に直面される方の支援活動にも取り組まれていました。

神社の伝統継承は、ご参拝の皆様に親しまれ、そして多くの方のお参りを通じたご浄財が支えているということを学んだんです。水天宮自体も、地震等の災害が起こったとき、お参りにいらした方に少しでも支援ができるようにと、常に食糧や物資の備蓄をするなど、運営管理が徹底されていました。

「神社を守るため、伝統・文化の心を守るために、宮司様はしっかり経営のことも考えているんだ!」と初めて知りました。そこで、私自身が奉仕させていただいた経験を通じて、神社の未来に向けての繁栄と存続に微力ながらお手伝いができればと思い、神社経営をテーマにした作品を作りたいと思うようになりました。

作中に登場する清田神社のモデルの1つになった、西山さん地元の神社

連載決定に至るまでの経緯は、どのようなものでしたか?

私はもともと『モノガタリラボ』というライターズルーム(シナリオ制作チーム)に所属しています。あるとき、講談社の方を招いて企画を出し合う集いがあったので、そこで『氏神さまのコンサルタント』の原案を持ち掛けたのです。私は都内の神社で庶務として奉仕した経験もあったので、講談社の方に「あなたには神社愛がある!」と面白がっていただき、企画が実現することになりました。

読者ターゲットは、「神社のことを知りたいけど、よく知らない人たち」にしました。たとえば、日本人であっても神社とお寺の違いが判らないという人は多いものです。こういったことは学校では教えてくれないので、昔は大人から教わるものでした。しかし近代は核家族化によって、おじいちゃんやおばあちゃんとの交流や地域の人々の交流が減るなど、教わる機会が少なくなりました。

これは仕方のないことかもしれません。ただ、そうであれば神社やお寺を知るきっかけを作りたい…。そう思ってコミックを企画したのです。

お寺ではなく、あえて神社のみに絞った理由はあるのでしょうか?

実は、当初は『神社仏閣コンサルタント』というタイトルで企画したのです。仏閣はお寺のこと、つまり神社だけでなくお寺も含めようとしたんですよね。近頃はお寺も檀家離れが進み、運営が大変と聞いていますから。でも、お寺と神社の収益構造は全く異なるので、今回は神社だけに焦点を当てようという流れになりました。

神社が稼ぐことは「悪」か?

 『氏神さまのコンサルタント』
(漫画:胡原おみ、原作:西山倫子+モノガタリラボ 講談社)

作品の全体的なテーマとして「神社もお金を稼ぐ必要がある」というメッセージが込められてると感じました。

神社は神様に祈るための施設であって、営利を目的とした施設ではありません。そのため、「神社が金儲けに走ることは悪である」といった空気がありますよね。商売っ気を出しすぎると、陰口をたたかれることも多々あると聞きます。

神社は布教活動もないですし、積極的な営業活動がしにくいのです。地域の氏子に対して寄付を募ることはありますが、強要はできませんし、神社からモノを売りつけたりすることもありません。

しかし神社がその場所に存在し続けるためには、どうしてもお金は必要です。お金があれば神社も様々な取り組みができ、もっと賑うことができるでしょう。神社が盛り上がることで、神様も喜ぶ。神職も参拝者も嬉しい。稼ぐことは全体に好循環をもたらすんです。

したがって稼ぐことは悪ではなく、むしろ必要なことです。これが作品を通じて伝えたいメッセージの1つです。

お金を稼ぐことの重要さだけでなく、作中では神社の大きな課題である「氏子離れ」についても触れていますね。

氏子離れについては絶対に触れておきたいと思っていました。

たとえば、神社が地域でお祭りをやろうとして寄付金を募ったとしても、最近は「なぜ払わないといけないの?」と思う地域住民が増えています。神職から見たら地域住民は氏子であり、「神社は氏子の守り神」という位置づけです。守ってくださる神様に対して、寄付を行ってほしいという考え方があります。

一方で、寄付金をしたくない人は、そもそも氏子意識がありません。神様に守られているという感覚もなく、寄付金としてご恩を返すという意識が生まれないのでしょう。現代では神社について教えてもらう機会があまりないので当然のことかもしれません。

よって、従来の氏子制度は機能しておらず、いまの時代に合ったシステムを構築する必要があると感じます。

神社が提供できる価値とは

作中には経営学の専門用語が登場し、経営も学べる構成になっていますね。神社がお金を稼ぐための実践的なアイデアも多く示されています。

たとえば、作中ではコンサルタントが「ロイヤルティマーケティング(※)」の助言をしています。これは神社のファンを増やすための施策で、若い人にも理解しやすいよう「推し活」になぞらえて説明しています。作中では、コンサルタントの提案によってワークショップや神道講座などが次々と企画されます。そんなふうに、外部の人間だからこそ神社が本来持っている価値を客観的にとらえ、的確な助言ができることもあると思います。

『氏神さまのコンサルタント』
(漫画:胡原おみ、原作:西山倫子+モノガタリラボ 講談社)

私は、神社が提供できる価値は「こころ」だと思っています。祈ることで気持ちがスッキリしたり、落ち込んでいた気分が晴れやかになったり…。神社に来ると「こころ」が変化する。これが神社の強みであり、神社ならではのサービスだと思います。神社ならではの取り組みで、神社が“推し”になる人が増えていけばいいですね。

用語:自社商品、サービス、ブランドなどへの愛着・信頼といった、顧客のロイヤルティを高める取り組みを指す

忙しい人にこそ、神社に行ってほしい

「神道言挙げせず」という言葉があります。

言挙げ(ことあげ)というのは声に出して言うこと。つまり「神道では、むやみやたらに目標を口に出してはならない」という意味です。詳しくは古事記に由来しますが、日本人が古くから持っている価値観の1つです。

この価値観のためか、神社関係者たちは自ら声をあげることを良しとしない文化があります。だからこそ「私たちはお金で困っています!助けてください!」とは言いにくいのです。

西山さんは、この「神道言挙げせず」の精神をとてもよく理解されています。だから「部外者だからこそできることを」という精神で、このようなコミックを通じて神社の窮状を発信してくれているのでしょう。

事実、『氏神さまのコンサルタント』を読んだとある神職は、「我々が言いにくいことを言ってもらっている気がします」という感想を漏らしました。ですから、このコラムの読者である若い皆さんには、ぜひ積極的に神社にかかわってほしいなと思います。

最後に、西山さんは若い方に向けてこんなメッセージをくださいました。

「いまの若い人は、成果主義が強い世の中で、仕事ですぐに結果を求められてしまう環境にいると思います。そのせいか、コスパ(費用対効果)やタイパ(時間対効果)という言葉をよく聞きますが、できるだけ労力をかけずに成果をあげることが素晴らしいんだ、という価値観が蔓延していると感じます。

作中の袴田(経営コンサルタント)は、まさに成果主義の権化のような存在です。経営に関する的確な助言をしますが、心に何かを抱え、いつもイライラしています。そんな袴田は、主人公の真澄の支援を通じて「日本人の心」を教わり、神社の素晴らしさに気付けたことに感謝していくようになります。

神社は日常に感謝する心をはぐくむ場所でもあります。豊かな自然がある、ご飯が食べられる、そんな当たり前のことがどれだけ素晴らしいことか。それを昔の日本人は良く知っていて、「神様のおかげ」という精神で暮らしていた。そのため、なんでもない日常を今よりも幸せに感じて暮らしていたのではないでしょうか。

だから、忙しい人にこそ心が休まる場所があるんだよ、ということに気付いてもらいたいなと。本当に大切なものは目に見えないもの。それを感じに神社に行ってもらいたいと思っています」

西山さん、素敵なメッセージをありがとうございました!

『氏神さまのコンサルタント』を読む前と後では、神社というものがこれまでとは違って見えることでしょう。神社好きはもちろん、経営を学ぶ方にもおすすめの作品ですので、ぜひご一読くださいね!

そして近くの神社にお参りしてみてください。きっと「こころ」の変化に気付くことでしょう。

 

石井 里幸(いしい さとゆき)
中小企業診断士。ITコンサルタントとして、ウェブマーケティングおよびIT活用支援を専門としている。
また、社家の出身ではないが神職資格を持ち、神職としても活動。中小企業の支援を通じて得たノウハウと神職での実務経験を活かし、神社に対しても支援活動を行っている。

 

寄稿:石井里幸(神職・中小企業診断士)
編集:大沼芙実子