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アクセシビリティはなぜ大切?すべての人に情報を届けるための基準と私たちにできること

アクセシビリティとは

アクセシビリティという言葉を聞いたことはあるだろうか。「ユニバーサルデザイン」などと並んで、イベントや建築物、デジタルコンテンツなど幅広い分野で重視されている言葉である。

Accessibility(アクセシビリティ)は、アクセスしやすさ、近づきやすさを意味する。耳が聞こえにくい方や目が見えにくい方、高齢者などを含めるあらゆる人が、柔軟に使用できるように考慮した商品やサービスを作る際に意識されるのがアクセシビリティだ。

似た言葉に「ユーザビリティ」もあるが、その違いは何なのだろうか。簡単に言うと、アクセシビリティは「どんな人でも、どんな環境でも利用できますか?」と問い、ユーザビリティは「アクセスできた人にとって、使いやすいサービスですか?」と問う。アクセシビリティの中にユーザビリティが内包されているイメージだ。

アクセシビリティはあらゆるサービスに適応できる考え方だが、ウェブサービスに対して用いられることが多い。例えば、ウェブサイトのデザインを考えるにあたって色盲の方でも文字を認識しやすい色使いになっているか、アプリを作るにあたって目が不自由な人のために音声読み上げの機能がついているかなどの例がある。ウェブサービスにおけるアクセシビリティは、ウェブアクセシビリティと呼ばれることもある。

アクセシビリティが重要な理由

アクセシビリティが意識されていない場では、その人が持つ特性によって取得できる情報に格差が生まれたり、使用できるサービスが限られたりといった状況が生まれる。

例えば、地震などの災害が起きた時のことを想像してみてほしい。耳が聞こえにくい人で、テレビなどを持っていなかったら気づくのが少し遅れるのではないだろうか。目が見えにくい人だったら、音声でアラートを出してくれるものがなければ逃げ遅れてしまうのではないか。このような状況を想像すると、情報へのアクセスが生存と直結する場面があると理解できるだろう。
また、世代によって支持政党が異なるという情報を見たことはないだろうか。テレビやYouTubeなど多くの人にとってアクセスしやすいメディアに戦略的に露出を図る政党は、世代を問わずに票を集めやすいという側面もあるのかもしれない。すでに深刻な状況になりつつあるが、アクセスできる情報に差が生まれることは、政治的思想や経済的な分断につながり得ることも予想できるだろう。

「少数派は切り捨ててもいい」といった発想のもとサービスや商品を作るのではなく、すべての人に開かれたサービスや商品を作る姿勢が、いま求められている。

ウェブアクセシビリティの歴史

ウェブアクセシビリティの歴史を辿ってみると、大きな運動の始まりは1999年にある。1980年代にインターネットが始まり、90年代後半に急速に広がるに伴って、ウェブアクセシビリティの考え方も生まれてきた。
1999年5月、ウェブ技術の標準化を行う世界的な非営利団体「World Wide Web Consortium(W3C)」から、ウェブアクセシビリティの初のガイドラインWeb Contents Accessibility Guidelines 1.0」(※1)が発表された。このガイドラインでは、優先度1(must)、優先度2(should)、優先度3(may)の3つのレベルに分けてチェックポイントが作成されていた。

その後、インターネットへの理解がさらに浸透し、技術が進歩していくに従って「Web Contents Accessibility Guidelines 1.0」ではカバーしきれないポイントも露呈していった。結果、2008年に「Web Contents Accessibility Guidelines(WCAG) 2.0」(※2)が勧告され、現在まで世界的なガイドラインとして活用されている。

W3C勧告のガイドラインを受けて、日本でも独自のガイドラインが策定されている。それが、「JIS X 8341-3」(※3)と呼ばれる規格である。(正式名称は「高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第3部:ウェブコンテンツ」)2004年に初めて制定されたのち、2010年8月に改定され、さらに2016年3月にも改定されている。最新版は「JIS X 8341-3:2016」であり、この内容には先述のWeb Contents Accessibility Guidelines(WCAG) 2.0」と同様のチェックポイントが含まれている。

※1 参考:W3C「Web Contents Accessibility Guidelines 1.0」
https://www.w3.org/TR/WAI-WEBCONTENT/
※2 参考:W3C「Web Contents Accessibility Guidelines(WCAG) 2.0
https://waic.jp/docs/WCAG20/Overview.html
※3 参考:ウェブアクセシビリティ基盤委員会「ウェブアクセシビリティ方針策定ガイドライン」https://waic.jp/docs/jis2016/accessibility-plan-guidelines/202112/

アクセシビリティ向上のための機能

具体的に、アクセシビリティ向上のためにはどんな工夫がされているのだろうか。身近な例として、スマートフォンをあげてみるとわかりやすい。例えば、多くのスマートフォンについている機能には以下のような意図がある。

・ 文字の拡大表示:目が悪い人や高齢者のため

・ 文字の読み上げ:目が悪い人や高齢者のため

・ 動作を音で通知:目が悪い人や高齢者のため

・ 電話やメールの通知を光で表現:耳が悪い人や高齢者のため

・ 音を骨伝導で聞ける:耳が悪い人や高齢者のため

・ ハンズフリーで電話できる:手、腕が不自由な人のため

・ 音声で文字入力:手、腕が不自由な人のため

(※4)

より詳しく見てみると、iPhoneには、設定の項目の1つとして「アクセシビリティ」の欄(※5)がある。視覚や聴覚など、必要に応じてアクセシビリティ設定の調整が可能だ。「VoiceOver」の機能を使えば、バッテリーレベル、電話をかけてきた相手、指が触れているAppの名前など、画面内容の説明を聴くことができ、画面が見えなくてもiPhoneを使用できる。「サウンド認識」の機能を使えば、赤ん坊の泣き声や、サイレンなど特定の音をiPhoneに認識させ、耳が聞こえにくい人にもわかるように通知を送ることも可能だ。その他にもさまざまな機能が搭載されており、幅広いユーザーを想定した設計がされていることがわかる。

※4 引用:indeed「アクセシビリティとは?具体例を挙げて詳しく解説!」
https://jp.indeed.com/career-advice/career-development/what-accessibility-explain-in-detail-with-specific-examples
※5 参考:Apple「iPhoneユーザガイド iPhoneのアクセシビリティ機能を使ってみる」
https://support.apple.com/ja-jp/guide/iphone/iph3e2e4367/ios

アクセシビリティ向上のために個人ができること

TwitterのALT機能

アクセシビリティ向上のためには、メーカーや開発者側の工夫は必須である。しかし、実はユーザー側にもできることがある。その中のひとつとして近年登場したのが、TwitterのALT機能だ。

ALT機能とは、Twitter上に画像を投稿する際に、ウェブブラウザ上でその画像が表示できない時のために、その画像を説明した説明文も入れることのできる機能である。2022年4月に登場した機能だ。

ALT機能を使って画像の説明を入れておくと、画像の説明文が音声読み上げの対象となる。そのため、目が不自由な人のアクセシビリティ向上に役立つのである。以下の、Twitterのヘルプセンターにて詳しい使い方が紹介されてる。

Twitterヘルプセンター:画像のアクセシビリティを向上させる方法

Twitter社はこの機能の使用を推進しており、画像投稿時にはALT機能活用をリマインドするメッセージが出ることもある。個人レベルから簡単に取り組むことのできるので試してみてほしい。

Microsoft Office アプリのアクセシビリティチェック

WordやExcel などでおなじみのMicrosoft Officeアプリでも、個人レベルでできるアクセシビリティチェック機能が搭載されている。他者に Officeアプリで作成したファイルを共有する際に、アクセシビリティチェックを実行して、障がいのあるユーザーにとって読みやすい、編集しやすいものであるかを確認できるのである。

読みにくい色の組み合わせになっている部分を警告してくれたり、代替テキストが入っていないために読み上げ機能が使えない図などがあれば指摘してくれる。このような機能を使えば、ビジネスシーンでも、アクセシビリティを意識した情報共有ができる。

まとめ

アクセシビリティはものづくりや場づくりにおいて欠かすことのできない視点だ。サービスや商品の開発者・提供者としてアクセシビリティに向き合う人も少なくないだろう。仕事の中で意識することはもちろん、消費者・ユーザーとしても取り組むことのできる部分はある。想像の範囲を広げ、アンコンシャス・バイアスを打ち破るための訓練としても、日々の生活の中でもアクセシビリティを意識してみてほしい。

 

文:武田大貴
編集:おのれい