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アンコンシャスバイアスとは?その意味と具体的な事例を用いて解説

例えば、友人と恋愛の話をしているとき、その友人のパートナーが異性である、と決めつけて話をしたことはないだろうか。友人は異性愛者であり、そのパートナーも同じく異性愛者である、というように、相手の前提を決めつけてしまった経験があると思う。こういった思い込みは、無意識に友人やそのパートナーを傷つけかねない。しかし無意識であるがゆえに、その捉え方の偏りに気がつけないこともあるだろう。

そんな「無意識下での思い込みや物事のとらえ方の歪み、偏見」をアンコンシャスバイアスという。アンコンシャスバイアスは、日常会話だけでなく、ビジネスや教育の場面でも他者や社会に大きな影響を与えることがある。この記事では、そんなアンコンシャスバイアスの意味を具体的な事例を用いて解説する。

アンコンシャスバイアス(無意識バイアス)とは?

アンコンシャスバイアスは、デジタル大辞林によると

「人が無意識に持っている、偏見や思い込み。経験則によって、気づかないうちに身につけたもので、本人が意識しないところで、行動や意思決定に影響を与える。無意識の偏見。」

と説明されている。

私たちは、子どもの頃に使っていた教科書や、普段目に入るテレビをはじめとするメディアによる表象、手にする商品やそれらの広告などから、気づかないうちにさまざまな価値観を身につけている。例えば、ニュース番組でもバラエティ番組でもネット広告でも、男性が司会や専門家で、女性がアシスタント、という構図をよく目にする。これらの構図に違和感を抱かないことは、男性と女性の役割に対する無意識の偏見=アンコンシャスバイアスのせいかもしれない。アンコンシャスバイアスの種は日常の至るところに存在する。私たちは日々それらに触れ、知らず知らずのうちに“自分の価値観”として受け入れてしまっている可能性があるのだ。

これら無意識の偏見は、ときに他者を攻撃したり、排除したり、抑圧したりといった言動につながる可能性がある。アンコンシャスバイアスの正体は、心理学で「防衛機制」と呼ばれる、自己防衛本能だと言われている。「自分は正しい」「自分は悪くない」と、不安やストレスから自分を守るために、都合よく物事の解釈をしてしまう心の働きが無意識の偏見につながるという。(※1)では、私たちは、具体的にどのような場面でこれらのアンコンシャスバイアスに触れているのだろうか。

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※1 参考:一般社団法人東京都中小企業診断協会 研究会論文 2020年8月26日 「アンコンシャス・バイアス=無意識の偏見」
https://t-smeca.com/info-research/unconscious_device/

アンコンシャスバイアスの具体的な事例

日常に潜むアンコンシャスバイアスの具体例を挙げる。

性別による役割の決めつけ

  • 医者、裁判官、弁護士、政治家など、社会的地位が高いとされる仕事を想像するとき、男性を思い浮かべる
  • 女性は家事・育児が得意で当然と考える
  • 少しでも家事・育児をする男性は「えらい」
  • 結婚したばかりの女性、幼い子どもがいる女性は昇進やマネジメント職に向かないと考える

国や地域、血液型、容姿から想起されるイメージによる決めつけ

  • 血液型を聞いて相手の性格を連想する
  • 相手の性別や年齢、国籍などの見た目で説明の仕方を変える
  • 外国人に対して、日本語が苦手だろうと決めつける
  • アスリートや文化人などに対して、女性の場合だけ「美しすぎる○○」などと容姿に関するコメントをする

個人の価値観に偏った決めつけ

  • 「普通はこんなことしないよ」と非難する
  • 「みんなと違っておかしい」と非難する
  • 「君にはできないよ」と決めつける

バイアスの種類と対処の提案

以下は、網羅的なリストではないが、これらのアンコンシャスバイアスの種類について考えてみる。

親和性または類似性バイアス(Affinity or similarity bias)

このバイアスは、何らかの形で自分に似ている人やものを好む傾向である。例えば、人を採用するとき、自分と似ていたり、親しみやすかったりする候補者を「チームに合う」と考えて、優遇してしまうことがある。そうではなく、多様性を重視し、「この人は私たちのチームに何を加えてくれるのか」と考えるべきだろう。

確証バイアス(Confirmation bias)

私たちは、一度決断をしたり意見を形成したりすると、それが正しいと確証を持つために、自分にとって都合のいい情報ばかりを探してしまう傾向がある。そのような傾向を確証バイアスと呼び、「チェリー・ピッキング」または「希望的観測」とも近しいと考えられる。確証バイアスが強くかかっていると、物事を特定の方法で解釈したり、都合の悪い情報を無視したりすることになるかもしれない。このため、組織やコミュニティの中で問題に気づかなかったり、判断を誤ったりして、問題に発展することがある。

ハロー効果(The halo effect)

この効果は、あるポジティブな特徴や特性を認識することで、その人物の全てをポジティブに捉え、「後光」が差したように他の面が見えなくなってしまう効果のことを指す。しかし、私たちは実際にはその人についてそれほど多くを知らないかもしれない。これは、たとえば、正式な評価をするときに考慮すべきことである。「ホーン効果(The horn effect)」はその逆で、特にネガティブな特徴に注目することを指す。

アンコンシャスバイアスがもたらす悪影響とは

これらアンコンシャスバイアスは、無意識での小さな攻撃=マイクロアグレッションにもつながる。無意識の偏見から、明確な悪意がなくとも、相手を攻撃し、傷つける可能性があるのだ。それに限らず、アンコンシャスバイアスによる悪影響はビジネスや教育の場面でもさまざまな形で現れる。

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ビジネスや教育の場面での悪影響

性別や年齢など立場の違いに関するアンコンシャスバイアスは、往々にしてコミュニケーションのすれ違いやハラスメントに繋がる可能性がある。「女性はこういうものだ、こうあるべきだ」というように、本来1人ひとりにあるさまざまな背景や複雑性を、アンコンシャスバイアスで塗りつぶしてしまうと個人が見えなくなってしまう。こうした無意識の偏見は、職場や教育の場で、以下のような悪影響を生む可能性があるので注意したい。

  • 性別や年齢のステレオタイプに囚われない自由な発言が出にくくなる
  • 性別や年齢などによって分断が生じて全体の連携が取れなくなる
  • 1人ずつを個人と認識した正当な評価ができなくなる
  • ハラスメントや暴力、いじめがうまれる

アンコンシャスバイアスの悪影響は自己に対しても

アンコンシャスバイアスは対他者のみならず、自己に対して悪い影響を与える可能性もある。例えば、年齢や性別、はたまた独身か既婚かによって、「〇〇だから」という理由で可能性を狭めてしまってはいないだろうか。これらも、無意識のうちに抱いているアンコンシャスバイアスの一例である。

アンコンシャスバイアスを解消する方法

アンコンシャスバイアスを解消するには、「決めつけない、押し付けない」ことが重要だ。一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所守屋代表理事によると、以下のような思考に気づき、「もしかしてアンコンシャスバイアスかも?」と疑うことが1歩になるという。(※2)では決めつけ・押し付けはどういった言葉に隠れているのだろうか。

価値観の決めつけ言葉

  • 普通はそうだ
  • たいていこうだ、など

能力の決めつけ言葉

  • どうせムリ/どうせダメ
  • そんなことできるわけない、など

解釈の押しつけ言葉(異なる解釈を受け入れない)

  • そんなはずはない
  • こうに決まってる、など

理想の押しつけ言葉(自分の理想を相手に求める)

  • こうある「べき」だ
  • こうでないとダメだ、など

「普通」や「たいてい」という思考や言葉使いをやめれば、その「普通」に当てはまらない人々を傷つけることが少なくなるかもしれないし、「どうせムリ」という思考や言葉使いをやめれば、自分や他人の新たな可能性に気づくことができるかもしれない。そもそも、その「普通」や「どうせムリ」は、個人の価値観、感覚や感想であって、自分以外の誰にも当てはまらない可能性がある。まずはそのことを念頭に置くべきだろう。

※2 内閣府男女共同参画局「共同参画 Number144 2021 May」https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2021/202105/pdf/202105.pdf(2022年9月5日閲覧)

まとめ

アンコンシャスバイアスを解消するのは簡単なことではない。なぜなら日常生活のなかで抱いている無意識の差別や偏見に自ら気がつき、意識化する必要があるからだ。すぐに全てを意識することや、すぐに全てのバイアスに気づくことは不可能だが、少し立ち止まって普段の言動を顧みることで、気づきは増えるだろう。

 

文:日比楽那
編集:おのれい