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臨床社会学者・中村正さんと考える、マンスプレイニングの直し方

近頃、SNSなどで見かける「マンスプレイニング」。マンスプレイニングとは、主に男性が相手を見下すように、あるいは相手が無知であるかのように何かを解説したり、知識をひけらかしたりするような態度を指す。

マンスプレイニングについて理解したことで、自分の過去の行いを省みる男性も増えているのではないだろうか。そのなかで、ふとした時に説明口調になってしまい、相手を嫌な気持ちにさせたのではないかと、自己嫌悪に陥る人もいるはずだ。また、身近な人のマンスプレイニングを指摘したいがどのような言い方が適切なのかと悩む人もいるかもしれない。

そこで、男性性の研究を長年行う、立命館大学特任教授の中村正さんに話を伺った。マンスプレイニングが起こる背景には何があるのか、マンスプレイニングを直すために何ができるのだろうか。

▼マンスプレイニングについて詳しく知るためには以下をチェック

マンスプレイニングをする人は「不甲斐なさ」を抱えている?

はじめに、マンスプレイニングの背景にあるジェンダーギャップやジェンダーバイアスについて伺いたいです。

もちろん社会にあるジェンダーの問題も関係していると思いますが、それ以外にも、年齢や人種や民族も関係しているのではないかと。要するに、マンスプレイニングの背景には、ジェンダーの問題だけでなく、一般的なマジョリティ・マイノリティ問題があるのではないかと考えます。

マンスプレイニングの例としてよく挙がるのは、高齢男性から若年女性へ、という組み合わせだと思います。実は、この構造には、マジョリティの無意識のバイアスも含めて、色々な問題が還流しやすいという特徴があります。そのなかでも、説教調のマンスプレイニングは、マジョリティの典型的な行動なので、「高齢男性から若年女性」というわかりやすいマジョリティ・マイノリティの構造だと顕在化しやすいのです。

またマンスプレイニングを行う人たちによく見られるのが、「自分が」というよりも、「社会の代弁者として」というスタンスです。こういう人たちは、社会に流布している支配的な意見を滔々(とうとう)と述べることであたかも正当性があるように見せた形での説教をしたがっているのではないかと想像します。

他にもマンスプレイニングについて特徴があれば教えてください。

マンスプレイニングの形として一種のロジハラであることが特徴だと思っています。ロジハラとは、相手にロジックで詰め寄るように説教することを指していて、これは「社会的に一定の地位を得ている中年男性」によく見られますね。

ロジハラをする人たちは、相手を選んでいるのでしょうか?

おっしゃる通りです。ロジハラはマウンティングの一種なので、ロジックが通っていそうな人、逆に理詰めで返されそうな人にはロジハラをしないわけです。つまり、自分より立場が弱そうな人にしか矛先を向けない。

これってDVや虐待の加害者とも共通している部分があって、要するにこれらは「卑怯な暴力」なわけです。ここでの卑怯は、加害者の脆弱性のことを指しています。

例として、性犯罪の場合で考えるとわかりやすいです。性犯罪は性欲を満たすだけではなく、相手を支配しているという思い込みにより、達成感や充実感で自分を満たすのも目的の1つだと考えられています。万引きする人が物欲を満たすというよりも、スリルを味わいたいのと同様です。これを私は「欲望の仮面」と呼んでいて、要するに、仮面をつけて、何か別の感情を隠しているんですね。

ということは、マンスプレイニングの裏にも何か別の感情が隠れているに違いないと。

自分より立場の弱い人に矛先を向けることで面子を保っていることから、おそらく、「自分への不甲斐なさ」を抱えているのではないかと推測します。つまりそうした相手がいないと自分が成り立たないのですから、情けない事態だと冷静に考えればわかるはずです。

若年層にも見られるマンスプレイニング

以前SNSで気になる投稿を目にしました。その内容は、男女複数人で遊んでいる際に、グループ内の男性がマンスプレイニングしている光景を見かけて、投稿者がモヤモヤした、というものです。もしかすると、若年層でもマンスプレイニングをする人は少なくないかもしれないなと思いました。

それも結局は「男性性の誇示」が関係しているのではないかと考えます。その投稿の状況では、マンスプレイニングをした男性は、相手の女性ではなく、実は他の男性のことを意識しているのではないかと思います。

女性への振る舞いを通して、他の男性に自分の力を誇示しているということですね。

ホモソーシャルな関係が男性同士のなかにできている場合だと顕著です。このような行いを私は「メンズトーク」と呼んでいます。女性からは声をあげづらい場合もあると思うので、マンスプレイニングだと気づけた場合は、男性同士で指摘して改善できれば理想的ですね。

マンスプレイニングをする人は、自分が所属する組織の風土からも影響を受けているのではないかと思います。

会社などの自分が所属している環境はもちろんですが、幼少期の家庭環境や、慣れ親しんだメディアの影響も大きいと思いますね。だからマンスプレイニングをしてしまう人は、とくに悪気もなく、なにも考えずにそういう行動をしてしまう。

だからこそ、会社とは違ってフラットな関係なはずの友人関係がより重要になるはずなんです。プライベートな空間なので、開放的に自分たちの内側を曝け出せる関係性だと理想的ですよね。

先ほどの男女グループの例で言うと、女性に対してそういう振る舞いをするということは、そのグループのなかで「社会の再生産」が行われているだけなわけです。学生の頃と同じようなノリで関係を続けてもいいのかもしれませんが、社会の再生産をそこでする必要はないと思いますね。これから社会の中核を担う世代なら、集団のなかで価値観をアップデートすることで、悪しき社会の空気に同調しないことが重要ではないでしょうか。

友人のマンスプレイニングを指摘したいときどうすればいい?

先ほどの話を受けて、友人同士で価値観をアップデートしていくことが理想だと理解しました。ただ一方で、指摘することが難しい場合も多いと思います。

正しい指摘が、相手にうまく刺さるためには、逆に「ロジハラみたいにならないこと」が大切だと思いますね。たとえ相手のためを思っての言動でも、「理詰めで相手を指摘して自分の考えを納得させようという行為」、それ自体が「男らしい」コミュニケーションになってしまっているわけです。

理詰めで相手の逃げ道を防いでしまうと、相手が逆上してしまったり、相手に聞く耳を持ってもらえなくなったりするので、かえって逆効果な場合が多いんですよね。

ロジハラにならないように注意しながら、相手にマンスプレイニングについて気づいてもらうにはどうすればいいのでしょうか。

権威や上下関係などの「力の作用」って基本的には非合理的なので、説明できないことが多いんですよね。つまり、当たり前だと思っていたことも、ふと考えれば疑問になることが多い。なので、より合理的に考えてもらうことや、アップデートした社会の規範と照らし合わせてもらえるように、伝えることが重要だと思います。

あとは、「レポートトーク」と「ラポートトーク」を意識することも重要だと思います。レポートトークは、会社のプレゼンなどで求められる、事実や論拠に基づいたトークのこと。一方、ラポートトークとは、信頼関係をつくるためのトークです。医者が患者に検査結果を伝える際に、結果だけを淡々と伝えるのではなく、「大変ですよね」「一緒に頑張っていきましょう」などの関係性を築くような会話を織り交ぜることがこれに該当します。

これらを意識することで、相手のためを思って指摘していることが伝わりやすくなるのではないでしょうか。

自分自身のマンスプレイニングを直す方法

マンスプレイニングについて知った人が、自分自身のマンスプレイニングを直すためには何が有効なのでしょうか。

コミュニケーションを楽しむ体験をすることが、重要ではないでしょうか。よく使われる例ですが、会話のドッジボールとキャッチボールについて考えてみるといいかもしれません。相手に自分の意見をぶつけるようなコミュニケーションが前者、相手との意見交換を目的とする後者、いったいどちらの方が会話が弾んで楽しいコミュニケーションがとれるでしょうかということです。

子どもの頃の遊びを例にすればわかりやすいですが、女の子によく見られるぬいぐるみ遊びの場合だと、途中でぬいぐるみ同士が喧嘩をしても、最後は仲直りする。一方、男の子に多く見られる怪獣やヒーローのソフビを使った遊びでは、怪獣と戦って倒して終わりになりがちなんです。小さい頃の遊びひとつとってみても、会話を楽しむ経験が重要かもしれません。

自分のコミュニケーションの楽しみ方も、幼少期の環境が影響しているのですね。

少し話が逸れてしまうかもしれませんが、もう1つ。

昨年、刑法の性犯罪規定が改正されたこともあり、同意を得るための方法や、そもそも同意は何かなど、同意をとる上でのコミュニケーションが大変大きなテーマになっています。つまり、今まではあまり意識していなかった男性も「同意を得る」コミュニケーションについて考えなければならなくなってきたわけです。

ここで1つ参考になるものが、TENGAヘルスケアが2023年に配布を開始した「デートDVチェッカー」という教材です。元々はフランスのパリ市が作成したものを、日本語に翻訳したものになります。

デートDVチェッカー 出典:
withセイシル https://with.seicil.com/blogs/news/2023-6-2

カップルのコミュニケーションがデートDVに該当するかを判断できるチェッカーで、上の緑のエリアにあるようなコミュニケーションが安全領域、下の赤いエリアにいくにつれてセックスを強要しているようなコミュニケーションだということを示しています。

なぜ私がこの教材の話をしたかと言うと、この教材はデートDVと銘打っているものの、実際には「同意とは何か」や「対等な関係とは何か」について示しているからです。つまり、この教材はマンスプレイニングの話をしているわけではないですが、緑の状態のコミュニケーションをとることは、結果としてマンスプレイニングにも陥らないですむわけです。

この教材は、自分が指標にすることはもちろん、パートナーに「マンスプレイニング」を指摘する際にも役に立ちそうです。

おっしゃる通りで、「マンスプレイニングをやめましょう」というメッセージだけでは、具体的なアクションが見えないのでなかなか相手に伝わりにくいんですよね。それよりも、改善すべきポイントを示して「こうしたらどうかな?」という、ポジティブメッセージの方が伝わりやすい。このDVチェッカーを参考として、具体的な事例に基づいて話すとより良いかもしれませんね。

本日は貴重なお話をありがとうございました。「マンスプレイニング」という言葉が広がることで、モヤモヤしていた相手の言動を指摘できるようになったり、自分が変わるきっかけになったりと、社会の流れとしてとてもいいことだなと感じました。

マンスプレイニングをしてくる人たちは、一見すると「居酒屋でくだを巻いてるおじさん」のような感じなので、外野から「真剣に考えないといけない大きなテーマなのか?」と言ってくる人たちもいると思います。

ただ、それを有害だと感じる人がいることも事実なので「マンスプレイニング」という言葉をつけて指摘することには意味があるわけです。「マンスプレイニング」などの言葉が一般化し、社会で問題として捉えて、指摘できる環境が当たり前になっていけばいいですね。

会話のキャッチボールやDVチェッカーについて伺った後に、「妙案ではないかもしれないけど、色々な取り組みがあるので援用していくしかないです」と中村さんは語ってくれた。

中村さんが言う通り、幼少期からの経験の積み重ねや、社会の不合理な環境が影響しているマンスプレイニングを直すのに、何か1つのアクションだけで、ということは難しいはずだ。複数の取り組みを実践し、多面的にマンスプレイニングと向き合うことで、徐々に考え方が変化していくのではないか。またこれは、マンスプレイニングだけに限らず、ミソジニーやホモソーシャル的な考えからの脱却にも言えることだろう。

1人で変わることは難しいかもしれないけれど、友達と一緒なら変わることができるかもしれない。自分たちが身につけてしまったマッチョさを取り払い、周りにいる人たちと手を取り合うことが自分を変える1歩目に、ひいては社会が変わることになるかもしれない。

 

取材・文:吉岡葵
編集:日比楽那