レジリエンスは、人が困難や逆境にぶつかっても状況に合わせて臨機応変に適応し、生き延びようとする力のことをいう。この記事では、レジリエンスの使い方、高める方法を解説する。
- レジリエンスとは?
- レジリエンスとハーディネスの違い
- レジリエンスの具体的な例
- 心が折れやすい人の共通点
- レジリエンスを高めるメリット
- ビジネスパーソンとしても重要 レジリエンスを高めるメリット
- レジリエンスが高い人の特長
- レジリエンスの3因子
- レジリエンスを高めるための方法やポイント
- 組織としてレジリエンスを高めるためには
- まとめ
レジリエンスとは?
レジリエンスは、「回復力」や「弾性」「しなやかさ」などと言い換えられることもある。古くから生態系の分野と心理学の分野において発展してきた概念で、昨今では、教育、子育て、防災、地域づくり、温暖化対策など、さまざまな領域で使われている。国連が定めるSDGsのなかでも、「レジリエンス」や「レジリエント」という単語が使われている。
目標11.住み続けられるまちづくりを
2020年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組2015-2030に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う。
(※1)
目標13.気候変動に具体的な対策を
すべての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応力を強化する。
(※1)
※1 参照:「SDGsとは?」(外務省)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html(2022年7月3日に利用)
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心理用語としてのレジリエンスとは
レジリエンスとは、心理用語としても用いられることがある。その場合、社会的に不利で困難な状況に対して、うまく適応できる能力やその過程、適応した結果を意味する。
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注目されている背景とは
2013年の「世界経済フォーラム(ダボス会議)」で「レジリエンス」の言葉が多く使われたことが契機となり、注目されるようになった。昨今、SDGsが世界中で注目されており、日本社会全体でもSDGsへの取り組みは企業活動等に対する評価の対象となっている。
環境が目まぐるしく変化し、将来の予測が困難な「不確実性」の高い時代を生き抜くための力、あるいはその性質を言い表すのが「レジリエンス」という概念である。また、国や企業だけでなく、個人に対してもレジリエンスは深く関係している。具体的な例をこの後紹介していきたい。
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レジリエンスとハーディネスの違い
レジリエンスと似た言葉に、「ストレス耐性」や「ハーディネス」と呼ばれるものがある。
ストレス耐性とは、ストレスに対する抵抗力のことで、ストレスに気づくか気づかないかという「感知能力」や、ストレスを作りやすい性格かどうかという「回避能力」などが該当する。レジリエンスとは近しい意味合いを持っているが、心理的・精神的に受けたストレスに“耐えられる程度”を意味するという点では、ストレスから“回復する力”を意味するレジリエンスと異なる概念だと言える。
また、ハーディネスとは、高ストレス下でも健康を害しにくい人々に共通する性格特性を意味する。レジリエンスが「回復力」を意味する一方で、ハーディネスは「防御力」と言い換えられており、倒れてしまった状態からもう1度立ち上がる力がレジリエンス、ストレスから身を守る強さや力がハーディネスといった違いがある。
レジリエンスの具体的な例
レジリエンスの具体例としては、以下のようなことが考えられる。
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うつ病やPTSDなどの精神症状を未然に防ぐことにつながる
日々の生活で心的ストレスを抱える状態が過度に続くと、うつ病やPTSD(※2)など、抑うつ状態に陥ってしまう危険性がある。レジリエンスがあれば、そのような状況になったとしても対処できる可能性が高まると言える。
※2 用語:PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)は、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態のことを指す。
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異常気象や自然災害が生じても都市機能を維持することができる
前節でも述べた通り、レジリエンスは「生態系」においても発揮される。つまり、都市や国、会社など、ある一定の集団組織や団体が持つ「変化への適応力」として評価することができるのだ。たとえばコロナ禍において、ニュージーランド政府は迅速な判断のもとで、国内の集団感染を最小限に留めることに成功した。未曾有の事態が生じた際、スピーディーに意思決定をし対応することができる状態は、非常にレジリエンスがあると言える。
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変化や刺激の多い環境でも、幼少期や青年期を健康的に過ごすことができる
進学や就学など、さまざまな環境の変化を経験する幼少期や青年期。精神的に未発達な部分がある期間だからこそ、一度心に傷を負ってしまうとトラウマを抱えてしまう危険性がある。オーストラリアなどでは、レジリエンスを身につけるためのトレーニングを中学校や高校の教育過程に取り込むことで、生徒たちが幸せで生産的な学校生活を送れるように取り組みを進めているそうだ。
心が折れやすい人の共通点
一方で、レジリエンスを身につけることができず心が折れやすい人は、以下のような特徴があると言える。
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自信がなく自分を否定しがち
心が折れやすい人の特徴の一例として、自分自身にそもそも自信がなく、自分を否定しがちで自己肯定感が低いことが挙げられる。うまくいかないことがあると自分の思考やスキルに対して否定的な意見を持ってしまい、負のスパイラルに陥ってしまうような人は、心が折れやすいとされる。
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自分と人を比べる癖がある
自分と他人を比べる癖がある人も、心が折れやすい傾向にあると言える。言い換えれば、心が折れづらい人は自分と他人との比較をしない傾向にある。たとえば生活の中で、心が折れやすい人は他人と自分の生活を比べ、相手の方がより良い生活を送っていると認識した場合惨めな気持ちになり、劣等感を抱いてしまう可能性がある。
レジリエンスを高めるメリット
レジリエンスを高めるメリットとしては、以下のようなことが挙げられる。
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ネガティブな状況に直面しても打ちのめされない
目標に向かって物事に取り組む際には、困難な状況が立ちはだかることもしばしばあるだろう。そんなときにもレジリエンスを高めておくことで、目標達成能力が高まるとされる。
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問題が起こっても素早く対処できる
仕事やプライベートをはじめとする日常生活には、予期せぬ出来事がつきものである。そんなとき、変化に対応する力としてのレジリエンスがあれば、混乱に陥ることなく問題を早期に解決することができるだろう。
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自己肯定感の向上
回復力としてのレジリエンスが高まると、何か失敗をしてしまったときにも、落ち込む時間を最小限に減らすことができる。ポジティブな考え方に頭を切り替えられるようになると、さまざまな場面で自信を持って前に進んでいくことができるようになる。
あらゆる分野で技術革新が起こっている現代社会は、「予測不可能な時代」だと言える。その特性は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとり「VUCA(ブーカ)」とも呼ばれる(※3)。レジリエンスは、VUCAの時代を生きるための必須スキルと言えるかもしれない。
※3 参考:日本の人事部「VUCAとは」
https://jinjibu.jp/keyword/detl/830/
ビジネスパーソンとしても重要 レジリエンスを高めるメリット
レジリエンスを高めることは、ビジネスの観点からも役に立つ場面が多々あるとされる。いくつか具体的な例を挙げたい。
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心身が健康な状態で働ける
職場や集団活動の中でストレスを感じることは多々あるだろう。ストレス耐性を身につけ、ストレスを感じる環境でも過度に反応せず、受け流せるようになることで、より快適な生活を送ることができるだろう。
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環境の変化を楽しめる
社会生活のなかで不慣れな環境に身を置くことや、社会的に不利な状況に陥ることがある。そんなときでも、変化への適応力を身につけ前向きに取り組むことができれば、変化を楽しみながら新しいことへの挑戦ができるようになる。
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目標達成能力が向上する
目標を達成するには様々な困難を乗り越えなければならない。そのためにはコツコツと努力を重ね、創意工夫を意識しながら前向きに取り組んでいく必要がある。レジリエンスを高めることで、困難な状況にも前向きに取り組めるようになり、自然と目標達成能力も向上していくと言える。
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レジリエンスが高い人の特長
それでは、レジリエンスをどのように高めていくことができるのだろうか。まず、レジリエンスが高い人は以下のような特徴があるとされる。
- 思考が柔軟
- 感情をコントロールできる
- 周りの人と協力できる
- 自分にも他人にも寛容
必ずしも、何事にも動じない精神力を持ち合わせている必要はない。「回復力」や「しなやかさ」という言葉が象徴するように、レジリエンスとは、負担を抱えた状態から立ち直る力を意味する。日々の生活で、気分が滅入ってしまったり、体力的な限界を感じたりすることは誰にでもあるだろう。そこからどのようにして元の状態に戻るか、あるいは、よりポジティブな状況を目指し行動することができるか、といった点が重要になってくるのだ。
レジリエンスの3因子
レジリエンスを身につけるためには、「新奇性追求」「感情調整」「肯定的な未来志向」の3因子が重要だとされる。こういった観点をヒントにして、自身のレジリエンスを高めていくことができるかもしれない。それぞれの因子について説明したい。
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新奇性追求
好奇心が強く新たな出来事に興味や関心を持ち、色々なことに挑戦していこうとすることを指す。
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感情調整
不慣れなことが起きたり、ストレスを感じたりすると人の感情は大きく揺れ動く。喜怒哀楽の感情をしっかり自分でコントロールし調整することを指す。
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肯定的な未来志向
自分が思い描く未来に対して、明るくポジティブな状態を期待し、その将来に向けて計画やアクションプランを作り、達成に向けて努力しようとする志向ことを指す。
レジリエンスを高めるための方法やポイント
レジリエンスを高めていくためには以下のような観点がポイントとなりそうだ。
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特定の価値観や考え方に固執しない
「これは絶対にこうだ」「こうすればこうなる」といった固定概念や経験則に囚われすぎず、新しい価値観や考え方を受け入れることでレジリエンスを高めることができる。
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気持ちの浮き沈みに囚われた状態を長引かせない
失敗が続くと、一時的に気分が滅入ってしまうことは誰にでもあるだろう。しかし、そんなときこそ目の前の状況に囚われることなく、より良い状態を想像することで、心の回復を早めることができる。
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周りの人や環境に助けを求めることをためらわない
自らの心の持ちようによってもレジリエンスを高めることができるが、それだけではなく、困ったときに頼ることができる環境を作っておくことも大切だ。自分の弱みや、落ち込んでしまう状態を普段から認識し、周囲と共有しておくことで、助けを求めやすい状態を作っておくと良いだろう。
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諦めたり途中で止めることに対して罪悪感を抱かない
挑戦を続けていると、必ず困難が立ちはだかると言える。「もうダメかもしれない」と感じたときに、無理をせず諦めることもときには必要だ。その行動自体はネガティブなものに感じられるかもしれないが、次へ前進するためのステップとしての選択であれば、決して悲観する必要はないのだ。
組織としてレジリエンスを高めるためには
個々人がレジリエンスを高め、より前向きに活動していく状態を整えていくことは重要である。一方で企業などの組織規模においても、メンバー1人1人がよりレジリエンスを高めていけるよう、支援することが必要とされる。組織として取り組むことができる例としては、以下のようなことが挙げられる。
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レジリエンスに関するセミナーや研修を開催する
ストレスに柔軟に適応できる能力をメンバーが高めていくと、組織レジリエンスの向上も期待できる。
たとえば企業において、レジリエンスに関する研修を定期的に実施している例は少なくない。社員教育に力を入れることで、相対的に組織のレジリエンスを高めることにつながる。
また、人権デューデリジェンスを進めることは、企業にとってレジリエンスを高めることにも繋がるだろう。
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まとめ
レジリエンスとは、困難な環境においても「傷を負わない強さ」ではない。逆境や困難に遭遇するたび、その都度状況に応じて適切な対応や行動をすることで、それらを乗り越えていく力のことである。また、それは個人の能力にのみ依存するものではなく、周りの環境や人々など、外部との関係性のうちに形成されるものでもあると言える。
文:柴崎真直
編集:大沼芙実子