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「傷つき」にも「好き」にも正直に。水曜日のカンパネラ・詩羽の「自分らしさ」の輝かせ方

2012年結成の音楽ユニット、水曜日のカンパネラ。昔話や偉人などの名前をキーワードにした楽曲とユニークなパフォーマンスで注目を集めてきた。そんな水曜日のカンパネラの2代目歌唱担当を務めるのが、詩羽さんだ。

ぱつっと切り揃えられたオン眉の前髪に、耳の上までの刈り上げ、三つ編みにしたツインテール。さらには口元にピアスを開け、長く跳ね上げたアイライン。これだけ聞くとどんな“イカツイ”見た目なんだと感じるかもしれないが、実際の詩羽さんを目にすればその明るさに圧倒される。もともと水曜日のカンパネラのファンの1人であった筆者は、ある日YouTubeで詩羽さんが歌唱担当になって最初の曲の1つ『バッキンガム』のMVにたどり着いた。豊かな表情を自由に操り、独自の魅力を放つ詩羽さんに目が釘付けになった。

水曜日のカンパネラ2代目歌唱担当としてのデビューから1年、周りの環境が急激に変わるなかでも自分らしさを輝かせる詩羽さんはどんなことを感じているのか。話を伺った。

自分を変えたくてたどり着いたオン眉・刈り上げ・口ピアス

詩羽さんが、現在の髪型やファッションのスタイルにたどり着いたのは高校1年生の頃のこと。学校生活における「普通」に馴染めず、友達や先生との人間関係も思うようにはいかなかった当時。ネガティブになりかけていた自分を変えようと、何気なく始めたのが現在のスタイルだ。

「オン眉と刈り上げと口元のピアスは高校1年生の頃にやり始めてからずっとキープしています。中学生・高校生の頃、学校生活がうまくいかなくて、自分のことが嫌いになったり毎日生きにくいなって感じたりしていました。そんなときにほんの出来心で、見た目から変えてみようと思ったんですよね。幼稚園生の頃から通っていた美容院に行って『一気に刈り上げてください!』って言って思い切ってイメチェンしました。髪型を変えてみたら意外と『そっちの方が似合ってるよ!』って言ってくれる人が多くて、少しずつ前向きになりました」

自分のために始めた髪型やファッションは、徐々に周りの人との関係性や、現在の活動にもつながる基盤を作ることとなった。詩羽さんの個性的なスタイルに注目した友人が、モデルの依頼をしたのだ。

「高校生のときに、アクセサリーを作っている友達がいて、その子の作品のモデルをやりました。それまでモデルになろうなんて思ったこともなかったし、自分のためのファッションだったけれど、私のスタイルを求めてる人もいるんだなって気づいて。だんだん自分のことを表現するのって楽しいなと思い始めたんです」

詩羽さんが水曜日のカンパネラに入るきっかけになったのも、そんな詩羽さんの自己表現がふんだんに盛り込まれたInstagramの投稿だった。詩羽さんのアカウントを見た水曜日のカンパネラのメンバーがスカウトしたのだった。当初はあまり詳しく水曜日のカンパネラについて知らなかったという詩羽さん。二つ返事で加入を決めたというが、緊張や恐れはなかったのだろうか。

「『水曜日のカンパネラになりませんか』と言われて2秒くらいで『はい!やります!』って答えてしまいました。家に帰って初めて水曜日のカンパネラのYouTubeをチャンネル登録して、そこで初めてこんなに登録者いるんだって気づいて(笑)。すぐ返事しちゃったけど大丈夫だったかなと一瞬不安はよぎりましたが、楽しみとなんとかなるでしょ、という気持ちが勝りました」

自分らしさを保つための、SNSとの関わり方

水曜日のカンパネラでは歌唱担当は「主演」とも呼ばれ、その個性的なパフォーマンスが際立つ。前任のコムアイさんにもファンが多かったが、詩羽さんはまた異なる新たな水曜日のカンパネラらしさを生み出している。どのように楽曲やパフォーマンスと向き合っているのだろか。

「私が加入して1番初めの音源『アリス/バッキンガム』のリリースのときは、緊張しました。今までの水曜日のカンパネラが好きな人もいるし、評価が目に見えるので。でも、想像してたよりもずっと受け入れてくれる人たちが多くて安心しました。それからはあまり1代目、2代目と気にせずに自由にやらせてもらっています。大事にしているのは、コムアイさんのパフォーマンスを意識しすぎずに、楽曲そのものと向き合うことです。コムアイさんのパフォーマンスはコムアイさんのものなので、私は私で自分が感じ取った楽曲の意味を表現するようにしています」

2022年2月にリリースされた楽曲『エジソン』がTikTokを中心にバイラルヒット。どんどんと上がる知名度とともに「アンチ」も増えたという。そんな「アンチ」に対しての対応にも詩羽さんらしい真っ直ぐさと強さが見える。

「急に知名度が上がって、アンチが増えたときはやっぱり傷つきました。芸能界で活躍している人たちやインフルエンサーと呼ばれる人たちは、『そういうもんだ』と言ってヘイトを受け取っても黙って流すことも多いと思います。でも、それじゃずっと変わらないし、有名人だから仕方ないなんてことはないと思うんですよね。だから私は嫌なことを言われたら『傷つくのでやめてください』ってはっきり言うようになりました」

アンチへのコメントだけにとどまらず、詩羽さんはファンをはじめとする様々な他者との会話の場としてもSNSを使用している。印象的だったのが、「基本 詩羽1人の時は話しかけないで欲しい」と書かれた投稿だ。街中でも声をかけられることが増え、対応に困り始めたという詩羽さん。どう対応していくべきか悩んだ結果、Twitterでファンからも意見を集め、辿り着いた方針がこれだったのだ。

「もともと1人でいるのもすごく好きなので、1人の時間も大事にしたいなとは思っていたんです。今でもパフォーマンスするときやメディアに出るときと同じファッションで普段から街中を歩いているんですけど、だんだん声をかけられることも増えてきました。私はやっぱり声をかけてもらったら1人ひとりにしっかりと対応した方がいいのかなと思って悩んでいたんですけど、Twitterで投げかけてみたら、ちゃんと自分のライブに来てくれるようなファンの人たちが『危ないよ』とか『そこまで対応しなくても』って言ってくれたんですよね。だから、その意見を受け止めて1人のときは1人にしておいてほしいなと投稿しました。

もちろん、自分の意見が全部正しいとは思っていないし、逆に相手の意見が全部正しいとも思っていません。だから何かを投稿したときに意見が食い違うこともあります。でも、なんで違う考え方になるのかって根本を探ったり、参考にできそうなものは参考にしたり、柔軟に周りの意見と付き合えていけたらいいなって思っています」

ヘイトじゃなくてラブを届けたい

詩羽さんが水曜日のカンパネラに加入してから約1年が経った。就職活動も視野に入れながら学生とフリーランスのモデルをしていたという1年前と比べ、どんな変化があったのだろうか。

「ライブに関してはセットリスト1つとっても、衣装に関しても、自分がどうしたいのかを言えるようになってきました。最初は言われたことについていくのが精一杯だったんですけど、だんだんはっきりと自分の意思を口にできるようになったのは、アーティストとして成長できたところかなと思います。でも、根本的にはあまり変わっていません。ピースフルな気持ちを持って自分と人のことを大事にしていきたいなと思い続けています」

過去にはネガティブな自分と向き合い苦しんだこともあるという詩羽さんだが、そんな風に他者を思いやる気持ちと自分を愛する気持ちを持ち続けられるのはなぜなのだろうか。

「だんだんとちゃんと人のことを考えられるようになってきたのかなと思います。過去に人間関係で悩んだ経験があるからこそ、当時の自分に何が足りなかったのか分かったんです。悩んでいたときって、自分が自分のことを大事にできていなかった。それで、他の人からのラブにもちゃんと気づけずに、自分はみんなから好かれていないと思っていたし、自分も他の人のことを好きになれない気がしていたんですよね。実際には自分のことを好きでいてくれた親も友達もいたのに。だから今は、他人を大事にするためにも自分のことを好きでいようと思っています。最近では、少し凹んだり失敗しても『いや、そこも可愛くね?』って心の中のギャルな私が言ってくれるので、自分のことをもっと大事にできるようになりました(笑)」

2001年生まれの詩羽さんの周りには、同世代の活躍するアーティストやクリエイターが数多く存在する。そんな仲間たちも詩羽さんを突き動かす原動力の1つだという。自らも積極的な表現活動を通して今の活躍に至った詩羽さんから、自分らしさを見つけ、やりたいことをやるための秘訣について、最後に教えてもらった。

「私を動かすのは、過去の自分自身でもあり、新しい学校のリーダーズとか同世代の仲の良いアーティストたちでもあります。パフォーマンスを見たら明るくもなれるし、同時にメラメラと『私もやらなきゃ』って気持ちになるんです。互いにリスペクトしているからこそ、負けたくないって気持ちになれると思います。

どんな活動をしている人だとしても、大事なのは周りへのリスペクトと、途中で辞めずに1歩前に出てくることだと思います。私は今、学生さんを中心に、まだ知名度のないクリエイターにも積極的に衣装やMVをつくってもらっています。その人たちが表現を辞めずに、発信してくれていたから出会えて、一緒にやることができました。どんなに才能があっても、見つけてもらえなかったらもったいないじゃないですか。自分のやっていることや、やりたいことを表現するのをためらわないでほしいなって思います」

明るい笑顔がトレードマークの詩羽さんの口から出てきた、過去の悩みやメラメラとした負けん気といった素直な言葉にまた惹きつけられる取材となった。

水曜日のカンパネラ加入から、まだ1年しか経っていないことに驚いてしまうほど、飛躍を遂げてきた詩羽さん。これからもさらなる「ラブ」を人々に届け、海外での活動も目指したいと話す。ここから数年、数十年と躍進を遂げていくであろう詩羽さんの姿を見るのが楽しみだ。


取材・文:白鳥菜都
編集:日比楽那
写真:服部芽生