LGBTQIA+の当事者やコミュニティをサポートしたい、どうしたらサポートできるだろう、と思った経験はあるだろうか。この記事では、LGBTQIA+をサポートする人を指す「アライ(Ally)」の意味やその重要性、アライになる方法について紹介する。
アライとは?
アライの定義
アライ(Ally)とは、LGBTQIA+の当事者やコミュニティに寄り添い、サポートする人のことを指す。もともとは同盟者・味方・協力者などの意味を持つ英単語「ally」が由来となっている。
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アライの始まり
アライの始まりは1988年、アメリカの高校でヘテロセクシュアル(異性愛者)の生徒がつくった「ゲイ・ストーレート・アライアンス」というクラブだと言われている。そのクラブで行われていたLGBTQIA+の人びとを支援し当事者への差別や偏見をなくすための活動=ストレートアライアンス(Straight Alliance)が広がり、こうした取り組みを支持する人がアライと呼ばれるようになった。
もともとアライはLGBTQIA+に支援の意を示す非当事者に対して使われていた言葉だが、近年では自身のジェンダー・セクシュアリティに関わらずLGBTQIA+を理解し支援する人に対して使われることが多い。レディー・ガガをはじめとして、自身もLGBTQIA+の当事者でありながらアライを自称する人もおり、LGBTQIA+であってもなくてもアライになろう/アライを表明しようという動きがある。
アライの重要性
LGBTQIA+はセクシュアルマイノリティと表されることもあり、あくまで少数派の人びとに関することで、自分には関係ないと思っている人もいるかもしれない。しかし、マイノリティの人びとが直面する困難は、マジョリティ・マイノリティという立場に関係なく、社会を生きるすべての人びとの不理解や誤解による差別や偏見によって生まれる場合が多い。それらを無くすためには、より多くの人がアライとして当事者が置かれている状況を理解し、差別・偏見をなくすための活動を支援することが重要だ。
LGBTQIA+の人びとが置かれている状況は、国や地域によってさまざまだが、日本でも問題がまだまだ多いのが現状である。たとえば、同性婚が法的に認められていないことや、LGBTQIA+だからという理由で賃貸契約や就職活動の場面で差別を受けたことがある人がいる。他にも、シスヘテロ(※1)の人びとと同様の福利厚生や民間のサービスを受けられないことも、LGBTQIA+の人びとが直面している困難のひとつだ。また、「理解してもらえないのではないか」という不安から、自身のセクシュアリティを周囲に打ち明けられない人や、ありのままの自分を隠し、自分らしく生きられないことに苦しむ人も少なくない。そんななかで、マジョリティもアライとして問題解決に取り組むことが、より多くの人にとって生きやすい社会をつくっていくことにつながるだろう。
※1 用語:シスジェンダー(生まれたときに割り当てられた性別と自分の性別が一致する人)であり、ヘテロセクシュアル(異性愛者)である人。
アライがもたらす良い影響
アライが増えることの主なメリットは、社会的少数者コミュニティに与える肯定的な影響である。孤立感や排除感を抱いているかもしれない人々に対し、アライの存在が安全な空間を作り出し、支援を提供することができる。この支援は、差別やその他の抑圧に直面している人々にとって特に重要となる。
アライは、アライ自身にも肯定的な影響を与えることが可能だ。マイノリティのコミュニティについて学び、支援することは、マイノリティ当事者とアライの双方が異なる価値観や視点・経験への相互理解の機会となる。これにより、自分の世界観を広げ、他者への共感や思いやりを育むことができる。
また、アライのもう1つの利点は、社会変革を生み出す可能性があることだ。マイノリティのコミュニティと協力し、彼らの権利を支持することで、アライは意味のある持続的な変革をもたらすことができる。これには、個人、組織、社会レベルでの政策や実践の変更などが含まれる。
アライのアライに関する注意点
アライのメリットは多数あるが、注意すべき点もある。アライの課題の1つは、見せかけや表面的な支援になる可能性があることだ。見せかけや表面的な支援はムダなどころか、社会的少数者のコミュニティにとって害を与える可能性もある。支援をしているポーズをとるだけではなく、声をあげたり動いたりと実際の行動に移すことが重要だ。
アライのもう1つの潜在的なデメリットは、アライが自分たちを中心に据えてしまう可能性があることだ。アライは、社会的少数者のコミュニティの声を支援し、拡声するためにそこにいることを覚えておくことが大切だ。
最後に、アライ自身が疲弊してしまう可能性があることにも注意する必要がある。マイノリティコミュニティの支援に取り組むことは、精神的な負担が大きいため、アライ自身が自己ケアを実践し、過労や疲れを避けることが重要だ。
職場におけるアライの事例
アライとして活動しているのは、個人だけではない。アライであることを表明し、さまざまな活動やイベントを行っている企業も多く存在する。ここでは、その具体例を紹介する。
世界の事例ーJohnson & Johnsonー
アメリカの製薬大手Johnson & Johnson は、より多様で包括的な職場と世界をつくるために、さまざまな取り組みを行っている。そのうちの1つが、従業員団体「Open&Out」だ。世界中の90以上の支部に約5000人のLGBTQIA+の社員とアライのメンバーが所属しており、すべての社員が安全で働きやすい職場づくりを目指している。そのほかの取り組みは国ごとにも異なるが、アメリカ本社では、異性・同性配偶者を問わず、不妊治療、養子縁組、代理出産などの支援を行ったり、トランスジェンダーの従業員に対する移行手術を含む健康保険給付を行ったりしている。また、企業全体でもアライとして、LGBTQIA+に関連するさまざまなイベントや活動団体のスポンサーになっている。(※2)
日本の事例ー株式会社資生堂ー
日本を代表する化粧品メーカーの資生堂は、社員の同性パートナーも異性の配偶者と同じように福利厚生を受けられるよう就業規定を定めるなど、社員が働きやすい環境の整備や啓発に取り組んでいる。アライとして「東京レインボープライド」に出展した際は、LGBTQIA+当事者へのメイクアップアドバイスやサンプリングを実施。また、性別適合手術をされた方へのメイクアップアドバイスも継続的に行っているという。ほかにも、店頭に立つ美容職8000人はLGBTQIA+応対研修を受講しており、すべての人を受け支える応対にいかしている。
※2 参照:Johnson & Johnson「3 Innovative Ways Johnson & Johnson Proudly Supports the LGBTQIA+ Community」
https://www.jnj.com/caring-and-giving/ways-johnson-johnson-supports-lgbtq-community
※3 参照:資生堂「ダイバーシティ&インクルージョン」https://corp.shiseido.com/jp/sustainability/labor/diversity.html
アライが増えるとよい理由
誰かを傷つけてしまう可能性を減らせる
誰のことも傷つけずに生きることは不可能に近いが、少しでもその可能性を下げることはできる。アライになってLGBTQIA+当事者が置かれている状況や状況改善のためにできることを知り、行動することで、知らず知らずのうちにLGBTQIA+当事者を傷つける可能性を減らすことにつながるのではないだろうか。たとえ差別に加担していなくとも、無関心のままではLGBTQIA+が差別を受けている社会を再生産し続けることになりかねない。長く続いてきた誰かが傷つく構造や風潮を断ち切るためにも、当事者の味方が増えることが大切だ。
人権が守られる社会をつくることにつながる
すべての人には「生命と自由を確保し、それぞれの幸福を追求する権利」あるいは「人間が人間らしく生きるために、生まれながらに持つ権利」、つまり人権があるが、先述したようなLGBTQIA+の人びとが受けている差別はその人権を侵害するものであると言える。日本でも世界でもさまざまな人権課題があるが、その1つであるLGBTQIA+の人権課題にアライとして取り組むことで、人権が守られる社会をつくることに貢献できるだろう。
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アライとしてできること
LGBTQIA+について知る
まずはLGBTQIA+について知り、理解を持つことがサポートの1歩になる。書籍を読むのはもちろん、ネットやSNSで検索して解説記事を読んだり、当事者のインタビュー記事を読んだりするだけでも多くの情報を手に入れることができるはずだ。また、よく「性の在り方はグラデーション」と言われるように、ひとことでLGBTQIA+といってもその背景は人それぞれである。もし知人や友人からカミングアウトされたら、「セクシュアルマイノリティ」と括るのではなく、そのひと個人の話をしっかりと聞くことも重要だ。
自分以外の人の言動にも注意する
まずは自分自身の言動を見直しアップデートし続けることが重要だが、もし誰かの差別的な言動が見られたら、可能ならばひと言でも注意できるとよい。アライは、客観的な立場から周囲の人の誤った認識や差別的な言動を認知し、相互理解ための働きかけができる。そうすることが周囲の人びとにとっても考えるきっかけになり、新たなアライを増やすことにもつながるかもしれない。なによりその場に当事者がいた場合、一方的な解釈による差別や偏見が生じる可能性を下げることができるかもしれない。
当事者の活動をサポートする
LGBTQIA+の活動をサポートする方法はたくさんある。たとえば、LGBTQIA+にまつわる記事をSNSでシェアすることや、署名やデモに参加することもサポートになるだろう。LGBTQIA+について周囲の人と話したり、自分がアライであることを表明するのも、支援の可視化につながってよいかもしれない。もっとも、LGBTQIA+当事者にとっては、その会話自体を避けたい場合もあるだろう。積極的にLGBTQIA+に関する会話をすることが、当事者の助けになる、と思い込まないことも大切だ。
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まとめ
他者のために行動することは自分のために行動することより難しい。しかし、先述したように「自分の問題ではない」という無知や無関心が、差別や偏見につながり、LGBTQIA+当事者が生きづらい社会を持続させてしまっている。また、当事者だけに声をあげさせているという状況自体も、当事者が直面している困難の1つであるだろう。当事者が声をあげるだけでは改善が進まないLGBTQIA+を取り巻く環境を変えるためには、アライの存在が不可欠なのである。差別や偏見を断ち切り、より多くの人が生きやすい社会をつくっていくために、まずはLGBTQIA+を知り、理解し、寄り添うことが必要だ。今回紹介したようにアライとしてアクションする人が増えることを願う。
文:尾崎はな
編集:篠ゆりえ