よりよい未来の話をしよう

連載「わたしと選挙」を考える ー第3回 SHIMONーまず選挙、ではなく生活に興味を持つことからはじめたい

「どうして僕は投票できないの?」
幼い頃の疑問が当たり前に投票に行く今をつくった

小学生の頃、選挙があるたびに投票へ行く親について、散歩がてら投票所へ行っていました。政治や選挙に興味があったわけではないですが、せっかく歩いて投票所に行っても、投票できなかった小学生の僕は「どうして僕は投票できないの?」とその理由を親に聞いていたそうです。この、選挙があると必ず親と共に投票所に行く、という幼い頃からの習慣が、有権者になったら自分も行くものだ、という意識につながったのだと思います。政治に参加する!という強い意志があったわけではないのですが、迷うことなくとりあえず選挙には行くようになりました。
僕は選挙権を得てからは必ず投票に行くようにしていますが、正直な話をすると僕の周りの友達やスケーターで投票に行っている人はほとんどいません。その理由を、少し考えてみたいと思います。

スケートカルチャーと政治

スケートカルチャーはもともとカウンターカルチャーとしてアメリカで始まりました。既成文化に対する反発から生まれた文化です。そのようなストリートカルチャーの中に生きるスケーターなので、政治参加をあまりしなかったり、自分とは関係ないのではと考える人もいますが、スケートボードをやっていると本当に多くの課題に突き当ります。そしてなんなら、スケートカルチャーは常に社会の中に生きるカルチャーなので社会との距離感がとても近いんです。

例えば、現在日本ではスケートボードを楽しめる場所が本当に限られています。都心だとほとんどの場所で禁止になっているので、一部のスケートパークだけでしか楽しめません。地方へ行くと移動手段として使える場合もありますが、主要都市だと移動手段として使うのもすごく難しいのが現状です。
じゃあ、スケーターにはこの課題を解決することはできないのでしょうか?僕はそうじゃないと思います。

スケーターは政治参加しないのか?

常識に対して非常識をぶつける“パンクな精神”が支えるスケートカルチャーですが、だからといって社会の全てに対してパンクである必要はないと思います。スケーターも社会の一員であり、自身が生きやすい社会をスケボーのみではなく「投票」という政治参加を通して作っていくことができるはずだと思います。

例えば「移動手段としてスケートボードを使いたい!」と考えるなら、そう考えた時には、じゃあ道路交通法を変えなきゃ、その為にはまずは法律を知ろう、その法律を変えるために政治へ参加しよう、というように、スケーターにとって政治に参加することで変えられることはたくさんあります。自分の生活の不自由さ、身近な課題は、順を追って考えていくとほとんどは政治につながっていくのだと思います。

なぜ投票するのか?

僕は選挙権を得てからは必ず投票に行っていて、より住みやすい社会を投票という政治参加を通して作っていくことができるはず、と言いました。でも「なぜ投票しているのか?」と改めて考えると正直はっきりした答えは出ません。「自分の1票が社会を変えるから」や「選挙で私たちの未来を変える!」と言った言葉を聞くと、選挙が自分たちの生活に密接している大切なものであると理解していますが、僕が選挙に行く理由は、意外とぼんやりしていると思います。社会や政治についてあたらめて考えるいい機会だな!なんか権利をもらったから使っておこうかな!というそのレベルの意識で投票に行っています。

どうしてぼんやりしているのだろうか?と改めて考えてみると、ネットの記事やマスメディアなどで投票先を選ぼうとしても正直よく分からなかったり、内容が身近ではないことが最大の理由じゃないのかなと思いました。そして、この感覚は僕だけじゃなく、多くの若者にも共通しているのだと思います。選挙で掲げられている政策内容が自分たちにとって身近に感じられない、だから投票に行かない、という構造になっているのだと思います。

身近ではない選挙

例えば少子高齢化の場合など、学校やニュースでは深刻な問題だ!という報道をよく耳にしていて、社会課題だということは理解していますが、実際そのことが自分の人生にどのような影響を及ぼすのかというのは想像が難しい。年金制度の崩壊、医療費の高騰、経済成長率の低迷と言われても、正直現段階でその問題を肌で感じられない。

理解はしているけど、実際その問題意識と政治参加がリンクしないこともあります。
日本の人口が減少し、市場が縮小すると日本市場の魅力が低下していく。そうすると、海外企業にとっては、日本市場に参入するメリットがないので日本でのサービスはやめましょうとなる。スケボーで例えると、スケボーのブランドが日本で販売されない、など自分の身近にあるものが手に入らなくなります。商品が日本で発売されないと、業界の盛り上がりも無くなる。そうすると、若い世代のスケートボーダーがさらに減少し、そのことは、若い子がマスの層であるスケートボード競技人口も減少にもつながる。そうなるとスケートパークの制作も社会的に必要がないと判断されてしまう。
ここまで分解して、初めて人口減少の問題を身近に感じるのだと思います。このように、社会課題に対して、「身近なこととして起こり得る可能性を予想する余裕」が私を含めて今の10代20代にはないんじゃないかなと思います。

新型コロナウイルスで身近になった政治参加

僕にとっては、段々と選挙が身近に感じられるようになりました。これまでは、23歳の僕の生活と政治の距離感が遠くに感じられて、実際どのように影響しているか分かりにくかったのですが、ここ2年間のコロナをきっかけに、すごく分かりやすい形でそれが現れたと思います。コロナによる規制など、その時々の政治判断が私たちの行動にダイレクトに影響するようになりました。緊急事態宣言、まん延防止等重点措置、GoToトラベルキャンペーン。規制や制限の範囲は広く、スケートパークも閉鎖され、練習環境がなくなりました。
これまでの当たり前が覆され、僕の生活も一気に変わった、変わらざるを得なかったコロナをきっかけに、政治が一気に身近に感じられるようになった。

僕が政治参加に興味を持ったのはつい最近です。僕はそこまで最新の政界情勢や経済全体の最新情報に興味があったり、意識したりはしていません。ただ僕や僕の周りの環境で改善したいことは、社会的な仕組みを通して改善できるのではないか?という視点を持つようになりました。それが「投票」という形で現れる場合もあれば違う場合もあります。2021年には日本にスケートパークを増やしたいと思い、政策を提案し、署名を集め、議員さんの協力を得てスケートパークを作ることに成功しました。

今はメディアをはじめとする多くの方が「選挙に行こう!」と声をあげています。素晴らしい取り組みだと思っていますが、選挙は権利であって義務ではありません。なので、僕は友達やスケーターに「選挙に行け!」とは言わないようにしています。選挙は行きたい時に行くべきだと思うからです。投票したい!と思う時期は自然と来るのではないかと思うからです。

選挙に行くことではなく、
社会の仕組みに対して意識を持つことを大事にしたい

選挙は限られた選択肢の中から選びなさい、という仕組みです。逆に言うと自分が変えたいことを、用意された選択肢から選ばなければならないという時点で興味が出ないのは普通だと思います。選択肢が限られているから消去法で選択したり、興味を持ちにくかったりするのだと思います。社会を変える方法は選挙だけではない。選挙という政治参加以外にも、もっと身近に好きな地域のコミュニティーに関わることや好きなシーンを応援するなど、身近なところに目を向けて興味を持つようにしています。好きなことに熱中すると、いつか課題や不自由に直面します。その解決方法が政治参加かもしれないし、そうじゃないかもしれない。それぐらいのキモチで社会と関わっていきたいと僕は思います。そうしているうちに、いずれ選挙に辿りつくんじゃないかと思っているから。

 

SHIMON
スケートボード系動画クリエイター。不登校だった小学生の時にスケートボードと出会い、人生を変えられて以後、その魅力を広めるために国内外で精力的に活動している。スケートボードを通して、すべての人が自由に表現できる社会を目指す。登録者数21万人を超えるyoutubeチャンネル「MDAskater」を運営、途上国でスケボーを教える「SkateAid」プロジェクト主宰。更なるスケートボードコミュニティー拡大を目指し、オンラインサロンを運営する側、オリジナルアパレルブランド「SHIMON」も展開。著書に「僕に居場所をくれたスケートボードが、これからの世界のためにできること。」がある。株式会社GROOFY取締役。Ritopia代表。

 

(注)
本コラムに記載された見解は各ライターの見解であり、BIGLOBEまたはその関連会社、「あしたメディア」の見解ではありません。


寄稿:SHIMON
編集:おのれい