よりよい未来の話をしよう

連載「わたしと選挙」を考える ー 第1回 eri (DEPT 代表)ー 「あたりまえ」は必死に求めるものではない。 政治=生活だからこそ、自分ごととして考えたい

2021年10月、衆議院議員総選挙が行われた。街中では投票を促す広告やニュース番組が溢れ、比較的若者層ユーザーが多いSNSでも、選挙がトレンドになる様子も見受けられ、政治参加への機運の高まりを感じさせた。しかし、蓋を開けてみると「戦後3番目に低い投票率」という結果に終わった。
私たちは、「政治」や「選挙」とどう接点を持ち、そしてどう関係し合っていけるのだろうか。2022年夏に参議院議員通常選挙を控え、あしたメディアでは「わたしと選挙」をテーマに連載を掲載する。あなたと政治との関わり、あなたと社会との関わりのヒントになると嬉しい。初回は、DEPT Company代表・デザイナーでアクティビストとしても活躍するeriさんに思いを寄せてもらった。

「パパは誰に投票したの?」
「それは教えない。えり自身がいずれ決めることでパパの意見に左右されるべきじゃないから」

幼い頃に父と交わしたこの会話を今でもよく思い出します。
これが自分にとってよく作用したことと、そうでなかったことがそれぞれにあったと思う。

よかった>選挙というものはとても重要なことであると感じられたこと

よくなかった>誰に投票した、どこの政党を支持するなどは他言してはいけないのか…と思ってしまったこと。

「政治=生活」
だから、政治を語るのはタブーなんかじゃない。

私は本業であるアパレルの仕事と環境アクティビストの活動とは別に
市民がもっと政治のことを気軽に知れ、学ぶことのできるプロジェクトの運営や
投票率を上げるための運動、野党連合の応援、政党・政治家の方のサポートなど
政治・選挙に関する活動をしています。

それらをやっていく中で
世の中には「政治の話はしづらい」という閉塞感を抱える人が多く存在していて
そしてそれが日本における政治への無関心、低投票率にも繋がっている…!!
と大きな壁が立ちはだかっていることを痛感するのですが(しくしく)
私が育ったようなまあまあリベラルな環境の中でも
「政治の話はタブー」感が漂っていたことを考えると
そりゃ仕方ないよなあ、と先の会話を思い出して納得するのです。

でも父が言っていた中で大事だなと思うことのひとつは
「自分の票を誰に(どこに)投じるかは自分の意思で」という部分。
当たり前っちゃ当たり前なんだけど、なんか私はそこに
「…っ、かっこいい!!」と静かに興奮したんです。
自分にその権利があるってところに。

それが民主主義なんですよね?
自分たちのことを自分たちで決められるってめちゃくちゃいいじゃないですか!(逆にそれ以外嫌なんですけど)
選挙運動の端っこにいていつも願うのは、このかっこいい部分でもっと共鳴できたらいいのになあ、ということ。
選挙期間、活動をしていると「自分の一票なんて」 「どうせ変わらないし」 「よくわかんないしめんどくさい」 「どうせ負けるし」 そんな言葉たちが、気持ちたちが私の横を通り過ぎていった。
ええええええええ!!!待って!

みんな自分の生活が、未来がもっとよくなったらいいな、って思ってるよね…?
こうなったらいいなって思うこと、大なり小なり持ってない…?
それ、全部持ち寄って話さない?
それを叶えてくれる(叶えてくれそうな)政治家を国会へ送るためにその投票権使おうよ?!

「政治=生活」だと思ってる。
国会のなかで“エラい”人たちがなんやかんや良きに計らってくれてるものじゃない。
そして、その議員たちは私たちが選んで(選べ)て、私たちの希望を具現化してくれる。
私たちは「あとは託した!」ではなくて
ちゃんとやってるか〜?と見守って、あるときは声をあげて一緒にやってくものだよ〜!、って言いたくなる。
政治はみんなのためにあるのに、そう感じられない社会になっていて、すごく残念に思う。


よく政治家を“センセイ”って呼んだり、“エラい人”扱いしたりするけど
彼らは“市民に選ばれた市民のために働く人”であって、私たちの上に立つ人ではない。
その植えつけられた“格上”感?“天上”感?というイメージも、市民参画を妨げてる大きな要因になっている!!とも思うのです。

政治家も同じ人間だった、
そう気付かされた自分。

とはいえ、自分も一個人として選挙に向き合っていた頃とは状況が変わり、
実際に政治家の方達と接するようになって

『政治家も同じ人間だった…』

と気づかされた、というのも事実です(笑)。
(しかし私がお話しする機会があるのは圧倒的に野党の方なので偏りはありますが…)

訊かれた質問に対して、答えをはぐらかす、答えない、時には無視して、ひどいときには嘘をつく。
ロボットのような感情の見えない顔色と口調、
ご飯論法、とか名づけられている会話。
日常会話でされたら、私なら顔を真っ赤にして怒ってしまいそうなやりとり…
安倍、菅、岸田内閣と、直近の国政をみていても
人の心に欠けた言動の数々にうんざりし、
「ちょっと自分では理解できない異世界の人々…」と政治家を
どこか遠くに追いやるような気持ちでいた。
そんな自分に気がついたのです。

先の衆議院選挙から、特に野党共闘政党の政治家の方とインスタライブや講演会、街宣などでご一緒する機会が増えた。
実際にお会いして、心から応援したいなと思えた政治家の方々は
パッションに溢れ、市民への想いと自らの理想、そしてこの国の問題を
『自分の言葉』で私たちに伝えてくれる。
その表情、身振り手振り、語気、すべてで語ってくれる。
私はその姿に感動し、本番中にも関わらず何度も涙した。

そう…私が政治家に求めることって、やっぱこれだ。
『市民のことを一番に考えた政治』
それしかないじゃんって。
しかもそれ、当たり前のことじゃん…。

そんな当たり前のことすら私たちはこんなに必死になって求めなきゃいけない。
そんな国政、おかしくない?

だめなことは、ダメっていう。
そんな当たり前のことを政治でも考えたい。

嘘つかないで
無視しないで
無駄遣いしないで
差別をしないで
命をないがしろにしないで

こんな当たり前のことを
政府に求めている。

いやもっと有意義なディスカッションさせてよ…ってなるんですが
それもやはり市民が許し続けた結果でもあると思うんです。
私腹を肥やそうが、税金をどう使おうが、三権分立を揺るがそうが、
文書改ざんしようが、人権をないがしろにしようが、どんな失言しようが、
みんな時間が経てば忘れてくれるでしょう、と。

だめでーす。
だめです、だめダメ。

そう、
「だめ!やめて!もっとこうして!」
声をあげないと、国はもちろん、私たち自身が変われない。

有志の仲間と立ち上げた
政治の問題を忘れずに議論し続けるためSNSアカウント『クイズ!この国の問題が問題』では、過去に起こった数々の問題をクイズ形式で出題・解説している。
また、『みんなの未来を選ぶためのチェックリスト』では、
選挙における政策比較のため国政政党に公開質問状を送り、
原則○、×、△で回答していただいた内容をWEBやSNS上でシェアしている。

企業や工場からでた、不要になった生地などを中心に使用し
投票呼びかけメッセージをハンドプリントした布パッチを全国に配る
「Rebel for the future」というグループも運営してきた。
 

その他にも、野党共闘を応援するために、
新宿を皮切りに都内各所で行なった市民と政治家による市民街宣など、
去年、さまざまな活動を通して

「だめでーす!」

って声をあげる仲間にたくさん出会うことができた。
それで気がついたのは
「誰かと一緒に声を上げて、求める未来ってこんなだよねって話し合えること」が
こんなにもヘルシーで心強くて、豊かな気持ちになれるものなんだ!!
ということ。

たとえそれが険しい道のりであったとしても、
ひとりじゃないって感じられることってこんなに大事なの…って。

あ、この感覚、何かに似てる…
それは気候変動の活動でした。
やっぱり仲間がいるから、話せる人がいるから、頑張ってる姿を見せてくれる人がいるから、自分も頑張れる。
悲しいことがあってもまた立ち上がれる。

政治も気候変動も、毎日頭も心も痛むような話ばかりで
決してへらへらのんびりしていられる状況ではないけれど、
それでもまだ前を向いていられるのは
世界を少しでも良くしようって声を上げている人がいるから。

ひとつの会話から次の社会は新しく始まる。

そう。社会は私たちがつくってる。
私たちの心がつくるもの。
ひとりひとりの声『も』大事、じゃない。
ひとりひとりの声『が』大事なんです。


声をあげても変わらないって思うよりもまず、
声をあげられる権利があることを喜びたい。
女である私に今投票権があるのも、過去に立ち上がってくれた人々がいるから。
じゃあ、自分は未来に何が残せるだろう?

だから、タイムマシーンがあったら父と幼い私と話をしたい。
政治のいろんな話も、小さな疑問も、
どんな政党を応援してどんな政治家を応援したいかってこともいろんな人と話をしたいって。
話すことから始められることってたくさんあって次の社会は、『話すこと』からまた新しく始まるんだよ!って。


 

eri|えり 
1983年ニューヨーク生まれ、東京育ち。 DEPT Company代表/デザイナー/アクティビスト。2015年、父親が創業した日本のヴィンテージショップの先駆けであった “DEPT” を再スタート。気候危機を基礎から学べるコンテンツ『Peaceful climate strike』や環境とファッションの問題に焦点を当てた「Honest closet」の立ち上げなど、ファッションの枠を超え活動している。またメディアやSNSを通し可能な限り環境負荷のかからない自身のライフスタイルや企業としてのあり方を発信し、気候変動・繊維産業の問題を主軸にアクティビストとして様々なアクションを行なっている。 Instagram @e_r_i_e_r_i

(注)
本コラムに記載された見解は各ライターの見解であり、BIGLOBEまたはその関連会社、「あしたメディア」の見解ではありません。


寄稿:eri
編集:おのれい