「あなたがあなたのままで、あなたらしい人生を『選択しやすいような社会』の実現をめざした事業を行います」
ジェンダーやセクシュアリティにまつわる事業を行う株式会社TIEWAが掲げるミッションには、そのように記されている。同社CEOの合田文さんは、「自分の気持ちを話しても軽視されず、共存するために新しい選択肢を導き出そうとできる場所こそ、一人ひとりが自分らしくいられる居場所だと思います」と語る。
TIEWAが運営するInstagramのアカウント「パレットーク」では、LGBTQ+やフェミニズム、ダイバーシティにまつわる漫画を毎週配信している。世界を変える30歳未満の日本人30人を表彰する「30 UNDER 30 JAPAN2020」に選出され、「あしたメディア in Podcast」にも出演した合田さん。その活動にかける思いについて、お話を伺った。
「頑張らなきゃいけないのは当事者じゃなくて、会社だと思った」
まず、セクシュアリティやジェンダーの分野に関心を持たれたきっかけについて教えていただけますか?
きっかけは、人材系のIT企業に勤めていた時に開催した、LGBTQ+にフレンドリーな就活イベントです。そこに集まっていた方達のお話を伺っているときに、職場で自分の素が出せないとか、「週末どうしてるの?」と聞かれたときに嘘を積み重ねてしまうようなコミュニケーションしかできない、と聞いて。不安を感じながら働くのはやはり辛いのだ、と自分自身合点がいきました。でも、環境を整えるのは、課題を抱えてすでに頑張っている当事者たちではなくて、会社や周囲の人達がきちんとやっていかなくてはいけない、と感じたことが今の仕事に繋がっています。
現在、株式会社TIEWAではどのような事業を行っているのでしょうか?
主な事業は3つあります。まず、「マンガでわかるLGBTQ+」という副題で「パレットーク」というInstagramのアカウントを運営しています。ジェンダーやセクシュアリティ、ダイバーシティに関する情報を実体験を基にして発信し、実際に起こったことに対して感じたモヤモヤを言語化したり、その疑問や違和感をどうやって解決していこうか、など次のステップに繋げるための活動をしています。
2つ目は、「AMBIRD(アンバード)」という男性同士のマッチングアプリの開発運営です。見た目や住んでいる場所だけではなくて、趣味や価値観を基軸に、自分らしく出会える出会いとはなんだろう?というコンセプトで運営しています。その他にも、社会課題と企業課題の交差点になるような提案を行う企業向けコンサルティングを行っています。セミナーやイベント、SNS運用や広告やウェブサイトのクリエイティブ制作までやらせていただいています。
以前勤めていた会社の事業がきっかけで、TIEWAを起業されたそうですね。
はい、元々所属していた、上場企業の子会社がジェンダーやセクシュアリティに関する事業を始めたので、そこにジョインさせてもらいました。友達の紹介で、ふらっとアプリのレビューをしに行ったイベントで話が盛り上がり、終わりには「じゃあ一緒に働こう!」と。当時、転職して半年ぐらいしか経ってなかったので「大丈夫かな(笑)」と思いつつも始めましたね。そこから事業の立ち上げをして、その事業が軌道に乗り、最終的にその会社から卒業する形で私の方が事業買収をしてTIEWAを始めました。
「その人らしさ」を強引に決めつけてはいけない
パレットークでは、主に無関心層の方に向けて情報発信をされているそうですね。興味のない人に見てもらうために、どのような工夫がされているのでしょうか?
発信のツールとして「漫画」を使っていることと、Instagramをプラットフォームにしていることです。あとは、「これはジェンダーの話です」のような訴求の仕方ではなくて、もう少し気軽に受け入れてもらえるようなストーリー仕立てにしているのもポイントです。これはマーケティングとしてやっていることでもありますが、何も興味ないよという人ではなくて、そういう情報を摂取してもいいかなとか、知りたいけどどこから勉強していいか分かんないし、論文は読む気にならない…という人たちにとっては学びのきっかけにしてもらえるので、発信の仕方は特に工夫しています。
あとは、なるべく次のアクションを考えてもらうために、こうなるといいかもしれないね、こういったことを1人ひとりが考えていくといいかもしれません、という終わり方にしています。漫画を見てもらったあとの道標はもう少しきちんと作りたいと思っていて、いまWebメディアも開発中です。
SNS上の漫画コンテンツを見た方に対して、どのようなアクションを期待しますか?
大きな話でいうと、政治参加ですね。そのなかでも特に選択的夫婦別姓や同性婚の法制化は大きなキーワードだと思っています。実際に困っているという方からもたくさんパレットークにお便りが来ますし、同性婚が法制化されたら当事者のメンタルヘルス向上ひいては自殺防止にも繋がると考えられています。なので、選挙の投票時には考えてほしいですね。
もう1つは、普段のコミュニケーションの改善です。どのようにコミュニケーションを改善できるかというと、やっぱり1人ひとりの「らしさ」を決めつけないことだと思います。この人はこうだからこうだよね、ではなくて、本当はどう思ったかを言えたり、それを言われたとしても周りが思考停止しない土台を作った上で、安心して過ごせる場所に変えていくことも大切だなと思います。
人もモノも変化していくもの。大義は後からでも良い
人も社会も、変化には時間がかかるなと感じます。身の回りのことや社会の変化について、合田さんご自身で感じられることはありますか?
最近すごく変わったと思うのはレジ袋の有料化です。あれは、システムが先に変わったからみんなの意識も「レジ袋を使わないことが環境に良い」という方向に変わったのだと思っていて。理解が及んでから法制化しましょうというのでは遅い。やってみて「あ、こういうものなんだな」と順応する力は社会に備わっていると思っています。同性婚の法制化でもそうですが、時間をかけているうちに取り返せなくなってしまうものもあるので、早急に変えていく必要があると思います。その点で、いま私たち個人ができるのはとにかく投票ですね。
確かに、「とりあえずやってみる」というのはとても大事な気がします。
私は結構、後から意味付けをするタイプだと思います。とりあえずやってみて、「なんで自分はこれをやりたかったのかな」と考えてみたら実は繋がるものがあったりするので、大義がなくても始めてみたらよいのではと思います。例えば、よくあるインタビューだと以前このような経験をしたからこそ、いまこの活動をしています、というストーリーを語ることが求められますよね。それもとてもいいと思いますが、私は後から「何がきっかけだったんだろう」と振り返って、「あ、あれだったんだな」ぐらいで行動しています。
とりあえずやってみて、「私のこの価値感ってこういうふうにここで醸成されたのかも、だからフェミニズムが大事かなと思ってるのかも」とか、そのぐらいでいいので、何かもっとチャレンジしてみてもいいのかなって。
これが絶対的な軸とは言いつつ、それは今のわたしの軸にすぎません。自分の考えていることや、大事にしたいものは変わっていくこともあります。進化もしていくし、行動していく中でいろいろ変わるよねというぐらいでいいのではないでしょうか。
第一感情を分かち合える、心の居場所を大切にしてほしい
最後に、「自分らしく」いられる環境づくり、という点で合田さんが普段から意識されていることがあれば教えてください。
最近は第一感情を冷静にシェアできる場所を作ることを大事にしています。例えば、「怒り」という感情は第二感情で、実は怒りが表面化する前に違う感情があると言われています。不安とか悲しいとか、焦ったとか、いろいろな気持ちがあるのに、それをうまく表現できず第二感情として噴火して怒りになるので、第一感情の時点でそれを認めて、解決のために建設的な話し合いができないと、本当の気持ちはケアされず、繰り返し同じことが起きてしまうこともあります。本当はこういう理由で不安だったんだということを自分で受け止めて、シェアできる場所、解決のためのリクエストが軽視されないということがとても大切だと思います。
自分が感じたことを率先して周囲の人と共有することで、気持ちをシェアしやすい環境ができていく、ということもありそうですね。
まさにそうですね。特に、ジェンダー関連の良くないニュースを見たときに「これは良くないな」と感じたら、なんでそう思ったんだろうということは社内でも共有しますね。このようなことが起きて、こういう理由で良くなかったし、こういう気持ちになったんだ、と第一感情を基に思っていることをシェアできるという意味でも、自分の感情を出して共感し合うという事がやはり大事だと思います。
合田さんのお話を聞きながら、自分には心の底で思っていること、感じたことを伝えられる人や場所がどれくらいあるだろうか、と自問自答した。自分が本当に思っていること、感じていることを打ち明けるには、勇気がいる。ときには、その気持ちが正直なものであればあるほどに、分かち合える人が周りにいないこともある。誰だって、自分から切り出すのは心細い。だからこそ、周りにいる人々が率先し、安心できる場所を作ることが欠かせない。1人ひとりの些細な心がけによって、皆が生きやすい、過ごしやすい環境ができていくのだから。
〈合田 文(ごうだ あや)さんプロフィール〉
株式会社TIEWAの設立者として「ジェンダー平等の実現」などの社会課題をテーマとした事業を行う。共通点でつながる男性同士向けマッチングアプリ「AMBIRD」を運営。広告制作からワークショップまで、クリエイティブの力で社会課題と企業課題の交差点になるようなコンサルティングを行う傍ら、LGBTQ+やフェミニズムについてマンガでわかるメディア「パレットーク」編集長をつとめる。2020年、Forbes 30 UNDER 30 JAPANに選出。
取材・文:柴崎真直
編集:Mizuki Takeuchi
写真:服部芽生