よりよい未来の話をしよう

連載「あの人の温泉ワーケーション」vol.1 辻愛沙子さん(株式会社arca クリエイティブディレクター)

今こそ、「温泉」の出番かもしれない。
コロナ禍で浸透したリモートワーク。通勤のストレスは無くなったかもしれないが、自宅での仕事で肩こりや腰痛に悩んだり、部屋に閉じこもっていて心が落ち込んだりなど、心身の疲れが溜まっている人も多いのではないだろうか。そんな悩みをもつ人にお勧めしたいのが、温泉ワーケーションだ。では、温泉ワーケーションには一体どんな効果があるのだろうか。

2022年3月、BIGLOBEは「あの人の温泉ワーケーション」と題し、ゲストを迎えて、温泉旅館に泊まりながら仕事をする「温泉ワーケーション体験企画」を立ち上げた。記念すべき第1回は、クリエイティブディレクターの辻愛沙子さんをゲストに迎え、温泉ワーケーションをした感想についてお話を伺った。

「あの人と温泉ワーケーション」第1回目の宿は、神戸の中心地「三宮」から車で5分ほどの所にある「神戸みなと温泉 蓮」。天然温泉や健康増進施設が整っており、温泉を利用した健康づくりに取り組むことができる。同館は、BIGLOBEが主催する「第13回 みんなで選ぶ温泉大賞®」の旅館・ホテル部門で西日本の1位に輝いた、注目の旅館だ。

画像提供:神戸みなと温泉 蓮

温泉地でワーケーションをするという選択肢

辻さんの普段の働き方は、リモートワークが多いですか?

この1年はほぼ自宅からフルリモートで仕事をしています。本当は外出先などからもリモートワークをしたいのですが、朝から晩まで予定が詰まっていることが多いので、自宅で仕事をすることが多いです。

今回、「神戸みなと温泉 蓮」で温泉ワーケーションを体験してみていかがですか?

目の前に海があって気持ちが穏やかになり、すごく仕事がはかどりそうだと感じました。温泉が2箇所にあるし、岩盤浴もあるし、楽しみが尽きません。海沿いのベンチも良かったですし、テラスで仕事をするのもとても気持ちが良いです。部屋もとても素敵ですね。ワーケーションの途中で、テーブルを海が見えて日差しが入る場所に移動させて仕事をしてみました。宿泊数が長いと、そんなふうに部屋を暮らしやすい状態にすると、気分を変えて仕事をすることができますね。

刺激も一息も、シームレスに。

温泉ワーケーションを体験してみて、仕事に何か良い影響はありましたか?

非日常的な環境なので、気づきが生まれやすいですし、思考の整理ができました。というのも、移動距離とクリエイティビティは相関関係にあると言われているんです。普段よく散歩をするのですが、風が吹いて緑が揺れたり、知らない人が歩いてたり、自分の脳で予測していない景色の変化があると、それが刺激になって発想に繋がったりするんですよね。それと似ていて、今回温泉ワーケーションという非日常的な体験をすることで、とても刺激を受けています。

画像提供:神戸みなと温泉 蓮

会社の方々と一緒に温泉ワーケーションをするとすれば、どんな効果がありそうですか?

ホテルや旅館でワーケーションをする良さは、それぞれの行動が完全に分かれているわけではないところにあると思います。各自の部屋もありつつ、一緒にご飯を食べに行ったり、温泉で会ったり、時間を決めて待ち合わせができますよね。1人で過ごす時間と集団で過ごす時間の両方を同じ場所で取れるのは、とても良いと思います。仕事だと、家で1人かオフィスでみんなと一緒かの2択になってしまうので、会社の人とワーケーションに参加すれば1人で仕事をしていても寂しくなったらすぐ誰かに会える。それと、1人の空間だけど隣の部屋で仲間が仕事をしているっていう適度な緊張感や絶妙な緩さ、距離感が良いですよね。スーツを着て仕事するのとはちょっと違って、ベッドの上で作業するということもできるし。温泉ワーケーション、最高です。会社のメンバーを連れてみんなでここでワーケーションをしたいくらいです。

リモートワークではオンオフの切り替えが難しいという人もいると思いますが、辻さんは気分の切り替えはできるほうですか?

私は元々オンオフが無くて、あまりワークライフバランスを器用に取れるタイプではないんです。個人的には、仕事とプライベートがシームレスに繋がるのが温泉ワーケーションの良いところだと思ってます。仕事をして体が疲れたら温泉やマッサージに行って、また仕事に戻ることができますよね。家だとズルズル仕事をしてしまって、なかなか切り替えられないので疲れ果ててしまいますが、温泉ワーケーションのような非日常的な空間だと一瞬で気分を切り替えられます。でも楽しみ方は人それぞれなので、仕事をするときは集中して机に向かって、終わったら温泉やプールで存分に楽しむというような楽しみ方もあると思います。

人生は長距離走。
うまく休みながら走っていこう

この旅館でワーケーションするとしたら、他にどんな形があるでしょうか?

パートナーと一緒に来て、それぞれ仕事するのも良いですよね。友達同士で来ても楽しいでしょうし、家族と来ても良いと思います。家族連れであれば、両親の一方は仕事をして、もう一方は子どもを預かってアクティビティで遊ばせて、戻ってきたら交代して......というような楽しみ方もできるのではないでしょうか。今回宿泊した旅館は、のびのび遊べるような公園も近くにあって、お子さんも飽きなさそうですよね。親御さんも適度に休みながら自分を労ることができるし、お子さんも思い切り遊べるし。家族で温泉ワーケーションに参加するのも素敵だと思います。

適度に休みながら働くことは、やはり大事なのでしょうか?

ご自愛は本当に大事だと思います。私は放っておくと寝ても覚めても仕事しちゃうくらい、仕事とプライベートの境界がないんです。これまでは自分の優先順位の中で、暮らしは下のほうに位置することが多かったので、最近は意識して暮らしも大切にしています。小さな事ですが部屋を片付けたり、食事も作業しながらではなく、ちゃんと机について音楽を流しながらゆったりとした気持ちで食べるなど、できるだけ丁寧に暮らそうと。コロナ禍で家にいる時間が増えて、一見、非効率的なことが大事なんだということにようやく気づけたんです。

ご自身の会社の働き方については、どう思いますか?

私が四六時中仕事をしていることで、「休む」ことに罪悪感を感じる人もいるのではないかなと思っている部分もあります。私は無理して働く事を周りに全く強要せず、むしろ社員にはもっと休んで欲しいと思っています。真面目で仕事が好きな人であればあるほど、オーバーなくらい「休んでください」って伝えないと休めない。休むのって意外と難しいですよね。若い時って頑張りたい人が多いし、特にクリエイターだとどこにチャンスがあって何が自分の転換期になるのかわからない。だから、立てる打席は全部立ちたいと感じるんだと思います。仕事をやりたい人は自由にやれば良い。でも人生は長距離走なので、うまく休みながらバランス良く仕事をしていくのは大切だと思います。
私も休み方を学んでいる最中ですが、その1つの選択肢として、ワーケーションは良い選択肢なんじゃないでしょうか。

画像提供:神戸みなと温泉 蓮

柔軟な働き方で、どんな未来が見えてくる?

これからワーケーションはますます浸透していくと思いますか?

もっと浸透してほしいですね。旅行に行ったり遊んだり休んだりすることに罪悪感を感じてしまう人が、まだまだ多い気がするんです。そういう人も、丸1日休むのではなく、例えば1時間温泉に入ってまた仕事に戻るというふうにしてみれば、罪悪感を感じにくいのではないでしょうか。仕事か遊びかの「0か100か」じゃなく、1日の中で仕事と遊びをうまく組み合わせる、自由な働き方が増えていくといいなと思います。
ホテルや旅館側も連泊のワーケーションプランを設けて料金を安く設定したり、サービス提供側も、ワーケーションをしに行く我々も、サポートする企業も、それぞれがもうちょっと自由な仕事の仕方を導入すると、日本の生産性がより上がるのではないでしょうか。

もしコロナ禍が明けたら、海外でもワーケーションができるようになると良いですね。

それは最高ですね。仕事なんていろいろな場所でできるはずで、むしろ社員それぞれ行きたい場所に行って、「滞在先のこういう文化が面白くて」みたいな話をお互いに共有したりするのも良いですよね。いろんな気づきや学びがありそうです。

ご自愛だって、大切だ。

日々仕事に追われる中で、自分を労わる「ご自愛」の時間をなかなか取れない人は多いのではないだろうか。でも、辻さんの言葉を借りれば「人生は長距離走」だ。必ずしも全ての人が、アクセル全開で頑張り続けられるとは限らない。だから、自分を労りながら頑張るという選択肢も、大事にされるべきではないだろうか。大きく働き方が見直されている今、健康を大事にした働き方ももっと浸透していって欲しいと願う。次回は、弁護士の水野祐さんのインタビューをお届けする。

 

辻愛沙子
株式会社arca CEO / クリエイティブディレクター
1995年11月25日生まれ。「クリエイティブアクティビズム」を掲げて社会課題に向き合う。大学在学中に広告会社のインターン、社員を経て独立。株式会社arcaを設立し、様々なサービスや広告を生み出している。

 

取材・文:髙山佳乃子
編集:篠ゆりえ
写真:服部芽生