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あしたメディア in Podcast #7- #8 シオリーヌさんと考える「あしたの性教育」とは

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「社会を前進させる取り組み」をテーマに様々な切り口から“いま”知りたい情報を発信する「あしたメディア in Podcast(全16回)」。メインMCを務めるのは、ラップデュオchelmicoのRachelさんと映画解説者の中井圭さん。この記事では、第7回(1月24日配信)と第8回配信(1月27日配信)の内容をダイジェストでお届けする。

「分断を生まないために、これからの性教育を考える」。助産師であり、性教育YouTuberとしても活動するシオリーヌさんをゲストに迎え、全ての人が生きやすい社会を実現するための性教育について伺った。

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学校での性教育のリアル

保健体育の授業の一環として実施される性教育。男女が違う教室に分けられた上で、授業が行われた記憶のある方も多いのではないだろうか。第7回の序盤では「性教育のリアル」についてトークが繰り広げられた。

シオリーヌ:今は男女別れて性教育の授業をする、という学校は少しずつ減ってきていると思います。しかし、そのなかで伝えられている内容は、私たちが学校に通っていた年代と正直あまり変わらないというのが現状ですね。それこそ、生理の手当ての方法を簡単に教わる事はありますが、生理の詳しい仕組み、あるいはどのような症状の場合に病院に行ったほうがいいか、など具体的な内容についてはなかなか触れられないという状況が現在も続いています。いざ当事者になった時に何も知らないというのが、教育として機能していないのではないかと感じます。

中井:実際は学校外の情報源から性教育について学ぶこともあるかと思います。この場合、どのような点が問題になるでしょうか。

シオリーヌ:私が学生だった時はインターネットもそれほど普及していなかったので、まだ情報を友達とすり合わせる機会があったような気がします。一方で今の視聴者さんの年代の方からお話を聞くと、本当に個々人でインターネットで情報収集をしているという方が多くて。インターネットの情報がもちろん正しい場合もありますが、信頼性が低い情報が多いのも事実です。
学校で十分な知識を教わっていない子どもたちが、自己責任で正しい情報を選ばなくてはならない状況にさらされているのは課題だと感じます。やはりそういった情報社会を生きる子どもたちが安全に暮らしていけるためには、学校や身近な大人が正しい情報を伝える必要があると思い、いつも活動しています。

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大人こそ、性教育の「学び直し」が必要

現代の子どもたちは、性に関する素養を自己責任で身に付けねばならない状況に置かれている。では、本来教える立場である大人が十分に性教育を受けてきたかというと、そうではないとシオリーヌさんは語る。

シオリーヌ:私たち大人世代も性教育を十分に受けてきていないですよね。その大人世代に「じゃあ、今日から頑張って教えてください」と言っても培ってきているものもないですし、性の話は恥ずかしいという刷り込みをずっとされてきた人たちがいきなり性教育を始めるってすごくハードルの高いことだなぁと感じます。まずは大人が学び直さねばならない、というのは本当に一番の課題だと思っています。

中井:実際、大人はどうやって学んでいったらいいんでしょうね。

シオリーヌ:今は性教育のコンテンツがすごく増えています。例えば子ども向けの性教育の本があったとして、それを子どもに渡す前にまず大人が読むといいと思うんですよ。そうすると伝え方を学び取ることができると思うので、まずはそれが第一歩かなと思いますね。

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Rachel:実際に親が子どもに性教育を施すなかで、失敗しがちなミスはありますか。

シオリーヌ:やっぱり性の具体的な質問が飛んできたときに怒ってしまうとか嘘をついてしまうという話は親御さんから聞きますね。そこでつかれた嘘の内容を友だちに話して恥ずかしい思いをしたと覚えていらっしゃる方もいますし、その嘘が後々の親子関係に悪い影響を与えることもあります。なので嘘をつくのはよくないと思いますね。
もちろん質問に対して、ぱっと良い答えが出ないことはよくあると思います。それこそ私たちは学んでいなかった世代なので。その場でうまく説明ができなかったとしても、「それが気になるんだね」と、その言葉を受け止めます。ちょっと上手に答えられないから、調べたらまた話していいか、とか、ちょっと保留にするのはアリだと思うんですよ。

中井:1回、そこで間を置くという。

シオリーヌ:そうです、嘘と否定の言葉を飲み込むというのが大事だと思いますね。

「包括的性教育」の重要性

第7回の終盤は、若年層の性教育の実態についてトークが繰り広げられた。シオリーヌさんは、現行の指導要領と実際の生活に乖離(かいり)が生じていることに懸念を抱き、「包括的性教育」の重要性について強調する。

シオリーヌ:今の学校の性教育の指導要領の中身を見直していく必要があるということは、長年性教育を発信している人たちから声が上がっていることではありますが、やはり変わっていないのが現状です。とはいえ親御さんや学校の先生のあいだでは、システムは変わっていないけど、伝える努力をしなきゃいけないよね、という声がすごく増えてきたので、草の根活動のように少しずつ広がりつつあるのが今の状況かと思っています。

中井:ちなみに、今の子たちの初体験の年代ってどのあたりになるんですかね。

シオリーヌ:私も具体的なデータはぱっと出てこないんですけど、高校生〜大学生くらいの年代がボリュームゾーンになっていると思います。

Rachel:教育の場において具体的な話をしないのは、教えたら興味を持って実践しちゃうんじゃないか、ということらしいんですけれども、そんな事、ある?って思うんですよね。

シオリーヌ:それこそ、そのような具体的な内容を含む性教育のことを包括的性教育と言うんです。具体的なことを教えると興味本位でする人が増える、という意見から日本では反対する方もいるのですが、むしろ諸外国のデータからは、きちんと教えてもらうと子どもたちは慎重な行動をとるようになるんだ、ということが結果として出ています。ではなぜ日本では教えないのか、と思ってしまいますよね。

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盛り上がるフェムテックムーブメント

第8回のテーマは、去年の流行語大賞にもノミネートされた言葉である「フェムテック(※1)」。盛り上がるフェムテックの動きについてお話を伺った。

 Rachel:人類の半分がおおむね女性なわけですから、企業はなぜそこに切り込まないのかと以前から思っていました。とはいえ私がフェムテックについて知ったのは最近で、シオリーヌさんは前からご存じでしたか。

シオリーヌ:月経カップや吸水ショーツといった商品の存在は知っていましたが、それをひとくくりにしてフェムテックという市場が日本で語られるようになったのはごく最近だと思っています。性に関する話題は秘めていくことが美学とされていた時代が長かったなかで、少しずつ身体の問題を当たり前の健康課題として声を上げていいんじゃないかということだったり、困っていることを我慢するのではなく、何かグッズを使ったりテクノロジーを使って解決したいと思ってもいいんじゃないか、みたいなムーブメントも相まっていち大ブームになってきているんだろうなと思います。

Rachel:ちなみに、海外と日本ではフェムテックの規模にどれぐらい差があるんですか。

シオリーヌ:フェムテックの市場規模について詳しくはないのですが、海外だとそのような課題に取り組む企業は多いですね。とはいえ昨年も日本のメーカーで大手のメーカーから月経カップや吸水パンツが発売されたりして、日本の企業もそういったことに取り組み始めているというのは大きな変化ですね。日本の市場規模もどんどん広がってきているという感覚です。

※1 女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決する商品やサービスを指す。

「生理休暇」に覚える違和感。誰でも気軽に休める社会を

中井:女性にとって生理痛がなかなかきついという話はあって、最近では企業側で休暇を設けたりしてそれを肯定していこうという動きがある印象です。

シオリーヌ:生理休暇の話で、いつも私が思うのは生理に限らずさまざまな体調不良でみんながもっと気軽に休めたほうがいいんじゃないかということです。特に身体のことだけではなくて、ちょっとメンタルが不調になった段階でもきちんと休める環境があった方が多くの人が健康に働ける環境が作れるんだろうなと思います。
今ってよほどのことがないと休めないという環境が当たり前の働き方になっているのが問題だと思います。だからこそ「生理休暇で休むとずるい」という話が出るんだと思うんですよね。なんだか、みんながちょっと無理して働いているのが1番の問題な気がしています。

性差を超えて、互いに理解し合うには

性の問題を理解する上で、当事者でないゆえに苦しみの感覚が分からないという葛藤を抱える人もいるのではないか。第8回の終盤では、性差を超えて理解し合うために必要なこととは何かについてトークが展開された。

中井:「男性が女性の問題をどのように理解していけばいいのか」というのが大きなテーマになってくると思います。

シオリーヌ:男性が女性の身体をというよりは、「この社会で一緒に生きている人がどんな困難を抱えている可能性があるか」を知る事は、何においても大事だと思っています。経験できない辛さで苦しんでいる人がいるかもしれないという想像力を持つことが重要ですね。

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シオリーヌ:あとは、よく男性から、女性の身体の問題を知りたいけどそれを聞くのはセクハラになるのでは、というご質問をいただいたりします。今まで性の話ってすごくプライベートなもので隠さなければいけないという印象が強かったけれども、プライバシーを守るべきところと全員が教養として知っておくべきところと分けて考えていく練習をする必要があると思っています。
こういう話をするときには、嫌だったら言ってね、とか前置きをつけるとコミュニケーションがスムーズになるのかなと感じます。

第7回と第8回を通じて、シオリーヌさんには性教育とフェムテックをテーマにお話を伺った。そこでは、「性」というトピックにおいて、いかに世代間や性差による分断が生まれているかが語られた。その差は簡単に埋まるものではないが、現在はシオリーヌさんをはじめとして、誰も生きづらさを感じない社会を目指して草の根運動を続ける人々がいる。個人レベルでも、他者の痛みを想像して一方的ではないコミュニケーションをとることが重要だと思わされる回だった。

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<あしたメディア in Podcast概要>
MC:Rachel(chelmico)、中井圭(あしたメディア編集部、映画解説者)
配信媒体:Spotify(Apple Podcastでも順次配信予定)
更新頻度:週2回配信、全16回

 

文:Mizuki Takeuchi
編集:おのれい