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ビリー・アイリッシュが向き合う2025年の気候変動。REVERBとClimate Live Japanに聞く、その具体的なアクションとは?

2025年8月。全国で40度を超える地点も多く、例年を超える危機的な暑さを感じる夏だった。気温上昇による気候変動は私たちの生活に直接的な影響を及ぼし続けており、早急な対策が求められている。

音楽業界でも、そんな課題の解決に取り組んでいるアーティストは多数いる。過去にあしたメディアでは、ビリー・アイリッシュの活動を中心に取り上げた。

そんなビリー・アイリッシュが2025年、3年ぶりに来日し公演を行った。彼女が現在行っているワールドツアー『HIT ME HARD AND SOFT: THE TOUR』では、NPO法人「REVERB」が全面的に協力し、気候変動に対する具体的なアクションを行っている。

さらに今回の来日公演では、ユースを中心とした団体「Climate Live Japan」がブース出展し、ライブの来場者に気候変動に対する行動を一緒に呼びかけた。

今回あしたメディアは、そんなREVERBとClimate Live Japanに対して独占取材を行った。ビリーの意思を繋ぐため、彼・彼女らが行った取り組みについて迫る。

REVERBとは…
音楽を気候変動対策の強力な力にすることを使命とし、アーティスト、ファン、そして音楽業界が環境負荷を削減し、ポジティブな行動を広めるための支援団体。これまでにビリーアイリッシュのほか、マルーン5やPiNKなど、世界規模で活躍する様々なアーティストのライブを支援する。
https://www.instagram.com/REVERB_org/

Climate Live Japanとは… 
イギリスの高校生が気候変動問題の認知を広げるために始めたライブイベント。現在各国の若者が中心となり、音楽と気候アクションを組み合わせたイベントを企画・運営する。日本では、気候変動への関心がまだ低い現状を踏まえて、Climate Live Japan の開催を通じて若い世代の意識と行動を変え、社会全体に変革を広げていくことを目指している。
https://www.instagram.com/climatelivejapan/

ビリーとREVERBが牽引する、音楽ライブの気候アクション

ビリー・アイリッシュのツアーでは、具体的に以下のような取り組みがなされている。

  • チケット収益の一部を気候変動に取り組む団体へ寄付
  • 会場に気候変動の注意喚起をするブースを設置
  • 会場の交通手段をなるべく公共交通機関にするように呼びかけ
  • 使い捨てプラスチック製品の削減や廃止

さらにREVERBはこう話す。

「日本公演では、現地のパートナーと協力し、地球規模の課題を地域に根ざした解決策へと結びつけるアクション・ビレッジを創設しました。無料の給水ステーションの設置、CO2排出量の少ない旅行の推奨、ファストファッションに関するファンアンケートの実施、プラントベースの生活を提案する非営利団体『Support+Feed』の特集、そしてビリーが世界中の気候正義(※)団体を支援していることのアピールを行いました。さらに、エネルギーから廃棄物まで、公演自体の環境負荷を測定し、削減に努めました」

ライブ会場に設置された給水ステーション

また会場への最寄り駅であるJR東日本さいたま新都心駅では、交通公共機関を使用して来場をするように促すビリー本人のコメントが放送されていたという。

ツアーグッズにおいても、Tシャツはリサイクルコットンとポリエステル、ツアーポスターはリサイクル紙で作られている。またビリーはヨーロッパ公演に向け、レーベルの倉庫にあった40万枚のTシャツを自身のツアーグッズとしてリサイクルするという。


他にも、ライブに着ていく服は古着やリサイクル品の利用を呼びかけている。

羅列すると簡単なようにも思えるが、ミュージシャンと環境保護活動家の夫婦が創設したというREVERBは、音楽ライブにおける取り組みの難しさについてこう話す。

「ツアーは複雑です。大規模な物流、タイトなスケジュール、そして化石燃料に依存する旧来のシステムなど、様々な要因が絡み合っています。アーティストの中には取り組みが制約となり、ショーの運営に支障をきたすのではないかと懸念する人もいます」

しかし試行錯誤を重ねながら、具体的なアクションを進めていった。そのなかでも、特にビリー・アイリッシュのツアーはその規模と深さにおいて驚くべきものだったという。2022年に開催された先のアルバムのリリースツアー『Happier Than Ever』では、下記のような結果が出ている。(※2)

  • 環境保護団体へ約100万ドルの寄付
  • 11万7000本以上のペットボトル削減
  • 約800万ガロンの水を節約
  • 全体として1万5000トン以上のCO2排出量を削減

日本人が平均的にガソリン自動車で排出するCO2が半年間に1トンであるといえば、この量がいかに凄いかがわかるだろう。REVERBは、この功績はビリー率いるチームの強い志によるものだと話す。

「私たちは彼女のチームと緊密に協力し、ツアーのあらゆる要素に持続可能性を組み込むよう努めています。ビリーから学んだのは、本物であることの力です。ファンが反応してくれるのは、彼女が本当に思いやりがあり、大胆な選択を厭わないことを知っているからです。

ビリーの気候変動対策への取り組みで最も印象的なのは、それがステージの枠を超えていることです。彼女は自身のショーが、業界全体がより持続可能な形で運営していくための青写真となることを望んでいます」

※1 用語:「気候正義」…気候変動による影響が、先進国や富裕層ではなく、発展途上国や貧しい人々、未来の世代などに不平等に影響する現状を是正しようとする考え方。責任を果たし、然るべき支援と持続可能な社会の実現を目指す動きのこと。
※2 参照:Reverb Happier Than Ever World Tour Impact Report
https://reverb.org/impact_report/happier-than-ever-world-tour-impact-report/ 

日本の若者が動かす。Climate Live Japanの気候アクション

そんなビリーの想いは、日本のClimate Live Japanのチームにも届いていた。担当者は、今回のツアーでブースを出展した経緯についてこう話す。

「まず第一に、私たちはビリー・アイリッシュの大ファンであり、彼女の音楽が大好きなのはもちろん、その活動に深く感銘を受けてきました。今回の公演も、チケット発表と同時にすぐ応募しています。一方で、日本では彼女が環境問題や社会問題に積極的に取り組んでいることは、まだあまり知られていないのが現状だと思います。

しかし、私たちと同じようにファンの多くは彼女のSNSやインタビューを通じて感度高く情報を受け取っているはずです。だからこそ、ビリーの想いと私たちのメッセージを広く届けるには、彼女のライブ会場という場が最もふさわしいと感じました」

このようなことから、彼女らは「Your voice」という企画を立ち上げる。ライブ当日は、ブースで以下のような取り組みを実施した。

  • ビリーの取り組みを紹介するパンフレットを配布
  • 気候アクションガイドの配布
  • 気候変動における署名の呼びかけ
  • 来場者が記入できるビリーに贈るメッセージボードを用意

ビリーの気候正義や社会問題に関するパンフレットは、用意していた150冊が1日目で無くなり、増刷して合計250部を配布したという。

集めた署名は、2023年の異常気象や日本での猛暑・豪雨などの気候災害を背景に、子どもたちに安全で住みやすい未来を残すため、市民が政府に本気の気候変動対策を求めるものである(この署名は現在もオンライン上で募られている)。

実際の会場での様子について、Climate Live Japanはこう語る。

「全体的には、来場者の約2割が気候変動に関心を持っており、そのうち1割程度は私たちの活動を事前に知って探して来てくださった方でした。来場者との対話では、『大学でサステナビリティを学んでいる』『世の中に生きづらさを感じている』といった話も聞け、とても貴重な機会となりました。

さらに、ビリーをきっかけに『環境に興味を持った』『活動を始めた!』『ヴィーガンになった!』といったメッセージを届けてくれる方も少なくなく、音楽を通して気候変動への関心を広められたことを実感しました」

また、今回のビリーとREVERBの取り組みについて、学ぶことも多かったという。

「関心がない人でも気軽にブースに遊びに来られるように、本人のグッズが当たる仕組みにするなど人を巻き込む方法から多くのインスピレーションを得られました。

オープニングアクトとして出られていた藤井風さんも分別用のゴミ箱をストーリーズに挙げられていましたが、会場内だけでなくバックステージでも給水機と紙コップが用意されていて、ケータリングは全てビーガンで使い捨てプラスチックは使用しない、地域のフードバンクなどに持込む、ゴミの分別は細かくしていることなど、今後のライブ運営で参考にできる環境対策も知ることができました」

政策だけでは達成できない、文化的なムーブメントを

ビリーや協力団体の努力による環境へのインパクトは大きいが、音楽業界全体としてはまだまだ普及はこれからだろう。

Climate live japanは、現在直面している課題について、こう話してくれた。

「こうした活動は、真面目・過激な印象を持たれることが多く、身近な友達であっても気候問題について話したり、アクションに誘うことが憚られることもあります。また、若者は時間やお金の余裕がありません。これは心の余裕にもつながりますが、自分自身の生活や課題が大きければ大きいほど、気候変動のような一見社会的・地球規模の大きな問題に見えるものには目を向けにくくなってしまいます。だからこそ、自分が頑張っても変わらないと思われがちですが、この問題は生活に密接に関係していて、小さなことから始められることを知ってほしいです」

一方でREVERBは、今回のツアーで日本のファンを見た感想について前向きな意見を述べる。

「日本のファンは思慮深く、意図的な行動をしていました。ゴミの分別、共有スペースの尊重、資源への配慮といった、日々の丁寧な行動に、彼らの環境へのコミットメントが表れています。他の国と比べて、こうした深い文化的基盤は、気候変動への取り組みのための強力な基盤となっています」

そして、今向き合っている課題の重要性を再び呼びかけると共に、音楽が持つ可能性についてこう話す。

「課題は緊急性が高いです。私たちには時間的な余裕はなく、巨大で複雑な業界では変化がゆっくりと進むように感じるかもしれません。しかし、大きなチャンスがあります。音楽は比類のない影響力と感情的な力を持っています。アーティストが主導権を握ることで、何百万人もの人々にとって気候変動対策が当たり前のものとなり、政策だけでは達成できない文化的な勢いが生まれます」

音楽ライブでアクションを「当たり前」にしていくために

世界的に見ると、ビリーのようにツアーやライブにおける気候変動への取り組みを積極的に行っているアーティストは少ない。しかしREVERBが支援するアーティストの数は増えている。今後の取り組みについて、REVERBはこう話す。

「私たちは、音楽において脱炭素化プロジェクトの規模拡大に注力し、より多くのステージでバッテリーと再生可能エネルギーによる電力供給を実現しています。また、最大の排出源となることが多いファンの移動手段に関する研究と解決策の拡大も進めています。

業界全体で、共通の基準へのコミットメントを強化し、持続可能性が一部のアーティストの選択ではなく、すべての人にとっての基準となることを目指しています。アーティストたちは、より持続可能なグッズの選択肢を求めています。ビリーは、より持続可能で倫理的に生産された素材、製造技術、そしてグッズの配送・配達オプションを標準として提供するよう、業界に働きかけているアーティストの好例です」

また、日本のアーティスト支援についても「私たちのモデルは柔軟で協力的。持続可能性をリードし、ファンと新たな形で繋がり、ポジティブな影響を与えたいと考えている日本のアーティストとぜひ一緒に仕事をしたいと思っています」と話している。

同時に、音楽ライブを通じて気候変動を呼びかけるClimate Live Japan も意思を新たにする。

「まずはClimate Live Japanの当初からの目標である若い世代の意識と行動を変え、社会全体に変革を広げていくことを引き続きやっていきたいです。毎回出演していただくアーティストの方には、任意ではありますが、気候変動の現状を学べる簡単な講座を受講していただいています。

一方で、日本ではまだ政治や気候変動について自由に話しにくい空気があるのも事実です。そのため、来てくれるお客さんはもちろん、出演していただくアーティストの方々も安心して思いっきりパフォーマンスができ、ファンとも自由にコミュニケーションが取れる場を作っていきたいと考えています。

将来的には、Climate Liveへの出演をきっかけに、気候変動に関心を持つアーティスト同士のコミュニティも生み出せたらいいなと思っています」

私たちが身近にできるアクションとは?

こうした心強い呼びかけの一方、具体的な解決については音楽ライブに参加しているすべての人のアクションが必要不可欠だろう。それぞれに、自分たちがすぐ出来る取り組みについて聞いてみた。

  • ライブへの移動には公共交通機関などCO2の排出量が少ない手段を利用する
  • 参加する時のお洒落は、新しく買わずに貸し借りや古着という選択肢を持つ
  • ライブやフェスにマイボトルやタッパーを持参する
  • ご飯はオーガニックやビーガンのものを用意する
  • アクションを表明するパッチなどのグッズをつけて意思表示する
  • この記事を読んだ感想や、出来ることを身近な人と話す
  • 環境問題について発信しているSNSアカウントをフォローする

REVERBは、特にすぐに取り組める移動手段の見直しについて強く呼びかける。

「ファンの移動は、ライブ音楽業界における最大のCO2排出源の一つです。そのため、相乗り、公共交通機関の利用、自転車利用といった、より持続可能な選択肢への小さな変化でも、すぐに大きな効果をもたらします。何千人ものファンがこの選択をすれば、計り知れないほどのインパクトが生まれます」

Climate Live Japanのあるメンバーは、「FUJIROCK、アースデイ、サマソニでタッパーを持っていき、そこにお店のご飯を入れてもらいました。大体どこの店でもびっくりされるけど、ちゃんとよそってくれて、むしろ『めっちゃいいね。たくさん入れとくね』なんてサービスもして貰えました!」と話す。

他にもClimate Live Japanからは、1日1回ビーガンに起きかえるチャレンジをしてみることや、エスカレーターではなく階段を使ってみることなど、続けやすいチャレンジをしてみることが大事だと教えてくれた。

一見小さなことに思えるかもしれないが、たとえばお肉入りのバーガーをプラントベースに変更するだけで27回分のシャワーの節水になるそうだ。

長くライブやフェスを楽しむために、出来ることから始めていきたい。

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取材・文:conomi matsuura
編集:安井一輝
写真提供:Climate Live Japan

 

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