2021年12月23日、「あしたメディア in Podcast」が始動した。メインMCの、2人組ラップデュオchelmicoのRachelさんと映画解説者の中井圭さんが、各回ゲストスピーカーを迎え、「社会を前進させる取り組み」をテーマに様々な切り口から”いま”知りたい情報を全16回配信で発信する。この記事では、第1回(12月23日配信)と第2回配信(12月27日配信)の内容をダイジェストでお届けする。
今回、MCが初挑戦だったというRachelさん。第1回と第2回の配信は、「ソーシャルグッドって何?」から始まり、メインMCの2人が「身近にあるソーシャルグッドなこと」をテーマにトークを繰り広げた。
ソーシャルグッドって何だろう?
第1回と第2回のトークテーマは「ソーシャルグッド」。最近よく耳にする読者も多いかもしれない。実際、どんな意味なのだろう?
中井:社会にとって良いインパクトを与えるサービスや商品、人、物など、いろんなことを総称して「ソーシャルグッド」と表現している印象です。概念としてはまだ緩く捉えられている気がしますが、日常の中でソーシャルグッドを感じる瞬間って何かありますか?
Rachel:それが、すぐに思いつかないんです(笑)。これを聞いて初めて「ソーシャルグッド」って具体的にどういう意味か調べてみたのですが、「何なんだろう?」と思っちゃって。言葉の範囲がすごく広いから、身近にあることにじつは気づいてないだけなのかもしれません。でも、自分にできることはやっていこうと常に思っています。たとえば、電車で席を譲るとか、コンビニで募金箱を見つけたら寄付をするとか。あとは、インターネットで「こういう活動をしているので広げたいです!」っていう投稿を見つけたときも、寄付をしています。
中井:めちゃくちゃ良いじゃないですか。1つ1つ大きなことじゃなくていいと思うんですよね。身近なことでいいから、ちょっとでも世の中が良くなっていくアクションをすることが、すごく大事だなと思います。あと、何かいいことをしたら、「いいことをしてるよね!」とお互い褒め合う文化も大事だなと思います。
その他にも、社会を良くする行動を起こすためには、まずは「気づくこと」が大事だという話も。
中井:僕は、社会を良くするための「学校」を運営しています。下が18歳、上が29歳ぐらいまでの若い子を募って、1年間毎月1回、どんな先生が来るか、どんな授業をやるのか分からない学校をやっています。興味がなかったことでも、やってみたら面白いことって世の中には沢山ある。社会の問題の多くは無関心から生まれていると思うので、「じつは自分が気づいてないだけで、これって面白いんじゃない?」ということに気づける機会を作ることが大事だと感じています。
Rachel:確かに、やってみて気づくことって沢山あります。私も、子どもが生まれてお母さんになってから視野が広がりました。ベビーカーを持って行けるところって少ないな、とか、階段多いな、とか。全然ユニバーサルデザインになっていないと感じることが増えました。普通に生活できる人のために世界が設計されているな、と気づいた瞬間でした。
中井:普通に暮らしていれば気づけないことでも、意識的に見れば気づくことがあると思います。視野が広がるといいですよね。僕自身も、年代の違う若い子たちから教えてもらうことが沢山あります。
アーティスト、映画解説者、それぞれの視点で考えるソーシャルグッド
続いて、それぞれの専門分野からソーシャルグッドについて語った。
Rachel:私は、ミュージシャンの立場からやりたいことが結構あるんです。たとえば、子どもでも来やすいライブをやりたいです。既にやってるアーティストもいるし、だんだんそういう現場が増えたらなと思っています。耳が聞こえない方でも楽しめるように、手話通訳の方をライブ会場に入れていた友達のバンドもいます。
中井:今後、chelmicoとしてはどうしていきたいという方針はありますか?
Rachel:それこそ手話は、仲の良いバンドがやっていたので、影響をダイレクトに受けました。まみちゃん(※chelmicoのMamikoさん)と2人で「全員が楽しめるようなライブにしたいよな」と話をしています。
中井:Rachelさんが今後chelmicoで何をやっていくのか、すごく楽しみです。
Rachel:ありがとうございます。映画業界のソーシャルグッドという観点では、何かありますか?
中井:映画界にもソーシャルグッドの波はあります。世界で1番有名な賞であるアカデミー賞について話をすると、これはアメリカ映画界発展のためのショーです。つまり、世界中の映画祭というよりはアメリカ映画界のための祭典。アカデミー賞を見ていると、映画界がソーシャルグッドにどういう風に接してきてるのかがなんとなく分かります。
アカデミー賞の重要な賞に、作品賞というものがあります。この作品賞を選定しているのが、「アカデミー会員」と呼ばれるアカデミー賞の会員です。たとえば、同じく有名なカンヌ映画祭では、審査員たちが合議制で話し合って、受賞作品を決めている。ところが、アカデミー賞は9000人ほどいるアカデミー会員が投票権を持って、彼らが投票して決める制度です。そして、アカデミー賞は1929年から始まってるんですが、じつは黒人を主役にした作品が、2014年まで受賞してないんですよ。1回も。
Rachel:え!なんとなくそんな話は聞いたことがあったんですが、具体的に2014年まで、というのは知らなかったです。1番権威のある賞なのに、人種という観点から作品を選んでいた、ということですよね?
中井:そうなんです。背景としては、アカデミー会員の「会員属性」が影響しています。ほとんどの方が白人で、その7割8割ぐらいが男性、かつ50歳以上の方が8割ぐらいという、とんでもなく偏った属性の方々が選んでいたんですよ。本来であればもう少し人口比率や人種に対してフラットであった方が良いと思いますが、元々保守的な組織体だったこともあって、それまで黒人を主役にした作品は賞が獲れなかったんです。2014年のアカデミー賞でやっと、『それでも夜は明ける』(2013)という黒人奴隷をテーマにした作品が作品賞を獲りました。
Rachel:歴史に残る出来事だったんですね。属性自体が悪い訳ではないけれど、そこまで会員構成が偏ってしまうと「どうなんだろう?」という印象を持ちますね。
中井:まさにそうです。アメリカ映画界って、じつは社会と密接に連動しています。『それでも夜が明ける』が作品賞を受賞する少し前に、オバマ大統領が劇的なタイミングで大統領になられた。それまで大統領には白人の方がなるのが当たり前だったけれど、有色人種が大統領になり歴史的なターニングポイントになりました。その頃から、マイノリティに対する目線がアメリカの映画界に強く加わってきて、その流れを受けての2014年のアカデミー賞受賞だったのだと思います。
Rachel:徐々にソーシャルグッド的な視点を重視する動きが出てきたんですね。
中井:最近だと、マイノリティの中でも注目されているテーマは「女性」なんです。
Rachel:女性で言うと、『パーフェクトケア』という作品を最近観ました。
中井:『パーフェクトケア』は、介護を代理で請け負う身元請負人の女性がじつは詐欺をしている、という話です。「おじいちゃんおばあちゃんの世話します」と言いながら、資産を横取りするという。
Rachel:主人公がめちゃくちゃ悪いやつですよね、こういう役どころは今まで男の人がやってきた印象があります。それが、ガラッと変わってきている。それがいいか悪いかは一旦置いておいて、役の幅というか、こういう人物像を女性が演じるっていうのが、すごく新鮮に映りました。性別に対してあてがわれた役割を今までずっと見てきたんだな、ということをあの映画を見て気づきました。
中井:本当にそうだと思います。だから映画界自体も物語も、これからどんどん変わっていくと思っています。アカデミー賞作品賞のノミネート要件に関しても、「作品の中に多様性を含んでいるかどうか」ということが最低条件として入ってくる動きがいま、出てきてるんです。最低限、世界を良くしていくとか、社会が良くなっていくようなメッセージ性が盛り込まれているかということや、キャストやスタッフに一定数の女性がいるか、といったことも重要になると思います。
Rachel:作る側のことにも言及しているんですね。
中井:人種もそうだし、障がいのある方もそうだけれど、様々な属性の方が一定数雇用されていないと、そもそもノミネートもされないという条件がこれから固まるはずです。「作品を認めてもらう」ということを前提にすると、そもそもその映画を構成する体制が社会のあるべき姿に近づいていかないと、そこには何の正義もないということを、映画界が仕組みとして変えていく動きが起きています。
Rachel:めちゃくちゃいい動きですね。ソーシャルグッドだ!
応援したい「グッド」な活動にお金を使おう
第2回の終盤では、ソーシャルグッドに対してお金をどう使うかというトークも展開された。
中井:お金を儲ける仕組みが、その社会を良くすることを意図して行う活動に変わっていくと、すごく良いんじゃないかと思います。社会に貢献する何かを作った人や企業が、ちゃんとお金を儲けられる仕組みになると健全だと思います。
Rachel:たとえば映画だと、観る側の私たちがソーシャルグッドな取り組みをしている、あるいは発信をしている映画に対してお金を使うということですね。そういう面を見てお金を使うことを考えてもいいかもしれませんね。
中井:そうですね。「お金を使う」って「応援」ですよね。たとえば、最近LGBTQを題材にした作品がすごく多いんですけど、今まで社会が「存在する」のに見てこなかったものに対してちゃんと向き合っていく作品がどんどん生まれている。そういう作品を「観る」ことを通じて、応援できるのだと思います。
Rachel:観ているというその行動自体も、応援になっているということですね!
中井:「こういうふうになったらいいよね」と思う世の中のあり方に対してお金を払い、「観る」という応援をしていくことが、観客の立場からできるアクションなのかなと思います。音楽業界でも同じだと思います。この人がやっている活動を支援したいからこのライブに行くとか、あの楽曲を買うとか。
Rachel:そのスタンスは面白いですね。ただ曲が好きだからということも動機としては大きいけれど、アーティストが社会に対してどう向き合っているか、何を考えているのかを踏まえて、「いいね」と賛同し支援する流れはとてもいいですね。国の法律を変える、といった直接的なアプローチではなくて、カルチャーの側から変えていけることもある、ということですね。その観点には、これまで気づいていなかったです。
中井:そういうソーシャルグッドな取り組みをどんどん形にしていって、見える化することで「世の中ってこうなった方がいいよね」と気づくことができれば、間違いなく世の中良くなっていくと思うんですよ。だから、Rachelさんにはアーティストの立場からどんどん発信していって欲しいなと思います。
カルチャーの話題を中心に、様々な切り口から社会を前進させる取り組みを取り上げた、第1回と第2回の配信。いろんな場所で社会課題に対する様々な議論が巻き起こっている昨今、身近なことに目を向けてみて、その背景を知ると、社会の”いま”が分かるかもしれない。
もっと気軽に、もっと身近に社会のことを考える「あしたメディア in Podcast」。次回は、時事YouTuberのたかまつななさんをゲストに迎える。
〈あしたメディア in Podcast概要〉
MC:Rachel(chelmico)、中井圭(あしたメディア編集部、映画解説者)
配信媒体: Spotify(Apple Podcastも順次配信予定)
更新頻度:週2回配信、全16回
文:柴崎真直
編集:大沼芙実子