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若者の未来を拓く制度 日本の奨学金事情とは

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教育資金は、住宅資金、老後資金と並んで、「人生の3大支出」と言われている。日本では、子どもの教育費を家計で負担している割合が高いため、学費にまつわる不安や心配を抱えている人はとても多いだろう。こうした人々の助け舟のひとつとなっているのが「奨学金」だ。

しかし、奨学金といってもあくまでその多くは「貸与」であり、奨学金には「学生が社会に出た瞬間から借金を背負う」といった負の側面もある。奨学金の返済ができずに自己破産するケースもあり、奨学金の返済負担は社会問題となっている。

そんななか、2020年にスタートした国の高等教育の修学支援新制度では、返さなくていい「給付型」の奨学金を受け取れる学生の数が増加したという。日本の奨学金制度にも、少しずつ変化の兆しが現れてきているのだろうか。

日本の奨学金制度の現状とは?

大学の授業料は値上がりを続け、いまや大学生の2人に1人が奨学金を利用している時代。大学4年間にかかる学費は、国立大学が約250万円、私立大学が400万円~550万円程度となっている。(※1)30年前と比べてみると、これらの授業料は約1.6倍にも高騰している。(※2)家計の負担が増えるなか、奨学金による経済的支援の必要性はますます高まっていると言えるだろう。

奨学金は、経済的な理由や家庭の事情で進学が難しい学生に向け、学費の付与や貸与を行う制度であり、夢や進学を諦めてしまわないよう、学生を支援する目的でつくられた。

公的なものから民間のものまでさまざまな種類がある奨学金だが、大きくは、返済が必要な「貸与型」と、返済不要の「給付型」の2つに分類される。現在最も多くの人が利用しているのが、国の制度である「日本学生支援機構 奨学金」だ。2019年度の調査によると、現在の大学・短大を含む高等教育を受ける学生のうち、実に2.7人に1人が利用しているという。(※3)そして、この奨学金は「貸与型」が中心となっている。もともと日本学生支援機構の奨学金制度は「貸与型」のみであり、利用する学生は卒業後の返還が義務となっていたが、2017年から返済不要の「給付型」が導入された。ただし審査基準が厳しく、誰もが給付型奨学金を申し込めるわけではなく、貸与型に比べて狭き門であった。

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こうしたなか、2020年4月にスタートした高等教育の修学支援新制度では、「授業料・入学金の減免」と「給付型奨学金」がセットになっており、支給内容が拡充されたことにより給付型奨学金を受け取れる学生の数が増加したという。

この「給付型」の奨学金を受け取るためには、「家計の収入」と「学力」の2つの条件を満たすことが必要だ。「家計の収入」については、細かな条件はあるものの、住民税非課税世帯、もしくは、それに準ずる世帯であることが条件となっている。そして「学力」については、高校の評定平均値が5段階評価で3.5以上であること、もしくは進学しようとする大学等における学修意欲を有することの、どちらが必要とされている。言い換えれば、成績が3.5以上でなくとも学ぶ意欲があれば「学力」の基準はクリアできるということだ。つまり、「家計の収入」の条件に該当する世帯のうち、学習意欲のあるほとんどの学生が「給付型」奨学金を受け取れることになる。少しずつではあるが、これまで問題視されてきた日本の奨学金も、制度や内容の拡充が進んでいるのだ。
しかし、日本は世界水準でみても教育費の家計負担が非常に高い。OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも、大学の授業料などが米国に続いて最も高い国のひとつと言われている。では、国際的に比較してみると、学費と奨学金の関係にはどのような違いがみえてくるのだろうか。

※1 参考:文部科学省「私立大学等の平成30年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」(2021年12月26日利用)
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/1412031_00001.htm
※2 参考:文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移」(2021年12月26日利用)
https://www.mext.go.jp/content/20201225-mxt_sigakujo-000011866_4.pdf
※3 参考:独立行政法人日本学生支援機構「日本学生支援機構について」(2021年12月26日利用)
https://www.jasso.go.jp/about/ir/saiken/__icsFiles/afieldfile/2021/10/01/65ir_1.pdf

海外の奨学金事情は?

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国立国会図書館発行の『諸外国の大学授業料と奨学金【第2版】』によると、各国の授業料や奨学金の高低は4つのモデルに分類して考えることができるという。

1つ目は「低授業料・高補助」。主に北欧諸国でみられ、授業料が無償あるいは低額に設定されていることに加えて、幅広い学生を対象とした給付型奨学金が設けられている。
2つ目は「高授業料・高補助」。アメリカやイギリス、オーストラリアなどが該当し、授業料は高額だが過半数の学生が公的な給付型・貸与型の奨学金等の支援を受けている。
3つ目は「高授業料・低補助」。授業料は高額であるが公的補助の整備が十分ではなく、日本や韓国がこれに該当する。
4つ目は「低授業料・低補助」。フランス、イタリアなどの西欧諸国でみられ、授業料が低額であるが、学生への支援も限定的であるという。(※4)

たとえばアメリカは日本よりも授業料が高いが、それに応じて奨学金も多種多様な形で提供されている。授業料免除、給付型奨学金、学資ローン、教育減税など多くの学生支援制度がある。支援の主体も、連邦政府や州政府、大学、民間団体などから奨学金が出されている。奨学金や学生支援の在り方は国によってさまざまであるが、こうした各国の取り組みは、日本のこれからの奨学金制度を考える上で重要な検討材料になっていくだろう。

※4 参考:国立国会図書館 調査及び立法考査局 文科学技術課中村真也『諸外国の大学授業料と奨学金【第2版】』
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11252967_po_1048.pdf?contentNo=1

知っておきたい、さまざまな奨学金

日本の公的な奨学金である「日本学生支援機構奨学金」の新制度については先述したが、それ以外にも日本にはさまざまな奨学金制度が存在する。公的な新制度によって「給付型」奨学金を利用できる学生が増えたことは喜ばしいが、あくまでもその対象は低所得者層に限られている。しかし、条件に満たない中流世帯でも経済的に進学が容易ではないことは事実である。そこで、大学や民間が行う奨学金に目を向けてみるのもひとつの方法だ。

たとえば、早稲田大学の奨学金制度「めざせ!都の西北奨学金」では、成績優秀な首都圏以外の出身者を対象に、父母の世帯収入が800万円未満であることなどを条件として授業料の半期分を減免している。このような独自の奨学金制度を設ける大学は増加傾向にあり、その奨学金の多くが「給付型」であるという。
また、大学だけでなく、企業などが設ける民間の奨学金制度もある。似鳥国際奨学財団(株式会社ニトリホールディングス)や、コカ・コーラ教育・環境財団(日本コカ・コーラ株式会社)、キーエンス財団(株式会社キーエンス)、DAISO財団(株式会社大創産業)など、さまざまな企業が社会貢献活動の一環として「給付型」の奨学金を提供している。

一方で、こうした奨学金の存在を知らない人もまだまだ多いのも事実だろう。奨学金の情報は掲載方法や場所などが分散しており、保護者や学生にとって探しにくいのが現状だ。そんな課題を解決する手立てとして、奨学金の情報提供や、奨学金返済を肩代わりする企業との人材マッチングを行うサービスが存在する。株式会社Crono(クロノ)が展開する「Crono My奨学金」(https://crono.network)だ。

このサービスは全国の給付型奨学金制度の情報が集約されており、利用者は必要情報を入力するだけで自分に合った奨学金を見つけることができる。世の中に多数存在する「給付型」奨学金を見つけられることは、夢や進学を諦める学生を減らす第一歩になるだろう。

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2021年12月3日、岸田政権は教育政策を話し合う場として「教育未来創造会議」の新設を閣議決定した。その際、給付型奨学金制度のさらなる対象拡大を検討しているという明るいニュースも聞こえてきた。奨学金の「奨」という漢字には、助け励ますという意味がある。奨学金は学生に未来の借金を背負わせるためのものではなく、これからの社会に貢献する人材を応援するための制度であるべきだ。まだまだ発展段階かもしれないが、よりよい未来のためにさらなる広がりをみせてほしい。


文:篠ゆりえ
編集:おのれい