よりよい未来の話をしよう

“まわす”ファッションを考える

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ファッション業界で活躍する未来を想像した人が集まるニューヨーク州立ファッション工科大学、通称“FIT”。ファッションを扱う海外ドラマでは、名門と表現されることが多く、FIT出身というだけで一目置かれるような学校だ。そこの学生たちの新学期ファッションを紹介するYouTube動画(※1)の中で、ほぼ全ての学生が発した単語があった。

“Thrifted”

“thrift”は倹約や節約を意味する。訳すると、「古着を着用している」という表現だ。ファッションの最先端を学び、業界を引っ張っていくことになるであろう彼人らのほとんどが古着を日常に取り入れているという。「古着」の現在地はどうなっているのだろうか。ファッションを取り巻く現状と共に改めて確認してみよう。

※1 タナカさんin アメリカ TANAKA-SAN「世界トップの大学生って何着て通学してるの?【NYファッション工科大学でインタビュー!】」
https://youtu.be/amsWdZzGgGQ

消費の側面が色濃く出やすいファッション業界
存在感を増してきた新たな流れとは

ファッション業界を支えるのが「流行」だ。毎年ミラノやパリで開催される世界的なイベント、ファッション・ウィークではハイブランドがこぞって新作のお披露目をする。ハイブランドが作り上げるこのトレンドをいち早く察知し、いかに早く消費者に届けるか、がファストファッション業界の戦いになる。ファストファッションが膨大な需要に答えようとする結果、そのデザインがハイブランドのデザインと酷似しているとして、訴訟に発展するケースも頻発してる。中には、盗作されたデザイナーが結束し盗作被害を訴えるwebサイトまで存在する。(※2)これら盗作ケースが象徴するのは、業界全体の流れの異常な早さと新しいデザインが常に求められているという現状だ。また、大量生産・大量消費の象徴としてファストファッションが悪者と捉えられがちであるが、「流行と共に歩むファッション業界全体の問題」として捉えるべきだろう。

しかし、世界はいまSDGsの視点を中心に回り始めている。冒頭で紹介した“Thrifted”もSDGs的なフィルターを持つファッション関係者が増えてきていることが分かるひとつの例だ。では、わたしたち消費者はどうだろうか。あなたは新しい服を手に取る時、その1着が環境に与えている負荷を想像したことはあるだろうか?

※2 Shop Art Thrift ホームページ
https://shoparttheft.tumblr.com

新しい服が1着つくられるために使われる水は浴槽11杯分

環境省が2020年3月に発表した調査結果(※3)に基づく、服1着あたりを生産する際にかかる環境負荷をまとめたものが以下の表だ。CO2排出量・水の消費量を見ても、目を疑いたくなるような数字ばかりが並んでいる。これが、いまあなたが着ている1着を作るためにかかっている負荷だと思うと、背筋が伸びるのではないだろうか。

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環境省:服1着あたりを生産する際にかかる環境負荷(※3)

また、服を手放す時の手段については、半数以上の68%が「可燃ごみ・不燃ごみとして廃棄する」と回答している。廃棄されたごみは焼却されたり埋め立てられたりするのだが、その数も目を疑いたくなる数値となっている。1日あたりに焼却・埋め立てされる衣服の総量は1300tにもなるのだ。

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環境省:可燃ごみ・不燃ごみに出される衣類の量と焼却・埋め立て量(※3)

これら環境負荷の重さを知ると、日々の暮らしを彩るファッションの裏側で息がし辛くなっている地球の悲鳴が聞こえてくるようだ。ではこの数値を知った私たちにできることを「古着」の文脈から考えてみたい。

※3 環境省「SUSTANABLE FASHION これからのファッションを持続可能に」(2021年12月13日 使用)
https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/

ずっとあるようで新しい「まわすファッション」という考え方
ALL YOURS「環す」取り組み

日本に古着ブームがやってきてから長年が経つが、そのあり方は時代とともに変化してきた。お下がり、というイメージが色濃く残っていた数十年前から、「1点もの」という意味合いが強まり個性を表現するツールとなり、最近ではSDGs的な視点からも語られる。環境負荷を軽減する取り組みとはどんなものがあるだろうか。

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洋服の売り買いの関係に留まらず、服の命を絶えさせない新たな循環の形、「まわす」取り組みを開始したのがALL YOURSだ。

“Unfashion”としての服に価値を見出し、生活における洋服として必要なことを根底に洋服作りをしているALL YOURS(https://allyours.jp)。その理念や価値観に共感するファンも多い。同ブランドはこれまでにも、洋服が破れたりほつれたりしたときの「リペア」や、体型が合わなくなったなどのサイズ変更・より使いやすさを求める人のためにポケットなどを追加する「カスタム」に対応してきた。しかし、どれだけこれらの対応をしても最終的に「捨てられてしまう」という事実は変わらなかった。そこに問題意識を持ち、洋服を企画・開発・販売する立場として、最後の「捨てる」までをデザインの一部として考えるべきだ、という思いからこの「環す」(まわす)取り組みが誕生した。

ごみを生まない選択肢として提案されるのは「循環させること」。販売店が、自社製品を買取→修理→再販するというサイクルになっている。2021年9月のリリースからすでに400枚ほどの洋服が持ち込まれたという。また、2021年11月には自社製品のみならず、他社製品の回収も開始した。それらはアップサイクル素材としてユニフォームへの活用を開始している。

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オールユアーズHPより「環すの新循環」

オールユアーズ 原康人代表は「近年では洋服自体の値段が下り、簡単に買えるがゆえに、簡単に手放してしまうという構造が存在します。『つくったものに責任を持つ』。これはALL YOURSが最も大切にしている価値観です。もちろん無駄なものは作るべきではありませんが、必要なものはどんどん作るべきだと考えます。この『環す』という取り組みを、私たちだけでなく業界全体で誰でも使えるような取り組みにしたいです」と話す。

身近なものの寿命を伸ばす取り組みを

ALL YOURSの取り組み以外にも、洋服の循環という考え方は、新しい形で再定義され始めている。2021年7月には、原宿に「衣料品のアップサイクル」をテーマとしたNewMake Labo(ニューメイクラボ)がオープンした。廃棄されるはずの衣料品を企業から回収し、解体・再デザインする場だ。生産するブランド・消費する個人のどちらもを巻き込んだ循環の形を提示している。

冒頭で紹介したYouTube動画の最後に、チャンネル運営者はこうまとめる。

「ファッション業界が抱える問題について、日頃から学んでいるからこそ(環境に配慮した)サステイナブルファッションや古着を取り入れることを意識するようになった」

次世代のファッション業界を担う彼人らにとっては、「持続可能な社会と共存する、環境に配慮したファッション」という前提が当たり前になっているのだ。彼人らが作り上げるファッション業界の未来に期待を寄せつつ、消費者であるわたしたちは、まずは身近なものから、捨てずに「まわして」みようではないか。


取材・文:おのれい
編集:森ゆり