よりよい未来の話をしよう

もはやバトルでは人の関心は得られない。 「おもしろい」という感覚の前進と希望

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去年あたりから、テレビで新世代の女性芸人の活躍を見ることが多くなった。バラエティのひな壇に何人もの女性芸人が座るようになったし、女性同士がバトルを仕掛けあうトリガーのような役割を女性芸人がしなくてもよくなった。深夜帯ではあるが、女性芸人がメインの番組も増えた。同時に、私自身も、女性芸人の方々にインタビューすることも多くなった。

ひとりひとり話を聞いていくと、みんなバラバラの考えを持っているけれど、それぞれの生き方に、どこか共感できたり、はっとさせられたりするところがある。
ちょっと前であれば、誰かにロールモデルを求めていたり、メンターであることを求めたりする風潮もあったが、そういうものとも似ているようでいて、ちょっと異なる感覚もある。
それは、考え方が似ている部分に共感することはあるけれど、誰か1人に寄りかかろうとしすぎたり、こういう風になりたいと期待しすぎたりすることもなく、なんとなく現代を並走する人を見つけたという感覚に近いだろうか。

しかし、テレビの中の女性芸人たちが、いまのように自由な感覚で活躍できるようになるまでには、けっこう時間がかかった。

かつて、テレビの中の女性たちは「対立しあうもの」だった

冒頭にも書いたが、かつてのテレビは、女性芸人に限らず、女性が2人かそれ以上ひな壇に座れば、対立しあうものという役割を彼女たちに押し付けてきた。

女性芸人と女性芸人、女性アナウンサーと女性芸人、バラドルと女性芸人、既婚者と未婚者、先輩と若者…。その属性による違いを際立たせ、バトルをすることが、女性たちのテレビの中の役割であり、視聴者の期待に答えられることであると言いたげなバラエティ番組が当たり前のごとく、たくさん放送されてきた。

そこに少し変化が見えたと思えたのは、2017年あたりのことだ。森三中の村上知子が2017年7月放送の『ウチくる!?』(フジテレビ)において、「女芸人って、ひと枠ってけっこう言われてるじゃないですか。こうやって揃ったり、番組でみんなでいろんな形で成し遂げたり、まさかこんな形で一緒に仕事できるとは思わなかったので、本当に環境が変わって、みんな楽しく仕事ができてるのがうれしくて」と語っていて印象に残っている。

それまでは、芸人がひな壇に並ぶ番組でも、その中に女芸人が出演できるのは、1人か1グループで、女性芸人だけが何組も集まって番組になるということすら、いまよりももっと少なかったのだが、そのことは意外と忘れられやすい。

昨今、かつてのテレビの空気を番組でバラドルが語ることも多くなった。今年6月の『今夜くらべてみました』(日本テレビ)の「タフすぎる平成バラドルたちの生態2021」という回では、平成グラドルとして出演した眞鍋かをりが、昔は周りは敵だからぶっつぶしてこいというマネージャーの言葉に洗脳されていて、番組からの「もめてください」という指示に従って「噛みつくことが仕事」のように思っていたことも多かったと語っていた。

対して、同番組に令和のバラドルとして出演していた藤田ニコルは、「(噛みつくことを)言ってくださいって言われるときも、私全部無視ですよ」と語っていたし、MCの指原莉乃も「絶対無理」というスタンスであった。

この番組の構造自体にも、以前のようなバトルの空気を感じないでもないが、前ほどは両者が対立しているような空気は感じられず、どちらかというと、以前はこんなことがあったが、いまはこんなに変わってきたのだという変化を面白く見せているようにも感じた。

相手を「下げる」ことで面白くなる枠組みからの前進

もはやバトルの時代ではないとはっきり思わせてくれる番組もあった。『ロンドンハーツ』(テレビ朝日)では、今年7月、8月と2回に渡って「もしも新しくコンビを結成するならあの女芸人と組みたい!」というテーマの放送があった。
『ロンハー』と言えば、以前は芸人やタレントをひな壇に座らせ、格付けしあうのが恒例であった(いまも続いてはいるが)。しかし、この2回の放送では、活躍中の女性芸人たちが、この人とコンビを組んでみたいと語りあう。

もちろん、お笑い番組であるから、少し相手を下げたりして笑いに変えたりもしていたが(それ自体がお笑いであるという固定観念もどうかとは思うが)、概ね、相手の良さを語りあう。阿佐ヶ谷姉妹の姉、江里子のように、「美穂さんと切っても切れない…」と相方のことを気遣う発言もあった。

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最近では、女性芸人が執筆した本も人気だ。
写真左:ヒコロヒー『きれはし』(Pヴァイン、2021年)
写真中:阿佐ヶ谷姉妹『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(幻冬舎、2018年)
写真右:光浦 靖子『50歳になりまして』(文藝春秋、2021年)
いずれも筆者撮影。

番組では、コンビを組んでみたい人が、普段からどんなに良い人かという人となりを褒めるものもいれば、組んでみたい人が、どのような表現力やスキルを持っているか、どんなスタンスで芸人をしているかという評価もかなり多く、非常に興味深かった。
実際、女性芸人たちは、ピンであってもコンビであっても、自主的にユニットでコントをするなど、普段とは違う組み合わせで新たな面白さを見つけている人も多い。相方はもちろん唯一無二の存在であるが、一次的にユニットを組んでみるということはありうるし、単純にお笑いの幅を広げる可能性のあることなのだ。

この番組では、エピソードトークだけでなく、芸人としての考え方やスタンスが見えるのも興味深かったし、何より「バトル」すれば面白くなる、「下げる」ことで面白くなるという枠組みから、一歩前進していているように見えたのが新しさだった。

もうテレビからストレスを感じたくないと感じている人は多いのではないか。

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いま、なぜ女性芸人の出ている番組を見たいのか。自分なりに考えてみると、これまでは「あるある」のネタやエピソードにしても、これが面白いという視点にしても、男性が社会で感じることが中心に番組が作られていることが多く、それを見ていることが大半であった。

しかし、これだけ女性芸人がたくさん出てきたことで、女性が社会で感じるような実感を笑いに変えているようなネタやエピソード、そしてコミュニケーションを見られるようになった。
また、かつてであればバトルをさせられていた女性芸人たちが、それを徐々に崩していく姿からは、実社会でも、おかしいと思っていたやり方を変えられるのではないのかという希望が持てるような気がする。

コロナ禍以降の世の中では、誰しも、目に見えない緊張やストレスが溜まっている感覚もあり、テレビでまで、演者がストレスを感じている姿を見るのはキツい。「番組が面白くなるから」という番組側の大義名分=カンペに従って「やらされている」のが見え見えのバトルを見せられても、視聴者にだって、それはもう透けてみえている。

ある程度、女性芸人の数が増えてきたことによって、本人たちも知らず知らずのうちに、こうしたストレスフルな状態を打破していて、見ているほうのストレスが減ってきているのを感じるのだ。
以前であれば、「ヌルい」と言われかねない(それ自体、何が悪いのだという気もするし、本当にそれはヌルいのかという気もしているが)ようなおだやかな進行の番組の中にも、笑いや鋭い意見を両立させることは可能だと、女性芸人の番組は思わせてくれる。

ストレスフルな刺激とは違う、「おもしろい」という感覚の前進を

ただ、こうした変化を手放しで見ているわけではない。いまのこのテレビ番組の変化も、所詮は以前バトルをしかけていた制作者が、時代の変化とともに、いまの笑いはそうではないと感じて徐々に変わってもたらしたものにすぎない。

ということは、「おもしろい」という感覚が変化していけば、また変化していく可能性がないわけではないし、バラエティの「おもしろい」枠組みを作る側には、以前と変わらぬ構造がまだ残っているとも考えられる。テレビの表側にいる人たちの変容が、裏側にまで波及することを願いたい。

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もう1つ、変化を取り入れるプロデューサーの番組が、先頭を切って女性芸人のバトルを古いものだというメッセージを出したら、右に倣えとばかりに、同じような企画を連発する番組が増えるということも大いに考えられるだろう。そうなったとき、同じような企画で、雑に芸人たちを引っ張り出すうちに、「消費」され尽くし、次の何か新たなムーブメントがくれば、簡単に切り捨てられることだって在りうる。

もちろん、芸能やエンタメの世界は、こうした取捨選択の繰り返しによって前に進む世界なのだと、渦中にいる人のほうが、「消費」を肯定するかもしれない。しかし、前に進むのであれば、誰かをストレスフルな状態に陥らせることを刺激や面白さであると勘違いするような状態には、もう戻ってほしくないと思うのだ。

 

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西森 路代
1972年、愛媛県生まれ。ライター。大学卒業後、地元テレビ局に勤務の後、30歳で上京。派遣社員、編集プロダクション勤務、ラジオディレクターを経てフリーランスに。香港、台湾、韓国と日本のエンターテイメントについて、女性の消費活動について主に執筆している。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著にハン・トンヒョンとの『韓国映画・ドラマ わたしたちのおしゃべりの記録2014〜2020』(2021年、駒草出版)、青弓社編集部(編著)『「テレビは見ない」というけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む』などがある。


寄稿:西森 路代
編集:大沼 芙実子