よりよい未来の話をしよう

僕が地球の未来を指し示す力になる MIYAVIさんインタビュー

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世界的ロックスター、MIYAVIさん。またの名を「サムライ・ギタリスト」。
エレクトリックギターをピックを使わずに指でかき鳴らす独創的な“スラップ奏法”は世界中から注目を集め、これまでに約30カ国350公演以上のライブと共に、8度のワールドツアーを成功させた。圧倒的なパフォーマンスと超絶技巧は、国境を越えて多くのファンを熱狂させており、いま最も期待のおける日本人アーティストの1人だ。 

彼の活躍の場は音楽にとどまらない。アンジェリーナ・ジョリー監督、映画『不屈の男 アンブロークン(原題:Unbroken)』(2014)でハリウッドデビューを果たし、俳優やモデルなど各方面で存在感を発揮している。2017年には、日本人として初めて国連難民高等弁務官事務所(以下、UNHCR)の親善大使に就任し、難民支援活動に尽力していることでも知られている。2020年6月にはGUCCIが展開する自然環境に配慮したコレクション「Gucci Off the Grid」の広告に日本人として初めて起用され、注目を集めた。

ロックスターの枠を超え、常に新たな挑戦を続けるMIYAVIさん。2021年、40歳の誕生日となった9月14日には13thオリジナルアルバム『Imaginary』をリリースした。誰も予想していなかった感染症が世界で猛威を振るう中、彼はいま何を想い、何を歌うのか。ニューアルバム『Imaginary』で表現する彼の「現在」と、さまざまな分野で活動する彼の情熱が指し示す「未来」に迫った。

音楽には「未来を指し示す力」がある

誰しもが未来が見えない不安や恐怖を経験したコロナ禍。ツアーやライブは中止・延期が続き、ショービジネス自体が存続の危機に立たされる中、自分は何を歌うべきなのか、自身の存在価値や音楽の力について改めて考えるようになったと語るMIYAVIさん。ニューアルバム『Imaginary』は、どのような想いで制作したのだろうか。(以下、かっこ内はMIYAVIさん)

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「もし2020年に東京オリンピックが行われていたなら、前作『Holy Nights』(2020年4月)に続けて、この作品を出そうと思っていました。でもコロナでツアーが延期になってしまい、作品はオーディエンスの前で演奏して初めて完成すると思っているので、ツアーやライブができない中で立て続けに作品を出すことが、自分にとっては消化不良に感じる部分があったので、1度寝かせて、2021年に改めてリリースしようと決めました。音楽作品はタイムレスなものですが、それと同時に時代とリンクしたものでありたい。その時々の自分が感じたものをそのまま反映させて表現したいので、歌詞ももう一度書き直しました。

『Imaginary』のコンセプトは「イマジネーションー想像力」です。思い描く力。コロナで世界が変わってしまってから、何のために表現しているのか、創造しているのか、存在しているのか。そして「何のために音楽をやっているのか」。これは僕に限らず、世界中の表現者が問われたと思います。文化には未来を指し示す力があります。ファッション、映画、そして音楽にもある。その創造力で僕たち表現者は未来を作ってきました。僕たちは言葉やビジョンを、音に乗せて届けることができる。この「未来を指し示す力」こそ僕たちアーティストの存在意義だと思ったので、それをテーマに制作しました。

今回のアルバム『Imaginary』を聴いて、「未来も捨てたもんじゃないな」と思ってもらえたとき、この作品は完成すると思っています。だからこそ、あまり暗いことは歌いたくなかった。今はちょっと無理しても、元気のある明るい歌を歌いたいなと思って作りました。」

音楽の力で世界をロックする
MIYAVIさんが難民キャンプを訪れる理由

未来を指し示す力、その想像力を表現した『Imaginary』。メロディアスで明るい楽曲は、コロナ禍という暗がりの世相に希望の光を灯し、文化に宿る可能性を実感させる。彼が文化の力を強く認識したのは、難民支援活動での経験がきっかけであったという。アンジェリーナ・ジョリーさんと出会い、彼女にインスパイアされて2015年からUNHCRの活動に参加するようになった。彼のターニングポイントとなった難民キャンプ訪問について伺った。

「2015年にはじめてレバノンにある難民キャンプを訪れました。「難民」のナの字も分からずにレバノンに飛んだのですが、隣国シリアの情勢が非常に危険で到着後すぐに国連の車で移動しました。車のドアは防弾で、窓を開けたら怒られるし、連れていかれたショッピングモールではテロがあったとか、ホテルに入るにもセキュリティチェックが必要で、すごいところに来たなと思いましたね。でも難民キャンプに入って子どもたちの目の前でギターを弾いたときに、彼らがキラキラ輝いていたんですよ。その姿を見たとき「音楽を通して彼らに新しい世界を見せてあげられるんじゃないか」と思いました。それ以来、難民問題について勉強しながら支援活動を続けてきました。」

2017年11月、日本人として初めてUNHCRの親善大使に就任した時の心境について、こう語る。

「親善大使になることを決めたのは、2017年10月にスイス・ジュネーブで行われた『ナンセン難民賞』(※1)という難民問題におけるノーベル平和賞のような式典で演奏した時でした。地元の子どもたちのコーラスと、オーケストラのカルテットと『The Others』という楽曲をステージで演奏しました。その時に会場をROCKできた感覚があったんです。ブワーッと。その時に「これは、難民キャンプの外に向かっても、僕は音楽を使ってメッセージを発信することができるんじゃないか?」と感じ始めました。音楽がもつ大きな力に可能性を感じた瞬間でした。やっぱり音楽の力ってありますよね。ライブやって、みんなワーッてなる感覚。嫌なことを全部忘れて、また明日から頑張ろうって思える。シンプルですけど、そんな力が音楽にはあります。」

※1 UNHCRが設ける難民支援に多大な貢献をした個人や団体へ贈られる賞。画期的なアプローチで難民保護と支援に献身的に携わり貢献したこと、勇敢な姿勢で難民問題に取り組み、状況改善に功績を残したことなどが選考基準となっている。

f:id:biglobe_o:20210927103614j:plain「僕たちの世代にも向き合う責任がある」

熱い視線で音楽の力を語るMIYAVIさんからはアーティストしての気概が感じられた。彼はギタリストとして世界に音楽を届けながら、人道支援活動にとどまることなく、環境問題などの社会問題にも熱心に取り組んでいる。3人の子どもの父親でもあるMIYAVIさんにとって、これから若い世代が直面するであろう地球規模の問題はどのように映っているのだろうか。

「そうですね。たとえば、スウェーデンの環境活動家:グレタ・トゥーンべリさんに、パキスタンの人権活動家:マララ・ユサフザイさん、TOKYO2020で難民選手団の騎手を務めたユスラ・マルディニ選手など、若い世代の方がいま世界で起きている問題に対して敏感だと思います。だって、自分たちの未来のことだもんね。そこに対して僕たちの世代・それより上の世代が、どれだけ真剣に向き合えるかがすごく大事だと思っています。

それこそ、今回のアルバムに入っているP.O.D.のカバー曲『Youth Of the Nation』はちょうどアメリカで学生運動が流行った時期に、この楽曲をカバーしようと決めました。」

これから先は若い世代が未来を作っていく時代。声をあげて立ち上がる若者たちの力強さや、彼らの声に耳を傾けることが大切だというメッセージが伝わる。

「実際、自分の子どもたちとも社会問題についてよく話しますし、ディベートします。うちはいま昼食はベジタリアンなんですけど、ヨーロッパツアーから帰ってきたら、子どもたちが「もう肉やめよう」って言ってきたんです。畜産業がもたらす環境問題について話をしたりしていたので「No Meat Monday」(週に1度、肉食を控えることで環境への負荷を減らそうという取り組み)を取り入れていたんだけど、子どもたちが「それだけじゃ足りない」って泣きながら言うんですよ。肉を食べることを否定しているわけじゃなくて、そもそも消費しすぎてませんかっていう。経済活動において生まれる無駄や過剰生産を問題視しているんです。それに対して自分たちもアクションします、っていうだけのこと。

それから、性差別やジェンダーイクオリティーの話もよくします。1番上の子のアイリは学校でジェンダーイクオリティーのレポートを作って「ダディ、このレポート、ダディのソーシャルメディアで拡散してくれない?」って言うんです(笑)。もちろんやりました。だって、言ってることは間違っていないし、そういうことこそ俺たち影響力がある人が拡散していくべきことというにはもっともなことだと思うので。ロサンゼルスにいた頃は、日本語学校でアイリが「難民って知っていますか?」っていう作文を書いてくれたんです。その時は泣きましたね。もう、すげえなって思った。」

そして、MIYAVIさんが子育てで大切にしていることのひとつに「対話」というキーワードが浮かび上がってきた。

「うちはとことん話をします。それは僕が子育てをしていく上ですごく重要視していることです。同じ目線で納得するまで3時間でも4時間でも話をします。これはこうだからこうなんだ、っていう理由を言ってちゃんと納得するまで何時間でも話し合う。一方的にではなくてディベートで対話をする。それを徹底しています。」

「こんな時代を変えようよ、空気が悪くて息ができないって嫌じゃん」

家族でサステナブルな取り組みをしているMIYAVIさんだが、その取り組みについて、父親として・アーティストとして、といった境界線はなく、あくまでそのスタンスは「人として当たり前のことをやっている」のだと語る。深刻化する地球規模の問題について、彼自身がどのような取り組みをしているのか伺った。見えてきたのは、環境問題に対する視座の高さであった。

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「僕の住む地域は燃えないゴミの分別が不要なんだけど、自分たちで分けてます。小さなことだけど、これを地球に住む全員がやったらちょっとは効率が上がりますよね。ペットボトルも、ラベルを剥がして、ちょっとゆすいで捨てる。簡単なことです。ゴミを捨てるという行為は、周り巡って自分たちが飲む水とか空気とかに帰ってくる。今は水を買うことは普通になっているけど、そういえば昔から水って買ってたっけ?10年後は空気を買っているかもしれないですよ。自分の子どもたちにそんな生活させたくないよね。そろそろちゃんと変えようぜ、って思うんですよ。」

ゴミの分別やアーティストとしての発信といった小さな取り組みもあれば、企業への働きかけが大きな1歩になることもあるという。
 
「たとえば、自分たちが消費するもののチョイスを変えていく。つまり、消費者として選ぶ権利をうまく使って企業や団体のコンプライアンス・意識に働きかけていくことも自分レベルでできることの1つです。買い物をする時にサステナブルな取り組みをしていない会社は選ばないとか。要するに選挙と一緒だよね。ただし買い物は選挙と違って1回きりじゃない。毎日の消費で活動できる。明らかに地球のこと考えてない会社のものは買わない。そしてそれを発信していく。

僕がGUCCIさんとやらせてもらっている「Gucci Off The Grid」というコレクションがあります。再生素材・オーガニック素材・バイオベース素材を使用したコレクションです。これも小さい取組みの1つだけど、あの世界的企業がキャンペーンしたらそれは大きな1歩になります。そこにつられてどんどん他の企業が乗ってくると、それが1つのムーブメントになっていく。これは良いディレクションだと思います。生産者・販売者・消費者がお互いに意識を持って行動する。それが、大きなうねりになっていくんだと思います。

そういう意識は社会に広がりつつあります。ただそのスピード感と地球が変化してるスピードが釣り合っているかは正直わかりません。川は氾濫しているし、地震も起こりまくってるし、大規模な山火事も起こっている。これは、私たちが行動を変えることで止めるしかない。」

難民支援ってかっこいい、これが新しい時代のロック

「ロックスター」と「サステナブル」。ほど遠いイメージを抱く人も多いかもしれないが「誰も取りこぼさない」と真剣に語る姿に、彼が新時代のロックを形作っているのだと確信した。

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「昔は難民キャンプでUNHCRの水色のキャップ被って、汗でどろだらけになって、電気もないところでギター弾くなんてロックじゃないと思っていました。でもいまは、そういうことを真剣にできる方が、大きな会場でライブをするのと同じくらいロックだと思うんです。海外だとマリファナ吸って、酒飲んで、やりたい放題やってっていうこれまでのロックのイメージに対して「それってダサくね?そんなことよりも、平和のためにギター弾いてる方がかっこよくない?」って、下の世代に思ってもらえたら、ちょっとは僕も貢献できる。そしてその感覚はどんどん広がっていると思います。
でも1つ強調したいのは、すべてのことは段階を踏むべきだということ。誰も切り捨てずに全体で移行していく、そういう取り組みをしないといけない。だって原発なんか、長い目で見たら環境にとっては当たり前に良くないじゃないですか。だけど、現状においての石炭などに代替するエネルギーとしての有効性や、長い間その原発によって生活が成り立ってきた人もいたり、全体のために誰かを切り捨てる選択って、俺は平和じゃないというか、そもそも効率的でないと思ってて。まずじゃあこれどうやって解決してみましょうか、一緒に解決しましょうよって対話をするのが、結果的に解決への一番の近道なんじゃないかと思うんです。

そのために、イエスかノーだけじゃない第3の選択肢を見つける。
今回のアルバムの楽曲『New Gravity』ではそういったことも歌っています。新しい選択肢、新しい価値、新しい重力。新しい発想とアイデア、それをまっすぐ提示し合える世の中であってほしい。」

最後に、これからの未来を創る若い世代に向けて、MIYAVIさんからメッセージをいただいた。

「地球規模の課題は、世代に関わらず、みんなで共有していくべきだと思う。でも、人それぞれできる・できないがある。経済環境とか生活環境の中で、今は何もできない人もいると思うけど、それは決して不正解じゃなくて、そこには5年後には何かできるかもしれないという可能性がある。学生は学ぶことで未来への架け橋となる。学んで学んで学び倒して、そこで得たものを5年後、10年後に存分に発揮してほしいです。今すぐ難民キャンプに行かなきゃとか、そういうことじゃなくて、今の自分には何ができるのか。それに対して、まっすぐ取り組むこと。そうすることが未来への近道になるんじゃないかな。そう強く感じています。」

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時折笑顔を見せながらも、真っ直ぐな眼差しで地球の未来を熱く語るMIYAVIさん。その瞳からは、彼が音楽活動にも、人道支援活動にも、環境問題にも、情熱を持って真剣に取り組んでいることが伺えた。ロックスターMIYAVI。彼の存在、そしてその情熱が、新しい時代のかっこいい価値観を変えていく「未来を指し示す力」になるに違いない。

 

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スタイリスト:櫻井 賢之[casico]


取材・文:篠ゆりえ
編集:おのれい
写真:服部芽生