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「働きやすさ」とは? 育休取得よりも復職後に注目してみると

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働き方改革が、本格的に叫ばれるようになってから約2年がたつ。働き方改革関連法案が施行され始めたのは、2019年4月のことだ。厚生労働省によると、働き方改革とは

「働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革」(※1)

であるとされている。

この法案では、労働時間法制の見直しによるワーク・ライフ・バランスの実現や、非正規社員の待遇改善などが大きな目的とされている。そんななかでも、ワーク・ライフ・バランスの実現の点で「育休制度」の充実は注目を集める話題のひとつであろう。少子化や共働き家庭の増加も相まって、いかに働きながらも子育てをしやすい仕組みを作っていくかは重要視されている。企業の側においても、育休取得率の高さを採用活動の売りにすることは多い。

※1 引用元:厚生労働省「働き方改革 ~一億総活躍社会の実現に向けて~」
https://www.mhlw.go.jp/content/000474499.pdf

育休制度の広がり

厚生労働省が2019年に全国の6209事業所を対象に行った調査(※2)では、女性の83.0%、男性の7.48%が育休を取得したとされている。

育休は法律で定められた制度であり、労働者からの申し出を受けた場合、基本的には雇用者は育休の取得を認めることとなっている。同じ事業所に1年以上勤めているという条件のもと、性別を問わず1歳以下の子どもを育てる親が取得できるとされている。また、近年の保育所不足・待機児童の問題などを鑑みて、2019年より育休は子どもが2歳になるまで取得できることになっている。

法律に定められているのは、あくまでも最低ラインであり、実際にはより長く柔軟な育休制度をもつ企業も存在する。

先に述べたように、育休制度は男女の取得率に大きな差がある。「イクメン」などの言葉とともに、特に男性の育休取得、育児参加を推進しようとする動きがあることは周知の事実だろう。しかし、今回は育休後について着目したい。「育休を取得しましょう。」といった呼びかけは多くあるものの、その後の復職についてはどうなのだろうか。

※2 引用:厚生労働省 「令和元年度雇用均等基本調査 事業所調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r01/03.pdf

復職と子育て

2014年の時点で、出産前に職に就いていた人のうち、第1子出産を機に退職する人が46.9%にものぼる。年々育休取得者は増えてはいるものの、半数近くは出産によって離職していることとなる。

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出典:内閣府男女共同参画局「「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び 出産・育児と女性の就業状況について」
http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/k_45/pdf/s1.pdf

この数字の背景としては、子どもの急な体調不良や保育園・幼稚園や学校の行事、送り迎えなどと会社の勤務時間が合わないこと、職場に子育てを支援してくれるような雰囲気がなかったことなどによる、仕事との両立へと不安が挙げられる。また、それに伴い、出産前に積み上げてきたキャリアやポジションを維持できるのか、不安に思う人も多いようである。これらの不安から、そもそも育休を取得する前に職を離れる人が少なくないのが現状である。

また、育休を取得しようとする場合は、職場復帰を見越しての選択であることが多いと考えられる。しかし、育休について調べていると、「育休明け 退職」「育休明け 転職」といった検索ワードが上位に上がってきた。育休を申請した当初は、同じ職場に籍を置き育休明けに復帰しようとしていても、実際には育休を取得したものの、仕事を辞める、あるいはより子育てとの両立がしやすい職場への転職という選択をする人も少なくはないようだ。では一体どんな企業が、復職先として選ばれるのだろうか。

育休制度よりも復職制度

このような状況のなかで、育休制度と同時に重要なのは復職しやすい仕組みだと言えるだろう。それはどんな仕組みなのだろうか。

例えば、育休後の復職率が約100%の株式会社ランクアップでは、ベビーシッター代を会社負担するといった仕組みがあるようだ。さらに全社で残業をゼロにすることで、子育て中の社員も帰宅しやすくしたり、定時を17時30分にすることで、時短勤務で16時に帰宅する社員との時間差を小さくしたりするといった試みがある。

また、家庭や企業向けに食品宅配を手掛けるオイシックス・ラ・大地株式会社も復職率の高い職場だ。産休・育休明けの社員に向けて「入社式」ならぬ「復職式」や「復職前研修」といった取り組みを行っている。どちらも復職時の不安を軽減する有効な取り組みと言えるだろう。

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また、ビッグローブ株式会社も女性の育休取得後の復職率は100%である。社内には、時短勤務やリモートワークの仕組みはもちろん、子どもを持つ社員による「ママプロ」というコミュニティも存在する。育児に関する情報交換をしたり、子ども用品のリユースのためにフリーマケットを開催したりしている。子どもを持ちながら働く会社員が育児によって、勤務状況に影響が出るなど職場で肩身の狭い思いをすることがあるという話はよく聞くが、同じような状況にいる人同士のコミュニティがあるのは心強い。

さらに2015年にはこの「ママプロ」の活動をきっかけに、子ども向け腕時計型スマートデバイス「cocolis(ここりす)」が誕生した。SIMカードを内蔵し、音声通話やデータ通信ができたり、GPSで場所も把握することのできるcocolisは、小学校に上がり、親の手が離れ始めた子どもを心配する社員たちの声から商品開発が始まった。このように育児をしながらでも、主体的に仕事に取り組めることも、重要だ。

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「cocolis」(ビッグローブ株式会社リリースより
https://www.biglobe.co.jp/pressroom/info/2015/02/150225-1

他の事例も調べてみると、共通してあげられるのは「勤務時間の柔軟さ」「勤務地の柔軟さ」「職種やポジションの柔軟さ」だろう。これらの要件は、妊娠・出産による休職を経験したことのない筆者でも「働きやすそう!」と感じる。生活も多様化するなかで、個々人の暮らしに沿った柔軟な仕組みが求められている思われる。

先に述べたように、現状では育休取得の前に退職を選択する女性が少なくない。それは、育休取得後に、同じ職場で働いていける環境がないことが多いためであろう。育休が取得しやすいことはもちろん重要だが、育休取得の先にある大きな目的の一つは復職だ。職場復帰の仕組みが整うことによって、より多くの人が育休を選択しやすく、長く心地よく働くことができる。育休の取りやすさに加えて、職場復帰のしやすさに着目してみると、より良い「働き方の多様性」が見つかるのではないだろうか。

 

文:白鳥菜都
編集:藤木美沙