よりよい未来の話をしよう

第一次産業を盛り上げろ! 水産業の次世代を担う若者の話。

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釣り、川釣り、釣り堀。最近でこそ「釣り女子」「釣りガール」という言葉も登場し、女性の趣味としても定着してきてはいるが、釣りはまだまだ男性のもの、特に中高年のものだ、という印象が強いのではないだろうか?また、漁業を生業とする人の数は減少の一途を辿っている。水産庁の試算によると、2017年に15万3,500人だった漁業就業者人口は、2028年には約10万3千人、2048年には約7万3千人、2068年には約7万人にまで落ち込むと予想されている。(※1)

漁業だけでなく、日本の第一次産業に従事する人口の高齢化が問題視されている。一方で、産業の活性化、若返りを目指し奮闘している若者がいる。この記事では、漁業をはじめとする水産業を取り巻く現在の状況をみつつ、現状を打破するため立ち上がった若者たちの活動を紹介する。

※1 参照:水産庁「平成30年度 水産白書全文」(1)漁業就業者をめぐる動向https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h30_h/trend/1/t1_2_2_1.html 

どうしてなりたくないの?水産業を取り巻く厳しい環境

就業人口の減少、高齢化にはもちろん理由がある。なによりもまず「稼げない」職種であるということが大きい。農林水産省が発表している漁業経営統計調査によると、漁船漁業の個人経営体(個人で漁業を自営する経営体)では、漁労収入から漁労支出を差し引いた漁労所得を年間で比較しても、2018年で1経営体あたり249万円、2019年で230万円と着実に減少している。(※2)

また、後継者不足も深刻だ。水産庁によると、2018年の段階で個人経営体のうち53%が、65歳以上の高齢者を主力として経営しているという。加えて、後継者がいる割合は個人経営体全体の2割以下。(※3)一家で代々漁業・水産業に従事していても、子どもには他の職業を勧める親も多い。稼げないことが大きな理由の1つだそうだ。

日本人の「魚離れ」が進行していることも、稼げない要因となっている。水産庁によると、1人当たりの1年間のタンパク質摂取量は10年前からほぼ変わらないものの、魚介類の摂取量は2001年をピークにして、2010年ごろには肉類と逆転、2017年の段階でピーク時の6割ほどまで落ち込んでいる。(※4)

経済的に苦しい産業であること、魚の需要が減少していることが相まり、水産業を取り巻く現状は年々厳しくなっている。体力と技術が必要な職業であるからこそ、若者が現役の漁師さんから教えを授かり成長することで未来が開けるはずだが、水産業界に対する3K(「きつい」「汚い」「危険」の3要素)のイメージが足かせになっている。どうにか打破する策はないものだろうか。

※2 参照:農林水産省「漁業経営統計調査」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/gyokei/
※3 参照:水産庁「令和元年度 水産白書全文」(1)漁業経営体構造の変化
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/r01_h/trend/1/t1_f2_1.html 
※4 参照:水産庁「平成30年度 水産白書全文」(2)水産物消費の状況https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h30_h/trend/1/t1_3_4_2.html

水産業を守るため、立ち上がった若者たち。

この状況に立ち上がった若者たちがいる。世界三大漁場のひとつである三陸海岸、なかでも宮城県石巻市を中心に、若者の力で水産業を新3K(「カッコいい」「稼げる」「革新的」の3要素)な産業にするべく活動する団体「一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン」だ。フィッシャーマン・ジャパンは漁業・水産加工といった水産業のイメージを変え、新しい働き方の提案や業種を超えた関わりによって水産業に変革を起こすことを目指している。

世界三大漁場の海をフィールドに活躍する三陸の若きフィッシャーマンたちが、地域や業種の枠を超えて、ホームの東北から日本全土へ、そして世界に向けて、次世代へと続く未来の水産業の形を提案していく最強のチームを結成。まずは自分たちが「真にカッコよくて稼げるフィッシャーマン」になり、未来の世代が憧れる水産業の形を目指す。(※5)

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出典:(一社)フィッシャーマン・ジャパンWebサイト
https://fishermanjapan.com/project/

彼らは業界の目標を
・これからの水産業を持続可能にする
・未来のフィッシャーマンを育てる
・水産業のしくみを変える
・漁業の魅力を伝える

の4つに細分化し、それぞれの項目に沿う形で事業を展開している。

「これからの水産業を持続可能にする」ための取り組みとして行っているのは、ASC/MSC認証取得のサポートだ。環境と社会への影響を最小限に抑えた養殖場に与えられるASC認証(※6)、資源枯渇を防ぐため適切に管理された漁獲量のもとで行われている漁業に与えられるMSC認証(※7)は、いま世界中で注目されている。フィッシャーマン・ジャパンは、日本におけるASC/MSC認証の普及に尽力し、周知活動にも励んでいる。

また、「漁業の魅力を伝える」の分野の一環として、2021年5月には東京駅にフィッシュサンド専門店「フィッシャーマン・サンドイッチ」をオープンした。ASC/MSC認証を受けた漁業・養殖場で収獲された「サステナブル・シーフード」や、漁獲量が少なく扱いにくいため獲られても市場に出回らない「未利用魚」を使用していることもポイントだ。
 

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写真:(一社)フィッシャーマン・ジャパンWebサイトより
https://fishermanjapan.com/project/フィッシャーマン・サンドイッチ/

石巻の海を飛び出して、東京駅で魚の魅力を周知させる取り組みは、魚離れしている若者世代への強いアピールを図ることができる。そのほか有名アパレルブランドとのコラボレーションや、新鮮で美味しい商品を全国に届けるためのオンラインサイトの開設など、事業内容は多岐に渡る。

その中でも、水産業を変えていくために最も大切なのが「未来のフィッシャーマン」を育てること。フィッシャーマン・ジャパンでは、水産業に携わる若者を増やすための「TRITON PROJECT」を立ち上げ、行政や漁協、地域の漁師と協力して新規漁業就業者を増やす取り組みや、大学生をはじめとする若者に水産業を知ってもらうためのインターン事業など、さまざまな活動を行っている。

なかでも、水産業に特化した副業プロジェクト「GYO-SOMON!」は石巻の地を訪れずとも水産業に関わることができる事業のひとつだ。
 

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写真:特定非営利活動法人エティックwebサイト「ギョソモン!」
https://yosomon.jp/gyosomon

水産業の変革を担う若手経営者と事業課題の解決を担う副業人材をマッチングさせ、新規事業創出や経営改善に役立てている。たとえば、ECサイトのフォーマットを作ったり、水産物のプロモーション戦略を立てたりと、案件ごとに幅広いスキルを生かすことができる。1番の特徴は、それら成果に対する報酬が「魚で支払われる」ことだ。「GYO-SOMON!」は知識や経験を地域の生産者と交換するという、都市部にいながらできる新しい副業のあり方や、地域との関わり方を提案している。

フィッシャーマン・ジャパンは「10年後、2024年までに三陸に多様な能力をもつ新しい職種『フィッシャーマン』を1000人増やす」というビジョンを掲げているが、これは決して「漁師」を1000人増やすということではない。水産業に関心を持ち課題解決に取り組む意志のあるものは、誰でもフィッシャーマンなのだ。2018年に開催された復興庁の復興・創生インターンシップ事業に参加したことをきっかけに、フィッシャーマン・ジャパンに加入した渡部さんにコメントをいただいた。

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写真:渡部更夢さん

<(一社)フィッシャーマン・ジャパン 渡部更夢さんコメント>
とにかく漁師はかっこいいし、憧れる存在です。自然の猛威を経験してもなお、自然と生きる彼らに惚れました。だからこそ水産業の課題を知ったとき、他人事とは思えず、一緒に課題に立ち向かうフィッシャーマンになりたいと思いました。課題は多いけどプレーヤーは少ない。だからこそ、チームを組む必要がある。この記事を読んでくださった皆さんにも、きっと関わりしろがあるはず。旨い魚を用意して、待ってまーす!

※5 引用:フィッシャーマン・ジャパンWebサイト「ABOUT」
https://fishermanjapan.com/about/
※6 参照:水産養殖管理協議会「ASCについて」
https://jp.asc-aqua.org/what-we-do/about-asc/
※7 参照:海洋管理協議会「MSC漁業認証資格とは」
https://www.msc.org/jp/standards-and-certification/MSCstandardjp/MSCFisheryJP

第一次産業を担うという選択肢

日本の水産業を守ろうとする若者たちの存在は、いまはまだ珍しい。伝統産業において先進的な取り組みをする際は、数多くの困難もあるだろう。しかし、彼らのような存在が広く知られてそのサービスが利用されることで、水産業へのイメージが変化し、伝統を守ることにつながるのだ。

水産業に限らずとも、就業人口の減少が著しい第一次産業全般に、この仕組みはあてはまる。若者の行動と新しい発想が、文化の継承や地域復興に大きく貢献するだろう。地元で気になる職がある人や、家業を継ぐか迷っている人、テレビなどで水産業や農業を見て関心を持っている人は、是非、1歩踏み出してみてほしい。

 

取材・文:森ゆり
編集:柴崎真直
サムネイル・渡部さん写真提供=(一社)フィッシャーマン・ジャパン(撮影=Funny!!平井慶祐)