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日本のB Corp認証企業は世界の0.2%。 サステナビリティ時代の「あたらしい企業」を増やすには

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写真:https://www.valuebooks.jp/endpaper/7752/


私たちの生活に欠かせない存在、企業

私たちは日常生活を送る中でモノを買い、サービスに対価を払っている。現代では基本的な衣・食・住にはじまり、何をするにしても企業の提供するモノやサービスとの関わりは避けて通れない。
そして、企業活動は私たちのような一般消費者のみならずさまざまなステークホルダー(利害関係者)に影響を及ぼしている。
本記事では、サステナビリティが求められる時代における「企業」と「私たちの社会」の関わり方についてお伝えする。

短期利益に偏重した経営への反省

現在、日本のみならず世界中の企業に対して社会的責任が求められている。では、なぜ企業に対して社会的責任が求められるようになってきたのだろうか。
従来の企業は、自社の利益を最大化することを念頭に置いて事業活動をおこなってきた。
しかし、企業が追求する「利益」は「短期的な利益」を指すことが多く、そのような方針で舵取りがなされる経営はさまざまな弊害を引き起こした。環境破壊、劣悪な雇用環境の下での従業員の労働がその一例として挙げられる。
これは企業が株主や消費者といったごくいち部のステークホルダーを重視した経営を行っていたために引き起こされた事態だ。

このような事態を鑑みて、企業が活動を行う上で環境や社会を無視することはできない、という流れが生まれつつある。現在ではさまざまなステークホルダーを重視した公益を追求する経営が求められている。
そして、近年では有機農法で育った野菜がオーガニック認証を受けられるように、「公益を追求する企業に認証を与えよう」という流れも生まれている。
次の章では幅広いステークホルダーに配慮した経営を行う企業に与えられる認証について、運営団体であるB Labの公式ホームページを基に説明する。
出典:https://bcorporation.net/about-b-corps

公益を追求する企業に認証を - B Corp Certificationについて

幅広いステークホルダーに配慮し、「公益を追求する企業」は「B Corp Certification」という認証を受けることができ、認証を受けた企業は「B Corp」と呼ばれる(「B」はbenefit=利益・利得・恩恵の頭文字)。
企業が「B Corp」の認証を得るためには、環境(Environment)、地域社会・サプライヤーなどのコミュニティ(Community)、企業統治(Governance)、顧客(Customers)、Workers(従業員)等の領域に関して何段階もの審査を受ける必要がある。
また、審査を通じて「取締役および役員が意思決定を行う際に、株主だけでなくすべての利害関係者の利益を考慮する」という法的要件に従うことを求められる。
以上の厳しい要件を満たして初めて企業は「B Corp」として認証されるのだ。

2006年にB Labが設立されてから15年ほどの間に、世界77カ国で4000社を超える企業がB Corp Certificationを獲得してきた。
翻って国内に目を向けると、日本では2021年7月現在、7社が認証を取得している。しかし、世界規模で見るとこれはB Corpと認定されている企業全体のおよそ0.2%に過ぎず、7社中1社はエヴィアンを販売するフランスの食品会社のDanon S.A(ダノン)の日本法人だ。
このように、日系企業ではまだまだB Corp Certificationがオーガニック認証のように根付いていないのが現状だ。

日本にB Corp ムーブメントを。バリューブックスの「B Corpハンドブック翻訳ゼミ」

とはいえ、B Corpの日本でのなじみが薄い理由には、企業の意識以外にも問題がある。現在、B Corp認証のプロセスを日本語で説明した公式情報は非常に少ない。
この問題を解消し、日本でB Corp Certificationを広めようとしているのがオンラインで古本の買取・販売を手がける株式会社バリューブックスだ(以下、バリューブックス)。ここでは、公式サイトを基に同社の取り組みを紹介する。
出典:株式会社バリューブックス 公式サイトhttps://www.valuebooks.jp/

バリューブックスは2016年にアメリカのパタゴニアやB Labのサンフランシスコオフィスを訪れ、同社もB Corp Certification取得に向けて活動している。
そして、さまざまな活動の中で特筆すべき点は、B Corpの入門書として知られる"The B Corp Handbook"の日本語翻訳権を取得し、日本語版の出版に向けて「あたらしい会社の学校『B Corpハンドブック翻訳ゼミ』」を開催している点ではないだろうか。
このゼミは、同社とコンテンツレーベル黒鳥社の共同プロジェクトとして行われ、同社取締役の鳥居希氏、黒鳥社のコンテンツディレクター・若林恵氏、編集者の矢代真也氏がファシリテーターを務めている。さらにメンターとして、パタゴニアの日本支社で「不必要な悪影響を最小限に抑える」ための取り組みを担当し、アジアでのB Corp事情にも明るい篠健司氏も参加している。
専門家への依頼ではなく「ゼミ」という形式でB Corpのハンドブックを翻訳しようと考えた背景について、同社取締役の鳥居氏は以下のように語っている。

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同社取締役の鳥居希氏。モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社で15年間勤務した後、2015年にバリューブックスに入社した。

B Corpのことを学ぶなかで、世界各国でのムーブメントの起こり方が微妙に違うことに気づきました。(中略)日本の場合どのような力学で、この運動が進んでいくのかは、わたしもまだわかっていません。もしかしたら、昔から言われている「三方よし」のような考え方に立ち戻るかもしれません。もしくは、先ほど申し上げたように、日本にない概念を日本に適応した言葉に置き換えていく作業で、「辞書にない言葉」をつくることになるのかもしれません。
だからこそ、翻訳者を公募して、みんなで「あたらしい会社」について考えてみたかったんです。『The B Corp Handbook』を翻訳するためには、実際に事業に携わっている人の感覚が不可欠だと思います。そして、これは答えがある作業ではないんです。

出典:「『B Corp』はみんなでつくるもの:バリューブックス・鳥居希に聞く『あたらしい会社』が求められる理由」https://atarashi-kaisha.medium.com/interview-nozomi-torii-5a2ce276c3e0

B Corp Certificationは企業の公益追求への取り組みを客観的に評価する方法としては非常に有用だ。しかしハンドブックを翻訳して出版するだけでは、活動の広がりが限定的になる可能性がある。
その点、同社の「B Corpに関心のある『同士』を募ってハンドブックを翻訳していく」という方針は、国内におけるB Corpの認知度向上のみならず本気で公益追求に取り組みたい企業の背中を押すことに貢献しているのではないか。
そして、この「B Corpハンドブック翻訳ゼミ」は、2021年6月25日に最終回が行われた。日本語に翻訳された『The B Corp Handbook』の出版、そしてこのコミュニティの今後の展開が期待される。

サステナビリティ時代における「あたらしい企業」とは。

ここまで述べてきたように、今後はさまざまなステークホルダーを重視した公益を追求する経営が必要だ。
ただ、「公益を追求すること」は無償の慈善活動を意味するわけではない。本業を通じて社会課題に向き合うことや環境負荷を削減することが「あたらしい企業」に求められる公益活動だ。

そして、企業と同じく、現代を生きる上で社会と関わりのない人間はいない。企業が社会に対して何ができるかを考えるように、私たちも社会との関わり方を見つめ直す必要があるのかもしれない。

 

取材・文:竹内瑞貴
編集:白鳥菜都