
あるカップルが「妊娠」をきっかけに変わっていく姿を描く、贅沢貧乏『わかろうとはおもっているけど』が、2019年の初演から6年を経た2025年、再演される。男女の違いや分かり合えなさと、その先の分かり合おうとするための姿勢や視点について、作・演出の山田由梨さんに伺った。

作家・演出家・俳優。東京都出身。立教大学在学中に「贅沢貧乏」を旗揚げ。以降全ての作品の作・演出をつとめる。近年は、映像作品の脚本、監督、小説執筆など活動の幅を広げている。『フィクション・シティー』(2017年)、『ミクスチュア』(2019年)で岸田國士戯曲賞最終候補にノミネート。ドラマ作品ではAbema TVオリジナルドラマ「17.3 about a sex」「30までにとうるさくて」NHK「作りたい女と食べたい女」等で脚本を担当。WOWOWオリジナルドラマ「にんげんこわい」では脚本・監督として参加。セゾン文化財団セゾンフェローI。KADOKAWAより初のエッセイ本「ぜんぜんダメでパーフェクトなわたしたち」出版(2025年11月10日発売)。

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贅沢貧乏『わかろうとはおもっているけど』2025年国内ツアー
作・演出:山田由梨
音楽:金光佑実
出演:大場みなみ 山本雅幸 佐久間麻由 大竹このみ 青山祥子
【ツアー日程】
[東京公演]11月7日(金)〜11月16日(日)@東京芸術劇場シアターイースト
[久留米公演]12月6日(土)〜12月7日(日)@久留米シティプラザ Cボックス
[札幌公演]12月13日(土)〜12月14日(日)@クリエイティブスタジオ(札幌市民交流プラザ3階)
【公演情報】
[東京]
<公演スケジュール>
2025年11月7日(金)〜16日(日)
11月7日(金)19:00◉🎤
11月8日(土)14:00◉🎤
11月9日(日)14:00◉🍵
11月10日(月)19:00◉🎤
11月11日(火)休演日
11月12日(水)14:00◉★
11月13日(木)14:00◉📸/19:00◉📸
11月14日(金)19:00◉🎤
11月15日(土)14:00☆
11月16日(日)14:00◉★
※開場は開演の30分前より ※上演時間約70分
◉…英語字幕付
🎤…ポストトークあり。
トークゲスト(敬称略)
11月7日(金)19:00 宇垣美里(フリーアナウンサー・俳優)司会:トミヤマユキコ(ライター・マンガ研究者)
11月8日(土)14:00 大島育宙(XXCLUB/映画・ドラマ評論)
11月10日(月)19:00 山崎ナオコーラ(作家)
11月14日(金)19:00 佐伯ポインティ(マルチタレント)
※すべての回に山田由梨(贅沢貧乏)も登壇いたします。
※開催回のチケットをお持ちの方がご参加いただけます。
※終演後、約30分ほどを予定しております。
📸…収録のため客席内にカメラが入ります。
🍵…終演後、贅沢貧乏劇団員とお客様による感想おしゃべり回あり。
別途参加費¥1,000要(18歳以下無料)。定員:20名程度。所要時間:約45分。
お申し込みはこちらのフォームより
★…視覚に障がいのある方への鑑賞サポート(上演前タッチツアー)あり
☆…聴覚に障がいのある方への鑑賞サポート(日本語バリアフリー字幕)あり
<会場>
東京芸術劇場 〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-8-1
JR・東京メトロ・東武東上線・西武池袋線 池袋駅西口より徒歩2分。駅地下通路2b出口直結。
https://www.geigeki.jp/
<チケット 整理番号付自由席(税込)>
整理番号付自由席(税込)
一般:¥4,000
ペア:¥7,500
29歳以下:¥3,000
18歳以下:¥500
※未就学児はご入場いただけません。
※29歳以下・18歳以下は枚数限定。当日要証明書。
<発売日>
9月7日(日)10:00~ 一般発売
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「妊娠」を起点とした物語
『わかろうとはおもっているけど』を作られた経緯を教えてください。
初演当時、私は27歳でした。20代前半は自分のことだけを考えてもまだ大丈夫、という感覚があったけど、年齢を重ねてそういう自由さだけでは生きられないような空気を感じていました。仕事が楽しくなってきた頃でもあるのに、社会から結婚や出産を要請されているような。周りの友達でも結婚する人が増えてきて、ある種の圧力みたいなものを感じ出す年齢だと思うんです。
そういったことを「自分にも起きるかもしれないこと」として考え出したときに、社会における男女の不平等に直面しました。男性は比較的子どもが生まれてからも仕事を続けやすい社会で、女性は両立することを不安に感じる人が多い。さらに、少子化で子どもを産み育てることを求められている風潮もある。そういった社会が女性に求める役割に窮屈さを感じていました。一方で「女性としての幸せ」みたいなものに憧れがある自分もいて、いろんな気持ちがうごめいていたので、その違和感をそのまま書いた作品です。
なぜ再演を決められたのですか。
贅沢貧乏は劇場ではない場所で公演を行うことも多く、2019年に初演を行ったときもイベントスペースで上演したんです。その後、初演を観てくださったプロデューサーさんからお声がけがあり、コロナ禍を経て2022年にパリで上演することになったのですが、パリの会場はしっかりとした劇場でした。イベントスペースから劇場にサイズが変わるにあたって美術や照明をアップグレードして、作品自体も全体的にレベルアップしたと思います。初演は0から1を作ることで精一杯だけど、一度出来上がったものをどう上演するのか冷静に考えてクオリティを上げることができる。
フランスでもご好評いただいた『わかろうとはおもっているけど』パリバージョンを日本でもやりたいと思っていて、タイミングが重なって今回の再演に至ったという形です。
初演時と再演で心境の変化はありますか。
初演時から6年が経っているため、私自身はもちろん、社会も変わったと思います。当時の私はフェミニズムを勉強し始めた頃で、どう語ればいいのか悩みながら恐る恐る作品を書いていました。
いまの私は、自分をフェミニストだと思うし、臆せずそう名乗ることができる。自分の意見を堂々と言えるようになりました。そういう変化を経て、この戯曲はあのときのわたしにしか書けない戯曲だなと思います。あのときは自分と近い距離で演出をしていたけれど、いまはずいぶん自分が遠いところから、客観的に作品と当時の自分を見ているような感覚があります。

社会の問題を物語で表現する
作品を書くときは、ご自身が考えていることを起点にすることが多いですか。
私は演劇をつくるのって、自由研究のようなものだと思っているんです。そのとき感じていること、違和感や疑問を自分なりに考えたり勉強したりして、演劇という形でアウトプットして提出するみたいな。
そのようにアウトプットされる作品に、社会の問題を落とし込んでいるのはなぜでしょうか。
私が劇団を始めたのは2012年なのですが、前年の2011年には東日本大震災と福島の原発事故がありました。ちょうど20歳で参政権を得た年齢でもあり、政治が無視できないものとして圧倒的に存在していたなと思います。いまの20代だったら、コロナ禍がそれに当たるかもしれないですね。
タイミングが違っていたらもう少し呑気でいられたかもしれないけど、そうはいられなくて、だから社会のこと、政治のことに関心を向けることは当然で、それが作品に現れることも当たり前のことだと思います。
社会の問題で言えば、昨今インターネットをはじめ男女の対立構造が深まっているように感じます。本作のテーマにも関わると思いますが、山田さんはどのように考えられていますか。
社会における男女の不平等の問題を考えたときに、逆に「どうなれば男女平等って言えるのか」という疑問にいきついたんです。どうしたって産む身体と産まない身体があって、絶対に変えられない違いが横たわっている。それを見つめないといけないと思ったんです。
だから、「男性は女性に対する差別意識がある」ということを書いても仕方がない。好きな人と一緒にいたくて、分かろうとして努力して愛情もあって、それでもどうしても身体は違って、すりこまれてきたジェンダー規範がある。そこを書かないといけないと思いました。体感的なレベルで相手が感じていることを理解することは不可能で、その不可能さを受け止めることからしか始まらないんじゃないかと。
男性には男性の社会的圧力があって、刷り込まれてきた「女性として」「男性として」という価値観にはなかなか抗えないし、拭いきれない。まして性別が同じでも、分かりきれないこともありますよね。その分かりきれない部分を分かった気にならない、分からない部分があると常に理解しておくことが大事だと思います。

フェミニズムって必要?
本作は「演劇で学ぶフェミニズムのやさしい入門書」というキャッチコピーがついています。どんな意図があるのでしょうか。
この言葉はパリでの批評文からきています。日本ではおそらくそんな批評はしてもらえないと思ったんですよね。「フェミニズム」という言葉を真正面から使って作品を評してもらえて嬉しかったです。
でも、いまこの言葉を宣伝に使いながらジレンマを感じているのは、フェミニズムという言葉を聞くだけで興味を失う人もいるかもしれないこと。怒られている気がしたり、難しいと思って避けてしまう人がいたりするかもしれないとも思っています。一方で、「もうそろそろフェミニズムという言葉くらい当たり前に使っていこうよ」と思うし、避けている場合ではないだろうとも思う。受け入れていく時間やタイミングは本当に人それぞれ違うので、押し付けるのも違うとは思いますが。
性別にかかわらず生きづらさを感じる人にとって、フェミニズムは何をもたらしてくれると思いますか。
生きていて不都合や不条理に出会って、自分のせいだと思っていたことが、フェミニズムを勉強するとそれは社会的な差別構造によるもので、自分個人の問題ではなかったのだと気づく場面ってたくさんあると思って。私は若いとき、男女差別なんてないと思っていました。でも、当たり前にありすぎてそれが男女差別だと気づけなかっただけだった。フェミニズムの本を読んだりいろんな人の話を聞いたりして、あれもこれも男女差別だったと気づき始めたときの驚きはすごかったんです。自分の漠然とした生きづらさに、形と言葉を与えて認識させる力がフェミニズムにはあると思います。
男性も、社会的な構造で自分たちが優位に立っていることや、優位に立てない立場の人たちに何が起きているかを構造的に理解しないと、相手に正しく接することができません。そういう意味でも、誰であってもフェミニズムを学ぶ意味があると思っています。
男女という立場だけでなく、マイノリティとマジョリティという立場にも同じことが言えますね。
マイノリティの問題は、マジョリティの問題なんですよね。マジョリティが差別構造を作っているのが問題で、常にマジョリティ側が関心を持って現状を変えていこうとしなきゃいけないと思います。男性こそフェミニズムを勉強するべきだと思うし、一緒に変えていかなければいけない問題だと思います。
この作品で初めてフェミニズムに触れるという方もいらっしゃるかもしれませんね。
本当に「入門書」だと思うんですよ。肩肘張らずに楽しんでもらえる作品ですし、相手の立場に立つってどういうことなのか、相手を思い遣るってどういうことなのか、考えるきっかけになると思います。

「中年」のおおらかさ
本当の意味で「相手を思い遣る」とはどんなことだと山田さんは思いますか。
私、最近自分が「中年」になったと思っているんです。社会的にどう思われるかは別として、自分で自分の捉え方を「若い女」から「中年の女」に変えて、とても楽になっています。中年になっていろんなことを長い時間のスパンで考えるようになったんです。
たとえば、いま誰かの相談に乗ってアドバイスをしたことが、即効性はなくても、数年後にその人が思い出してくれて、助けになったらいいなくらいの、そういうスパンで物事を捉えるようになった。人それぞれ変化するタイミングは違うし、それがいつなのかは本人にも誰にも分からない。だから、相手と自分とは違う時間が流れているということを尊重することが、優しさに繋がるのかなと思っています。
物事を捉える時間軸が変わってきたんですね。
いま自分がいる場所だけではなくて、自分が優しくした人が誰かに優しくするかもしれないし、私もその恩恵を受けてきたかもしれない。すごく簡単にいうと、先輩に奢られたから自分は後輩に奢る、みたいな。そういう循環の中に自分がいると思うと、目の前の相手から返されなくても、いつかどこかから返されているみたいな感覚があって。そうすると、少しおおらかになれるような気がします。

フィクションの意義
そのような考えを持っているなかで、フィクションという表現は山田さんにとってどのようなものですか。
脚本を書いたり取材をしたり、いろんな人と接していると、現実の方が圧倒的に強いということに直面する瞬間があります。フィクションでは表現しきれない説得力が、現実にはある。きっとフィクションを書いている人は一度は通る葛藤だと思うんですよね。
でもあえてフィクションに変換するのは、急に現実を突きつけられたときに受け付ける体力や精神力を持てずに日々生活に追われているような人に対して、現実を物語で包み込むことで受け入れやすくする力がフィクションにはあるから、という考えに行きつきました。ドキュメンタリーで観ると「自分とは関係のないことだ」と思っていたことが、物語という形で登場人物に共感したときに、自分に置き換えて感じられたり、相手の立場に立てたりするんじゃないかなと。
扱う社会問題によっては声を上げられない人、顔を出せない人、身の危険を感じていて声をあげるのが難しい人も多くいます。だからこそ、物語という装置を使って作品の中で見せていくべきことがあるなとも思っています。
本作に興味を持たれた方に一言、お願いします。
演劇を普段あまり観ない方も多いと思います。でも特別な知識も心構えもいらないですし、舞台美術や衣装、光や音、目の前で俳優が喋っていること、そういうひとつひとつを単純に楽しむつもりで劇場に足を運んでもらえたらなと思います。私自身が恐る恐るフェミニズムについて勉強し始めて書いた作品だから、恐る恐る来ていただいてももちろん大丈夫です。気軽に楽しみにきて欲しいなと思います。
取材・文:カネコハルナ
編集:大沼芙実子
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