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“普通の女の子”のヌードを撮るフォトグラファー・花盛友里に聞く、SNS×加工時代の「わたし」の愛し方

AIにより、加工技術が進化する現代。SNS上では、外見の「かわいい」や「美しい」の理想像がより一層固定化しているように思える。こうした時代に、フォトグラファーの花盛友里さんは鏡に映るそのままの自分が美しいというメッセージを、一般女性のヌード写真という方法で表現する。

そんな花盛さんが選考なし、先着順の公募制で撮影するプロジェクト『脱いでみた。』の第3弾写真集『nuidemita - 脱いでみた。3 -』が、2025年9月、前作から5年ぶりに発売となった。過去最大の55名の女性たちを収めた今作では、加工技術やSNSに惑わされることに対する問いとともに、現実を生きるたった一人の「わたし」としての女性たちが写し出されている。

あしたメディアは、花盛さんに現代の加工やSNS文化に対して思うことや、今作に込めた思いを伺った。

▼花盛さんの新作写真集『nuidemita - 脱いでみた。3 -』はこちらから
https://shop.genic-web.com/products/nuidemita3-1

子どもたちが、「普通の人もいるんだ」と思える世界を作りたい

『nuidemita - 脱いでみた。3 -』の発売、おめでとうございます!前作を発表した5年前と比べて、加工文化やそれに伴う人々の意識に変化は感じますか。

 5年前よりも、もっと加工技術が進んでいる気がします。 しかも5年前よりずっと自然な仕上がりになる。 見ている方もそういう写真に慣れてしまっているから余計に危険で、「この人ってすごい肌が綺麗だな。脚が長いな」と思っても、会ってみると実は違うということがあると思います。  

画面だけで見ていると、その人がどんな人かはよく分からないじゃないですか。対面で会ったときに、その人の考え方や笑顔や、話の聞き方などが合わさって、相手のことをかわいいと思ったり、好きだと思ったりする。友達のことをかわいいと感じるときには、自分の感情がとても乗ってきますよね。

それに対して、何の感情も乗っていない状態で見るSNSのつながりはとても危険なものだと思います。加工が悪いと言っているのではなく、“SNS上の姿”だけを信じてその人を捉えてしまうことが怖いし、その結果、自分に劣等感を抱いてしまう人がいるのは悲しいなと思います。 

普段撮影のお仕事をされていると、編集で加工技術を使われることもありますよね。

そうですね。 仕事のときのレタッチは、もう本当に叫びながらやるときもあって。「別にここのシワくらいあって良くない? だって人間やん」みたいな。 

それは、シワはあってはならないとか、毛はあってはならないとか、そういうことですか。

そうですね。被写体に求められる感覚がすごく変わってきていると感じます。とくに若い人たちは、見ている世界が綺麗な状態ばかりだから、ちょっとでも揺らぎがあると気になるのかなって思います。「ニキビなんて絶対にあってはならない。だってそんなの画面で見たことないじゃん!」ってなるのかもしれない。

それは、「これがいまの社会の感覚なのか」っていう学びだなとも思うんです。けど、私は違う世界も作れるなら作りたいと思います。子どもたちが「こんな普通の人もいるんだ」と思える場所がないとだめかなと思うから、『脱いでみた。』を続けています。

子どもや若い世代に対して、「自分のままでいい」ということを伝えていきたい、と。

心のなかでありのままの自分が好きって思えていたら、加工したって楽しいし、別にいいと思うんです。 でも自分のままで写ったときにいいなって思える瞬間がもうちょっと増えたらとは感じます。 ダイエットによって、生理が止まってしまう中学生もいると聞きます。そんな子には、「そのままでかわいいから私のところへおいで!」って思います。 

情報は昔よりも手に入りやすくなっているし、とくにSNS上ではアルゴリズムで同じようなものばかりが出てくるから、『脱いでみた。』みたいなありのままでいいよという世界は、絶対にあの子たちの携帯には出てこないんです。だから届いて欲しいところに「自分のままでいい」という感覚を届けるのは難しい。いまは、自分で行きたいって思ったところに世界がバーって広がるのは簡単だけど、その世界に気づいていない人には全く届かないようになっているから。

その人の物語を伝えたい

5年前に写真集を出したときと比べて、『nuidemita - 脱いでみた。3 -』で新たに意識したことはありますか?

前作よりも、今回はもっとその人たちにフォーカスしたいなと思って撮影しました。 前はルッキズムに触れて、体や顔のことについて、「あなたってこんなに素晴らしいんだよ」と言っていましたが、今回はそういうトーンよりも、「等身大の彼女たち」という気持ちを込めた写真が増えたんじゃないかなと思います。

「こんな体験もしたよね」「あのとき泣いたり笑ったり、悩んだりしたからいまのあなたがあって、そういうことだけでもう素晴らしい」とか。その悩みや揺らぎ、これからも迷ったり自信がないと感じたりする気持ちが、その人を人間らしくする。人の話を聞いてあげられたり、勇気を出して『脱いでみた。』に出たりした、その体験の全てがあなたを素晴らしくさせているし、だから他の誰でもなく、あなたがいいんだよということを今回はもっと言いたいなと思いました。物語を伝えるというか。 

『脱いでみた。』のInstagramアカウントは非公開で、花盛さんご自身がフォローリクエストを確認し、承認するか決めていらっしゃいますよね。現代の、SNS上の見た目に対する誹謗中傷に対してどのようなご意見をお持ちですか?

SNSでは自分の一言で誰かを救うことができる一方で、簡単に人を傷つけることもできるということに、もっと多くの人が気づかないといけないと思います。そして情報も写真も、 簡単に手に入るって考えすぎないでほしい。そういう思いがあるので 、『脱いでみた。』は、承認制にしています。 

女性も、男性も。共に進歩していきたい

『脱いでみた。』の非公開アカウントには、参加した女性たちを守りたいという考えがあると感じます。この点への思いを教えてください。

『脱いでみた。』って、みんながいないと成り立たなくて、脱いでくれる子たちも見てくれる子たちも温かいから、次の被写体の子がこの世界に入りたいと思ってくれる。全部一緒になって大事なんです。 

だから、その子たちの思いも大事に届けたいなと思う。体を綺麗に撮ることや、その子たちをかわいく撮ることはもちろんですが、脱いだ理由や、ヌードであることの大切さをいろんな人に勘違いさせないようにすることも意識しています。キャプションにも気をつけているし、 見てくれてる人たちのコメントも変なものが入ったらすぐに消します。 その子たちが脱いでくれたことを、その子たちの親や、友達から見られても恥ずかしくないようにしないといけないから。

それから、男性も排除しないように気をつけています。性的な目線で見ようとする男性もいるかもしれませんが、純粋に『脱いでみた。』という作品や、その子たちを愛おしいと思ってくれる男の人もいます。 だから、キャプションで「女の子は」という表現はあまり入れないようにして、 どんなジェンダーであっても自分を愛していいし、自分のことを好きになっていいということを発信するようにしています。

女性のヌードを、男性に商品として扱ってほしくはないです。そうではなくて、「女の人の体って、みんなそれぞれにほんと綺麗だよね」って言ってもらいたい。 そう思ってもらう機会になったら嬉しいので、男性にも個展にはいっぱい来てほしいです。

それは、『脱いでみた。』を最初に出し始められたときから、気をつけていらっしゃったのですか。

写真集を始めたときは、もっと女の人万歳!と思っていました。でもプロジェクトを続けていくうちに、そのスタンスのままだったら社会は変わらないと感じました。

女の人を持ち上げるメディアも発言も、いまはすごくたくさんあると思います。 だから女性たちも、「私たちはこれにノーって言っていいんだ!」とか、「お給料が違うことっておかしいよね」とか、ジェンダーにまつわる違和感を抱き始めたと思うんです。 それ自体は素晴らしいけど、一方で男の人だって泣いていいとか、別にデートで奢らなくていいとか、運転できなくったっていいとかを言っている人がやっぱり少ないなと思っています。 

私にはいま息子たちがいますが、息子たちには家事・育児しなさいということも教えるし、泣いてもいいし、完璧じゃなくていいっていうことも教えないといけないと思っています。男性が、女性が、じゃなくて、双方が一緒に進まないといけないことを、この数年ですごく感じ始めたんだと思います。 

「女性も男性も一緒に」という思いがあるのですね。

社会のなかで、女性の地位が変わってほしいとは思います。ですが、女の人だって男の人に対して、上りのエスカレーターで後ろに立ってくれる人やお店を早く決めてくれる人、お給料が自分より高い人など、「理想の男性像」を大事にしている面もあるじゃないですか。 矛盾しすぎじゃない?と思います。女の人は自分の中にその矛盾があることに気づかないといけないし。 そこに気づいて初めて、おかしいっていう声をあげられると思います。

個展にいらっしゃる男性の声を聞いて、花盛さんの意識されていることが届いたなと思った瞬間はありましたか? 

風俗で女の人を使うような仕事をしてる人から、「僕は彼女たちを大事にしているけど、こんな風には愛せないからすごいなと思う。僕もこうなりたいから、勉強になります」と手紙をくれた人がいて。こんな素晴らしい人がいるんだなと思って嬉しかったです。

彼女を連れてきてくれる人もいるし、娘さんを連れてきてくれるパパもいます。そういう様子をみたときには、私の伝えたいことが響いてるのかなって思います。

いますぐじゃなくていい。ちょっと落ち着いたとき、自分を好きでいてあげられたら

現代は、とくに若者にとって、写真がSNSでいいねをもらうための承認欲求の道具になっている面があると思います。 花盛さんが今作で伝えたいメッセージを教えてください。

どれだけ人が「あなたは素敵だよ、かわいい」と言っても、本当にどん底の渦の中にいる人には届かないじゃないですか。 だから、『脱いでみた。』が言ってることをいまは全く理解できなかったり、むしろムカついたりしてもいいと思うんです。 

ただ、その状況を乗り越える時期は絶対に来る。自分の感情が凪いでいるときにそのことを思い出して、「あのとき渦の中にいたな、でもいまはちょっと落ち着いているから、自分のことを好きでいてあげようかな」って感じられる瞬間をちょっとずつ増やしていったら、誰かに承認されなくても良くなっていくと思うんです。

ぐちゃぐちゃの渦になっているときは全然耳に入らなかった友達の声も、落ち着いたときに思い出して、「あ、あのとき言ってくれたことって本当なのかもしれない」って思えることもある。 そう考えたら、人生終わりだって思ってた2秒後にすごく幸せになる。そんな経験ってありません? 時間をかけて世界が変わるわけじゃなくて、どういうわけか、急に「あ、大丈夫やん、私」って感じる瞬間がくることもあると思うんです。 そういう瞬間がちゃんとやってくることを、心の隅っこにそっと置いておけたらいいなと思います。

花盛友里(はなもり・ゆり)
フォトグラファー。大阪府出身。
雑誌や広告などで、主にポートレート撮影を手がける。作品として、2014年『寝起き女子』、2017年『脱いでみた。』、2025年『nuidemita - 脱いでみた。3 -』を発表。2021年にアンダーウェアブランド「IKKA」を立ち上げるなど、幅広く活躍している。二児の母。

 

取材・文:福永葉
編集:大沼芙実子
写真:笠川泰希

 

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