
サンリオのクロミが、メジャーデビュー。その背景は?
サンリオのクロミが、「KUROMI」としてメジャーデビューを果たした。20周年を迎えた今年、「OHIRUNE DAY DREAM」をリリース。曲制作を担当したのはlilbesh ramkoで、意外性のある人選が反響を呼んでいる。
10月に予定されている5曲入りEP「KUROMI IN MY HEAD」には、他にも真部脩一、Daoko、ケンモチヒデフミ、かいりきベア、重盛さと美らが参加。さらに来年には、東名阪をまわる対バンツアーも予定している。これまでも楽曲をリリースしてきたクロミだが、これを機にアーティスト活動を本格化させるという。
近年サンリオが力を注いできたプロジェクト「#世界クロミ化計画」は、音楽活動の領域においても大きな展開を見せていきそうだ。いまやクロミは単なる人気キャラクターを超え、時代の感性を映す象徴として受け止められつつある。このようなユニークな立ち位置を築いてきたのはなぜなのか――多くの熱狂を生んでいる昨今のクロミが、一体どのような経緯でキャラクターを形成してきたのか本稿で紐解いてみよう。
「毒かわいい」で周縁から王道へ——サンリオのブランド戦略におけるクロミの立ち位置
もともとクロミは、マイメロディのライバルとして2005年に誕生した。公式サイトのプロフィールには「乱暴者に見えるけれど、実はとっても乙女チック!? イケメンがだ〜い好き。黒いずきんとピンクのどくろがチャームポイント。世界中をクロミ化するため奮闘中!」と記載されているが、愛される主流のキャラクターの対抗馬として黒を基調に生まれたという背景が、このキャラクターの全てを規定していると言っても過言ではない。
つまりは、「周縁的存在」であり、「アンチ王道/アンチ無垢」としてのアイデンティティである。実際、Netflixでも配信され人気を得ているアニメ『My Melody & Kuromi』においても、そのクロミ特有のキャラクターはマイメロディとの対比として印象的に描かれている。
もともとサンリオは1970年代から80年代にかけて、キャラクターをあしらった鉛筆、消しゴム、ノート、下敷きなどの文房具を多数展開してきた。学校に持参できる実用品にキャラクターをのせることで、子どもたちの生活に自然に入り込み、日常の「かわいい」を共有できる場をつくっていったのだ。当時の少女向け雑誌などでも「サンリオの文具=学校に持っていけるおしゃれでかわいいもの」として紹介され、友達同士で見せ合ったり、交換したりする文化が広まっていく。
そうした文化的背景のもと、サンリオは数多くのキャラクターを生み出し、さまざまな「かわいい」のバリエーションを提示してきた。キャラクターごとに異なるファン層を形成するという、いわゆるブランドビジネスにおけるマルチブランド戦略やセグメンテーション戦略をとってきたのである。顧客層を細分化し、それぞれに最適化したブランドを複数展開することで、市場を取りこぼさないようにしてきたのだ。
その中で、クロミは2000年代初頭から「少し不良っぽい女の子向け」として差別化されてきたが、それ自体は他の業界/ジャンルでも多く観察できるポジショニングと言える。
たとえばディズニーにおける、正統派のプリンセスに対する悪役のカリスマとしての「ヴィランズ」展開。王道アイドルを多数抱えていたジャニーズ(現STARTO)における、不良っぽい「KAT-TUN」的存在。コスメであれば、ルナソルやKANEBO、ミラノコレクションといった“健全・王道・普遍的”なイメージのブランドを多く持つカネボウ製品の中であえて“毒・不良・実験的”な層を取り込むための「KATE」の立ち位置。
ただ、近しい存在はたくさんいるものの、大企業の毒っぽいキャラで、ここまで長きに渡り成功し確固たる地位を築いている事例はなかなかない。毎年大々的に開催されているサンリオキャラクター大賞では、2022 年にクロミがマイメロディの順位を超えて以降、4年連続でクロミとマイメロディの人気が逆転している。つまり、今や対抗馬が本命を超えてしまっているというわけだ。
実は、本流に対する逸脱したキャラ設定を生み出すのは、サンリオにおいて珍しいことではない。たとえば、1990年代に誕生した「バッドばつ丸」は、ペンギンでありながらいたずら好きでやや反抗的なキャラとして人気を得、近年また支持が再燃している。
クロミよりも少年っぽく、90年代の不良中学生像と重なるイメージで、今年はあの(ano)とのコラボレーションも話題になった。また、不良や毒々しさとは異なるが、「だるい」「やる気ない」といった態度で「働け/がんばれ」という社会規範への反抗を体現した「ぐでたま」も重要だろう。とにかくたくさんのキャラクターを生み出していくことで、従来の規範から逸脱したユニークな個性をも作り出してきたサンリオ。そのひとつに、クロミも位置づけられる。もともと「学校に持っていける文房具」を軸に広まったサンリオだからこそ、クロミの登場がいかに画期的だったかが際立って見えてくるのだ。
自己変革とエンパワーメントを掲げる「#世界クロミ化計画」
そういったなかで、近年は病み/闇系といったトライブからの支持も高まってきている。国内のユースカルチャー~サブカルチャーにおける需要が拡大していくにつれてクロミは海外のファンも多く獲得し、受容のされ方が新たなフェーズに突入してきた感がある。サンリオ側もクロミ的「毒かわいい」の差別化をますます強化しているようで、それらの象徴として挙げられる動きが、2022年に始まった「#世界クロミ化計画」だろう。同プロジェクトは、グローバルにおけるクロミの新ブランディングを目的としてスタート。月刊『宣伝会議』の2022年2月号では、担当社員の以下のようなコメントが記載されている。
「幼少期にテレビアニメを視聴していた世代が自由に購買できる年齢になったことや、若年層の間で流行している“地雷系ファッション”のアイコンとしてクロミが挙げられるようになってから、人気が上昇していました。人気が一過性にとどまらないようにキャラクターの個性を浸透させ、より親近感・愛着を醸成したいという課題感のもと、プロジェクトを立ち上げました」
特段興味深いのは、「#世界クロミ化計画」で掲げられているクロミのステートメントだ。以下、引用してみよう。
わたしは、わたしを超えられる。これまでの自分に後悔なんてない。でも、満足してるわけでもない。いまが最高だし、明日はもっとイケてる! そう思えたら、毎日がもっと楽しくなると思うんだ。誰だって、いくつになったって、もっともっと憧れの姿を目指していい。みんながなりたい自分を目指せる世界に変えるんだ。ほら、あんたもなりたい自分になっちゃおうよ! #世界クロミ化計画、進行中!
ここには、クロミのキャラクターを捉えるうえで重要なポイントが隠されている。つまり、従来のサンリオキャラが「かわいさ/癒し/受動性」的な価値観を体現してきたのに対して、クロミは「反骨/不良っぽさ/毒」を持ち込み、さらに「自己変革とエンパワーメント」までをも掲げている点だ。
「ほら」「あんたも」「なっちゃおうよ!」といった呼びかけは、上から教えるのではなく「友達目線」でのエンパワーメント。このタメ口でありフランクさは、SNS世代の共感的な言語感覚とも合致している。また、「あんた」という少し挑発的な言葉を入れながら、「誰だって、いくつになったって」と語りかけ、エイジズムや固定的アイデンティティを超えるような価値観を投げかけたうえで「なりたい自分になっちゃおうよ!」と優しく背中を押す点も興味深い。
クロミのキャラクター性(=不良っぽいけど愛嬌がある)をそのまま反映しており、毒×優しさのブレンドが行われている。そういった態度で提供されるのは、「これまでの自分に後悔なんてない」という自己否定を拒否する言葉であり、セルフラブの基本姿勢だ。「いまが最高だし」と今この瞬間を肯定し、「明日はもっとイケてる!」とセルフエンパワーメントしながら成長と変化を楽しむスタンスを提示している。
さらに、「あんたもなりたい自分になっちゃおうよ!」という台詞からは、個人の自己実現が世界を変えることにつながるという、コレクティブなエンパワーメント感もうかがえる。つまり、クロミが担おうとしているのは、「規範的かわいい」から「皆で叶える自己実現のかわいい」へのシフトだと言えよう。
退廃文化と自己肯定をつなぐ、クロミの両義性
近年、とりわけ病み/闇カルチャーやトー横系トライブから大きな支持を集めているクロミ。その理由は、「毒×優しさのブレンド」とも言えるように、単純にエンパワーメントを掲げるのではなく、現代に求められる絶妙なバランスでリアリティあるキャラクターを提示しているからだろう。クロミは、居場所のなさや自傷、依存といった感覚をシンボリックに表現する。フリルやピンクをまといながらも、血や鎖といった「毒」を差し込むことで、かわいさの裏返しを造形する。その姿は、孤独や不安をシェアし合う共同体にとって重要な拠り所となっている。もしクロミがただポジティブな存在であったなら、これほどの共感や人気にはつながらなかったはずだ。
クロミがまとう黒いフードやドクロマークは、「かわいい」というコードをズラす抵抗の記号としても読める。病み/闇カルチャーやトー横系の退廃性とつながるのは、この反抗のコードゆえだ。だからこそ、「頑張ろう」「なりたい自分になろう」と優等生キャラが口にすれば説教臭く響いてしまう言葉も、クロミが「毒」や「ヤンキー」的な立場から語ると、説得ではなく共感を呼ぶ。同じ沼にいる仲間が、ふざけながら背中を押してくれるような感覚に近い。
絶望や依存をアイデンティティ化しているようでいて、心の奥底では「生きたい」という欲求がせめぎ合っている人々に向けて、クロミの「いまが最高、でも明日はもっとイケてる!」というメッセージは、退廃のただ中に開かれる小さな希望となる。つまり、クロミの真の魅力は、「黒×ピンク」「不良×かわいい」「退廃的文化×セルフエンパワーメント」といった、一見矛盾するかのような両義性に宿っているのだ。
そう考えると、今回のメジャーデビュー曲にあたってlilbesh ramkoを制作陣に起用したのも納得がいく。甘いメロディやアイドル的声質に、過剰な加工・ノイズ・攻撃性を重ねるハイパーポップ的な二重性。「正しいかわいさ」や「正しいポップ/ヒップホップ」といった正統派の枠組みから外れた、新しい美学を提示するオルタナティヴ・ラップ的な価値観。メインストリームには収まりきらない感性から立ち上がってくる新しい表現という点で、KUROMIの「OHIRUNE DAY DREAM」は、まさに外側から時代を揺さぶる事例として位置づけられるだろう。
周縁的な存在として、一部のZ世代に芽生えるシニカルなユーモアを引き受けつつ、退廃文化と自己肯定文化の橋渡しを行なうクロミの特異性。このアイデンティティが今後どのような文化と結びついていくのか。これからの「#世界クロミ化計画」にも引き続き注目していきたい。
つやちゃん
文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿。メディアでの企画プロデュースやアーティストのコンセプトメイキングなども多数。著書に、女性ラッパーの功績に光をあてた書籍『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)、『スピード・バイブス・パンチライン ラップと漫才、勝つためのしゃべり論』(アルテスパブリッシング)等
文:つやちゃん
編集:Mizuki Takeuchi
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