「物々交換でしか仕事をしない「おすしカンパニー」を立ち上げました。対価としてお金は受け取りません。
みかん農家であればみかん100個。不動産であれば土地の遊休使用権など。対価はなんでも構いません。
欲しいのは、お金より、そこに生まれるモノやコトという関わりです。」
SNSのタイムラインで流れてきた文章に、思わず目を留めた。
2021年11月1日、物々交換でしか仕事をしない世界初のV2V(Value to Value)カンパニー「おすしカンパニー」が設立された。貨幣経済ができる前に原点回帰するような、物々交換という取り組み。興味をそそられて公式ホームページを覗いてみると、「おすしを奢ってもらうくらいの仕事で世界を変える。」というインパクトのあるメッセージが目に飛び込んだ。貨幣経済の先を見据えたような挑戦に、新たな可能性の兆しを感じてワクワクしたのは筆者だけではないだろう。
近年では、資本主義の限界がささやかれ、ポスト資本主義に注目が集まっている。テクノロジーの進化によって貨幣の役割や価値交換のあり方に変化が訪れているだけでなく、社会や経済システム自体が問い直されている。社会の価値観や豊かさが変化する時代に、「お金以外の価値」を模索する「おすしカンパニー」は、一体どんな集団で、物々交換で仕事をするとはどういうことなのだろうか。
きっかけは、「友達経済圏」を活性化させること
おすしカンパニーの創業メンバーである陳暁夏代さんに、その誕生ストーリーや創業の想いについて話を伺った。
おすしカンパニーがどのような過程で生まれたのか教えてください。
おすしカンパニーの創業メンバーはもともとが皆友人で、スタートアップ、デザイナー、飲食業広告など、異なる職能を持ったメンバーが6人集まっています。きっかけはメンバーの1人、田中開が新宿ゴールデン街で飲食業を営んでいて、みんなで遊んでいるなかで、彼のお店のお酒のラベルデザインを一緒に考えて作る、みたいなことを友人間の付き合いとして無償でメンバー内で受けていたんです。友達なので、そういうことってありますよね。そのお礼として「手伝ってくれたから、今後飯おごるよ。」みたいな会話があるじゃないですか。そんな日常の一コマが、おすしカンパニーのはじまりです。
専門スキルを持つ友達がいて、そのスキルが無償で提供されるというのは、ある意味ラッキーですよね。そこから着想を得て、お金を介さない、winwinなスキル交換をもう少し公的にやれないだろうか、という話になりました。知り合いや友達がたくさんいれば、その数だけ職能があって、職能の数だけ叶うものがあるんじゃないか。言い方を変えれば、友達が多かったら無限に実現できることが広がるんじゃないかって。この「友達経済圏」を活性化していこう、というのが立ち上げのきっかけです。
「スキルを交換して友達経済圏を活性化させる」。これまでにないユニークな考え方ですね。
そうですね。コンサルでもデザインでも、企業からの正式なオファーだと、安くて数万円から100万円、高くて1000万円とピンキリでお金がかかってくると思います。それが、友達同士のやりとりだと言い値になったり、無償で手伝ったりすることはよくあると思います。でも無料だからといってテキトーにやるわけではない。結局、専門スキルを持って出せるアウトプットって、有償でも無償でもそんなにクオリティが変わらないと思っています。日常にある行為を、うまく形式化できたら、もっとお互いが幸せになれるのではないか、それがおすしカンパニーです。とても社会実験的な取り組みで、うまくいく/いかない、というよりは、この形式が世の中に「存在すること」を価値として提示していきたいですね。
おすしカンパニーというネーミングはどのように決まったのでしょうか?
「お礼に今度寿司奢るよ。」
日本あるいはグローバルで共通して認識される「特別な食べ物」であるおすしを“対価の最小単位“とする意味で、おすしカンパニーと名付けました。
また、例えばコンサルティングって、まだまだ都会の単語だと思っていて、地方で同じことをしてもコンサルタントと名乗っていない人も多いのではないかと思います。おすしカンパニーとしては、資本経済や都会に居ない人にも情報が届くよう、親しみやすように「おすしカンパニー」というやわらかい名前をつけました。
欲しいのは、お金よりもその先の未来
おすしカンパニーは11月に設立されたばかりですが、もうすでに問い合わせや仕事の依頼はきていますか?
11月1日に設立をしてから、1ヶ月で30件ほど問い合わせを頂いています。焼き芋業者、米農家、エステサロン経営者、アーティストなど本当に多種多様です。友達経済圏やお金の先の未来という趣旨に共鳴してくれる人とお仕事をしたいですね。
なぜ「お金を介さないコミュニケーション」を重視しているのですか?
本来払うべきアイデアへの100万円は節約してもらい、その実現にかける実コストにお金を多くかける。本当に必要になる未来で使ってもらいたい。その先でより良い未来や社会が創造される、そんなお手伝いができたら嬉しい、というのが私たちの価値観です。地元でみかんを売っている人、資源を持っているけど活用方法がわからない人、普段誰かに相談するという考えがない人やそうした相談に予算を割く現実性がない人たちが抱える問題に対して、無償でお悩みを解決する。我々が欲しいのはお金ではなく、その先に生まれる新しい価値なんですよね。たとえば、その節約した100万円を使って美味しいメニューが開発されたら、その方がおすしカンパニーは嬉しいです。
ボランティアのような助け合いの精神を感じました。
助け合いではあるのですが、ボランティアではやりません。一般的にボランティアは見返りを求めないギブの精神だと思いますが、おすしカンパニーは見返りをきちんといただきます。その見返りは一般的には貨幣ですが、我々はその貨幣を、クライアントのもつvalueとしています。貨幣という対価を別のものに置き換えているだけです。我々はこれを「V2V(Value to Value)」と名付けています。「おかね以外の新たな対価」の模索を楽しみながら仕事がしたいとおすしカンパニーは考えています。
どんな人にもどんな街にも価値はある
対価として受け取るValueは、どのように決めるのでしょうか。
対価の内容は、実際に打ち合わせを重ねるなかで、クライアントとおすしカンパニーとで相談しながら決めます。対価の有形無形は問いません。
たとえば占い師だったら、店舗のブランディングアイデアを我々が行い、その対価として占いを無料でやってくれる、それでも良いです。芋農家なら、芋100個でもいいし、農業体験でも良いです。
受け取った対価はおすしカンパニーのメンバー全員で均等に分けるルールになっています。
これまでにない取り組みなので、実際にどのように展開していくのか、楽しみです。
問い合わせ内容もさまざまで、メンバーのみんなも毎日面白がっています。氷を使ったアーティストやモンゴルゲルの輸入会社など、本当に多岐に渡ります。面白いものを募集してるわけではありません。何が面白いかは人によって異なりますよね。だから何が来ても大丈夫です。どんな話でもいいのでまず相談してもらって、「一皮むいたら面白いかもしれない」、「違う部屋に入れたら面白くなるかもしれない」という新たな面白さを見つける。それが、おすしカンパニーの仕事です。それこそ自分1人で考えても解決策が浮かばなかったりする話なので、普段話すことのない人との会話の中で未来へのヒントを見つけたり知っていく感じですね。
まだ立ち上がったばかりで、問い合わせに対して打ち合わせを続けている状態ですが、おそらく2022年以降には実際にいただいた対価などをホームページに掲載していく予定です。そうしたら、おすしカンパニーがどういうことをしてきたが少しずつ見えてくると思います。
変わりゆく価値交換の基準
文化・生活様式・教育・情報などの多様化により価値観が変動するこの時代。これまでの資本経済では、「お金」は価値を媒介する存在として長い間使われてきたが、これからの時代の豊かさを作っていくためには「お金以外の価値」がますます重要になっていくだろう。もしかすると、時代の移り変わりの中で「お金」が価値交換の主役ではなくなる時代が訪れるかもしれない。
そんな変化の時代の最中で「Value to Value」という新たな価値交換の手段を確立した「おすしカンパニー」。額面のない面白さを求める彼女らの挑戦は、社会にどんな良い未来をもたらしてくれるのだろうか。「お金以外の新たな価値」が秘める大きな可能性に注目していきたい。
おすしカンパニー©︎
公式ホームページ:http://osushi.company
公式instgram:@osushi_company_official
お問い合わせ:hey@osushi.company
取材・文:篠ゆりえ
編集:おのれい