よりよい未来の話をしよう

未来の問題は”いま”の私たちの問題 ユーグレナ10代の最高未来責任者インタビュー

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「最高未来責任者」という役職を、聞いたことがあるだろうか。

ほとんどの人がないだろう。なぜなら前例のない中で、株式会社ユーグレナが設定するポジションだからだ。同社では2019年に「18歳以下」を条件とし、「未来を変えるためのすべてを担う、「CFO(Chief Future Officer):最高未来責任者」を募集した。

未来のことを決めるとき、未来を生きる当事者たちがその議論に参加していないのはおかしい

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第2期CFOの募集概要 ※募集終了
https://www.euglena.jp/cfo/entry/

CFOの取組みは、気候変動への関心が世界的に高まりつつあるなかで、ユーグレナの経営陣が抱いた日本の気候変動危機と、それに対して未来を自分事と捉え経営判断ができるかという危機意識の両方が発端になったという。環境活動家としてグレタ・トゥーンベリさんが注目されるなか、「日本にも同じような考えの若者がいるのではないか」という想いもあり、本気で会社や社会を変えていくために始めたそうだ。

当初は一部から「子どもにできるわけがない」「ただのPR活動だ」などの意見も見られたが、経営者仲間からの「うちもやってみたい」という声をはじめ好意的反響が大多数で、若者世代からは圧倒的な好反響が寄せられた。CFOの取組みを通じてユーグレナ社内でも未来志向が強まり、ゴミ削減の取組みが提案されるなど社会課題を自分事化する機運が高まったという。他企業でCFO導入に続いた例はまだないそうだが、ヒアリングなどの依頼を多数受けており、企業というプラットフォームを使って社会を未来志向に変えていく例として、学ぶことは多そうだ。

実際、CFOと、CFOと共に活動するFutureサミットメンバーはどのような活動を展開しているのだろう。この画期的な取組みはどんな効果を同社に与え、どんなインパクトを日本企業、ひいては社会に与える可能性を持つのだろう。そして何より「18歳以下のCFO」とはどのような人物なのだろうか?現在、ユーグレナのCFOを務めるの川﨑レナさんにお話を伺った。

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ユーグレナCFO 川﨑 レナ(2005年生まれ/大阪府出身) 大阪府のインターナショナルスクールに通う16歳。趣味はミュージカル。 2020年10月より現職。国際的な若者の組織であるアース・ガーディアンズの日本支部を創設し代表を務めるほか、Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)のワーキンググループなどにも参加している。

応募の動機は、大人や企業、社会への”怒り”

応募の経緯を教えてください。

第1期の、CFOと一緒に活動するユーグレナFutureサミットメンバーに友人がおり、「やってみない?」と声をかけられ応募しました。正直第2期のCFOに受かるとは思っていなかったので、応募エッセイではサステナビリティと日本企業への不信感について、正直に考えを書きました。前々からサステナビリティウォッシュをしている企業が多いことに怒りを感じていて。もしユーグレナと一緒に何かできるのであれば、そういうところを解決したいと書きました。

第2期の活動には、どのように取り組みましたか?

月1回の会社とのミーティング「Futureサミット」に加え、週3回自主的なオンラインミーティングをFutureサミットメンバーたちとしました。塾終わりの遅い時間から集まって、企画書を作ったり施策を議論したり。その内容をFutureサミットの場で会社に説明し方針をすり合わせ、フィードバックをもらってまた持ち帰り議論する、という流れでした。

活動中に意識したことはありましたか?

第1期のメンバーたちがユーグレナに提言した施策は環境問題だったのですが、提言内容などすべてがかっこいいなと思いました。違う路線でもユーグレナには第一線を進んでほしいと思ったので、環境に限らず第2期メンバーの問題意識を軸に考えていきました。

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第1期CFOおよびFutureサミットメンバーの提言内容
https://www.euglena.jp/cfo/2019/result/

私たちは学生なので、学校や学生団体単位で考えてしまうことが多く、大人にサポートされて何かを成し遂げたことがありませんでした。むしろ反対に大人や社会への怒りを原動力に行動を続けてきたので、「あれ、サポートしてもらえるんだ。それならもっと大きなことできるじゃん」と気がつくまでにすごく時間がかかりました。
また、自分たち世代の視点をどう反映させるか、ということも難しかったです。「18歳以下」というユニークなポジションを会社でどう活かすか。最初は周りの大人に合わせるので必死でしたが、出雲さん(ユーグレナ社長)に「君たちがしたいことをしてくれ!」と言われてハッとしました。最終的にはユーグレナだからこそ、私たちだからこそできる提案にたどり着いたと思っています。

会社に”ワクワク”をキープすること。それが私たちのユニークさだった

活動を経て、「18歳以下」のユニークさをいま伝えるとしたら何でしょうか?

ぶっ飛んだ発想をすることって、すごくワクワクしますよね。その”ワクワク”をキープすることが、私たちの仕事だったんじゃないかなと思います。私たちが開催したワークショップで話して久しぶりにワクワクした、社内でのコミュニケーションも深まったという声をたくさんいただきました。そのワクワクを、この経験を、次は大人たちに作っていってほしい、それが最終的にたどり着いた想いです。そうしたら私たちの立場や価値も、より確立されるんじゃないかと感じます。

今回の経験で得たものは何でしょう?

1番は「大人って話を聞いてくれるんだ」と知ったことです。私たちから遠いと思っていた企業や政府にも、ユースの声を聴く意義を理解してくれている人がたくさんいるんだな、と感じました。学生団体は小さなアクションしか起こさないことが多いですが、それは”手伝ってくれる大人がいない”と思い込んでいるところもあって。今回の経験で、純粋に大人子ども関係なく一緒に活動したら楽しい、と気づけました。

また、活動の発端は社会への”怒り”でしたが、永田さん(ユーグレナ代表執行役員CEO)の「怒ることや感情的になること、文句を言うことは誰でもできる」という言葉にハッとしました。怒るだけじゃなくてまず自分から動いてみよう、自分からポジティブを作って周りを巻き込もう、と考えるようになりました。地球の問題って、「もっといい世界を自分たちで作るんだ!」とワクワクして取り組むべきなんじゃないかな。怒ることは自然なことですが、それ以前にポジティブな行動でその怒りに打ち勝とう、と考えるようになりました。

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私が生きているポジションは「助けるためのポジション」なんだ

もともと社会課題やサステナビリティに関心があったのでしょうか?

小学4年生のとき図書館で出会った『ランドセルは海を越えて』(ポプラ社、2013年)という本で、生活をするためのお金がない子たちが世界に大勢いることを知り、すごく衝撃を受けました。自分は恵まれていて、学校にも行けるし欲しいものを口に出せる、”欲”がある恵まれた状態にいる。朝起きて「学校に行きたくない」というだけの欲が私にはあるにも関わらず、どんなに行きたくても学校に行けず勉強できない子がいることに、めちゃめちゃ不平等を感じて。私が生きているのは「助けるためのポジション」なんだと気づいたんですね。そこからは人権や教育など、目に見える問題に向き合ってきました。

社会課題に関心を持てるユースばかりではないと思います。周囲の影響も大きかったのでしょうか?

最近、自分の原体験を問われることがあり考えたのですが、母の影響が大きいです。私の母は、自分が得をしなくても誰かのためになることをしたときにすごく私を褒めたんですね。なので小さいときから他人が喜ぶこと、笑わせることが良いことなんだなと感じていました。また、母が「1つの視点しか学べない学校には通わせたくない」と考え、私をインターナショナルスクールに入れたんです。そこではボランティアがカリキュラムの一環で、ホームレスシェルターに行ったり動物愛護センターに行ったり、先生が色々なところに連れていってくれました。「必要とされているんだ」と感じる経験も多く、そういう小さな体験が積み重なり、人を助けたいという気持ちが芽生えたのだと思います。

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取材中の川﨑さん(編集部撮影)

ユースの実力は、他の世代・立場の人を動かしたときにこそ発揮される

ユースだからこそ、社会に貢献できることは何だと考えますか?

ユースって、社会の中で特別な立場にいるわけではないと思うんです。たくさんの世代がある中で、若いから注目されているだけで、色んな世代がいるからこそ多様性があるじゃないですか。ユースが注目されることは有難いですが、私たちの本当の実力が発揮されるときって、他の世代、他の立場の人たちを動かすときだと思います。周りをインフルエンスしやすい立場として、大きなアクションを起こすポテンシャルはあると思います。

大人に対して、伝えたいことはありますか?

もっとワクワクしてほしいです。「大人だからもうできない」「私が子どもの頃は何も考えていなかった」と活動を見てよく言われますが、「いまでもまだ遅くないですよ!」って言いたい。私たち世代は「大人になるのが怖い」と言う子がすごく多いです。失敗が許されないのではという気持ちから、働きたくない、とくに企業に入りたくないと言う子が多いと思います。ネットにアクセスできて世界が広がっているのに、企業に入ったら小さい世界に閉じこもってしまうんじゃないか、とか。でも大人がワクワクして私たちに「仕事をすること、それが社会に反映できることってこんなに楽しい!」ということを発信してほしいです。難しいこともあると思いますが、変化を起こしていく意思を、かっこよく見せつけてほしいですね。

どんな社会・未来を創っていきたいですか?

自分らしくあれる社会、かなと。みんなが幸せな状態って、色々な人や考えを受け入れることじゃないでしょうか。差別の根源は選択肢がないことだと思うんです。島国の日本は、歴史上多くの選択肢を受け入れることが難しい国ではないかと思うので、教育や社会の中で色々なことが認められ、常に答えが1つだけではない状態を作りたいと思います。

日本や韓国などアジアでは学歴で人を評価することが多いですが、それも悲しいと思います。たとえばアートで羽ばたいている子も学校で活躍しないとダメとか、大学に行っていないとダメとか。私の周りにもスポーツのために学校を辞めている子もいて、そういう多様性が認められる国になれば政治にも多様性が生まれるし、学校でもリスペクトされて、自己肯定感が上がっていくんじゃないかと思います。

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「未来を自分事化できているか」。この問いに向き合えている大人はどのくらいいるのだろう。自分には遠く関わるのが難しいこと、と線を引いてしまう人も大勢いるだろう。「自分たちの未来をよくしていこう」と行動を続ける川﨑さんたちユースの姿は、未来を変えられるという希望と、そこに自分の手で関わっていくワクワク感、いずれもポジティブさに溢れた”未来”と、そして”自分自身の力”の可能性を思い出させてくれる。年代は関係ない。「大人だから」と線を引くのはやめて、このワクワクするムーブメントと一緒に走り出したい!と感じるインタビューだった。同時に社会参加の面白さを、自分よりも若い世代に見せつけていくことも、その一助になると気付かされた。

この取組みが成立する背景は、決してユーグレナ社が特別だから、川﨑さんをはじめとするメンバーが優秀だったから、ではない。企業も個人も、問題に自分ごととして関わる意識を持つこと、そして社会を前進させていくことの”ワクワク感”を忘れないことが重要なのではないだろうか。

川﨑さんたち第2期のメンバーの提言内容は、現在最終調整中だという。描いた未来を現実にするため、どんな”ワクワク”を仕掛けてくれるのだろうか。期待して待っていたい。


取材・文:大沼芙実子
編集:柴崎真直