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「買う・見る・使う」が寄付になる。ソーシャルグッドを加速させるビジネスアイデア

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寄付と聞くと、どんな絵面をイメージするだろう。コンビニのレジ横に置いてある寄付箱、駅前で箱を手に寄付を呼びかける人々など、アナログなイメージがある人も多いのではないだろうか。

改めて考えると、街中に寄付をする場所は多くあるのだが、そんな様子を目にしても実際に寄付をしにいく人は多くはないだろう。2016年時点で、日本の個人寄付総額が名目GDPに占める割合は0.14%なのに比べて、韓国では0.50%、イギリスでは0.54%、アメリカでは1.44%であった。(※1)他国と比較しても日本は特に寄付が少ない国だと分かる。寄付は、少し勇気のいる行動だと感じる人もいるのかもしれない。

しかし、近年は寄付をオンラインかつ自動でしてくれるような仕組みが多く生まれてきている。寄付をしようと思ったときに、意気込む必要もなく、勝手に寄付が行われる仕組みだ。今回の記事ではそんな、使うだけ・買うだけで寄付につながるアイデアの事例を紹介したい。

※1 参照 :日本ファンドレイジング協会「日本寄付市場の推移」
https://jfra.jp/wp/wp-content/uploads/2017/12/2017kifuhakusho-infographic.pdf

街中でできる勇気のいらない寄付「寄付型自動販売機」

街中にたくさんある自動販売機。それらの中には「寄付型自動販売機」と呼ばれるものがあることはご存知だろうか。その自販機で1本飲み物が買われるごとに寄付がされていく仕組みである。

自動販売機ごとに異なるイシューに対応しており、寄付金は自動販売機の設置者が希望した団体へと振り込まれる。自動販売機自体にもラッピングが施されており、どんなイシューに対応しているのかひと目で分かるようになっているものも多い。設置するだけで、街中での問題提起にもつながるのがポイントだ。

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出典:寄付型自動販売機普及協会 公式ブログより
https://ameblo.jp/gift-vendor/

実は日本は、世界的にみても自動販売機の設置数がかなり多い国だ。設置数ではアメリカの約650万台に次いで、日本は約494万台と第2位を誇る。人口に対する設置数で考えると日本は世界で最も自動販売機が多い国だ。(※2)

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出典:寄付型自動販売機普及協会 公式ブログより
https://ameblo.jp/gift-vendor/

寄付型自動販売機はそんな豊富な設置数が活きるアイデアだと言えるだろう。病院や駅前などの施設に設置された自販機や、企業の従業員向けに設置されたビル内の自販機など、目を凝らしてみると意外と多くの場所に寄付型自動販売機が設置されている。震災復興や、動物の保護、環境保全など対応している社会課題もかなり幅広い。ボタンを押して百数十円を入れるだけで完了する寄付。街中で飲み物を買いたくなったら寄付型自動販売機を探してみるのはいかがだろうか。

※2 参照:三菱電機ITソリューションズ株式会社「ガラパゴス化が進む日本の自動販売機の未来」(2017)
https://www.mdsol.co.jp/column/column_123_828.html

見るだけで寄付につながるドネーション広告

YoutubeやWebサイトを見ているときに、飛ばしたくてうずうずしてしまう人も多いであろう動画広告。実は最近、その広告を見るだけで寄付になるという仕組みも日本で展開し始めた。この仕組みを提供するのはイギリスのGood-Loop社だ。同社の提供する「Good-Loop」ADサービスは2016年にイギリスを拠点としてスタートし、ヨーロッパ、北米へと展開している。

このサービスを通して提供された動画広告には共に複数の寄付先が表示され、視聴者はその中から寄付先を選択することができる。寄付先の選択は、ある一定の秒数を視聴した後、可能になる。視聴者はお金を払う必要もなく、ただ動画を見るだけで寄付が完了するのである。さらに、Good-Loop社によると動画広告を15秒見た人の95%は30秒間の広告をフルに見ているという。(※3)広告主にとっても、広告を目に留めてもらう機会を増やすことのできる画期的な取り組みなのである。

日本でも2021年11月より、同サービスの提供が開始されている。これまでの広告にさらにソーシャルグッドな視点を付与した新しいサービスがどのように広がっていくのか期待したい。

※3 参照:Good-Loop 公式ページ
https://good-loop.com/what-we-do

スマホを使うだけで寄付になるモバイル通信サービス

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動画広告だけに限らず、スマホを使うこと自体が寄付になるサービスも登場している。2021年7月にBIGLOBEより登場した「donedone」だ。モバイル通信サービスである同サービスの利用者は契約時にドネーション先を選択することができる。すると、毎月のモバイル通信料から50円ずつが支援先へと寄付されるのである。

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「donedone」ドネーション連携社会貢献団体

教育、健康、海洋、環境、医療と5つの支援領域から寄付先を選択でき、ユーザーは自分の関心領域へと気軽に寄付ができるのだ。また、donedoneのアプリでは支援先の団体の活動の情報が提供されたり、動画コンテンツが用意されたりと、寄付だけではなく学びの機会も提供されている。

月間データ通信量50GBで税込2,728円と、低価格な設定にされていることも特徴だ。企業側が寄付を推進していくために、利用者のハードルをいかに下げるかはひとつのポイントだが、価格面からのアプローチも重要なのかもしれない。今や毎日使うスマホだからこそ、このようなサービスの登場は日常の中に寄付を根付かせる手段となり得る。

企業が動く必要性

ここまで紹介してきたものの他にも、有名ファッションブランドが商品の購入することで売り上げの一部が寄付される服やアクセサリーを製作したり、買うだけで寄付になる商品を売るといった場面はよく見かけるだろう。では、なぜ企業が寄付を推進する必要があるのだろうか。

いくつか理由は考えられるが、企業の側に立って考えると、企業イメージの向上といった側面も少なからずあるだろう。CSRという言葉が一般化してきた今、企業は自社の利益のためだけではなく「社会的に果たすべき責任がある」という見方は当たり前になりつつある。ある調査では、社会課題に取り組んでいる企業の製品やサービスを使いたいという声が50%を越えたという結果も出ている。(※4)さらにSDGsの広がりとともに、企業のイメージを左右する重要な活動の1つとして「寄付」といった選択肢が出てきたのかもしれない。企業イメージのために上部だけの社会課題解決を謳うことはもちろん望ましい形ではない。しかし、社会が、消費者があげた声を元に大きな企業が真正面から社会貢献活動に乗り出すのであればそれは意味のあることだろう。

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一方で、社会課題を起点に考えてみると、企業が寄付を推進することはその課題解決に向けた大きなパワーとなる。ひとりひとりのゴミ拾いや、ひとりひとりのフードロス削減では限界があるように、お金の問題も個々人の力だけでは限界がある。限られた時間のなかで寄付金を集め、支援先へ届けるといった一連の流れは、個人で取り組むにはハードルが高いのだ。そんななかで企業が率先して寄付をより簡単にする仕組みを作ってくれることは重要だろう。

また、企業や組織が寄付を簡単にする仕組みを作ることで、自然と個人が社会課題について考えるきっかけも提供される。企業・個人・社会の繋がりが生まれ、さまざまな問題をより身近なものとして捉えることができるようになるのかもしれない。

日本は他国に比べて寄付金額が少ないとも言われているが、震災以降の10年余りで寄付金額は伸び続けている。せっかくお金を使うのであれば、意思のある消費をしたい。少しずつ増えてきた選択肢の中から、寄付の組み込まれたプロダクトを選んでみるのはいかがだろうか。

※4 参照:損害保険ジャパン株式会社「「SDGs・社会課題に関する意識調査」 ~認知度は約8割、達成に向けて個人と企業に求められるものとは~」
https://www.sompo-japan.co.jp/-/media/SJNK/files/news/2021/20210802_1.pdf


文:白鳥菜都
編集:おのれい