ビッグローブ株式会社(東京都品川区、代表取締役社長:有泉健 以下、BIGLOBE) は2021年7月7日~9日に「TRY ONSEN WORKATION in 別府」として、別府温泉郷でのワーケーション体験プログラムを開催した。
BIGLOBEはワーケーション実証実験「TRY ONSEN WORKATION プログラム」を通じ、企業に温泉地でのワーケーションの機会を提供することで、新たな課題への解決策を提案している。
今回の「TRY ONSEN WORKATION in 別府」は温泉ワーケーションの実証実験であると共に、「温泉郷としての別府を体験する」「宇宙ビジネスを学び、交流する」パートが含まれる。
前編では1日目のプログラム(温泉の入り方・宇宙ビジネス講座)の様子をお届けした。後編では、2日目に実施された宇宙ビジネスワークショップと地獄蒸し体験、3日目の健康チェックの模様をお送りする。
■INDEX
1日目
- 健康チェック
- はじめのあいさつ(ビッグローブ株式会社 代表取締役社長 有泉健)
- 温泉の入り方講座(プロジェクト型シェアハウス 「湯治ぐらし」 代表 菅野静氏)
- 宇宙ビジネス講座(一般社団法人スペースポートジャパン 理事 青木英剛氏)
2日目
- 大分県と別府について(一般社団法人別府市産業連携・協働プラットフォームB-biz LINK マネージャー 池田佳乃子氏)
- 宇宙ビジネスワークショップー大分スペースポート構想を例に(一般社団法人スペースポートジャパン 理事 青木英剛氏・片山俊大氏)
- 地獄蒸し体験
3日目
- 健康チェック
- 「TRY ONSEN WORKATION in別府」プログラムを終えて
▼大分県と別府について
大分県と別府の魅力とは?
プログラムの2日目は双方向参加型の宇宙ビジネスワークショップから始まった。ワークショップのお題は「実際に大分スペースポート構想に関連したビジネスをおこなうのであれば、何ができるかを考える」。前半は企業混合チームに、後半は参加企業ごとに分かれてこのテーマについて議論した。
ワークショップの前には、「持続可能な別府の創造」を目的として別府市が設立した一般社団法人B-biz LINKのマネージャーを務める池田佳乃子氏から、大分県と別府の概要に関するインプットの時間が設けられた。
池田氏:大分県の人口は112万人ほどです。今回、このプログラムに参加している皆さんの半分近くが初めて大分にいらっしゃったとのことなので、もしかすると、あまりなじみのない県かもしれませんね。基幹産業に目を向けると、大分県内では一次産業・二次産業・三次産業合わせて4.6兆円の総生産があります。
一次産業では農林水産業が盛んで、例えば干ししいたけやかぼすの生産は全国で見てもトップレベルです。ちなみに、大分の人はかぼすを味噌汁など何にでもかけます(笑)
第二次産業については、空港の近くではカメラメーカーさんの工場があったり、福岡との県境では車も製造しています。ビールメーカーさんの工場の近くでは麦を栽培しているという例もあります。もしかしたらここに来る前に湯けむりとは違う種類の煙を目にした方もいらっしゃるかもしれませんね。このように、製造業に関しては県内にさまざまな工場が点在しています。
最後にサービス業です。サービス業が盛んなエリアは(温泉地として知られる)ここ別府や湯布院ですね。令和2年度は少し落ち込んでしまいましたが、コロナ前の宿泊者数は高く推移していました。以上が別府の基幹産業の概要です。
また、これらの既存産業だけでなく、大分県は新産業の創出に前向きに取り組んでいます。既にご紹介いただいたような宇宙産業もそうですし、民間の航空会社と協力してアバターの社会実装も進めています。例えば、東京で入院していて身体を動かせない人が、大分でアバターを用いて釣りをする。あたかも自分がその場にいるような感覚を得られるような、そんな実験をいくつか実施しております。
既存産業にとらわれず新しい産業の創出に挑戦している自治体であるという点では、大分は先進的なのかもしれません。
古さと新しさが共存するまち、別府
池田氏:次に別府市のお話をします。別府の特色は大きく3つありまして、それは温泉地だということ、大分の中では観光産業が盛んだということと、そして実は大学生が多い街だということです。
別府が温泉地であることは「湯治ぐらし」の菅野さんが説明された通りです。観光産業については、平成30年のデータだと、900万人の観光客が別府に来ています。福岡空港が近いこともあり、外国人観光客だとアジア圏のお客さんが多いです。
そして別府は、温泉地である、観光地であるということの他に、大学生が多いという特徴があります。
別府には3つの大学が存在しています。別府全体の人口は11.4万人ほどで年々減少が続いているものの、そのうち8000人は県外から来た大学生が占めています。さらにそのうち2000人ほどは海外から来た留学生です。別府には100カ国もの国から人が集まっており、国際色豊かな町ともいえると思います。
実際に今回の取材で筆者が大分空港の周辺と別府の周辺を歩いた際、留学生とおぼしき若者とすれ違う機会が何度かあった。古き良き産業が息づくかたわらで、多様な人々が街の新陳代謝を活性化しているからこそ、別府では新たな取り組みが受け入れられているのかもしれない。
▼宇宙ビジネスワークショップ~大分スペースポート構想を例に~
実際に宇宙ビジネスを考えるためのヒントとは?
池田氏がチュートリアルを実施した後、一般社団法人スペースポートジャパン 理事の片山俊大氏が宇宙ビジネスを実際に考えるためのヒントについて講義をおこなった。
片山氏:もともと私は青木さん(一般社団法人スペースポートジャパン 理事)のように宇宙に深い関心を抱いていたわけではなく、ある仕事に関わった際に偶然宇宙ビジネスと出会いました。
実は、スペースポート構想は宇宙の話ではなく地面上での話です。スペースポートは宇宙と地球の結節点で、その地球側での話ですから。なので、実際にビジネスを考える際にはどのような方がそこに関わってくるかも意識してみてください。その際、顧客の立場に立ってといわれると難しいことが多いかと思うので、今日は自由に発想してみましょう。そして、今回は東京の企業様、地元の企業様、さまざまな企業様が参加しています。大きなビジョンを描くことに留まらず、明日からこれができるといいよね、というものを持ち帰っていただければと思います。
ワークショップ前半 企業横断でのディスカッション
ワークショップの前半は、大分スペースポート構想で実現したいことを企業横断チームで議論した。各班はメモにアイデアを書き出しブレインストーミングしながら、最終的にアイデアをまとめていた。
ワークショップ後半 自社は大分スペースポート構想にどう関わりたいか
後半は、企業別に「大分スペースポート構想」における各社の役割を議論した。
IT業界に所属する企業:私たちが考えたのは研修プランです。名付けて「地球の大きさを見て、器を広げよう」。これは、経営者やボードメンバー向けのプランです。日本だけでなく、現在は世界的にSDGsについて考え、それを自社でどのように実現できるかが重要です。まずは経営層が意識を変える必要があると考えました。そのためには、いろいろと御託(ごたく)を並べるよりも、宇宙から我々が守るべき地球を実際に目で確かめた方が効果があるのではないかと考えています。
そして、その後で別府の温泉に浸かり、リラックスしながら発想を柔軟にする。宇宙旅行と温泉ワーケーションを組み合わせたプランを提案します。
片山氏:海外に行った人が日本の良さを改めて実感するように、宇宙に行った人が地球の大切さを学ぶ、という発想が面白いですね。最近だとAmazon.com 会長のジェフ・ベゾス氏が宇宙に行くというニュースもありました。SDGsと絡めているのも時流を捉えていて良いと思います。青木さんはこのアイデアについてどう思いますか?
青木氏:発表を受けて、宇宙に行った宇宙飛行士が地球に戻った後ですぐに引退するという例を思い出しました。引退後に何をしているかというと、アメリカでは牧師になっているケースもあります。宇宙に行って帰ってきて、何らかの宗教観を悟っているのかもしれないですよね。宇宙に行って、経営層の意識が変わるということはありうると思います。
参加者の声
航空業界で働くAさん(20代女性):私はもともと宇宙ビジネスに関心があったわけではありませんでした。むしろ、事前に今回のプログラム内容を知った時は「宇宙ビジネスか。私には少し遠い話かな」と感じたぐらいです。しかし、今回ワークショップに参加してみて宇宙ビジネスを身近に感じました。最近、宇宙旅行に関するニュースが多数報道されていることも知ったので、これからは積極的に情報をキャッチアップしたいです。
IT業界で働くBさん(20代男性):宇宙ビジネス講座の冒頭でスペースポートジャパンの青木さんがおっしゃったように、私も宇宙ビジネスに対しては「自社には関係ないかも」と感じていた1人でした。しかし、今回一連のプログラムを経てその考えは変わりました。ワークショップ前半に企業混合チームで活発に議論ができたことも印象深いです。他社の皆さんからは自社にない視点をいくつもいただきました。他社さんとの協働が新しいアイデアの創出にも繋がると実感できた点も非常に良かったです。
ワークショップ後、何名かにインタビューをおこなったところ、宇宙ビジネスに対して「自分には関係ないもの」から「今後関わってみたい/動向を追いたい」という方向に意識が変わったと答えた方がほとんどだった。大分にとどまらず、今後国内での拡大が期待される宇宙産業。これからは多くの企業が宇宙ビジネスのステークホルダーになる可能性が高まるのではないだろうか。
そして、宇宙ビジネスに参入する際、新たな視点からビジネスモデルを構築することも必要になる。まさに今回のワークショップは、社外の組織と協働することでユニークな事業が創出する可能性を示すことができたのではないだろうか。
▼地獄蒸し体験
温泉の蒸気で普通の食材が美味しくヘルシーに
ワークショップで熱い議論を繰り広げた後、参加者は別府温泉郷の鉄輪(かんなわ)温泉エリアに移動して「地獄蒸し」体験をおこなった。
「地獄蒸し」はこのエリアで古くから知られている、温泉蒸気を利用して食材を一気に蒸しあげる調理法だ。この調理法には温泉に含まれる塩分やミネラルをしっかり摂ることができて、食材の栄養価を損なわないという利点がある。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、免疫力の強化が注目された。地獄蒸しで調理された食材は体への負荷が少ないといわれているため、温泉と地場産業の食事で免疫力の向上をはかるという意味でも地獄蒸しは理にかなった調理法といえるかもしれない。
食材を入れてから蒸し上がるまではおよそ10分ほど。完成すると、参加者はこの2日間の感想を互いに交換しながら、思い思いに地獄蒸しによって調理された食材を楽しんだ。
実際に調理された食材を口にすると、もともと蒸気に塩分が含まれているからか、野菜も魚介類も何もつける必要がないほどうまみが凝縮されていた。普段ドレッシングや他の調味料で味つけをする現代人にとって、調味料に頼らず食材を美味しくする「地獄蒸し」は温故知新(おんこちしん)な調理法なのかもしれない。
▼健康チェック
最終日の健康チェック。温泉地でのワーケーションの効果はいかに?
2泊3日のプログラムも最終日を迎え、参加者は別府市内の宿泊施設で初日と同じ内容の健康チェックに臨んだ。結果について、初日と最終日の双方で参加者の健康チェックを担当した日本健康開発財団 主席研究員の後藤康彰氏は以下のように語っている。
後藤氏:多くの方に関して、血圧値と脈拍値に関して良好な結果が得られました。また、疲労度が軽減された傾向にあります。温泉に浸かって身体がほぐれたのか、柔軟性がアップした方も多かったですね。詳細な結果が出るのには少し時間がかかりますが、温泉ワーケーションに期待される効果の1つである「身体機能の改善」が立証されたのではないでしょうか。
この健康チェック後、参加者は互いに言葉を交わしながら帰路についた。そして、筆者が目にした最終日の参加者は、心なしか初日よりも表情が和らいでいるように見えた。実証結果の詳細はまだ明らかになっていないものの、温泉ワーケーションの効果で心と身体がリフレッシュした方が多かったのではないだろうか。
▼「TRY ONSEN WORKATION in 別府」プログラムを終えて
今回の「TRY ONSEN WORKATION in 別府」の参加者のほとんどは、初めて温泉地でのワーケーションを経験した。以下、プログラムを経て寄せられたコメントの一部を紹介する。
参加者の声
IT業界に所属するBさん(30代男性):今回初めて温泉地でのワーケーションに参加しました。別府に来るのは初めてだったので、多くの種類の温泉を楽しむことができて良かったと思います。また、初日の「温泉の入り方講座」で学んだように、朝と夜で異なる入り方を実践したことでメリハリがある状態で仕事に臨むことができました。普段は遅くまで仕事をして、身体がなんとなく重い状態だったので、リフレッシュできた点が良かったですね。可能であればまた温泉地でのワーケーションに参加してみたいです。
最後に、今回「TRY ONSEN WORKATION in 別府」を主催したBIGLOBEの代表取締役である有泉健氏にプログラムの感想と今後の展望をたずねた。
社長のコメント
今回はさまざまな企業様や団体を巻き込み、過去最大規模での実施となりました。社長ご自身が温泉ワーケーション実証実験とさまざまなプログラムに参加した感想を教えてください
有泉:以前も別府を訪れたことはありますが、温泉ワーケーションとして本格的に参加したのは今回が初めてでした。今回さまざまな企業の方に参加していただいて、異業種の方々と交流できた点は非常に良かったです。あとは、大分スペースポート構想に関連して青木さんや片山さんのお話からも刺激をいただきました。セレンディピティ(偶発性)の重要性を改めて認識しました。
今回のプログラムを終えて、参加した皆さんが口々に「温泉ワーケーションに参加して良かった」というコメントを寄せていたのが印象的です。参加者へ一言お願いします。
有泉:今回、この温泉ワーケーションで覚醒した意識を各自で職場に戻っても継続していただきたいと思います。そして、参加した方の意識が縮小しないためには、本人の意識だけではなく周りの理解や支援も必要です。そうすることでワーケーションの効果が最大限に発揮されるのではないかと思います。
BIGLOBEでは別府以外の温泉地でもワーケーションプログラムを展開しています。改めて、温泉地でワーケーションをおこなう意義はなんでしょうか
有泉:今回はイベントとしてさまざまな企画をご用意したので、結果として異業種間でのセレンディピティが生まれました。通常は自社の人間だけでワーケーションをすることになるので、中には「オフィスでできることをあえて温泉地でやる意味はあるのか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、環境を変えて仕事をすることには意味があります。新たなアイデアを生み出したい時やリモートワークで疲れが蓄積している時、温泉地でワーケーションをおこなうことで身体のリラックス効果が得られます。こわばった身体の緊張が緩むことは社員の皆様の健康増進に繋がりますし、新たな発想が生まれる手助けにもなるのではないでしょうか。
最後に、今後の展望を教えてください
有泉:温泉地でワーケーションを実施することには、企業・社員・温泉地にとって「三方よし」の効果が期待されます。企業にとってはハイブリッドな働き方を提供することによる健康経営の増進効果が期待できます。先ほど申し上げたように、社員にとっては非対面の働き方から生じたストレスの発散効果や非日常での発想転換効果が生まれます。そして、温泉地にとっては平日の連泊需要喚起効果が生まれるのです。今後もBIGLOBEでは「ONSEN WORK」を通じて、企業・社員・温泉地の三方それぞれがメリットを享受できる仕組みづくりを推進していきます。
BIGLOBEが提供する「ONSEN WORK」。その一環としての「TRY ONSEN WORKATION in 別府」は、「古くも新しい街別府」の魅力と温泉地でのワーケーションがもたらすニューノーマルの可能性を提示することができたのではないか。
令和時代以降のハイブリッドな働き方のオプションとして、従業員が温泉地から働くことを選択できる日を目指す「ONSEN WORK」。今後の展開が期待される。
取材・文:Mizuki Takeuchi
編集:柴崎真直